ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

浜田市世界こども美術館「はまだの風景画展」でのレポート①をお届けします!(2018,6,9開催)

2018-06-24 23:13:09 | 対話型鑑賞
浜田市世界こども美術館で開催中の「はまだの風景画展」での鑑賞会レポートをお届けします!
当日は、二つの作品を鑑賞しました。今回は、一つ目の作品でナビゲーターをした正田さんのレポートです。


みるみる例会レポート  正田 裕子

実施日:平成30年6月9日(土) 浜田市世界こども美術館
作品:「薫風の石見灘」 (F100 号 油彩)1986年 寺戸恒晴
参加者:浜田市立浜田東中学校美術部生徒7人・引率教諭1人
    大人3名・会員1名

「鑑賞の様子」
 中学校の美術部として来館した7名の中学生及び引率者に歓迎の言葉を伝え、今回、鑑賞する作品に案内した。作品の前で、鑑賞のやり方は「見る・考える・話す・聴く」という流れで行うこと、「作品を見て、思ったこと・感じたこと・気づいたこと、何でも話してよいこと」を伝えた。考えや意見を言う時には、作品のどこからそう思ったのか(根拠)を発言して欲しいことを伝えた。
 鑑賞の流れとしては、まず「空と青の色が同じでエメラルドグリーンが使われている。」「空の色と海の色が同じ色だけれど、海の色の方が濃い。」「中間の山並みの向こう側には雲海が広がっている。」「遠くに富士山のような形の山が見える。」といった背景の色の美しさや描写に関する発言が続いた。初めて対話型鑑賞を体験する中学生の発言を皮切りに大人の発言も続いた。そこに「海の光が差し込んでいるかのように見える色合いと描かれている漁船と漁船の周りにいる人々の様子から、早朝ではないか。」という、描かれている風景の時間について解釈が加わった。合わせて、「漁船の周囲にいる漁師の服装や道を歩く人々の服から春から初夏にかけての季節が描かれていると思う。」「港の岸辺の様子から砂浜に見えるし車が走っていないから、これは現代の風景ではない。」と描かれた年代についても意見が及んだ。
 一通り描かれている事柄と時間・季節などが出たところで、「描かれている町の様子についてじっくり見ていきましょう。」と投げかけた。鑑賞者は「古い家もあるが、鉄筋の建物もある。」「市場がある。」「家の壁は白っぽくて古い感じ。」
 さらに「その他にありませんか?」という問いに対しては、「お宮が画面中央にあるので、これが中心だと思う。」「古いお宮だと思う。根拠は神社の石段の下にある石碑と神社の周りの松が大きく成長している所から古い神社だと思う。」「港に灯台があるけれど、描かれている神社の位置が高いところにあることから、昔は灯台の代わりで、船が帰る目印になっていたのでは。」などの発言が続き、「神社はこの漁師町の守り神で漁の安全を見守っているものではないか。」と、描かれている漁師町と古い神社との関係に関する解釈に関する発言があった。
 最後に、初めて参加した中学生から感想をそれぞれ聞き、第1作品目の鑑賞を終えた。

「ナビゲーションの課題」
 途中で「市場って何?」という中学生の質問や「神社の左後方にある海の色と同じ色をした場所が何かよくわからない。」という質問があったにもかかわらず、ナビが直接答えてしまったり、そのまま問いに答えなかったりしたまま、進めてしまったところがあった。「質問に対しては、質問で返す」というセオリーから外れていたし、もっと周りの鑑賞者に意見を求めても良かったと思われる。
 漁師町の市場の人々の様子や砂浜の歩行者への発言があった後に、1列目の鑑賞者にしばし屈むことを促すなど2列目の鑑賞者が見えやすいようにする配慮もできたのではないか、など考える点などがあった。そして、会員より「鑑賞者の発言の真意をナビの私見なく聴くことができていたのか。」という重要な意見があった。参加者の意見の根拠を十分に聴き、その根拠を鑑賞者全員と確認し、他の鑑賞者との橋渡しをしながら、意見を求めることができたら、初めて参加する中学生も、緊張せずもっと発言がしやすかったのではなかったかと思う。
 一期一会の鑑賞者との関係をどう作り、鑑賞者にとって心地よい場の雰囲気を作りながら意見を傾聴できるために、自分の聴き方の癖を見直し、鑑賞者が学びの主体者となるために、ナビがやるべきことを再度立ち返り整理したい。


