ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

8月6日島根県造形教育研究会夏季研修会 福のり子先生講演会レポート

2018-08-26 22:24:21 | 対話型鑑賞

 先日8月6日に行われた島根県造形教育研究会夏季研修会での、福のり子先生の講演会についてのレポートです。


福のり子先生 講演会
「生きのびるために みる&コミュニケーション」
日時:2018.8.6(月) 13:00~15:30 
場所:島根県立美術館ホール
主催:島根県造形教育研究会   
共催:Art Communication in Shimane みるみるの会
文責:房野伸枝

 長年「対話型鑑賞」を実践され、京都造形芸術大学教授・アート・コミュニケーション研究センター所長である福のり子先生の講演会に参加しました!福先生は私たち「みるみるの会」の発足のきっかけとなった方であり、会の名付け親でもある偉大な方です。今回はどんなお話が聞けるのかとワクワクしっぱなしでした。以下、講演の内容を要約して私の(感想)を交えながらお伝えします。

 福先生と島根県との関係の始まりは2006年。(なんと、今から12年も前なんですね!)福先生曰く「どこの県より早く熱心に」招聘されたとのこと。島根県教育センターの教員向け教育講座の講師として<対話型鑑賞>を島根県立美術館で自校の学生とともに披露、ワークショップを行い、参加した教員の度肝を抜いたとか。それに参加していたのが私たち「みるみるの会」代表の春日美由紀さんや島根県造形教育研究会顧問の角美幸さん、同会長の松本真理さんでした。その後も島根での研修会は続き、12年来の福先生とのつながりが、本日の講演会へとつながったともいえます。

 福先生は1989年アメリカのコロンビア大学で美術教育について学び、その後ニューヨーク近代美術館<MoMA>で研修されました。そこでMoMAの教育普及部長のフィリップ・ヤノウィン、アメリア・アレナスの両氏に出会い、VTC<ヴィジュアル・シンキング・カリキュラム>に触れたとのこと。(この邂逅が日本での鑑賞教育の流れの一つとなり、私たちに大きな学びを与えてくれることになったかと思うと、本当に感慨深いです。)福先生のプライベートなエピソードも交えての軽快なトークは笑いあり、へえ~と感嘆することもありで、あっという間に時間が過ぎました。MoMAでの研修に関する「お金」の話も日本との違いにビックリ。MoMAの教育普及費は年間5億円。一方、福先生の学生が2010年頃に日本の美術館の教育普及費を調査したところ、年間8500円というところもあったという。(ひょえ~!この違いは一体何でしょう!日本人の芸術への関心は少なからずあると思いたいですが、教育現場での図工・美術に対する意識の低さは否めません。美術の授業時数も私が生徒の時より減っていますし…。予算配分は国や自治体の関心度の表れともいえますから、意識の度合いが美術館の教育普及費の予算からも量れるというものです。)

 ともあれ、福先生が<対話型鑑賞>を日本へ紹介するために奮闘されたお話は、その行動力と情熱に胸が熱くなりました。ドイツのドクメンタに日本の美術関係者が来ると知って、アメリアと一緒に赴いてゲリラ的にVTCを日本の美術関係者に披露したり、1993年から3年間、MoMAに日本人を年に20名ほど招いて講習会を開催したり・・・。けれど、その頃は日本での<対話型鑑賞>の実践者は少なく、「アメリアだからできる」「福さんは大阪のオバちゃんだからできる」「シャイな日本人にはこの手法は無理」などなど、実践する前から様々な理由付けでバリアがあったのです。以前、福先生が「できない理由はいくらでもつけられる。まずは実践あるのみ」とおっしゃっていたのが、このエピソードで実感されました。今や日本国内でも島根でも実践者がいて、アメリアでも大阪のオバちゃんでもない私たちが「対話」を介しての「鑑賞教育」を学校、美術館、企業、あらゆる場所や機会で実践し、その効果を目の当たりにすることができているからです。

 そして<対話型鑑賞>が育む力は、予想がつかない未来を生きる私たちが「生きのびる」ために必要なスキルそのものである、ということが語られました。
 ~東ロボは東大には合格できない~
人工知能AIである東ロボを東京大学の入試に合格させるプロジェクトでわかったことは、AIは「意味を考える問題」には対応しきれないということ。ルネ・マグリットの「これはリンゴではない」というタイトルのリンゴを描いた絵をAIは「リンゴである」と答えるとか。そこに意味を見出し、読み解くことは人の思考でこそ可能なのだそうです。今後、様々な仕事がAIにとって換わられるということが言われていますが、それは「意味を理解しなくてもいい仕事」ということです。

