2024年11月17日(土)11:00~11:25 浜田市世界こども美術館 企画展「光と影の不思議展」
作品:佐藤江美「Pride of Bag Closures:type FREE」 2021年
(プラスチックの留め具を組み合わせ、壁にその影を投影することで、フランス革命の自由の女神を表現)
参加者:一般最大7名(鑑賞中、流動的に増減)、みるみるメンバー1名
ファシリテーター:房野伸枝
展示会場には、佐藤江美さんの作品がカーテンに仕切られて、7つのブースに分かれて影を投影してありました。そのどれもが、手前に身近な3次元の物質(パッククロージャー、本、植物、チョコレート、カード、ケータイや時計など)を組み合わせ、それに手前から光を当てて向こう側に陰を投影するという影絵の手法を使った作品でした。組み上げられた物質の形からは、向こうに映る影の形は想像できません。けれど、その物質と影の組み合わせには深い意味が感じられ、対話を通してそれらをみつけたいと思わせる作品でした。
10月に同じ作者の「自由の女神」をテーマにした作品を鑑賞していました。前回に続いて常連の方の参加もありましたので、別の作品で「自由の女神」をモチーフにした今作品を選びました。テーマが似ていても、影を形作る物質に違いがあれば(前回はスマホやケータイ、時計などの人工物で、今回はパッククロージャー)どのような鑑賞内容になるのか、楽しみでもありました。
その場に居合わせた、小学校中学年くらいのお子さんとお母さんが2組参加してくれました。会場が広くないことと、小さなお子さんの目線に合わせるためにファシリテーターがかがんで進めることにしました。何が見えるか問いかけると、子どもたちが影の部分から見つけたことをつぶやき始めました。(アルファベットは鑑賞者の発言。Fはファシリテーターの言葉。( )はファシリテーターの意図)
~以下、鑑賞の流れ~
影の形から
こどもA:鉄砲とか剣を持っている人に見える。
F:他には何かある?
A:旗持ってる。
F:左側にある手のところあれ旗なんだね。どこから旗に見えたの?
A:棒みたいなのを持ってるから
F:棒みたいなのを持っててその先に旗がついてるんだね。何の旗だろうね。なんで旗を持ってるのかな。
A:敵か味方か分かりやすくするため。
F:じゃあこの旗を持っているのは味方だよって教えてるのかな?
A:そうだよ。
F:じゃあもしかして味方がいるの?
A:えー・・・一人しかいない。(影は一人の人物のものだけが映っている。)
F:一人しかいないね。本当だね。ここに映ってるのは一人みたいだけど、旗を持ってるっていうことはどうなんだろうね。
A:仲間がいるんじゃないかな。
F:じゃあ今見えないけど、周りには仲間がいるのかも?すごいね!旗一つからそんなことまで分かるんだね。
こどもB:右の手に鉄砲みたいなものをもってる。でも、とんがってるから剣かな。
F:銃を持って向かって左側の手には旗を持っている。それは(小まとめ)それを聞かれていかがでしょうか。はい大人の方どうぞ。
影の形・もとになっている絵画作品への言及と、手前の物質について
(Aのお母さんに話しかけてみた)どうですか?
C:(影について)どこの誰が描いたのか全然わからないんですけど、なんか見たことがあります。
A:(前の物質を指して)プラスチックで止めるやつ、あれで作っている。
F:はい、後ろの絵はなんか見たことがある絵の一部のようで、手前にある、影を作るためのものはプラスチックっていうことを言ってくれました。プラスチックの何ですか?
