ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターが受託した福岡アジア美術館での対話型鑑賞のリハーサルをオンラインで開催しました

2021-10-20 16:58:18 | 対話型鑑賞
オンラインみるみるの会10月例会 2021.10.15.Fri.20:00~22:00
鑑賞作品「英雄だったかもしれない5」作者:シシル・バッタチャルジー(バングラデシュ)
        「共同作業」作者:ヨン・ムンセン(楊曼生、マレーシア)
画像は著作権の関係で掲載しない。※福岡アジア美術館HPから検索可能
ファシリテーター:春日美由紀
鑑賞参加者:みるみるの会・山口みかんはなき・その他 10名

10月17日に京都芸術大学アート・コミュニケーション研究センターとして、福岡市文化芸術振興財団主催「そうぞうとコミュニケーションを楽しむ対話型鑑賞会」(於:福岡アジア美術館)で開催される対話型鑑賞会を引き受けていた。久々に対面での鑑賞会である。とても楽しみであるし、また、作品も自身は初めて日本以外のアジアの作家の作品のナビゲートをすることになる。自分で作品分析も行ったが、鑑賞のリハーサルが必要と思い、みるみるの会10月例会でメンバーにお付き合いいただいた。
最初の作品は
白がベースのほぼ正方形画面にモノトーン(黒からグレーの階調色)彩色の具象表現がされている。描き出されたものは画面中央にゴム風船のようにパンパンに膨らんだ腹部や臀部、大腿部を持つ、後ろ向きの男性と思える人物とその右隣には女性。女性はやや長い髪を頭部中央で二つに分けて後ろでまとめているように見える。身体は上半のみ描かれ、左手に蓮の花のようなものを持っている。ややうつむき加減で白眼であることから表情は読み取りにくい。左画面には異様な左手が浮かび上がるようにふたつ描かれ、その上には三日月と星のある旗のようなもの。左下には黒い男物のズボンのようにみえる足が2本、大腿部から膝下にかけて折れ曲がった状態(あたかも椅子に座っているようなポーズ)で描かれている。ひとつひとつ描かれているものは何となく理解できるが、全体としてのつながりが判然としない謎めいた作品である。
鑑賞は
画面中央の身体は正面で、後ろ向きの小太りな男性のことから話題になった。
・手のつき方がおかしい。親指の位置がこの人の両手だとしたら逆。親指の位置が逆。
・頭の向き(後ろを向いているにしても)こんな首の曲がり方にはならない。ネクタイをした首元が絞められすぎて縦じわが出ているがソーセージみたい。
・こんなにパンパンに膨らんでいて、ゴムボールみたい。
・不気味な感じがする。
右にいる女性について
・目が白いので何を考えているのかよく分からない。
・目がみえていないのではないか?
・うつむき加減で蓮の花を持っているので、左側の様子を憂えている。
左上の旗のようなものについて
・旗があるので、政治批判的な作品ではないか?
・権力とか、政治腐敗に対するもの。
たくさんの手について
・手がいっぱい描かれているから、その手が、よくないことをしているような・・・。
・左端の下方にある手は爬虫類の皮膚のような表面をしている。動物の乱獲などにも関係があるのでは?奥に虎のようなものも描かれているから。自然破壊?
・左上の手の甲のあたりの色が少し黄みがかっていて病気なのか?環境汚染によるもの?障害がある?
全体として
・色がモノトーンなので、ポジティヴなことは考えにくい。何かよくないことが描かれている。
・政治腐敗、権力、貧富の差、男女差別。
・男の人の手は何も掴んでいない。女の人は花を持っている。物質より自然が大事と訴えているのでは?
上記のような意見が絶え間なく出た。鑑賞者に共通していた解釈は権力やこの旗の国の政治や制度の在り様に批判的なのではないか?それを女性が憂えている。しかし、このちぐはぐさやまとまりのなさも現実である。ということに気づかせようとしているのではないか?と読み解いた。
2作品目
こちらもほぼ正方形画面の上部約8割が空を占める。空は中央部分がほの白く明るく、周辺はやや灰味がかっており、天候の違いが読み取れる。左下方がやや薄青くみえるところから、そちらは青空で晴れているようにもみえる。手前には農耕牛と田を鍬起こしていると思われる人物一人。牛が前かがみになって力を込めて前に歩を進めようとしていることが人物の手にした農工具(鍬)との間に張られた2本の綱がピンと伸びていることからうかがえる。地面の部分と思われる辺りに水色が確認されることから、田に水が入り、稲作(田植え)の準備をしているところにみえる。
鑑賞は
・農耕の営み、自然の豊かさを感じる
・過酷、牛が痩せている、厳しい環境なのでは?それでも生きなければならない
・牛が虐げられている、人間と主従関係のよう
・牛と人は仲間、相棒、二人で共に労働し、糧を得る
・空が明るいので、希望を感じる、だんだんよくなる
・雨が降っていたのが上がりそう、さあ、働くぞ!という場面
・朝靄
・夕焼け
描かれている場面は分かりやすいが、解釈は真逆なものが出て面白かった。
1作品目と比較する意見が出るかと思ったが、それはなかった。
振り返り
どちらの作品にも力があるので、予想通りの意見も出たし、それを受けて、さらにメタな対話も生まれた。国旗について、情報を出してはどうかという意見もあったが、どこの国の国旗なのかが分かったからといって、その国の情勢にとても詳しいメンバー(今回の参加者)はいないと思ったので、旗が象徴するものが国だとして、この作品に国旗が描かれていることの意味を考えることが重要ではないかと伝えた。現に、ここに描かれている国旗の国はすでに地球上にはなく、さらに独立して別の旗を掲げる国となっている。情勢の不安定な国では国旗の存在すら危ういものであるということが高次に読み取れなくはないが、そのことはこの作品のテーマからは少し外れていくと考え、情報は出さないことに徹したと伝えた。

また、作品を鑑賞する順番についてもチャレンジしていたので、そのことについての意見ももらった。

鑑賞順序はこの順でよいという意見だった。1作品目のネガティヴさが2作品目で消されて、心地よく終われる、希望を感じて終われるので好ましく思われると多くのメンバーが語った。

2作品目に1作品目と比較する話題が出るかと思ったが、出なかったことについて尋ねたところ、誰もそのような考えにはならなかったと話した。

こちらは、続けてみるので、裏テーマも設定していたので、そこはちょっと残念だったと話すと、「裏テーマは何だったのか?」と訊かれたので、「考えてください」とモヤモヤしてもらうことにした。

概ねねらいは達成され、作品についても語りうることがかなりあると判断できたので安心して17日に臨むことができた。

17日の対面での実施について
事後のアンケートでは鑑賞会の評価は「とてもよかった」が13名「よかった」が2名
参加前後で美術鑑賞についての考えに変化があったかについては全員が「変わった」と回答

みるみるの会と異なり、2作品目を休憩をはさんでみたとき「1作品目に引きずられる自分がいる」と話された方がいて、続けてみて感じることを話された。また、「1作品目は作品が立ち上がってくるようにみえた」と2作品目は「奥行きが生まれた」と話された方がいた。どなたも対話での鑑賞を楽しみながら、じっくりと時間をかけてみることの意義に気づいていただけたように思う。「ナビゲーターによってこんなに深く感じることが出来るのか。ナビゲーターの力量を考えさせられた。」というご意見もいただき、久々の対面での鑑賞ナビゲーターであったが、楽しみつつも押さえるところは押さえつつ、進めることができたのかと、安堵した。また、対面での鑑賞会が週末に迫っているので、楽しみつつも参加者に深い気づきが生まれるよう進めたい。
コメント
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