ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

R元年 島根県造形教育研究会夏季研修会~レポート~をお届けします(2019,8,5開催)

2019-10-13 21:11:05 | 対話型鑑賞
R元年 島根県造形教育研究会夏季研修会 ~レポート~     
日にち 8月5日(月)
時間 10:30~15:30
場所 石見美術館多目的ギャラリー
講師 福 のり子(京都造形芸術大学教授 同アート・コミュニケーション研究センター所長)
   三重野 優希(京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター講師)
   廣田 理紗(島根県立石見美術館主任学芸員)

 今回の研修会は福先生の講義はもちろんのこと、対話型鑑賞会が設けてあることが、私にとって大きな楽しみだった。なぜなら、授業で対話型鑑賞を行っているが「上手くいかない」と感じることが増えてきたからだ。なぜ、上手くいかないのだろう。それが今の私の悩みだったので、この度の研修会で何かヒントがつかめるのではないかと期待して参加した。研修会は以下の流れで行われた。

 1,講義「生きのびるために」(福 のり子)
 2.対話型鑑賞会(ナビゲーター:三重野優希)鑑賞作品:「カラカラ帝」
 3.アートカード研修(廣田 理沙)

 その中で、2.対話型鑑賞会についてレポートする。
 「カラカラ帝」は私が最初に対話型鑑賞を体験したときの作品だ。その時のナビゲーターは福先生だった。鑑賞者の発言が絡み合って、他者の発言からインスピレーションを受けて、さらに深い思考につながっていく。カラカラ帝のことは知らなくても、その内面や心情をありありと想像してしまう。カラカラ帝の頭が、ぐっと立体的に見える…。「これはすごい!この方法で生徒と鑑賞したい!」と思った。それから何度も対話型鑑賞を行っている。しかし、「上手くいかない」と感じることが多くなった。
 今回の鑑賞会は、全体的に発言が続かなかったり、一人の発言が長かったりと、時間ばかりが過ぎる印象だった。こういうことは、自分自身がナビゲーターになった時もよく起こる。勇気を出して発言してくれた生徒の言葉がつながっていかない。そういう時の鑑賞は、読み取りの浅い、印象に残らない鑑賞になる。「なぜそうなるのか」が私の今の悩んでいるところだ。最初は「何が見えますか?」という投げかけから、鑑賞者の発言が多かった目に注目した。次は顔の右半分と左半分とに注目して、次に傷に話題が移って…鑑賞者は、決して見ていなかったわけではないし、消極的だったわけではない。ただ、それなりに経験を積んだ大人なので、それぞれに独特の言い回しがあり、発言の真意がつかみにくいなと思った。また、年齢層も幅広く、年配の方が発言されると、全体的に「そうだよな。」とわかったような気持ちになったような気がした。この研修会での対話型鑑賞の時間は40分間だったので、三重野先生は、30分経ったところでまとめに入ろうとされた。私もそうするだろうと思う。しかし、福先生は、「まだ、全部見ていない!」「口はどんな口?」「耳のことも話題になってない、髪も、髭も!」と厳しく言われた。そして、「目のあたりが、とかではなくて、どこがどうだから、こう見えるという、根拠をはっきり言って」ということを何度か言われた。そのナビをみながら、「そうか、自分も鑑賞者の発言を分かったつもりになって、きちんと求めていないな」ということが分かった。また、「作品の細部まで、全部見て、話題にしたかという確認を怠っていたかもしれない」と思った。福先生は、「そういうことをきちんと話題にしていくことで、一つ一つが鑑賞者の頭にインプットされていく。」と話された。それが、「作品を深く考える」ことにつながっていくのだ。中学校では、なかなか発言が出ないことが多い。やっと出た発言を「勇気を出して発言してくれた生徒」に対する遠慮から、ソフトにふんわり扱ってはいなかっただろうかと反省した。また、「この人が自分の上司だったら?」という投げかけがあり、「ついていくか?ついていかないか?」という二者択一を迫られたときに、鑑賞者は作品を鑑賞するということが初めて自分ごととして考えられ、多くの挙手につながった。このように、ナビゲーションには、作品鑑賞を自分ごとにできる問いかけが必要であることを痛感した。
 「眉間のしわが意志が強そうに見える。目標に向かって無理難題を言われそうなので、ついていきたくない。」など、それぞれが、見えることを根拠にしてその人物像を解釈していた。私は「ついていきたい」方で発言した。「いろいろな負の感情があっても、それを強い意志で隠して、みんなをひっぱるなんて、力のある人だと思う。」と。福先生は「でも、負の感情は見えるんでしょ?隠せてないやん。」と言われた。「う…、たしかに…。」(というか、そこまで突っ込まれる!?)と思ったが、このような問いかけこそが、鑑賞者の意識していない矛盾する思考を気づかせるきっかけとなり、作品とさらに深く対話することを促す。だから、私は、なぜ自分は、「隠して」と思ったのだろうと自問した。鑑賞者の気がつかないうちに「主体的に作品をみる」ことができる仕掛けとしての発問をすることができるようになることが大切だということ、そして、問い返されることで、さらに考えることができることにも気がついた。問い返した時に、すぐに反応はないかもしれないが、頭の中では必死に考えている。
 後半は、福先生がナビをされ、ぐいぐいひっぱっていかれる感じだった。福先生のようなナビは自分にはできないと思う。しかしそれは、「私にはナビゲーションはできない」ということではない。福先生のナビから学んだことは、作品の細部まで見て、話題にしたかという確認を行うこと、鑑賞者の発言を分かったつもりにならないで、問い返しを行うこと、鑑賞者が作品を主体的にみるための仕掛けとしての発問を考えること、である。以上のことを心がけて、二学期の対話型鑑賞を実践していきたい。
(文責:中嶋 寛子)
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「安部朱美ふたたび」安来市加納美術館での対話型鑑賞会②(2019,8,24開催)

