ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

浜田市世界こども美術館での9月の月例鑑賞会のレポート①をお届けします(2018,9,8開催)

2018-09-30 11:20:12 | 対話型鑑賞
浜田市世界こども美術館 コレクション展示 「海と日本」
鑑賞作品 「月光」 清水光夢(1987年作)油彩
ナビゲーター 春日美由紀

 加納美術館での鑑賞会以来のナビゲーションだったので多少の不安があった。聴くことを大切にナビすることを心掛けた。
 コレクション室に展示してある作品は1点を除いてすべて本会で鑑賞したことのあるものだったので、どの作品で鑑賞を行うかを決めかねていた。今回のもう一人のナビである房野さんも決めかねているようだったので、参加者の意向を反映させることにしたところ、先に作品を観ていた3名の方が躊躇なく2点を選定したので、「静物画」「風景画」の順で鑑賞することにした。房野さんが「静物画」を、私が「風景画」を担当することにした。

 鑑賞会の参加者は何度も参加してくださっているリピーターの2名の男性と、この2名の方と一緒に絵画を描くことを趣味にしている1名の男性、そして、作品鑑賞がお好きな1名の女性である。
 リピーターの2名は絵を描かれていることから、構図や彩色に関する発言が多い。今回この作品をどのような理由で選ばれたかを鑑賞する中で理解することもナビの醍醐味と捉えて臨んだ。

 作品タイトルは「月光」とあるが、月は無く、曇天の雲間から淡い光が漏れ出しているような空と、夜の海、岩礁に寄せる波、といった光景が描かれている。

 最初の発言はリピーターの方で、「色使い」についての発言がなされ、「そこからどう思う」かについても語られた。この鑑賞の「どこからそう思う?」「そこからどう思う?」の問いかけが身についておられるので、ナビの問いかけなしにそこまで語ってくださるようになっている。お陰でナビの務めは減り、「聴く」ことに専念し、伝えたいと思われることを抽出して投げ返すことに専念できる。
・海に赤色が使ってあるので、暗さや深みが表現できている。
・雲間から光が僅かに差しているが、あの光では、岩礁はこんなに明るく見えない。
・水平線が光の差している所あたりがやや高くなってみえて、水平でないようだ。
・現実にあるような風景だが、全く本物そっくりという訳ではない。リアルさに欠ける。
・月の光に照らされているとしたら、影の付き方が不自然なところがある。また、この場所でキャンバスを立てて描くことは出来ないはずなので、それぞれの場面をアトリエで組み合わせて描いたのではないか。
 等々、この作品の描かれ方や制作状況についての言及が続いた。これはやはり一人を除いて、残りの参加者が絵を描いているということが影響しているのかもしれない。彼らの興味はそこだと感じる。従来なら(※中学生とこの作品を観たとしたら)
・季節はいつか?
・時刻は?
・どこの海だろう?
等の疑問が想起されたと思う。しかし、そこに興味は無く、「なぜ、この光景をこのように描いたのか?」が対話の中心だった。ナビもそこから付かず離れず、鑑賞者の発言を「聴く」ことから、意図を聴き取り、つなげることに専念した。描かれ方にやや批判的な意見が出された(リアルなようで、リアルではない。手前の岩礁は不要。)後で、作家がこの作品を85歳で描いたことがキャプションから判明すると「それはすごい。」と、作家をリスペクトする発言がなされたのも、自分たちが描き手である所以だと感じた。対話は終盤を迎え
・リアルな光景ではない。
・作家のイメージの中の光景ではないか?
・空と海とわずかな陸地。シンプルな光景をいかに描くかチャレンジしたのでは?
等の解釈がなされていった。

振り返り
・「絵として弱い」の発言を「みる人に訴えることが弱い」と言い換え、「あなたはそう思うのですね。」と確認していたことで、ナビの作品に対するリスペクトが感じられた。
・「リアルなようで、リアルではない。手前の岩礁は不要。」というやや批判的な意見を「絵画にしかできない表現がある。リアルではない、人の心のどこかにある、見たことのあるようなものを想起させる作品。だからあえてリアルに描き切らず、インパクトを与えすぎない表現にしたのでは?」というふうに返していた。ネガティブで批判的な意見に対して、ポジティブなパラフレーズになっていて、ナビの作家に対するリスペクトが揺らがないと感じた。
・描かれ方が「あいまいで、ぼんやりとしている。」ことに対して批判的な言説があったが「あいまいで、ぼんやりした描き方」はだめなのか?と言う切り返しがあってもよかったのかも知れない。
・「空」「海(波)」「岩礁」という3つの要素しか画面に描かれていないからこそ、月の光の方向や、海を照らしているところ、岩礁の様子をそれぞれフォーカシングし、発言を積み上げていくとよかったのかも知れない。
・上記にも記したが「季節はいつか?」「時刻は?」「どこの海か?」などについてナビが鑑賞者に投げかけることもできたが、あえてそれはせず、鑑賞者ファーストで対話を進めた。

最後に
 作品と鑑賞者とナビは「一期一会」だと感じる。この作品で、このメンバーで、ナビゲートする機会は1回のみである。「あの時、ああ言えばよかった。」と思っても後の祭りである。だからこそ、1回1回を渾身の思いでやらなければならないと思う。ただ、どのようなアプローチで作品に迫るかはその場で決まっていくように思う。ナビゲーターはスキルアップに励まなければならない。多くの抽斗(ひきだし)を持ち、言葉を繰り出していくことが求められるが、作品の前に立つ時にはニュートラルであることが大事だと感じる。複数の視点、俯瞰的な視点を持ちなら・・・。鑑賞者の意向に寄り添いながらナビすることがまず大事ではないだろうか。
 どこまでやれるか、道のりは遠い。まだまだワクワクしながらナビしていきたい。
 参加してくださった、鑑賞者の皆様に感謝します。ありがとうございました。


☆ ☆ 「みるみるの会」からのお知らせ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

・10月のみるみるの会の鑑賞会はありません。

・11月の月例鑑賞会
 11月17日(土)14:00~15:00 浜田市世界こども美術館にて

・12月以降は益田市のグラントワ内にある島根県立石見美術館での鑑賞会を予定しています。
 日時等につきましては、決まり次第お知らせいたします。
 
作品と鑑賞者とナビの一期一会の出会いを楽しんでみませんか?
みなさまのご参加をお待ちしております。
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1 コメント

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ありがとうございます (優美)
2020-02-28 22:36:04
清水光夢の孫です。祖父の絵が今でもこのようにみなさんに見ていただく機会を与えられていることを嬉しく思いました。
私は絵について技術的なことは全く分かりませんので絵を描かれるみなさんがこのように他の人の絵をご覧になるのかと、勉強になりました。

それでも祖父の絵は私にとって最高の芸術です。祖父の情熱、祖父の潔い心、人々への慈愛を感じるのです。ご紹介くださり心から感謝いたします。
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