ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

みるみるの会 研修会 のレポートをお届けします(2019,12,7開催)

2019-12-28 10:59:31 | 対話型鑑賞
みるみるの会 研修会 
日 時:2019年12月7日(土) 14:00~17:00
場 所:浜田市世界子ども美術館 図書室
参加者:13名(一般3名 山口県の美術教育関係者5名 みるみる会員5名)
文 責:房野伸枝
 
 この日は展示室で一般の方を対象とした鑑賞会が行えなかったので、図書室をお借りして内輪の研修会という感じで行うことにしました。…ですが、いつにも増して熱い研修会となりましたので、レポートします! 
 みるみるの会員は5名でしたが、近隣中学校美術科教諭2名、山口からの参加者5名、地元在住の方1名で、図書室の一角は人口密度も内容もギュウッと濃いものになりました。今回、山口からの参加がたくさんあったのは、前週に山口県立美術館で行われた対話型鑑賞会での出会いがあったからです。今年、山口市内に「みかんはなきの会」という鑑賞学習研究会が発足されました。これは、みるみるの会員でもある山口市立中央小学校教諭の津室和彦さんと、山口県で美術教育を進めておられる「ラボ・コンタンポラン」主宰の高下正明さんが立ち上げた研究会です。会の名称の由来は「みる・考える・話す・聴く」の頭文字と、山口県の花でもある「なつみかん」にあるのだそうです!な~るほど!



 山口県美で行われていた「岸田劉生展」「雪舟展」で11月30日に「みかんはなきの会」主催の対話型鑑賞会が行われ、みるみるの会の春日、上坂、房野も参加しました。そこに集まった山口県内の小中学校の先生方に、ちょうど次の週に予定されていたみるみるの会の研修会を紹介したところ、参加してくださったのです。県をまたいで研修しあう意欲の高さが教育現場に還元できるとよいですね。

 今回の参加者はこれまでに対話型鑑賞のナビゲーターをしたことのある方、未経験の方などその経験値は様々でしたので、まずは、みるみるの会の春日会員がゴッホの《椅子》でナビをしました。これまで何度も授業や仲間内で対話型鑑賞を行ってきた作品ですが、鑑賞日やメンバーが違えばまた違った見え方をするのが本当に不思議で、対話型鑑賞の奥深さとこの作品の魅力を再認識しました。
 初めて参加された一般の方は、美術に関して高い見識をお持ちで、後半にゴッホについての詳しい情報を提供されました。ナビとしてはちょっと冷や汗ものの場面ですが、そこは春日さん、鑑賞を深める方向へさらりとナビゲートしていました。鑑賞後の振り返りの会でも、情報の扱いをどうするべきかが話題になりました。「情報にとらわれないようにしたいが、情報(作者やタイトルなど)を知らないことにしながら話を進めるのも不自然かなと思う。」という意見に「情報の有り無しは、良い面もあり、よくない面もある。」「情報がない時に話したことが無駄とは言えない。」「一般に知られている情報も、美術家や評論家の一見解に過ぎない。」「鑑賞者から作者や作品の詳しい情報が提供された時に、もしそうだとしたら、どう解釈をするのか、さらに深めることができる。」などの意見が出ました。いずれの意見も情報の取り扱いについてはナビを行ううえで常々心に留めておきたいことです。

 次に山口市の小学校教諭、渡邉貴之先生が 横山 操による日本画《塔》でナビをしました。私は初めて目にする作品でしたが、画像をご覧いただくとわかるように一見抽象画にも見える黒いモチーフが様々な想像をかき立てる作品でした。

対話を重ねるうちに「塔」というモチーフに解釈が徐々に近づいていくのがエキサイティングでした。ナビは参加者の発言の根拠を大事にしようと心掛けておられて、パラフレーズも初めてとは思えないほどスムーズでした。その後の振り返りでも様々な意見交換がなされました。