 福先生のお話の中で、<対話型鑑賞>が育む力として以下のことが語られました。
①知的好奇心を刺激する。
 優れた芸術作品は学びに不可欠な自発的な問いを生む仕掛けがある。
②目的意識を持った観察力
③正解のない問いに取り組む力
 アートとはそこに存在しない何かをそこに見る行為である。
④創造的解釈→奥深い意味を読み解く力
⑤体系的に論理的にみる力
⑥より適切な言葉を記憶の中から呼び起こし、それらをより適切に組み立てる力=言語能力
⑦他者を理解したいという気持ちの芽生えを生み、コミュニケーションの基礎となる。
⑧人間関係の基礎を学ぶ。多様性の受容であり、他者と生きていくための基礎となる。
⑨自己対話力

 今、日本の小学校6年生、中学校3年生に尋ねると、半数近い子ども達が「美術は役に立たないと思う」と答えるそうですが、とんでもない!上のような力を育む効果が鑑賞教育にはあるのです!

 そう熱く語ってくださった福先生、本当にありがとうございました。講演の中で紹介された言葉はどれも刺激的で、美術教育のみならず全ての人の「生きのびる力」に大切な示唆に富むものでした。

 その中でも、私は教育に携わる一人として講演の中のこれらの言葉をいつも心にとどめておこうと思いました。
「Education is not the filling of a pail, but the lighting of a fire.」
「できないことをやらせるのではなく、できることをもう少しだけよくできるようにさせる。」
「学びとは自分の中で何かが変わること」

 芸術作品は誰にとっても公平で開かれていて、一つの見方に留まらずそれぞれで楽しめるもの。そしてみんなで対話しながらみることでたくさんの価値観に触れ、互いを尊重し合い、さらに自分の中に変化をもたらしてくれるもの。講演を通じてそのことを再確認することができました。
 みるみるの会の活動も今年で8年目。仲間と共に学び続けたいと思います!



以下は参加者アンケートの結果です。

島根県造形教育研究会夏季研修会 アンケート結果
講演会聴衆 教育関係 67名 一般参加 10名 2018.8.6

★参加者のアンケート結果
 今日の講演会には
小学校 大変満足している:25人(76%),満足している:8人(24%),まずまずだった:0,つまらなかった:0,合計33
中学校 大変満足している:11人(73%),満足している:4人(27%),まずまずだった:0,つまらなかった:0,合計15
計 大変満足している:36人(75%),満足している:12人(25%),まずまずだった:0,つまらなかった:0,合計48

研修会の希望について
★授業に生かせる題材が知りたい
★低学年の絵の指導のコツ
★同様の研修を繰り返し受講できるとよい
★著名な画家やクリエーターの話を直接聞きたい
★講演・ワークショップ・鑑賞と選択できる研修は参加しやすい
★対話型鑑賞を体験したい
★評価についての具体的な手立てについて

感想
【小学校】
★福先生の大ファンです。今日も素晴らしい講演ありがとうございました。子どもたちに会うのがさらに楽しみになりました。素通りさせない「しかけ」をつくっていきます。
★あっという間の時間でした。鑑賞でたくさんの力が身に付くということに驚きました。一人一人見方が異なるということは、人権教育等、色々な学びにつながるなと思いました。
★これからの時代を生きる子どもを育てる上で対話型鑑賞はとても大切な活動であると改めて感じた。知的好奇心、正答のない問いに取り組み、奥深い意味を読み解く力など、人と関わり新たなことを生み出していくこの活動をぜひやっていきたいです。島根の小さな町の小さな学校で勤めていますが、この学校の子どもたちがやがて大きなところに出ていき、色々な人とさらに関わる中で、この活動でつける力はとても大切な力だと思います。2学期から実践します。
★美術・芸術のことは全く分からずに講演会に参加しました。講演を聞いて「生きるために」必要なものを学べるものだと知ることができました。
★図工の時間にどうやって子どもたちの力を伸ばせる鑑賞の授業ができるのだろうと思っていました。また、作品作りに多くの時間を使うので、鑑賞がなかなかできないのが現状でした。今日の福先生のお話を聞いて単純に図工のための鑑賞ではなく、色々な状況で活用できる力を育てるためにもACOPに取り組んで行きたいなと感じました。長い時間でしたが、いつの間にか終わってしまったように感じました。
★いま求められていることにもピッタリで魅力的な鑑賞教育だと分かりました。アートカードの研修を受けて実践したいと思います。
★図工の鑑賞、どの教科にもつながるなと思いました。主体的な学びができるようにこれからも工夫していきたいと思いました。
★本校は音楽の中四国大会にむけて校内研究をしている。音楽も同じで演奏することに力を入れ過ぎていると感じている。演奏する人がいれば、それを受けとめるよい聴き手を育てることが大切だと思う。聴き取り感じ取ったりしたことを交換し合うことで自分の考えたこと以上のものを感受することができる。図工の鑑賞だけでなく他の学習でも生かしていけると思った。
★作品鑑賞をいつも簡単に終わらせていましたが、実はとても深く大切な学びにつながる活動なのだと考えさせられました。福先生のお話は実体験や分かりやすい例えがあり、とても自分の中に入りやすかったです。これからも私も子どもたちと一緒に作品をみて語り合いたいなと思いました。
★鑑賞活動を通してコミュニケーション力を育てる。コミュニケーションを通して鑑賞の力を育てる。とても印象に残った言葉です。
★鑑賞を通してどんな力を育てることができるのかということが知れてよかったです。専門的な知識が必要かと思っていましたが、まずは自分の見方、他者の見方を楽しもうと思いました。
★「芸術」は趣味の世界、余裕があるときのお楽しみ…と思っている部分が自分にはありました。が、今日の講演を聞き、生きのびるための大切な力であるのだと分かり、目からウロコでした。
★今、教育現場で求められているアクティブラーニングは美術の鑑賞を通して行えることを分かりやすく教えていただけました。講演を通して学ぶことができました。
★福先生のお話は初めて伺いました。昨今の「学力」というと、いわゆる国・数・社・理・英が注目されがちな現場であり、そのような風潮を感じるところではありますが、今日のお話を伺って、芸術教育が有する意義や価値を改めて感じさせられました。ACOPの考え方は様々な学びに転移するものだと思います。充実した一日でした。
★どんどん引き付けられた。鑑賞教育をそこまで大切にしていなかった自分がいます。しかし、考え方が変わりました。
★具体的な例も多く、新学習指導要領はもちろん、こらからを生きていく子どもだけでなく、私たちにとっても生きていく道しるべをいただけた気がします。
★とてもいい講演会でした。9月から子どもたちと一緒にスタートラインに立って、やってみたいとすごく思いました。もっと勉強したいと思っています。
★最初は聴きなれない言葉、場所の話があり、「最後までわからないかもしれない…」と不安になりました。しかし、ACOPのやり方、そしてその目的を聞いて、子どもたちが共生していくために鑑賞を介したコミュニケーション教育はとても大切だと思い、不安は吹き飛びました。まずは私が対話をしていきたいと思いました。