「はまだの風景画展」2作品を鑑賞した参加者の感想(対話型鑑賞の経験・年齢)

・他の人の意見が、聞けたのでよかったです。(初めて・中学2年)
・2作品目の「何もない山の赤いのが何か分からなかった。」(初めて・10代)
・空や雲、人の服装など、いつも見ないところをよく見て鑑賞することができた。
(初めて・中学2年)
・今日は、鑑賞がとても興味深かった。(初めて・中学1年生)
・また来たいと思いました。(初めて・30代)


 7月の鑑賞会も「はまだの風景画展」会場にて行います(参加は申し込み不要&無料ですが、企画展の観覧料が必要となります)。
 
 7月7日(土)14:00~15:00 浜田市世界こども美術館にて
 次回の鑑賞会は、ちょうど七夕ですね。みるみるの会鑑賞会にて、作品とのすてきな出会いがきっとあるはず!
みなさまのご来館をメンバー一同、お待ちしております。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

8月6日島根県美で福のり子先生の講演会を開催します!

2018-06-21 21:47:35 | 対話型鑑賞
AI時代を生きのびるために私たちにできることは何か?一緒に考えてみませんか

島根県造形教育研究会主催(みるみるの会共催)の講演会のお知らせ
「生きのびるために みる&コミュニケーション」
講師は京都造形芸術大学の福のり子教授です!
8月6日(月)13:00~15:30
島根県立美術館ホールにて
入場無料(事前の申し込みは必要ありません)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安来市加納美術館特別展「名品と出会う」関連イベント「みるみると見てみる?」ラストレポート!(2018,5,27開催)

2018-06-17 21:38:14 | 対話型鑑賞
安来市加納美術館にて、4・5月に特別展「名品と出会う」の関連イベントとして開催された「みるみると見てみる?」のラスト(4・5月合わせて6作品目)のレポートをお届けします。

安来市加納美術館特別展「名品と出会う」関連イベント「みるみると見てみる?」
5月27日(日)14:30~15:00  森芳雄 「春の窓」 1955年 油彩
ナビゲーター:松田 淳  参加者:8名(内みるみる会員3名)

 人物が真ん中に描かれている。さらに左右に鉢植えの植物が描かれている。タイトルは「春の窓」とあり、私にはこれがただの肖像画とは思えず“なんだか不思議な絵”であり、ストーリーを想像することを楽しめそうな作品だと思ってこの作品を選びました。

 3名のみるみる会員は少し後ろの方から見ていましたが、その他の4名の鑑賞者は作品にかなり近いところに椅子を寄せて座られました。小さい作品なので仕方ないかと思い、そのまま始めましたが、始まってみると鑑賞者と作品の間にナビがいる感じがせず、しっくりこない感覚がありました。鑑賞者同士の距離が近く、誰かのつぶやきもみんなに聞こえ、ナビを介さずに話が進むことも何度か起きてしまいました。また、これはみるみる会員からの振り返りコメントで気づかされたのですが、鑑賞者と作品の距離がずっと近かったために、部分にしか目がいかず、全体的な作品の捉えができていなかったことも反省でした。作品と鑑賞者、鑑賞者とナビなどの物質的な距離感も大事なのだと改めて勉強しました。


