12月17日 浜田市世界こども美術館での鑑賞例会のレポートが、津室さんから届きました!
作品「にわか雨」ルイ・レオポール・ボワイ 1804年頃
参加者:6名 ナビゲーター:津室和彦
作中の人物が多く,それぞれの人物に対応して鑑賞者は多くのことを考えられる作品だと思い,この作品を取り上げました。発言は活発でしたが,ナビとしてはスッキリとまとめられず,苦しい展開となりました。
トークの概要
◇傘が描かれていることから,雨が降り出したか降った後である
◇画面の中央あたりに固まっている人物は,身なりがよく,いわゆる富裕層ではないか
◇これらの人物には日が差し,ハイライト的に目立っている
◇場面は,18~19世紀頃のフランスではないか
◇相対的に周りの人物は,庶民的な服装である
◇身なりのよい一団は,家族のように見える
◇一団の背後に,御者か護衛のような人物がいることから,裕福であるのみならず,身分が高いのではないか
◇しかし,身分が高いとすると,雑多な下町の雰囲気があるここにいることは場違いな感じがする
◇場違いだとすると,この家族は,何かよほどのっぴきならない状況にあるのではないか たとえば,夜逃げや突然の災害など・・・
◇白いドレスの女性が持っている緑の包みの中には,たとえば全財産のような相当な金品があるのではないか
◇左端の手をさしのべた人物と,黒いシルクハットの男性の仕草・視線が気になる
◇帽子の男性の視線の先で,何かが起こっているのではないか
◇家族が乗っている,車輪のついた板のようなものが気になる
◇桟橋かなにかで,画面の手前には,海か川があるのではないか
ナビとして,考えていたのは,主に以下の4点でした。
①発言をそのままなぞるのではなく,できるだけ何らかの言い換えをするよう心がけること
これまで,トークの参加者として,他のメンバーのナビをみていて学んだことを生かそうと考えていました。
発言者の言葉と重ならず,それでいてうまく言い換えられた言葉は,オリジナルの言葉と相まって,参加者の思考をより活性化すると思うからです。
②発言・聴き合いのテンポを損なわないよう,ナビゲーターの発言時間をできるだけ短くすること
現実にはなかなか難しかったです。根拠を丁寧に問うことや言い換えをしようとすることは,ナビゲーターの発言時間を短縮することとは相反してしまうからです。殊更にテンポアップしようとする考え方自体に問題があったのだろうと思います。
③発言を共感的に受け止めること
元々少人数でリラックスした雰囲気でしたが,参加者が安心して自分の考えを述べられるように,うなずきや相づちを返すようにしました。
④作品に関する情報を,いつ,どこで,どのように提供するか
服装から,18~19世紀でフランスかヨーロッパではないかという発言が出た時点で,「そうなんです。19世紀初頭のパリを描いた作品です。」と伝えれば,すっきりと次の思考に移れたのではないかという指摘を振り返りの時間にいただきました。上記の発言は,既にピンポイントで作品の背景を言い当てているわけだから,すぐに情報を開示すべきだったと反省しています。開示せずに,他の参加者の意見を求めるなどして引っ張っればさらに考えさせられる発言が出てきたかというと,疑問だからです。
裕福な身なりの家族が乗っている板についても,桟橋や乗り物だという考えも示されました。この点は,考え続けても判断ができない内容だったので,ここでも「当時のパリは,舗装もされてなく,一雨で通りはひどいぬかるみになったそうです。そのため,貧しい人の中には,ぬかるみを避ける板などを敷き通行料を得る者もいたそうです。」と情報を示すオプションがあったかもしれません。その上で,家族と板の持ち主とのやりとりを解釈していくようにすれば,人物の視線や表情等をよりよくみていけたとも思えます。
当時の風俗画であるという事実も大きな情報であるという指摘もいただきました。多分に富裕層への風刺も込められているという視点でみていくと,この絵の場違いな印象も理解できるという発言には,大変納得させられました。情報は,描かれているモチーフそのものだけでなく,その作品を描くにあたっての画家の立場や思想を考える手がかりにもなるということですね。