2019-10-05 23:45:46 | 対話型鑑賞
安来市加納美術館 特別展「安部朱美ふたたび」-明日へのまなざし―
鑑賞作品 創作人形「二十四の瞳 出席をとります」 2013年 安部朱美
参加者 一般 5名  みるみる会員 1名   ナビゲーター 房野伸枝

 私は安部朱美さんの創作人形を拝見するのは初めてで、創作人形を対象に鑑賞会を行うのも初めてでした。会場にはたくさんの人形が展示してあり、どの作品も非常に細やかに人物のポーズ、表情、シュチュエーションが表現されて、見ごたえのあるものばかり。「いろり端」「アイスキャンディー屋」「魚屋さん」など、昭和初期の風物も多く、どれもどこか懐かしく、特に70代以上の方にはかつて経験したような、まるで自分も人形たちの中に入り込んでいけるような感覚があったのではないでしょうか。その日の来館者は年配の方が多かったのですが、昔を懐かしんで、「あの頃はこうだった」「懐かしいねぇ」などなど、自然に近くの人と言葉を交わしながら見ておられる方が多かったのがとても印象的でした。これは他の展覧会ではあまり見られない様子です。それだけ、身近で、心に訴える作品だったのだと思います。

 その中で、「二十四の瞳」をテーマにした人形群がありました。<壷井 栄>作の映画化もされた小説を題材にした作品です。物語はこのようなあらすじです。「昭和3年、小豆島の分教場に女学校を卒業したばかりの若い「おなご先生」大石先生が赴任してきた。島民も子どもたちもまだ着物姿の時代、洋服を着て颯爽と自転車で勤務する大石先生。始めは不審を抱いていた保護者も、子どもたちに慕われる先生を受け入れていく。1年生12人の子どもたちと大石先生との温かい交流。けれど、戦争がみんなの生活を引き裂いていく。戦後、大石先生はかつての教え子との同窓会で、その後の子どもたちの苦労、戦死した子どもたちのことを知る。戦争で失明した磯吉が1年生の時の記念写真を指差しながら、あの頃の一人ひとりの位置を示す。脳裏には楽しい思い出の中の子どもたちが映り、みんなは涙をこらえきれなかった・・・。」児童文学でありながら「反戦」というテーマが根底にある奥深い物語です。


 
 展示室には、大石先生と子どもたちの出会いの場面「出席をとります」、子どもたちと遊ぶ「汽車ごっこ」、みんなで歌を歌っている「歌声は浜辺に響いて」、ケガをした先生を見舞おうと8キロの道を歩いて行き、先生の家でうどんをごちそうになった場面の「おいしいうどん」、その時に撮った記念写真の様子「記念写真」がありました。どれも作品中には「戦争」というモチーフは見当たりません。先生と子どもたちとのほのぼのとした、楽しげで温かい場面の作品です。



 その中で私は「出席をとります」を選びました。この作品は、子どもたちの表情、視線、ポーズから、<今、この瞬間に誰の名前を呼ばれたのか?>ということがわかるような表現がされています。言葉で説明されなくても子どもの様子をよく観察すれば、根拠を示して見つけることができそうです。初めて対話型鑑賞に参加される年配の方にも、ナビゲーターの投げかけ次第で、クイズのように探求心をくすぐられるのでは、と感じました。黒板に書かれた「4月5日」「いちねんせい おめでとう」「おおいし ひさこ せんせい」から、入学式の日の教室での場面であること、出席簿には、名前のほか、子どもたちが教えてくれる「あだな」まで書かれていたり、机の中には教科書やお弁当まで入っていたりと、たくさんの発見ができそうです。そして何より、12体の人形は子どもたちの性格をありありと表現していて、他の作品のそれぞれの場面でも、どの子が誰なのか、ちゃんと共通して表現しているのです。鑑賞中、出席をとるために名前を呼ばれた子がわかった後は、そうした一人ひとりの子どもについて、見つけたことから解釈を引き出そうと考えました。