 トークが始まるとすぐに、作品の近くに座られた4人の鑑賞者がどんどん気づいたことを話してくれました。「真ん中の人物はネックレスのようなものをしているから女性だと思う」「人物は彫りが深いから外国の人だと思う」「人物の視線の先がはっきりせず、遠くを見ているよう」などと続けて出たところで、一人の方が「人物の右側に描かれているのは、子犬の顔だと思う」と発言されました。正直なところ、全く予想していない発言だったので、みるみる会員の指摘にもあるように、肯定的な反応をしていなかったと思い、反省しています。幸いにもその方はその後も発言を何度もしてくれましたが、嫌な思いをされても不思議ではなかったと思います。
 続いて、「左側のチューリップの葉が不自然に上に伸びていて、紐か何かで縛られているように見える」という発言から、春の窓というタイトルであり、四角の枠の向こうは海と空に見えて島のようなものも見えるから、ここは船の中ではないのか、だから倒れないように縛られているのではないかというように想像が広がっていきました。そこで2人の鑑賞者が時間の都合で退席されたのですが、「この後の続きが気になって、帰らないといけないのが残念だわ」と言いながら席を立たれました。トークを楽しんでくださっていたことがよくわかり、うれしい言葉でした。

 その後も、「人物も周りの植物も、窓の向こうの景色も、そこにあるものを描いたわけではなく、それぞれが何かの象徴として描かれているのではないか」「隣のこの作家の別の作品からもわかるように、この作品も描かれているものにあまり意味はなく、構成的に描かれているのだと思う」など、鑑賞者のそれぞれのおもしろい解釈が交換され、トークは終わりました。人物、植物(静物)、風景という描かれたモチーフは一般的なのに、どこか不思議な雰囲気のある作品で、予想通りに鑑賞者は想像を膨らませながらトークを楽しむことができたのではないかと思いました。一方で、それぞれの発言をつなげられていただろうかというナビの反省は、毎度のことながら今回もありました。

 最後に、鑑賞が終わってから、途中退席されたお二人がまだ別の展示室で展覧会を鑑賞しておられたのを見つけたので、その後の流れを簡単に伝えさせてもらいました。そうすると、「最後もいろんな見方ができるという終わり方なのですね。初めてあんなふうに話しながらじっくり絵をみたけど、すごくよかったです。ありがとうございました」とお礼を言われました。教科書に載るような作家の絵がズラリと展示された素敵な会場で、このような機会をつくってくださった加納美術館に感謝します。ありがとうございました。

<みるみる会員の感想>
金谷
「もうちょっと時間がありますよ」と何度か言っておられました。鑑賞会の終わりの時間を気にしておられたのか、それとも参加者に「もっと発言しても大丈夫ですよ!」といったメッセージなのかなと思いながらきいていました。もし、発言を促すのなら、どんな言葉がいいのだろうかと考えたときに、金谷がナビをした「女と犬」の(鑑賞時間の)後半から終わり頃のことを思い出しました。
数名の参加者さんが「ちょっと違うこと言っていいですか?」等、言いながら発言してくださいました。その話題から視点が広がったり繋がったりしていき、ナビをしながら本当に「なるほど!」と思いながらお話を聴きました。なぜそんなことが起こったのかな?と考えたときに、もしかすると参加者の方々の中に少しずつ、ご自身や周りの方が発見されたことや考えたことなどが積み重なっていって、「もっとこんな見方や考え方ができるんじゃないか!?」ということに繋がったのかもしれないと思いました。
そう思って「春の窓」をふり返ってみると、それぞれのモチーフについては話せているけど積み上げる、つなぎ合わせるというのが少し難しかったのかなぁと思ったときに、ふと作品と鑑賞しておられる方々との距離感が思い出されました。ずいぶん熱心に、かぶりつくように作品をみておられました(ありがたいことです!)。近いからこそ、それぞれの部分についてよくみて考えることができたように思います。
ここからは「たら・れば」になりますが、たとえば、「遠くに半島のようなものがみえる」「(中央の人は)遠くを見ているようだ」などの距離にかかわる発言に際し、実際に少し離れてみてみることを提案したら、作品全体をとらえることができて、新たな気づきや発見がうまれるかもしれません。作品との物理的距離を変えてみることで、思考にも「俯瞰」という風が通り抜けるかも。そして「もう、ちょっと時間がありません」っていうことになったら、いいですよね。  

