3月19日(土)下関市立美術館 10:00~13:00
参加者 春日美由紀 上坂 美礼
下関商業高校の宮崎先生たちが立ち上げた「むくの木の会」と京都造形芸術大学のアートリンクセンターのタイアップで中高校生のための対話型鑑賞会が開催されました。日頃からみるみるの会でお世話になっているACOP研究センターの北野さんが講師を務めるというお知らせをいただいたので、山口在住の上坂会員と出かけました。
私は下関の地に降り立つのは初めてです。いつも九州に向かう通過地点でしかなかったので、ちょっとドキドキしました。しかも下関市立美術館も初入館です。収蔵品展のネーミングが「高校三年生に贈る、知っておきたい下関の美術」ということで、郷土愛満載の展示だと思うと、下関の中高校生が作品に対してどんな思いを抱くのかも興味津々でした。先月香月泰男美術館を訪れたばかりだったので、香月の作品に出会えるのも楽しみでした。
会は、北野さんのレクチャーで幕を開けました。中高校生が退屈しないような配慮が満載の参加型のレクチャーでした。
ジェーン・グドール氏とチンパンジーの画像で「みる・考える・話す・聴く」の簡単なレッスンを終えた後、展覧会場へ赴き、自分の一押しの作品を選ぶという課題が出されました。ワークシートと鉛筆を持って全員で会場に移動。参加者は自分の一押しの作品のどこがお薦めなのかをメモしておき、後でグループごとにプレゼンできるようにと指示が出されました。
展覧会場の作品群は加納芳崖の日本画から始まり、山口ゆかりの香月作品、そして香月を支えた河村氏のコレクションでは岸田劉生、梅原隆三郎、藤田嗣治などの著名な作家の作品も並んでおり、そうそうたる顔ぶれだと感じました。また、山口出身の桂ゆき氏の現代アートや植木茂の彫刻も並びバリエーションも豊富でした。なかでも圧巻だったのが堀晃氏の「海の話」ではないでしょうか?中高校生にも人気だったようでたくさんの人が作品の前に集まっていました。一押し作品を選定する時間は約20分。展示室には時計がないので、大人たちが残り時間を告げて回りました。私もとりあえず一押しを決めておこうと思い、堀晃氏の隣にある堀研氏の「風の中を行く」を選んでおきました。岸田劉生の「村娘之図」も捨てがたい魅力がありました。
研修室に戻って10グループが編成されました。グループ入りを拒まなかったので4グループになりました。中学生2名、高校生2名と私の5人のグループでした。初対面同士なので4名の中高校生に緊張が見られたので、本当は密やかにしておこうかと思いましたが、まあ、話し合いがスムーズに始められるまでと思い、仕切りました。私の隣から時計回りに一押し作品を紹介していきました。最初の女子中学生は和田英作の「霞ケ浦の落日」でした。湖面に映る夕日の美しさに惹かれたと話しました。次の中学生は桂ゆきの「ハートブレイク」でした。赤い布で様々なものがクッションのように形成され、全体がハートの形を成すように配置されている作品でかなりインパクトのあるものでした。そこが気に入ったようでした。次の高校生は香月泰男の「雪庭」でした。抽象に近い作品でタイトルを見ても雪庭に見えないところに惹かれたそうです。そして最後の高校生は堀晃の「海の話」でした。骨の魚が泳いでいるところや泡が画面の中央に横に規則正しく並んでいるところが不思議な感じがしたそうです。そして、最後に私の番です。岸田劉生の「村娘之図」の娘の眼光に惹かれたことを話し、もうひとつは堀研の「風の中を行く」だと言いました。金色の画面に圧倒されるけど、絵の中ほどに手があることに気づき、少し下がってみるとたくさんの人が描かれていること、砂漠のような砂嵐の中を人々が行き交っている姿が浮かび上がってみえたことを話しました。一通りの発表が終わったので、いろいろと質問したり、感じたことを話し合うようにしました。お互いに選んだ作品の紹介の言葉の中に自分が気付かなかったことがかなりあって、みんな驚いていて、紹介された作品がもう一度みたいという気持ちになったようです。その中でも特にもう一度みんなで見たい作品を選んで、どうしてその作品を選んだのかを全体の前で発表することになりました。中高校生が私の紹介した作品をもう一度見たいといいました。「海の話」のインパクトが強くて、隣にある「風の中を行く」をよくみていない。何が描かれているのかよくわからなかった。という意見があったので、もう一度みる作品に選びました。この作品を選んだ理由は、私ではなく、別の人に発表してもらいたいと思い、誰かいないか尋ねたところ、高校生の一人が名乗り出てくれたのでお願いしました。
10グループのもう一度みてみたい一押し作品の発表会が始まりました。イチバンがプレッシャーなくていいよ!と励まして、うちのグループが先頭切って発表しました。同じ作品が多数のグループに選ばれるのではないかと思っていましたが、意外とばらけて、発表者の発言に「へえ~~~。」「そうなの???」といった感想とも感嘆とも言えない声があちこちで湧き、中高校生でこの鑑賞法に経験がほとんどないにも関わらず、よくみていることが分かり、かなり驚きました!!でもやっぱり美術部ならではかも???
その後各グループごとに選んだ作品をもう一度みんなでみにいきました。これが美術館ならではのいいところです!!そこでは作品の前で多くの対話が交わされていました。また、選んだ一つの作品だけでなく、グループ内の仲間の選んだ作品もみておこうという自発的な動きもみられました。仲間と情報を共有するからこそ、作品に対する興味や好奇心が湧くのだと思います。それが今回のイチバン!!だったように思います。
10時から始まったこの企画は途中休憩らしい休憩も取らず1時まで続きました。中高校生はさぞかしお腹が空いたのではないかと思いますが、不満の声もなく、最後まで前向きにしっかりと鑑賞していた姿が素晴らしいと思いました。
みてきた作品のお薦めレポートを真剣に書いている姿にも胸を打たれました。本当に素敵な下関市内の中高校生でした。
その後、参加した先生、美術館関係者との振り返りがありましたが、そちらについては、長くなるので、割愛します。同じく参加した上坂さんからの報告を待ちたいと思います。(春日美由紀)