10月14日に、浜田市世界こども美術館で開かれた月例鑑賞会のレポートをお届けします。


10月14日(土)浜田市世界こども美術館
鑑賞作品 大谷千恵作「夕日のオトシモノ」(染色画)制作年不詳
ナビゲーター:春日美由紀
鑑賞作品は抽象度の高い染色画です。一般の参加者が見込めそうにない状況だったので、難解そうなこの作品についてメンバー同士でどんな対話ができるのか挑戦しました。
画像をみていただくとお分かりのように、具体的に「これ」と断定できる形状のものはありません。何に何を見立てて解釈していくのか、鑑賞者の発言を注意深く聴きとることが大切と思いました。
はじめに上方の黒い境界線が山並みにみえ、その上方が紫色であることから、夕暮れを連想した発言がありました。続いて、中央のモノトーン部分が(横たわっているが)樹にみえ、下方に伸びているのは脇枝ではないかという発言が続きました。樹にみえるのは複数の平行に続く黒い横線が柾目のように感じられるからという根拠を述べられました。次いで、中央部分の円形について、画面のほぼ中央にあり、存在感があり、無視できない存在であるが、「いったい何なのだろう?」と、とても考えさせられる。と言われたので、さらに「なんだと思いますか?」突っ込んで訊ねました。そうすると、形状から「細胞」を連想すると言われ、円形の中央より左下にある濃い黒い丸が「核」で、細胞分裂を想起すると解釈を述べられました。そこで、細胞は植物のものなのか、動物のものなのかと訊き返したところ「動物のもの」と答えられたので「細胞分裂する動物の細胞ということは、卵子ですか?」と確認すると「そうです。卵子です。」と言われたので、この方は、中央の円形のものを「卵子」ととらえていることを全体で共有しました。また、そのことから、中央の黒い部分は「卵子」の通り道で、下方に伸びているところを通り抜けて行くのではないかという解釈もされました。これを受けて、この考えに同意する意見も出されましたので、最初に「樹」と発言された方に、「この意見を聴いて、どうですか?」と訊ねました。それは、3名のうち2名が円形のものに動物的なものを感じているのに対し、この方は植物的なものを感じていたので、聴くことで考えが変わったか、変わらずにいるのかも確認したかったからです。そうすると「樹にみえるのには変わりない。その丸いものは穴で、奥の黒い部分に樹の何かよくわからないけれど何かあるような気がする。」と発言されました。ナビとしては、「樹」に実際に「穴」が空いていると思っているのか、「穴」は無いが、樹木の持つ何か「核」のようなものを象徴的に表現していると捉えているのかが曖昧だったので確認をさせていただいた結果、後者であることが分かりました。このことから、「卵子」としても「樹の核」のようなものとしても、「生命」を感じるという共通点は見いだせるのかと判断し、鑑賞者に確認しました。また、中央のモノトーンの部分に対して上下は紫・青・黄色に染め分けられており、カラフルであることから、外にはエネルギー(パワー)を感じるという発言も出ました。
まだまだ謎な部分はありましたが、約30分になろうとしていたので、切り上げ時だと判断し、「皆さん、中央の丸い部分に生命というか生き物のエネルギーのようなものを感じておられるようでしたが、タイトルが夕日のオトシモノということで、夕日、」つまり太陽はエネルギーの源であるし、それが沈んだ後に命の営みはあるとも言えるし、この道(下方に伸びた道のような形状の場所を示しながら)を通って、また日が昇って朝が来る。とエネルギーをもらうことができる。この境界(樹にみえる形の下方の)線は、上とよく似た山並みにもみえて紫であることから、朝焼けともみえなくはないので、夜が来て、朝が来る、という風にもみえなくはないな。と考えるところです。今日は皆さんと、この、ちょっと難解な作品を一緒にみることができて楽しかったです。ありがとうございました。」と締めくくりました。
本当に、「一人では辿り着くことのできないところへ、仲間と一緒なら語り合いながら辿り着くことができる。」ということを実感したひと時でした。
振り返り
○抽象度の高い作品で、どんな対話ができるか?参加者主体でナビすることに徹しました。
○見立てられそうなものが描かれていないので解釈も抽象的な表現になると思われ、鑑賞者の発言に対して齟齬の無いように確認しながら進めていくことを心がけました。
○発言が長くなることが予想されたので、意を汲みながらコンパクトにパラフレーズする。しかし、齟齬の無いように注意を払うようにしました。
○「ナビも鑑賞者の一人である。」と言われますが、今回はナビに徹しました。最後のまとめのところで、鑑賞者の発言をつなぎながら、自分の解釈も加えるという形をとってみました。
参加者から
○「卵子」の言い換えは、バッチリだった。
○発言が理解できないときは無かったか?➡あった。「樹の穴」説は本当に空いてると思っているのか、空いては無いがイメージとして描かれていると思っているのかが曖昧だったので、問い返して確認した。
○発言者の意見が分からないときにはどうしたら?➡「もう少し、詳しく話してもらえませんか?」と訊ねればよいと思う。分からないのに分かったつもりはまずい。
最後に
抽象度の高い作品でも、タイトルがついていると、作品とタイトルを関連付けながら「みて、考える」ことができる。また、描かれているものを「何かに見立てる」ことができれば「考える」ことはたやすいが、そうでない場合は難度が増す。抽象作品には「見立てる」ことも、タイトルが「作品№1」などと、作品と関連付けて考えることが困難なものもある。という話題も出ました。
そういう作品とどう対話していくのかは今後の課題としたいと思います。

次回の鑑賞会は、11月11日(土)14:00~浜田市世界こども美術館にて。
作品をみながら、楽しく語り合ってみませんか?