今回のトーク・ナビについて,以上のように振り返りました。しかし,これは,あくまでこの作品とこのメンバーの間でおこったことであり,決して一般化されるものではないということも確認しておきたいと思います。
情報の示し方は,トークの参加者の知識・経験や,そこまでのトークの流れなどによって,まったく異なってくることをナビゲーターは承知しておく必要があると思います。
今回,参加者は全員このような形でのトークについての豊富な経験と美術・美術史への関心や知識を持っていました。このことは,いきなり「19世紀のフランス」という見解が出てきたことでもわかります。作品からの読み取りや解釈が多彩になされ,ナビとしては個性的な発言をどうまとめるかに苦心しましたが,前述のように,このような集団だからこそ,情報を示すことで自ずと参加者の考えがまとまっていったのではないかとも考えられます。
筆者は,以前,小学校6年生を対象に本作品をナビゲートをした経験がありますが,,当然,この度の発言とは違う展開となりました。作品に描かれているひとつひとつのモチーフを児童は熱心に見つけ出しては発表しました。しかし,小学生が19世紀のパリの様子を知るはずもなく,描かれた人物の風体や表情からくる違和感を訴える発言が相次ぎました。そこで,ふみ板の商売の話を示すと,そこからまた人物同士の会話を盛んに想像して語りはじめたのでした。
今回のトークでは,参加者の力量を知っているが故に情報を示すのが遅れたという側面もあります。
作品やトークの流れによっては,情報を示さない方が良いとナビが判断することも当然あり得ます。
トークは生き物で,ナビも生き物。同じ作品でもみる人,ナビする人によって微妙に違うトークとなるからこそ,おもしろく価値あるものだと思います。よりよい時間を参加者と共有するために,これからも研鑽を積みたいと思いました。
2017年のみるみるの会は、1月8日(日)14:00~益田市の島根県立石見美術館での「みるみると見てみる?」で活動をスタートします。
津室さんの言葉のとおり、トークもナビも生き物です!
みるみるメンバーと石見美術館の素敵な作品と、一期一会の時間を共有しませんか?
作品「にわか雨」ルイ・レオポール・ボワイ 1804年頃
参加者:6名 ナビゲーター:津室和彦
作中の人物が多く,それぞれの人物に対応して鑑賞者は多くのことを考えられる作品だと思い,この作品を取り上げました。発言は活発でしたが,ナビとしてはスッキリとまとめられず,苦しい展開となりました。
トークの概要
◇傘が描かれていることから,雨が降り出したか降った後である
◇画面の中央あたりに固まっている人物は,身なりがよく,いわゆる富裕層ではないか
◇これらの人物には日が差し,ハイライト的に目立っている
◇場面は,18~19世紀頃のフランスではないか
◇相対的に周りの人物は,庶民的な服装である
◇身なりのよい一団は,家族のように見える
◇一団の背後に,御者か護衛のような人物がいることから,裕福であるのみならず,身分が高いのではないか
◇しかし,身分が高いとすると,雑多な下町の雰囲気があるここにいることは場違いな感じがする
◇場違いだとすると,この家族は,何かよほどのっぴきならない状況にあるのではないか たとえば,夜逃げや突然の災害など・・・
◇白いドレスの女性が持っている緑の包みの中には,たとえば全財産のような相当な金品があるのではないか
◇左端の手をさしのべた人物と,黒いシルクハットの男性の仕草・視線が気になる
◇帽子の男性の視線の先で,何かが起こっているのではないか
◇家族が乗っている,車輪のついた板のようなものが気になる
◇桟橋かなにかで,画面の手前には,海か川があるのではないか
ナビとして,考えていたのは,主に以下の4点でした。
①発言をそのままなぞるのではなく,できるだけ何らかの言い換えをするよう心がけること
これまで,トークの参加者として,他のメンバーのナビをみていて学んだことを生かそうと考えていました。
発言者の言葉と重ならず,それでいてうまく言い換えられた言葉は,オリジナルの言葉と相まって,参加者の思考をより活性化すると思うからです。
②発言・聴き合いのテンポを損なわないよう,ナビゲーターの発言時間をできるだけ短くすること