房野
・この作品を選んだときのナビの解釈はどのようであったのか聞いてみたいと思いました。わかりやすいテーマがみつからない不思議な作品で、結論としてナビが「何かわからないということがわかった。」と締めくくられていたのがおもしろいと思いました。解釈が収束していくのではなく、拡散していくというナビもなかなかないことだと思います。また、そこに価値を見出したのも鑑賞の在り方としてはアリなのかな、と感じました。
・挙手をしないでどんどん発言していく参加者を前に戸惑っておられましたが、中盤に、さりげなく注意されていました。もっと早い段階で「挙手をされて発言をしてください」と伝えても良かったかもしれません。
・積極的に発言されていた参加者がやむなく途中で退席される時に「最後まで聞きたかったんですが…」と残念がっておられたので、この鑑賞をとても楽しまれていたことがわかります。
・モチーフの花を「子犬の顔」に見えるという発言に対してナビが少し怪訝な様子に見えました。「それはないのでは?」と思う場面でも否定的にとらえず丁寧にパラフレーズすると、おのずと他の参加者から別の解釈が出てきます。今回もすぐ後に「あれはパンジーでしょう」という意見が出ました。ですので、ナビはどんな時も公平に発言を尊重して誰もが安心して発言できる場を作ることが大切ではないでしょうか。

春日
 私のお気に入り№1の作品を選んでくださり鑑賞会の期待感が高まった。一般の方は女性4名の参加で始まったが、お茶飲みながらの雑談みたいな気軽さがあって、話しやすい雰囲気が醸成されていると感じた。しかし、発言者の話をきちんと聞かずに他者が話し始める場面もあり、そこを嫌味にならないように制したのは大事にしたいところだと感じた。
 窓と思われるものの近くに置かれたものについて『「子犬」が居る』といった発言があったが、その発言に戸惑う様子が感じられたので、その発言を先入観なしに受けとめることはできなかったか?と感じた。(おそらくそれは花鉢でパンジーのような花が咲いているのだと思われるのではあるが。)初めて「鑑賞して語る」という行為をする時、人は大人でも子どもでも自分の先入観なしにみることはできないと思うので、先入観を否定せず、さらに客観的にみることを促すように働きかけていくのがナビの役割ではないかと思う。途中で、残念そうに席を立たれていたことから「みて語ること」の楽しさを体感できる場になっていたのだと思う。



さて、次回のみるみるの会の鑑賞会は…

7月7日(土)14:00~15:00
浜田市世界こども美術館での企画展「はまだの風景画展」の関連イベント「みるみるとみて話そう」にて開催します。
(事前申し込みなく、当日どなたでもご参加いただけますが、展覧会の観覧料が必要です)

「はまだの風景画展」にて、みるみるの会メンバーとともに「みて語ること」の楽しさを体感してみませんか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安来市加納美術館「みるみると見てみる?」のレポートをお届けします!(2018,5,27開催②)

2018-06-10 20:44:47 | 対話型鑑賞

安来市加納美術館の特別展「名品と出会う」の鑑賞イベント「みるみると見てみる?」のレポートお届けします。

名品と出会う 加納美術館 5月27日(日)
鑑賞作品 羊飼 東郷青児 1935年 公益社団法人糖業協会蔵
ナビゲーター 春日美由紀

 作品はほぼセピアカラーで彩色された人物画である。中心に大きく人物が描かれ、後方に樹?と思われるものや、教会のような建物がある。タイトルは「羊飼」。中央の人物が羊飼なのか?そうではないのか?この人物は男性なのか?女性なのか?謎を多く秘めた作品であることから、皆で鑑賞して語り合いたいと考えた。

