ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

浜田港 今昔

2024-09-23 21:39:51 | 対話型鑑賞

みるみるの会9月例会 

日時:2024年9月15日(日)11:30~12:00

場所:浜田市世界こども美術館 

作品:「浜田の港」 デイビッド=スミス 1998‐1999

参加者:5名(来館者3名 みるみる会員1名 美術館関係者1名) 

ファシリテーター:津室和彦

 

作品選定について

 館蔵品の中から,色遣いが印象的な作品を選んだ。7月の例会でメンバーの嶽野がファシリテーションした作品と同じく,浜田にゆかりのあるイギリス人画家の作品。

 横長のキャンバスに,浜田の港が文字通りすっぽり収められている。山陰の小さな漁港が,前回鑑賞した作品とはまた少し違うタッチで描かれていることにも惹かれた。

1 鑑賞の流れ(〇=鑑賞者発言の概要 F:ファシリテーターの発言)

◆季節や光を感じる

〇夏に向かう季節 新緑から濃い緑に変わりつつある

〇夕方の時間帯ではないか 水平線上の黄色と紫から,夕日の残光で雲が染まることがある

〇雲を通って光が降りてくることがある その光が海に映っている

〇建物や道,波止場など白く光っていて季節は真夏

〇一定の時刻や一定の景色を見て,そのまま描いたのではないのではないか 汚れた倉庫,新しい大きな橋,    日本海に沈む夕日,緑の豊かさ・・・などてんこ盛りにしたいのでは

F:写真のようにその瞬間を切り取ったのではなく,浜田のいいところ・・・あ,みなさん,浜田の方です か?よろしければどちらからいらしたか教えてもらえますか?

 浜田のこの景色を見られているかどうかはわかりませんが,浜田のいいところっていうのは,この絵をみて思い出されることはないですか?

◆浜田のよさを描いている?

F:浜田のよさというものを,この絵の中に見つけられるところはないですか?

〇港の風景のどんどん積み重ねて新しいものをつくってきて,それが必ずしも成功じゃなかったとしても,新 しいものをつくろうとか何とかしようというエネルギーを感じる

 そう思ってこの景色をみると,きれいだなと思う ゆうひパーク辺りで見ると,このように見える

〇マリン大橋やその向こうの瀬戸ヶ島には,リゾート化計画もあった

F:なるほど,それが新しいものですね。古いものにはどんなものがありますか?

〇手前の漁港には,昔のセリ場や倉庫があってトロ箱がいっぱい積んであった 古いドックもあった 姿をどんどん変えながら船の形になってきていた

F:さっき,ある特定の一日を写したものではないというお話がありましたが,長い漁港としての歴史と,新しい街づくりをすすめてきた象徴のような大きな橋とか,そういうものが一緒くたになった時間の流れのようなものを感じ取られたのですね。

〇人のいる街並みをかいたものなので,人口の光と自然の光が混在したようなイメージもある 夕方出る漁船もいる 市街地の明かりもある

〇新旧が混在している 町を発展させようとしてやっているけれど,昔ながらの暮らしも残っている 古いものを切り捨てていくのではなく残しつつやっていくというこの町の人情というかそういうものを描きたかったのではないか

F:人情と言われました。人物らしきものはここには描かれていないですが,町の様子から人情とかを感じられるところはないですか?

〇ここにバイクのようなものがある 働くバイク カブ

◆作品の背景と併せてみる

F:作者はデイビッド=スミスさんというイギリスの方で,こちらに住んでおられた画家です。1999年 まで生きられた方ですが,この作品の制作年は1999年・・絶筆かどうかはわからないけれど,最後の年にかかれた作品なのですね。

〇(作家の)娘さんが島大で教鞭をとっていて,その関係で会いに来て浜田に滞在していた ずっと日本に住んでいたわけではない

〇絵をみるとき,ぱっとみて好きか嫌いかでみてしまうのだけど,これは正直好きになれない 海の色をああいうふうにかいているけど,海らしくかいてほしい 構図はすごくいい

F:構図はいいと言われましたが,どんなところが?

〇構図は最高にいい こう緑があって橋があって,ふくらみを感じる 真ん中の色がクオリティを下げる

F:ふくらみと言われましたけど,こう包まれている感じ?だからこそ真ん中に目がいく?

〇もしかしたら,海をこういう色にしたいという気持ちが作者にあったのではないか

F:ポジティブな?

〇そうそう だから敢えて海の色を青だけにしたくなかったのかな 古い部分がもっているポテンシャルみたいなもの すべてにつながる・・海ってそういう思いもある

 隣の作品もそうだが,日本人にはない色彩感覚もあるのでは

〇この見えている景色は,全て人間がつくった 埋立地や護岸が広がっていて,家の裏に直接船を引き揚げていたような陸地は全くない 里山じゃないけれど,海辺を人間が何十年もかけて作り上げてきた そういう人間のエネルギーをこの風景から感じる

F:松江の海の景色と結び付けて,考えられることはないですか?

〇人の姿はないけれど,人の暮らしが感じられる

F:今日みなさんとこの作品を鑑賞して,色遣いが印象的で,ちゃんとゆうひパークから見たような浜田の漁港の様子がきれいに収められている構図だというお話ができました。色遣いについては,作者の思いをみなさんそれぞれに考えていただけたのかなと思います。

2 みるみるメンバーとのファシリテーションの振り返り

◆対話型鑑賞は,エンターテインメントである

 美術館など公の場では特に,一期一会の参加者もいるのだから,参加してくださった人たちが作品鑑賞を楽しめる場をつくらないといけない。

 例えば,本日,二人組の鑑賞者が松江から来館したということが分かったときに,ファシリテータ-としてはそこで終わらずに,「よく浜田には来られるのですか?」などとちょっとした雑談を続けるのもひとつの手。その人たちの背景を探りつつ,人前で話しをする緊張感をほぐすような働きかけがあるとよかったという指摘をいただいた。勇気をもって飛び込んでくださった鑑賞者が話しやすくなるような適切なアイスブレイクで,鑑賞の場を温めることが大切である。

◆構成メンバーの特性を踏まえたゴール設定を探る

 本日の鑑賞者は,上記松江からの二人と浜田出身の方,これまた浜田をよく知るこども美術館館長,みるみるメンバーであった。30分間という短い時間の中で,このようなメンバー構成について知り得たのだから,この人たちの発言やそこから垣間見える経験や感性を踏まえて,鑑賞のゴール設定をすることこそがファシリテーターの役割である,との指摘を受けた。

 松江の二人と浜田をよく知る三人は,山陰の町同士という類似性,しかしながら当然ある地理や文化の違いなどについて自らの経験というフィルターを通してこの作品をみている。このことを臨機応変に捉え,軌道修正しながら,本日の鑑賞の行く先を定めていくことができるようになりたいと思う。

おわりに

 色の鮮やかさについて,空・海・港・町を取り巻く光の表現であるというのは共通していたが,よいものと感じる人とそうではないと感じる人がいるというのが興味深く,違う感覚があるという当たり前のことを理解する場となった。この特徴的な表現にまつわり,季節感や自然・人工の光,自然豊かな海辺の町が近代的に発展してきた様子,人々の努力や時間の積み重なり,イギリス人の作者の感性など,幅広く考えられる楽しい時間となったように思う。

 

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