A:えっと、パンの袋の口をとめるもの
F:(ここでは、あっさりこの物質が何かを共有し、その意味を考えることに集中させようとした)それをあんな風に重ねると後ろにあんな影ができてるんだね。これはどういうことなんでしょうか?またちょっと考えてみてください
D:シルエット見ると、なんていうか、腰がね、丸くなってて女性かなって思うんですけど、丸みがあるかなと。でも、影のもとになってるそのパンの袋止めるやつはカクカクしててとんがってて。なんていうか、全然丸みがないのにそれなのに影は丸くなってるのが不思議だなと。
F:、あの腰あたりの形から、あれば女性のシルエットじゃないか。丸みを帯びてるんだけど手前の影を作っている物体はとってもカクカクしている。そのというか違いがすごく際立っているということでしょうか。(パラフレイズで要約)
物質と影との関係性について
E:この作家さんの他の作品もそうなんですけども、よくこんな素材で、組み立て方からこんな影が出せるなあと、それは本当に感動というか感心します。出てくる影の絵がすごいなと思います。さっきの子どもさんの発言にちょっとびっくりして、全部伝わってるじゃん!と思いました。
F:手前はとっても身近なもので我々も手に入れやすいもの。だけどもそれをうまく組み合わせることで後ろにああいうシルエットができるということですね。
G:前のものともすごいギャップがやっぱ大きいなって思うんですが、前のものだけ見るとすごくトゲトゲした、さっきカクカクって言われたんですけど、触ると痛いような感じがして、で、写っている影も銃剣を持っていたり旗を持っていたり、なんかこれから戦いに行く感じだから、どっちもなんかちょっと痛々しい、痛みを伴うようなそんな感じを受けました。
F:なるほど、身近なものではあるけどトゲトゲしくて、もしかしたら触ると痛そう。後ろのテーマも丸みを帯びた女性の体ではあるけれども戦いを意味するようなそんなものだということですね。それを聞かれていかがでしょうか?この手前のものと後ろとの今、違いや共通したことについて話をしてくださっているかと思います。(フレーミング)
D:今、材料もトゲトゲしてて、影もちょっとトゲトゲした部分があると言われたんだけど、言われてみれば、例えばあのパンを止めるやつが全部丸っこかったら銃剣の先っぽとか本当に鋭い影は、まん丸いものからは尖った影は出せないと思うので、さっき僕、影は丸くて材料はトゲトゲって言ったけれども、トゲトゲの影を出すにはトゲトゲみたいな材料が必要なのかなっていうのはあって。やっぱり作った人は、一応、材料を出したい影に合わせて選んでいるのかなとは思いました。玉みたいな、えーと、なんていうか、ビー玉みたいな素材だけだったら、この尖った影は出せないなと思うので、そういうことを思いました
F:手前の物質の材料のことと、後ろの関連性について言ってくださいました。(フレーミング)
物質と影との意味について
さっき手前のがプラスチックの口を止めるものであると言ってくれましたが、あの口を止めたりすることの意味と、あのシルエットの関連についていかがですか?(解釈へ移る問いかけ)
さらに深い解釈
H:口を閉じるものなら、よくピーマンとか野菜の袋もクローズするやつがあるけれど、形が違うんです。これはパンのやつだからフランス革命ってパンを求める、本当に食べることにもすごく困った民衆が蜂起したっていうところも、もしかして関連しているのかな。パンを求める声を封じられてきた人々が自由を求める。もしかしてそんな作者の意図としての素材選びもしかしたらあったのかなと。
F:すごいですね~~~!食うに食われない苦しい生活をしていた民衆がパンを求めて立ち上がったと。だからこのパンに関連した口を閉じるものを使ったということですね。
D:さっきお子さんが仲間がいるって言ったじゃないですか。仲間がいるってことは、その民衆を率いる自由の女神だとしたら、人を束ねる=仲間を束ねる一つにするっていうのが、そういう人の心を束ねるっていうか、一緒に戦おうじゃないか、何とかしようって束ねるっていうのも、もしかしたら意味は繋がるかなと思いました。
F:なるほどですね。袋の口を束ねるというものの道具の意味合いから、この後ろの影との関連性からパンを求める人々、その人々を民衆を束ねる団結するということをここにも意味が入っているんじゃないかということでしょうか(小まとめ)
F:そう考えると手前の材料、あれを使ったという意味がとっても際立ってきますよね。
(お子さんが少し退屈そうになってきたので声をかけた)すごいね。あなたが最初に言ってくれたことが大人のみんなの考えをね、どんどん引き出してくれてるよ。
E:影絵って、本来、影が主体なんだけど、これらの作品はその影を作るものはみんな誰もが触ったことがあるもの・影を作るツールということで、そこにも意味があるのが分かる。
F:この影がなかったら、手前のものと何の関係があるのかは全然わかりませんよね。でも影にすると意味が浮かび上がってくる。手前のものが影とは全然関係がなさそうなものなのに、この2つには実は意味があるということがみえてきました。
F:そのほか、何か気がつかれることはないですか?さっき、「旗を持ってる!」って言ってくれたけど、どこの旗なんですかね?