【中学校】
★以前福先生が島根に来県されたときに対話型鑑賞の研修でナビゲーターをし、それから授業のなかでもできるだけその形を取り入れてやって来ました。久々にお話を聞き、また新たな気持ちで活動していこうと思いました。実際に対話型の鑑賞をされてもよいのかと思います。
★これからの社会で求められる資質・能力を伸ばすための手立てとして対話型鑑賞を積極的に取り入れていきたいと思いました。「話し合う」ことを目標とせず、対話を通して子どもたち同士で新たな価値をつくっていく、そんな授業をめざしたいです。
★対話型鑑賞を見よう見まねでやって来ましたが、今日福先生のお話を聞いて自信につながりさらによりよい授業、楽しい授業にしていきたいと感じました。また刺激を受けたいです。
★久しぶりに福先生のお話を聴いて心が震えました。教師として生徒に伝えるだけでなく、今日は自分が教師として学ぶ(何かが変わる)ことを恐れてはいけないと思いました。知らず知らずのうちに変わることを恐れている自分がいたことに気づかされました。
★鑑賞の授業をもっと深めていけるようにしたいと思いました。
★福先生の講演は2回目で、前回もとてもよかったので授業でもACOPを実践していますが、なかなか生徒の発言、思いを引きだすことに苦労しています。今日のお話を参考にまた工夫してやっていきたいと思います。
★大変興味深いお話を聞かせていただきました。対話型の鑑賞教育の大切さを改めて感じました。今、少しずつ実践をしているのですが、更に工夫をして取り組んでみたいと思いました。
★対話型鑑賞で身に付く力は本当にすごいな~と改めて思いました。講演の中で、生徒さん、学生さんの言葉が多数紹介されていましたが、深くてびっくりしました。普段からしっかりACOPで鍛えられているからだなと思いました。
★久しぶりの福先生の講演でうれしかったです。元気をもらいました。2学期からまた頑張りたいものです。
★対話型鑑賞が「コミュニケーション能力を育てる」「観察能力を向上させる」と聞いて興味をもった。また、福先生のお話も面白かった。また本を読んでみたい。
★生徒の作品や評価を考える上で、対話型鑑賞をどのように役立てたらよいかということについて考える機会になりました。自らの問いを立てていくということができるように深く考えさせるようにしたいと思いました。
★学びの中で自分自身の価値観が変わること、それは自分の考えを持ちつつ、それを投げかける場をつくり、そこで、正答のない、あるいは、その時点での新しい発見をするということ。多様な価値観を認め、その中から「自分は…」というものを見つけていくことが大切だと思いました。最近私は、美術鑑賞は全体から細部に見つめるズームレンズを持つことと、ズームして見えたところに隠れた意味を(自分の世界に引き寄せて)見出す行為だと思いました。

 講演会に参加してくださり、アンケートに協力いただきました皆様に感謝します。ありがとうございました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする