ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

対話型鑑賞の評価をしました

2015-11-25 20:27:24 | 対話型鑑賞


 初めての対話型鑑賞だったので、記述したワークシートには結構細かいところまでつっこんでコメントを入れました。
 「みる・考える・話す・聴く」活動を通しての鑑賞で大切にすることは、作品の中に「根拠」があり、その「根拠」に基づいて自分なりの作品の「読み取り(解釈)」を行うことで、突飛もない意見や妄想にならないように、客観性をもたせ、友だちが意見を聞いた時に「なるほど」と思ってくれるような意見にしていくことが大事だと思っています。もちろん、友だちと意見が一致する必要はありません。でも、「その意見にも一理あるね!」と同意してくれることは必要ではないでしょうか?

 では、それぞれのクラスごとにお便りを創りましたので、紹介します。

 まずは1組から・・・。

 初めての対話型鑑賞でしたが、1組は男子を中心に発言が飛び交い充実した鑑賞会になりました。アンケートの結果も「みる・考える・話す・聴く」に関して意識して取り組んだ様子が伺えました。ただ「話す」ことに関しては、発言できなかった人が多いので仕方がないと思います。対話ができる時間は30分程度に限られているので全員が発言することは不可能です。だからこそ重要なのが「聴く」ことなのです。皆さんのワークシートに書かれた記述を読むと、友だちの話をしっかりと聴いて考えて、書いていることがよくわかりました。発言はしてほしいのですが、無理でも、しっかりと聴いて考えたことを書けるようにしていきましょう。ワークシートに評価とともに、どんなことを考えていくといいのかについてアドバイスをしていますので参考にしてください。

 では、35名の記述の中から、ひとりの人の記述を紹介し、よいところや、もう少し考えるとよいところを示しますので今後の参考にしてください。

 僕はこの絵をみてすごく古いイメージがわきました。いすやゆかをみればわかるけど、すごく使われていると思いました。右から光があたっていると思いました。理由はいすの右前の脚と左前の脚を比べて右前は明るいのに、左前は暗いのでそう思いました。A君はドアは使っているから色あせていると言っていたけど、僕は光があたっているからドアが色あせていると思います。僕は、この絵の床はレンガの階段だと思います。左下のほうを見るとすごく暗くなっているし、レンガとレンガをつなぐ白い線がみえないので、左下の部分は階段の側面じゃないかと思います。僕はこの絵を描いた人はこのいすに愛着があったと思います。こんなに古いいすを残しているし、この絵の中央にドンといすを描くということはこの絵はいすがメインなので、このいすがメインということは、愛着があるから描こうと思ったと思います。N君が言った、手作りであるというのは僕も賛成です。背あての一番上の木がゆがんでいるので、すごく手作り感が出ていると思います。あと、木の部材、ひとつひとつに直線がなく、全て、ゆがんでいるので手作りだと思いました。僕は、ドアの金具がさびているということから外だと思います。ドアがさびるということは風にあたったり、雨などで濡れたりするからだと思いました。

 この人のよいところは、「いすが描かれたこと」に関する自分なりの解釈をみえているものから考えて行っているところです。真ん中にドンと置かれているから、いすがメインであること、そのことから、「いすに愛着があるのではないか」と考えているところが素晴らしいです。ただ、「すごく使われている」ことに関する根拠が示せていないことや、いすが「レンガの階段に置かれる」か、といった常識的に考えたとき、どうなのか(階段や階段のそばにいすは置かないだろう)という客観性がもう少しもてるともっと読み取ったことに共感してくれる仲間が増えると思います。記述の仕方もひとつひとつの読み取りを挙げ、最後に「いすの描かれた」ことについて書くと流れがよくなります。

 続いて2組です。

 初めての対話型鑑賞でしたが、2組は男子も女子も積極的に発言して充実した鑑賞会になりました。アンケートの結果も「みる・考える・話す・聴く」に関して意識して取り組んだ様子が伺えました。ただ「話す」ことに関しては、発言できなかった人が多いので仕方がないと思います。対話ができる時間は30分程度に限られているので全員が発言することは不可能です。だからこそ重要なのが「聴く」ことなのです。皆さんのワークシートに書かれた記述を読むと、友だちの話をしっかりと聴いて考えて、書いていることがよくわかりました。発言はしてほしいのですが、無理でも、しっかりと聴いて考えたことを書けるようにしていきましょう。ワークシートに評価とともに、どんなことを考えていくといいのかについてアドバイスをしていますので参考にしてください。

 では、38名の記述の中から、ひとりの人の記述を紹介し、よいところや、もう少し考えるとよいところを示しますので今後の参考にしてください。

 私はこの絵は、人が住んでいる部屋で、その人が好きだった場所をあの中におさめたと思います。理由は、まず、タバコなどがある時点で、人がそこにいないと不自然に思います。私の想像では、おじいさんの1人暮らしで、角の方にある箱のようなものの隣には暖炉があると思います。あのいすは色が黒ずんでいたりするところから古いいすだと思います。だから住んでいるおじいさんはそのいすが大好きでそのいすに毎日座って暖炉などであたたまっていると思います。部屋の床が黒ずんでいるところから、そうじがきちんとできていないと思うので、男の人の1人暮らしで、全体的に古いところから、おじいさんだと思いました。おじいさんの年齢になると、やることがなくなってくると思うので、自分の好きな場所を絵におさめたと思います。

 この人のよいところは、作品のみえているものひとつひとつについてしっかりと考えたうえで、「そこからどう思うのか」という作品全体をみての考えまで考えられているところです。それは「自分の好きな場所を絵におさめた」という記述です。最後までよく読むと、しかも、この絵を描いたのもおじいさん自身だと言うことが分かります。「イスが古い」「床が汚れていて、掃除が行き届いていないから、男の人の1人暮らし」「おじいさんが一人暮らし」「年取って暇だから自分の好きな場所を絵に描いた」と考えが論理的に組み立っています。このような作品の読み取り(解釈)ができていくと、作品からのメッセージが読み取れると思います。
 ただ、記述の中で暖炉があるのではないかと言うことに対する作品の中のどこからそう思うのかについての根拠が示されていないので、この考え(解釈)は想像の域を出ないので客観性はないといえます。
 自分の考えが「作品のどこからそう思ったのか」を踏まえて、さらに「そこからどう思うのか」を考えていくことができれば、敷居が高いと思える「芸術作品」も身近に感じられるようになります。次回もお楽しみに!!

 最後は3組です。

 初めての対話型鑑賞でしたが、3組は男子が積極的に発言して充実した鑑賞会になりました。アンケートの結果も「みる・考える・話す・聴く」に関して意識して取り組んだ様子が伺えました。ただ「話す」ことに関しては、発言できなかった人が多いので仕方がないと思います。対話ができる時間は30分程度に限られているので全員が発言することは不可能です。だからこそ重要なのが「聴く」ことなのです。皆さんのワークシートに書かれた記述を読むと、友だちの話をしっかりと聴いて考えて、書いていることがよくわかりました。発言はしてほしいのですが、無理でも、しっかりと聴いて考えたことを書けるようにしていきましょう。ワークシートに評価とともに、どんなことを考えていくといいのかについてアドバイスをしていますので参考にしてください。

 では、39名の記述の中から、しっかりと「どこからそう思うのか(根拠)」に基づいて考えることの出来ているものを紹介します。今後の参考にしてください。(でも、これが模範解答というものではありません。)

 私はこの絵は屋内を描いていると思いました。それは、外では感じないような暖かさがいすの黄色や床の赤・オレンジ色から伝わってきたからです。そして、このいすを使っている人が年を取ったおじいさんくらいの人だと思いました。若い人だともう少しおしゃれでキレイないすを使うと思うけど、木目のような模様が入っていて、おそらく木でできているこのいすはパーツの形や太さがバラバラでデザインもすごくシンプルだからです。そしてこの部屋は物があまり描かれていないので、けっこうさびしさも感じられるので、その人は1人でここに住んでいると思いました。このいすとパイプはその人が長年愛用していたのかなと想像しました。それは、後ろの壁のうすいくらさに引き立てられてすごくいすの色の暖かさがあって、愛情や思い入れがあるからこういう表現ができるのかなと思ったからです。

 この人のよいところは、色から受ける印象もしっかりと受け取っているところです。自分の考えが、作品のどこからなのかということが描かれているものの色からも考えられていることは大切です。色や形、描かれているものが根拠になるからです。根拠があいまいなものや作品から離れている場合は、自分勝手な妄想でしかないので、友だちを納得させることは出来ないと思います。友だちが「なるほど!」と唸ってくれるような論理的な意見を考えなくてはいけません。そして、次に大事なことは「そこからどう思うか」という、自分自身の作品に対する解釈です。上記の人も自分自身の解釈ができていますが、「では、なぜ、パイプの載ったいすの絵は描かれたのか?」ということについての記述はありません。また、描いたのは誰なのでしょう?そんなことまで考えられるといいですね。
 作品からみえるものひとつひとつを細かくみて・考えたら、次は、それらを踏まえて、作品全体をどうみて解釈するのかを次回の課題にしていくと、もっと作品はあなたたちに語りかけてくれます。

 作品をどう読み解いていくのかについては、いろいろな意見があると思います。このことについても「正解」は無いのではないかと思います。私は、このようなやり方で、生徒に描かれているものを詳細にみていくことによって、みえてくるものを論理的に構築して解釈していくという鑑賞を実践しています。


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40人学級で「対話型鑑賞」を実践しました!!

2015-11-19 22:12:18 | 対話型鑑賞


昨年度から美術科を担当し、1年半付き合ってきた生徒たちは1クラスの生徒数がほぼ40人という中学校学級定員MAXな中で日々の学習活動を行っています。美術室でも40席に生徒が座るとほとんど余裕のない状態です。そんな中で学習に取り組む彼・彼女らは出会ったときは「まさに中学2年生」という状況を呈していました。心安らかに作品制作に取り組む環境を整えるのに1年半を費やしたといっても過言ではありません。それはつまり、私が生徒との人間関係を構築する時間でもあったと言えます。
やっと、中学校の一大イベント「体育祭」「文化祭」をやり終え、進路について現実と向き合わないといけない時期に差しかかり、彼・彼女らの成長を僅かながらにでも感じられる時を迎え、この鑑賞を実践する決意が固まりました・・・。
 この鑑賞法を実践するときには、生徒がこの鑑賞法を嫌わず、楽しいと感じられるように心がけています。一番初めの時には、生徒もこの鑑賞法に戸惑います。「何を言ってもいい。」「みえているもの・ことを話す。」というのは「本当に何を言ってもいいのか?」「みえているものを言うって?」という戸惑いを生むからです。でも、まあ、始まってしまえば、「なあ~~~んだ。」ということになるのですけどね・・・。

 初めての作品はゴッホの「椅子」とか「古靴」がやりやすいのでよくみます。今回も「椅子」をみました。作品をみる前に気をつけていることは、ルールの徹底です。これをやっておかないと収拾のつかない事態が発生する恐れがあるからです。勝手勝手に話したり、発言を遮ったり、隣同士でコソコソ話したり・・・中学生では起きがちです。それを避けるためのルール確認です。そのルールは「みる・考える・話す・聴く」に則っています。

①まず、静かに(黙って)作品を隅から隅までじっくりとみる
②みながら、みえているもの・ことついて、考える
③考えたことを、挙手して話す(挙手して、指名された人が話すことを徹底しないと、私語が発生します)
④指名されて発言している人の話を、それ以外の人は、しっかりと聴く

このルール確認を、中学生でも、小学生でも、幼稚園児でもします。そして、幼稚園児も守ることのできるルールだと話して、中学生のルール順守を促します。今回もこのことは徹底しました。

実践対象生徒数(学級ごとに実践)授業後の振り返りワークシートから
3年生3クラス【114名:1組36名(欠席1名):2組39名(欠席1名):3組39名(欠課1名)】
実践後のアンケート(評価値は4・3・2・1:4が上位評価とする)回答数112名(未提出者2名)
A)しっかり絵をみることができた 4:100名  3:12名  2:0名  1:0名
B)絵をみてしっかり考えることができた 4:92名  3:17名  2:2名  1:0名
C)自分の意見をいうことができた 4:30名  3:5名  2:11名  1:66名
D)友だちの意見をしっかり聴くことができた 4:95名  3:13名  2:2名  1:0名
E)友だちの意見を聴いて、また、自分の考えをより深めることができた 4:89名 3:19名 2:1名 1:1名
F)このような鑑賞をまたやりたい 4:73名  3:35名  2:0名  1:4名

 上記の数値から「みる・考える・話す・聴く」活動において、生徒自身が「みる・考える・聴く」ことはできたと捉えていることが分かります。しかし、「話す」ことに関する評価が低いのは、発言できた生徒が少なかったからだと思います。考えてはいても、挙手して発言できた生徒は限られました。しかし、発言はできなかったけれど「考える」ことはしっかりとできていたことは振り返りのワークシートにびっしりと書かれた作品の読み取り記述から伺えます。

『今日の鑑賞をして、自分も意見を考えていたけど、すべて言わなければ、誰にも理解されず終わってしまうんだと思った。』という叫びのような感想もありました。
『いつもの鑑賞は自分だけとか一部の人の意見しか知ることができないので、みんなの意見も聞きながら鑑賞するといろんな見方で見ることができるので良いと思います。そこから想像される世界も人それぞれなので楽しかったです。』と、仲間とともに作品を見ることの楽しさを感じた感想もありました。

また、「どこからそう思う?」と、根拠を明らかにしながら自分の考えを話すことに対しても、初回にもかかわらず『できるだけ質問されないように、答えることができるようになってきてよかったです。』という感想もありました。「どこからそう思うのか?」を示さず自分の意見を述べる生徒に対して「その考えは、作品のどこをみてそう考えたのか?」を繰り返し訊きかえしながら対話を進めたので、わずか1時間の実践の中でも『思考』法と『表現』の仕方を学んでいる姿が伺えました。

このことからも、この鑑賞法が「教える」鑑賞から主体的に考え「学ぶ」鑑賞へシフトしていることがご理解いただけると思います。次の学習指導要領の改訂に向けては「アクティブラーニング」がキー・コンピテンシーを培う上で必須と目されていますが、この鑑賞法そのものが「アクティブラーニング」でありキー・コンピテンシーを培うことの出来るものであると私は捉えています。たかが美術鑑賞なのかも知れませんが、されど美術鑑賞です。この深くて豊かな鑑賞法で生徒の秘めた力に幾ばくかの刺激を与えることができればと、実践を続けていきたいと考えています。

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