A:フランス。
F:すごい、フランスの旗知ってるの?
A:赤、白、青だった。
F:すごい!よく知ってるね! これも 3つの色に分かれてるみたいに見えるね。赤、白、青、はフランスの国旗です。だからこれはフランスの民衆を率いて立ち上がろうっていう自由の女神なんですね。
制作過程について
E:テクニックの面では、シルエットだけで、よくそれが表現できるなって思う。多分一個ずれたらアウトかも。
F:これは影を映しながら作るんでしょうね・・・。
E:ちょっと一個ずれてもダメだっていうことから、試行錯誤の積み重ねだと思う。実際に光当てながらちょっとずつちょっとずつ動かしたりとか、もしくはくっつけるんですよね、接着剤つけながら。だから、えっと、なんていうんかな、これはちょっとこじつけっぽいんだけど、その革命とか起こすのにも時間かかると思うんだけど、作品作りにもものすごい時間が、根気とか、情熱とか、時間とかがいるんだろうなっていうことを想像しました。
F:制作過程なんかも、もしかしたらここにリンクしている意味合いがあるのかもしれませんね。
題名の情報提供と鑑賞内容のまとめ
F:題名になんて書いてあるかというと、「Ride of Packclosures Type FREE」って書いてありますが、下に、「集まると強い」と書いてあります。
一同:へぇー!!(それまで話していたことと題名との関連について納得した様子)
F:袋を閉じるっていうことで、その、団結する、結束する、っていうパッククロージャーっていうことで、袋を結束させることが、民衆を結束させることにもつながっているという、そういう作品だったんじゃないかと思います。今日は影だけじゃなくて、手前のものと、その関係性やいろんな意味を皆さんでお話できました。ありがとうございました。
~振り返り~
みるみるメンバーからは以下のコメントをいただきました。
・作品選びについて、作品の元ネタを知っているからこそ、語ることができる作品だった。
・物と影のギャップ・意外性が興味深かった。
・対話の流れは、子どものつぶやきから大人へ徐々に自然につないでいた。後半、メタな内容に、子どもが置いてきぼりになる場面があった。大人と子供、美的発達段階の違う人が混在しているときの難しさがある。2階層あってもよかったかも。しかし、子どもさんは途中、わからなくても、楽しいと思ってくれたようで、最後はとても満足していた様子だった。
・絵や国旗についての情報はファシリテーターが出すよりも、鑑賞者から引き出せるほうがよい。
・鑑賞者のするどい気づきにはもっと驚きをもって受け入れ、称賛するとよいのでは。
前回、子どもの目線に合わせる大切さについて自分自身の反省があったので、今回はそのことにも配慮し、子どもが話しやすいムード作りを心がけました。今回の鑑賞会では、前半こどもたちが作品をよくみて柔軟に発想を広げ、それに大人たちの深い洞察が相まって、パッククロージャーと自由の女神との関連について豊かな解釈が生まれたと思います。対話を重ねることで「集団の力」や「自由」といった普遍的なテーマについて考えることができました。大人の気づきを引き出してくれたお子さんたちとのやり取りも楽しく、こども美術館ならではの鑑賞会となりました。ありがとうございました。
~次回例会のお知らせ~
6月から12月まで,7回にわたって浜田市世界こども美術館で例会を行ってきました。貴重な場を快く提供してくださった世界こども美術館の皆様に深く感謝いたします。
新年の例会は,益田市の島根県立石見美術館にて開催します。
鑑賞者として,是非多くの皆様のご参加をお待ちしています。
みるみるの会
2025年1月例会:2025年1月12日(日)14:00~ 島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて
2025年2月例会:2025年2月15日(土)14:00~ 島根県立石見美術館 石岡瑛子展orコレクション展にて
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