現実にはなかなか難しかったです。根拠を丁寧に問うことや言い換えをしようとすることは,ナビゲーターの発言時間を短縮することとは相反してしまうからです。殊更にテンポアップしようとする考え方自体に問題があったのだろうと思います。
③発言を共感的に受け止めること
元々少人数でリラックスした雰囲気でしたが,参加者が安心して自分の考えを述べられるように,うなずきや相づちを返すようにしました。
④作品に関する情報を,いつ,どこで,どのように提供するか
服装から,18~19世紀でフランスかヨーロッパではないかという発言が出た時点で,「そうなんです。19世紀初頭のパリを描いた作品です。」と伝えれば,すっきりと次の思考に移れたのではないかという指摘を振り返りの時間にいただきました。上記の発言は,既にピンポイントで作品の背景を言い当てているわけだから,すぐに情報を開示すべきだったと反省しています。開示せずに,他の参加者の意見を求めるなどして引っ張っればさらに考えさせられる発言が出てきたかというと,疑問だからです。
裕福な身なりの家族が乗っている板についても,桟橋や乗り物だという考えも示されました。この点は,考え続けても判断ができない内容だったので,ここでも「当時のパリは,舗装もされてなく,一雨で通りはひどいぬかるみになったそうです。そのため,貧しい人の中には,ぬかるみを避ける板などを敷き通行料を得る者もいたそうです。」と情報を示すオプションがあったかもしれません。その上で,家族と板の持ち主とのやりとりを解釈していくようにすれば,人物の視線や表情等をよりよくみていけたとも思えます。
当時の風俗画であるという事実も大きな情報であるという指摘もいただきました。多分に富裕層への風刺も込められているという視点でみていくと,この絵の場違いな印象も理解できるという発言には,大変納得させられました。情報は,描かれているモチーフそのものだけでなく,その作品を描くにあたっての画家の立場や思想を考える手がかりにもなるということですね。
今回のトーク・ナビについて,以上のように振り返りました。しかし,これは,あくまでこの作品とこのメンバーの間でおこったことであり,決して一般化されるものではないということも確認しておきたいと思います。
情報の示し方は,トークの参加者の知識・経験や,そこまでのトークの流れなどによって,まったく異なってくることをナビゲーターは承知しておく必要があると思います。
今回,参加者は全員このような形でのトークについての豊富な経験と美術・美術史への関心や知識を持っていました。このことは,いきなり「19世紀のフランス」という見解が出てきたことでもわかります。作品からの読み取りや解釈が多彩になされ,ナビとしては個性的な発言をどうまとめるかに苦心しましたが,前述のように,このような集団だからこそ,情報を示すことで自ずと参加者の考えがまとまっていったのではないかとも考えられます。
筆者は,以前,小学校6年生を対象に本作品をナビゲートをした経験がありますが,,当然,この度の発言とは違う展開となりました。作品に描かれているひとつひとつのモチーフを児童は熱心に見つけ出しては発表しました。しかし,小学生が19世紀のパリの様子を知るはずもなく,描かれた人物の風体や表情からくる違和感を訴える発言が相次ぎました。そこで,ふみ板の商売の話を示すと,そこからまた人物同士の会話を盛んに想像して語りはじめたのでした。
今回のトークでは,参加者の力量を知っているが故に情報を示すのが遅れたという側面もあります。
作品やトークの流れによっては,情報を示さない方が良いとナビが判断することも当然あり得ます。
トークは生き物で,ナビも生き物。同じ作品でもみる人,ナビする人によって微妙に違うトークとなるからこそ,おもしろく価値あるものだと思います。よりよい時間を参加者と共有するために,これからも研鑽を積みたいと思いました。
2017年のみるみるの会は、1月8日(日)14:00~益田市の島根県立石見美術館での「みるみると見てみる?」で活動をスタートします。
津室さんの言葉のとおり、トークもナビも生き物です!
みるみるメンバーと石見美術館の素敵な作品と、一期一会の時間を共有しませんか?