 まず、周囲の環境について、茶色だし、後ろの樹に葉が一つも生えてないことから乾燥地帯。砂漠のようなところ。という発言。
それを受けて、頭部を覆っているので、イスラム教徒?でも、それだったら、黒い布か?顔ももっと覆わないといけないし・・・。
後方にある樹の枝が向かって右方向にしか伸びていないので風が左から強く吹き付ける場所ではないか?
 後ろの高い塔の上部に丸が描かれているが、そこには鐘があって、鐘楼なのでは?とすると、ここは教会なのでは?
 中央の人物について、顔の周りを「真知子巻き」のように巻いている。女の人?
 羊飼は男性なので、この人は奥さんで、ラッパ(ホルン)で、旦那さんを呼んでいる。
 でも、肩幅や腕はわりとがっしりしているようにみえるので、男性かも?でも、腰回りは細くて、不安定だ。
 「羊飼」というタイトルで、この人物が「羊飼」だとしたら、後ろに教会もあるし、この人物はキリストなのでは?
 観音様のようにもみえる。面差しや手の指の細くて長いところから。神様のような存在では?
顔が中心で、そこに目がいくようになっている。そこが表したかったのでは?
 これらの意見を受けて
 中央の人物のように描かれているものは、実在する特定の人物ではなく、象徴化された「神」のような存在である。また、顔の周りに白い布が巻き付いていて、そこの白さが際立っているので顔に目がいくように描かれている。これらのことから、この作品はまるで「イコン」のようだとも言えるのではないかとナビも鑑賞者の一人としての私見も交えてまとめた。

 ナビの反省点
 みればみるほど不可思議な作品で、対話が終わった後にも自分なりの解釈が出来たかと問われると、まだ考える余地のある作品と言える。途中人物と背景の関係を踏まえて全体としての意見を求めたが、投げかけの言葉が曖昧で鑑賞者に混乱を生じさせたようだ。(房野指摘による)背景と人物を関連付けると、新たな見解が出てくるのでは?と期待したのだがうまく伝わらなかった。ナビとしては、「神」「キリスト」「観音様」などのイメージを人物に投影する発言が出ていたので、背景の樹や建物と関連付けると、キリスト教のイメージ的な解釈が出てくるのではないかと期待したのであるが、解釈を誘導するような問いかけだったので、鑑賞者の発言を促すことにつながらなかったのだと反省している。

みるみるメンバーからのナビに対するコメント
房野
・同室の展示作品の中で異彩を放つ画風で、不思議な印象の作品でした。
・序盤に「羊飼いの女性が旦那さんを呼んでいる」と発言された参加者が、終わりには「そうではないことがわかりました(笑)」とご自分で解釈の変化を自覚されていたのが興味深かったです。また、他にも「『東郷青児』=宇野千代とのゴシップ、という印象くらいしかもっておらず、作品をしっかり見たことがなかったけれど、作品そのものをこんなに深く見たのは初めて」という意見もありました。こういう鑑賞を通じて参加者の読み取りが変化することこそが、ナビが効果的に進んだ証拠だといえるのではないでしょか。ナビがどんな発言でも全てを受け止め、対話しながら鑑賞した成果だと思います。
・終盤に「人物は人物、背景は背景について語られましたが、人物と周り(背景)の関係を踏まえて、全体をみる時、何か考えられることはありませんか?」というナビの問いかけに参加者の発言が止まる場面がありました。序盤には背景についてたくさん語られていたので、それ以外に新たな発見を求められているのか?それともこれまでの背景の解釈と人物をつなげる発言を求めているのか?と迷ってしまいました。どのような意図の問いだったのでしょう?(※このことについては反省点の部分に記載)

松田
 自分で発言したように、本当によく分からない作品でした。最後まですっきりすることはなかったのですが、きっとそういう作品なのだろうと思います。「羊飼いはキリスト」という発言が出た時に、それまでの流れを変えるような発言で、しかも納得させられる理論的な発言だと自分は思いましたが、ナビは公平に一つの考え方として受け止めたように感じられました。だからこそ、そのあともそれぞれの解釈がそれぞれの参加者から出たように思います。自分ならあの発言に引っ張られてしまったかもなあと思いました。不思議な作品をみんなで「不思議だなあ」と思いながらあれこれ考えを出しながら見るのが楽しかったです。