 ただ、始めから最後までナビゲーションで迷ったのは、小説や作家のテーマである「反戦」について、どう引き出そうか、情報をどう与えるべきだろうか、ということでした。「対話型鑑賞」では、見えていることから、それを根拠に対話を進めるというルールがあります。<京都造形芸術大学のACOP>や<みるみるの会>では鑑賞中にある程度情報を加えて、解釈を深めるという手法も取ります。今回の作品では「反戦」はとても大事なテーマです。けれども、目の前の作品そのものからはそれは感じられない…。迷った挙句、「二十四の瞳」の内容を知っている鑑賞者からそう言う話題が提供されれば、取り上げようと考えましたが、この場では出なかったので私も「戦争」については触れることはしませんでした。

 反省会では「反戦」については、鑑賞の最後に伝えることで、この純朴で温かい子どもたちの様子と戦争という悲劇とのギャップをより感じ、戦争と平和について考えることができるのでは、というアドバイスをいただきました。確かにそうです!私のナビはいつもオープンエンド過ぎて、ちょっと物足りなさが残る、というのがいつもの反省点なのですが、今回もそうなってしまいました。
 ナビゲーションの最後に「これは皆さんがお話してくださったように『二十四の瞳』の最初の場面です。12人の子どもたちはお互いによく知っている間柄で、和気あいあいと温かい教室の様子を表現していますが、実は、物語では、のちに戦争で亡くなった子がいたり、大変な苦労をしたり、戦争で失明をしたり、ということが描かれています。そのことを踏まえてこれらの作品をみると、また違った見方ができるのではないでしょうか。」と付け加えることができれば、その後の作品の見方も深まったはずです。加納名誉館長さんが「安部さんの作品は、ただ懐かしいというだけではなく、過去を踏まえて、今を考えてほしいという作家のメッセージが込められているのです。」と教えてくださいました。そうした深い解釈まで引き出せるような鑑賞会にし、鑑賞者の満足につなげていくには、もう一押しの「そこからどう思う?」につなげるスキルを身につけなくてはと感じました。



 さて、これを読んで、画像を見た皆さんは、出席をとる場面で名前を呼ばれたのはどの子だと思いましたか?鑑賞会では、最初、後ろの列で手を挙げている子、という意見が出ました。手を挙げて返事をしているところだと。ナビゲーターが「周りの子の様子もよく見てください」と促し、よくよく見ると・・・。その子は前の子を指差して何か話しています。周りの子の視線も、後ろから2番目の指差されている子に注がれています。指差されている子は、手を腿の上でスリスリ、もじもじ、かかとが上がってつま先立ち、貧乏ゆすりをしているのかもしれません。困ったような顔をして、バツが悪そうに肩をすぼめています。そんな様子から「この男の子は恥ずかしがり屋で、はっきり返答がしにくい内気な子」という意見が出ました。前に座っている女の子も指差されている子に何か話しかけているよう・・・。「早く返事をしたら」と心配しているのかも。そんな周りの子どもたちの様子から、「名前を呼ばれたけれど、恥ずかしくて返事ができず、もじもじしている場面」だということが鑑賞者に共有されました。ナビゲーターが「周りの子どもたちはどんな気持ちだと思いますか?返事ができない子をバカにしているような感じがしますか?」と投げかけると、「みんな、やさしく微笑んでいて、仲良しな感じがする」「返事ができない子の隣の男の子と、その前の赤い着物の子はまっすぐ先生を見て話を聞いている。顔もきりっとして笑ったりしていないので、しっかり者のまじめな子だ」などなど、一人ひとりの性格まで見取ることができました。



 一般的には「人形」には愛玩用、かわいらしい、というイメージもありますが、安部朱美さんのこれらの創作人形はそれぞれに深いテーマを内包しており、見る人に多くのことを語りかけてくる芸術作品だと感じました。一見、微笑ましく思えるこの表情の向こうには、奥深い感情が秘められているように思います。それは、戦争にまつわる複雑な感情ではないでしょうか?
 初めての人形での対話型鑑賞会でしたが、本当にたくさんの発見がありました。参加してくださった皆さま、たくさんの示唆を与えてくださった加納名誉館長様、本当にありがとうございました。

<アンケートより>
〇参加者
50代女性:1名  70代女性:1名  80代 女性:1名、男性:1名 計4名
〇参加について
・参加しようと思って来た 1名     ・会場で知って参加した  3名
〇参加してみて   楽しかった  4名   また参加したい  1名
〇感想
・今の世代に人形を通して心をくみとってほしい。
・夏休みも終わるが、子どもたちに参加させたいです。
・思い出して、「本当だったなあ」と勉強になった。

コメント
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