みるみるの会 2月例会(オンライン開催) レポート
津室和彦
日時:2022年2月5日(土)
13:30~ Zoom接続確認・打ち合わせ
13:35~14:05実践
作品:「ショップガール,パリ」 斎藤清 1960
ナビゲーター:津室 ホスト・講師:春日さん 進行:房野さん
参加者:上記3名の他6名 計9名 (みるみる会員3名,津室紹介の2名,正田さん紹介の1名)
みるみるの会のメンバーと関係の鑑賞者であり,慣れた皆さんとの鑑賞会なので,作品選定で少々迷ったが,要素は少なく比較的オーソドックスな作品で臨んだ。
1 鑑賞の流れ
○:鑑賞者の発言
□:ファシリテーターの発言
◎:鑑賞者の,ファシリテーターの問いに対する返答
○クールな女性 意思が強そうでモダン
□クールとはどこから?
◎眉毛,服装がかっこいい 赤と黒のコーディネート 指輪は青い大きな宝石
□眉毛から意思の強さを,服の色の組み合わせからファッショナブル
○暗い室内 誰かが入ってくるのを待っているか時計を見ている
□人待ち顔
○手が白い蛇のようで怖いイメージ 怒っている
□気持ちが手に表れている 怒っていると感じるのは顔か?
◎白目と黒目が三角形に見える (服の)赤がぐっと入っている
□「目を三角にして怒る」という言い方も
◇皆さんの第一印象から,薄暗くてバーのような場所,女性の性格とか心情,容姿や身なりの話が出た→■女性をみていこうという促し
○左手で口元を覆っている 言えないか,言いたくないか拒絶している感じ
そっぽ
□自分の気持ちを隠している
○左手と右手が交差 防衛や拒絶に見える 思い描いているものを悟られたくないのか隠したいのか
□悟られないようにするとすれば,その思いは?
○眉毛が上向き 過去か未来,遠い先のことを思い描いている
□みているのは心の中にある過去とか未来,具体的なものではないということか
○(同じポーズをとってみた)不安や落ち着かないとき,自分の体を触っている
□「手は口ほどにものを言う」両手の組み方に落ち着きのなさが出ている
■場所については?
○おしゃれをしてバーとは,誰かに会うか一人ではない状況 だが落ち着かない
近くにいるその人と和んではいない
□服装から自宅で寛いでいるのではない 誰かとの関わりで生まれた表情や仕草
○顔が侍のよう 手は柔らかく装飾的 服装と髪型から忍者にも見える
□忍者から,探っている・覗いている・気配を消しているなどを連想
今までの話と合う
○手の柔らかさ=柔和を,顔は意思の強さや頑なさを,ふたつを併せ持つ人物
■全体を通して
○自主独立した女性 人に寄りかからない
□自立 自分をしっかり持っている
○多色版画 こういう女性のシリーズ?
□誰か,ではなく作者がもつ女性のイメージ 他のタイプもありそう?
○わざわざ左の薬指に指輪の青がある 結婚しても自分の意思で歩いている感じ
□ことさら左手薬指に 家庭があってもキャリアを積んでいるようなイメージ?
○一人バーに居て,「私既婚者なんです」とわざと見せている 都会的な拒絶
□腕をクロスという話もあったが,指輪もガードの一つかも
強そうな反面の不安もあるとあったが,だれしも揺れ動く両面があるのではないか
ファシリまとめ
皆さんの話を伺って,一つの見方ではみられないことがわかった。一見かっちりして,おしゃれで都会的,薄暗いところにいる女性。さまざまな他の人が周りにいるんじゃないかということと,その人との関係性でこのような表情やポーズをしているんじゃないかという話になった。同時にこの人の内面の多様性をみてもらえたのではないか。
鑑賞者の発言にあったように版画の作品である。版画作品としての特性も感じてもらえたのではないか。
2 振り返り
- 鑑賞者からのリフレクション
・発言に対して,「どこから?」「どのように?」と問い返して追求していたので,その人がどのように考えているのか,どこを見てそう考えているかよくわかった。
・何がかいてあるかはわかりやすい作品と思った。肌の色(顔と手)について議論になるかと思ったら,内面性の話になったのが印象的だった。ファシリで忍者とか侍とか,形にこだわらずに内面の方に導いてくれたという印象。
・肌を改めて見ると,すごく手が目立つ。白い目や手にフォーカスして見て欲しい作品だったのかなと感じる。そこに話を繋げることもできたのでは。
・最初の5分くらいですぐに小まとめしてフレーミングしていて上手だった。ぱぱぱと要素が出た後に小まとめをして人物にフォーカスしていてテンポがよかった。人物にいった後に,前出の目と手に細かく行けたかもしれない。
- 講師講評
・最初に4人の第一印象を聞いて,女性にフォーカスしたのは,よかった。
・女性しかいないので,女性全体にフォーカスしても意味がない。
・手を見るとか顔を見るとか服装を見るとか,部分のフォーカスもこの作品はしていった方がいい。みんなが気になるところがまちまちで散漫だったから,意識的に「じゃ手をみていきましょうか」「顔だけ見ましょうか」「身につけているものをみてどうですか」というふうに絞るべき。その後,指輪や装飾品,髪のきれいな結い方巻き方,そういう身だしなみでここにいる女性はどんな人なんだろうみたいな,どんな女性でここにどんなかっこうしているからこんな人なんじゃないかとまとめる。
・強がって今時を気取っているけど不安もある,という話がでてきていたが「どんな不安なのか?」という突っ込みはなかった。その思いをもう一段掘り下げるようなことをきくと見え方が違ったのではないか。
・後半の版画という発言を拾って,「版画だとしたらどうですか?」と返すことで,「手の白さって版画で彫っているところだな」とか「そこってやっぱり強調したいところだったんだな」とか,「そうするとやっぱり手の表情に意味があるんじゃないか」とか,初め頃の手が怖いという意見とコネクトするような意見が出てきたかもしれない。女性の心情面の話が出た話のところで,もう少し人物の表現と場所とで併せて話せたらさらに面白かったのかもしれないと思った。
・流れはスムーズでよかった。
3 ファシリテーター振り返り
・女の人というフォーカスが,大雑把すぎた。顔(表情)・手・服装・髪型・装飾品などに細分化し,それぞれを詳しく見ていくことを促すと,細かな気づきも出て発言同士ももっと繋がっていったかもしれない。基本であるディスクリプションに繋げるためにも,視点を絞るべきだったと大いに反省している。
・版画という表現方法からの促しができたのに,しなかったこと。目や手が白いという発言をプッシュすれば,広く版画表現の特質と同時に目や手を彫った作者の意図まで思考が拡がったのではないかと悔やまれる。また,その他の色の部分も彫りはもちろん刷り重ねなどにも話が拡がる可能性が十分あったと思う。
・作中の人物のポーズをまねてみたという鑑賞者がいたが,身体表現することは体感するために重要で,他の人にも勧めるとよかった。実際この作品を小学1年生に提示したときは,すぐに人物のまねをしていた。
・アップテンポで進める前段と,フォーカシングやプッシュをしながら鑑賞者の思考をより深める後段の切り替えに課題がある。発言の真意を逃さずつかみ,深めるべきところに力を入れるバランス感覚を磨かなくてはならない。