〇「沈黙」は怖いものと怖くないものとがあって、怖いのは、ナビがうまく返せない時。また、何の話をしているのかわからなくなった時。つい、ナビが鑑賞者より作品に見入ってしまっていることがある。
〇もっと、鑑賞者を信頼して、鑑賞者をよく見ること。「首をかしげていましたね、どう思われましたか?」「うん、うん、とうなずいていましたね。何かお話できることがありますか?」など、鑑賞者をよく見ていれば、そこから問いが投げかけられる。
〇ナビが情報を出して終わりではない。鑑賞者から情報が出た時もそこから解釈を深めるチャンス。
〇作者とタイトルを知っているからといって、その作品をみている(鑑賞している)とはいえない。
〇鑑賞者とナビが1対1で対話するのではなく、ナビは他の人へ振る。ナビは物分かりが悪いくらいの方がよい。「〇〇という意見ですが、皆さん、どう思われますか?」というふうに。

 この日はYCAM(ワイカム・山口情報芸術センター)のエデュケーターである原さんも京都造形芸術大学福のり子先生の生徒であったというご縁もあり参加されました。みるみるの会員でもある島根県立石見美術館廣田主任学芸員も加わり、学校と美術館との連携について話が盛り上がったり、山口県での鑑賞教育に関する情報も交換できたりと、新たな刺激がうれしい時間ともなりました。

 みるみるの会の会員も公私ともに環境や立場に変化が生じてきて、今年はなかなか鑑賞会が開けなかったり、参加者が減少したり…と、発足8年目にして会の在り方を見直す時期に来ているのではないかと案じていたところです。しかし、主体的に学ぶ姿勢を継続していれば、新たな出会いに恵まれ、そこで生じる化学反応に新たな刺激を受けることができるのだと、今回の参加者を見て感じました。
 今回、参加いただいた方々には本当に感謝しています。また、研修会場の寺尾堂館長様には、この度も急きょ図書室を拝借したいとお願いしたにもかかわらず、自ら使いやすいように部屋を整えていただきました。いつもご支援ありがとうございます。今後もどうぞよろしくお願いします。



今年度もグラントワ内島根県立石見美術館にて
コレクション展 関連トークイベント「みるみると見てみる?」を開催いたします!
2020年2月15日(土)、29日(土)、3月7日(土)
いずれも14:00~展示室B 
コレクション展「陰と影」(2月6日~3月16日)の関連事業として、みるみるの会のナビゲートで「みるみると見てみる?」という意見を交換しながら作品鑑賞を楽しむ催しを行います。皆さまお誘いあわせて、どうぞご参加ください。


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中学校での対話型鑑賞の実践レポートをお届けします

2019-12-07 21:59:52 | 対話型鑑賞
3年生対話型鑑賞会 第2回目 生徒の感想より
鑑賞作品 ゴッホ:椅子



A
 僕は今回の鑑賞で、今回のような鑑賞もおもしろいと思いました。①絵を見て絵から得られる情報だけで絵の中のストーリーを考えるところがおもしろいと思いました。②自分では気づけないところも他の人の意見を聞くことで気づくことができたのでよかったです。また違う絵で同じように鑑賞をしてみたいです。

B
 ③自分が見つけられなかったところを、友達が見つけて発表すると、「あっ、こんなものもあったんだ。」と感じるし、④同じところを見ていても、とらえ方によって違うものに見えたりするので、それを発表することで、自分の考えや、この絵の場面がどんなところなのか、⑤何パターンかできるので、おもしろいなと思いました。

C
 最初は何もわからなかったけど、⑥いろんな意見が出て、一つの情報から、⑦みんなで見て考えると、⑧たくさんの情報を得ることができることがわかりました。

D
 一つの絵から、⑨いろいろな手がかりを探していくと、ストーリーを思い浮かべることができて、とても驚きました。絵をじっくり見ず「へ~~。」で終わっていたけど、⑩いろんな人の考えを聞いて、気づかないところまでみえてきました。全く知らない絵からストーリーを思い浮かべることをして、とても楽しいと思いました。⑪人それぞれの見方や考え方は違うけど、それを聞くことによって、新しい発見や自分の意見と比べて納得できたので、また、授業でしてほしいと思いました。

