レポート:Art Communication in Shimane みるみるの会 房野伸枝
日時:2021.2・28(日)13:30~Zoom接続確認 14:07~14:39実践
作品:「断髪の自画像」 1940年 フリーダ・カーロ 作 ニューヨーク近代美術館 蔵
ナビゲーター:ふさの 進行:まっつんさん サポート:ちょなんさん
参加者:上記の3名の他2名 計5名
鑑賞作品は以前から気になりつつも、ナビをしたことのないフリーダ・カーロ「断髪の自画像」。昨今、日本オリンピック委員会・前会長の発言に対する「#わきまえない女」の話題や、LGBTQ+について世間の認識が高まってきたこと、女子中高生の制服として、スカート以外にスラックスも取り入れられるようになってきたことなどから、ジェンダーに関わるこの作品を取り上げたいという気持ちが強くなりました。
30分以内にできるだけリッチな対話になるように、今回は以下のことを心がけました。
1 テンポよく進めるために、端的なパラフレイズを心がける。
・鑑賞者が対話型鑑賞に慣れている方ばかりで、根拠を伝えながら発言するのでポインティングで共有し、時短とリズムを大切にしたい。
2 情報提供の内容とタイミングに留意しながら進める。
・短時間で多様な解釈を促すには、これが男性なのか女性なのかということで時間を費やすのを避けるほうが、女性が男装する意味を深められると考えた。
・上部の文章と楽譜についての発言があった時点で、その意味を情報提供する。この歌詞に対するどんな感情から、髪を切る行為につながったのかということに焦点を絞ることができるのではないかと考えた。
鑑賞者からは、私の予想していた以上の解釈が出てきました。さすが、ACOP経験者!興味深かったのは、「男性でも女性でもない自分を描いている。性というものでとらわれないで私を見て、というアピール」「この女性の目線から、我々に対して、女性だから、男性だからという理由で装っていることを問いかけられているような、自分のアイデンティティーとちゃんと向き合っていますか、と問いかけられているような感じがする」「性を超越した存在という見方もあるけれど、頬や唇を赤く化粧し、イヤリングをつけていることから、女性としての自分をアピールして、男性を誘惑しているような表情」などの解釈でした。このような解釈はナビ自身は予想していなかったので、「なるほど~おもしろい!」と素直に感動。また、これまでの私の経験では、様々なモチーフから解釈へと移行するにしたがって、深く、多面的に読み取っていくことが多かったのですが、今回は、ジェンダーや社会、人間として、という大きな話題から、一人の女性が別れた男性に対しての個人的な感情の話に収束していったということです。ただ、これは前半の解釈を否定するものではないので、多面的な読み取りができていたとも考えられます。「歌詞の意味を知らなかったら、厳しい父親に反抗している娘の物語、のような解釈もありましたがこれは男女の恋愛の物語と考えられる」という意見もありました。「歌詞」の意味を知らせなくても良かったのでは?」というご意見もいただきました。確かにそれも一興。機会があれば、情報提供しないパターンでどのような解釈が生まれるのか、試してみたいです。
以下は皆さんからチャットでいただいた感想です。
○対話を深めていくごとに見方が二変三変して、対話型鑑賞の醍醐味を味わえました。歌詞の情報も絶妙なタイミングで出てくることで、みんなが迷わずに鑑賞を進められたと思います。お疲れさまでした!
○情報提供の絶妙なタイミングで、鑑賞が深まっていった。性別に関する情報が集まってきたところで女性であることを明かす、歌詞と髪の毛のつながりの情報が集まってきたところで歌詞と楽譜の意味を明かす。
一つ一つの発言に対して、丁寧に質問を重ねることで鑑賞者が観て考えていることが深ぼりでき共有も進んでいった。
作品がすごくおもしろいので、ジェンダーについて話し合ういい材料となりそう。
○とても対話をしたくなる絵でした。作品に対しても一気に深まっていった気がします。ナビゲーションもとてもスムーズで、早めに女性であることや、歌詞の意味を情報としていただけたことで、中盤からの鑑賞にスピード感が増していったと思います。結果的に大きな話でも身近な話でもどちらと捉えても良かったのかもしれませんね。とにかくのめり込むように鑑賞ができて良い時間だったと思います。
○情報が入ってからより深いところに入って行けた感じがあったので、効果的でした。タイミングは考えがあったのでしょうか?今回この作品をチョイスした理由もお聞きしたいです。フリーダ・カーロという人物の先入観もあったかも?知らなければまた別の印象になったのかな?
オンラインで画面共有する際には、ギャラリービューや、チャットの枠が画像と被らないように、パワーポイントのスライド上の画像を左右どちらかに寄せておくとよいということを学びました。慣れた方には当たり前のような些細なことも、やってみると初めて分かります。オンラインならではのコツが色々と学べ、サポートの皆さんには本当に感謝します!
ナビとしての今後の課題は、コンセプトにとらわれずに、誘導することなく、自然に深まるような対話を心がけることです。今回パラフレイズは少なめに、と心がけていたものの、後から動画をみてみると、結構パラフレイズしていました。また、声に緊張感があるので、もう少し柔らかい声でやり取りしたほうが場が和らぐなあ、と思いました。今回の参加者の名言「対話して、深まらないはずがない!」「好きじゃない作品、よくわからない作品こそ、鑑賞が楽しくなる」を胸に刻んで今後も楽しみながらナビをしたいと思います。ご参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。