E
 始めは絵を見るだけでぜんぜんおもしろくなかったけど、⑫深くまで考えてみると、案外楽しくておもしろかったので、またやりたいです。⑬人によって考えが多少違ったりして「あー確かに。」とか、納得することが何度かあったし、みんなの意味を聞くのはおもしろかったです。⑭1枚の絵でだいたいそこの場面が分かるなんて「すごいな。」と思いました。

F
 鑑賞は考えを豊かにしてくれるし、⑮人の意見を聞いて、発想を広げられたのでよかった。⑯一人で鑑賞するのではなく、複数人で鑑賞した方が、絵についての考えが広がることが分かりました。それと、⑰人は偏見で物事を決めつけてしまう生き物だと思いました。レンガだから西洋、パイプのタバコだから年配の男性とは決まっていないのに多くの人がそう感じていたので、そう思いました。このように考えがとらわれてしまうのはいいのかよく分かりません。僕はもっと頭を柔軟にしてたくさんの面からその作品を見られるようにしたいと思いました。あと、この作品はレンガの並びが不規則だったりして、きれいだとは思わないけど、とても分かりやすい作品でした。⑱きれいに描くだけが芸術ではないんだなと思いました。

G
 ⑲一つの椅子を主役としたこの絵から、どんな人が使っている椅子なのかや、どこの国のものなのかなど、細かいところまで推測できるのだなと思った。⑳人の意見を聞くことで、自分にはない見方や発想をすることができた。どんな物なのかを、色や形で考えるだけでなく、塗り方で考えている人もいて驚いた。血が付いたティッシュがあることから外で作業をしていると考えた人もいて、その発想は自分にはない発想だなと思った。(※椅子の上の白い物体を血の付いたティッシュと考えた生徒の発言を受けている。)



 転任して3年生の美術の授業を担当することになり、1学期の初顔合わせのときにゴッホの「ひまわり」(損保ジャパン日本興亜東郷青児記念美術館蔵)を使って「あなたはどのひまわり?」という対話型鑑賞の導入のような鑑賞活動を行った。それ以降、2回目の対話型鑑賞で、いわゆる1コマの授業で作品をじっくり鑑賞するのは初めてである。
 その中で、上記の感想からも分かるように、私のめざす「みる・考える・話す・聞く」活動を通して、この鑑賞から体感してほしいと思うことを生徒が1回目にしてすでに掴んでいるということには、喜びと生徒の潜在能力の高さが、驚きとともに手応えとしてあった。

 生徒の記述の中で、「みる・考える・話す・聴く」に関わるもの等、この活動において重要と思われる部分に下線を引き、番号①~⑳を付した。それらを以下に分類した。

何の情報もない中で、純粋に1枚の作品を「みる」ことによって起こることからの気づき
 ①⑨⑫⑳
みることから起きる「考える」ことの楽しさ
 ⑫⑮⑳
みえたことを仲間と「話す」ことによって起こる各人の思考の変化の気づき
 ②③⑦⑩
他者の考えを「聴く」ことによって起きる自分の考えの変化等への気づき
 ④⑦⑩⑮⑳
「みる・考える・話す・聴く」活動を通して起きることへの気づき
 ⑪⑭⑯⑲
「みる・考える・話す・聴く」活動を通して起きる、物事への多様な解釈への気づき
 ⑤⑥⑬⑰⑱

 特筆すべきは、Dの⑪である。このコメントは「みる・考える・話す・聴く」ことの重要性に気づくものであり、まさに、「主体的・対話的で深い学び」につながっていると考えられる。
 また、Fの⑰は既成概念にとらわれることへの危惧やそこから解放されての思考の柔軟性を希求する真摯な姿がうかがえる。そして、「きれいに描くだけが芸術ではない」とArt作品の多様性にまで言及している。これらがわずか1回の「対話型鑑賞」で起こっていることにこの鑑賞法の底力を感じ、新学習指導要領のめざす「主体的・対話的で深い学び」となっていることがうかがえる。
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