金谷
 「やはり、パラフレーズ(言い換え)が秀逸だなぁ」というのが、一番の感想です。鑑賞者が伝えようとしたことを「シンプル&コンパクト」に返されていました。例えば、不思議な絵であり、美しくもあって…という発言を「ミステリアス」とパラフレーズされました。不思議さと何か惹きつけられる感じといったことが、一言にぎゅっと濃縮されたような感じがしました。
 また、「対話をしながらみんなでみる」ということを大切にされていて、ついつい個別に話してしまう方に「そのへんシェアしてもらえると…」等、鑑賞者(個人にも全体も)を思いやった誘い掛けをしておられました。「うまいなぁ」と思うとともに、作品についてみる・聴く力と、鑑賞会全体を俯瞰する力の両方を使い、ダブル・タスク、時にはトリプル・タスクで脳をフル回転しながら、ナビとしてみなさんの前に立たないといけないなと改めて思いました。

7月のみるみるの鑑賞会は、浜田市世界こども美術館で行います。

企画展「はまだの風景画展」関連イベント「みるみるとみて話そう」
7月7日(土)14:00~15:00
会場:5・4階 企画展示室(展覧会の観覧料が必要です)

みるみるメンバーと一緒に、作品について楽しく語り合いましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安来市加納美術館「みるみると見てみる?」第2弾のレポートをお届けします!(2018,5,27開催)

2018-06-03 21:30:04 | 対話型鑑賞

 安来市加納美術館の特別展「名品と出会う」の関連イベント「みるみると見てみる?」の第2弾を5月27日に開催しました。
今回も3作品を、みるみるの会員3人がナビゲーター(ナビ)をさせていただきました。
その様子をナビのふり返りとともにお伝えします。今回は、トップバッターの金谷のレポートです。

安来市加納美術館特別展「名品と出会う」関連イベント「みるみると見てみる?」
5月27日(日)13:30~14:00  安井曾太郎 「女と犬」 1940年 油彩
ナビゲーター:金谷直美  参加者:10名(内みるみる会員3名)

<はじめに>
 安来市加納美術館で第2回目となる「みるみると見てみる?」で鑑賞作品として金谷が選んだのは、今回の特別展のポスターやチラシになっている「女と犬」です。このメインビジュアルとなっている作品で、ぜひナビをしてみたいと思っていました。一見、犬と女性の何気ない暮らしの一場面のようですが、何かちょっとふしぎな感じがしたことも、この作品を選んだ理由の一つです。
今回ナビをする3人がそれぞれ作品を選んだ後、展示室への動線などを考慮して、この作品から鑑賞会をスタートしました。

<鑑賞会の様子>
 まず初めに、この鑑賞会のルールや進め方「作品をまずよくみること。そしてよく考え、考えたことを挙手して指名されたら話してほしいこと。その話をよく聴いて、また作品をよくみて…と、いうことを繰り返しながら一緒に作品を味わっていくこと」を伝えました。
 「この犬は、この人のものではないのでは?」と、犬の目の描かれ方から「よそよそしさ」を感じ、犬を触っている人との関係性についての発言がありました。続いても犬の目の感じから「病気なのかもしれない」「元気がなくて、触られるままになっている」。また、犬のポーズから「犬にとって安心できる人が近くにいるから寝そべっていて、ちょっと緊張しながらも触られているのでは」といった、作品に描かれているものから作品の外にも想像を拡げた意見も聴くことができました。

 視点が作品の外まで広がったことから、描かれているこの場所はどこなのか「家のなか?そと?」と参加者の皆さんに挙手してもらいました。「そと」と思われた方が少し多かったです。どこからそう思われたのか、それぞれ語っていただくなかで、そとでもなかでもない、軒の下や玄関先のアプローチではないか。また「床材がタイルのようであることから、洋館ではないか」などのご意見がありました。

 続いて「この女性に焦点をあててみてみましょう」とみなさんに投げかけて、はっとしました(女性って確認もせずに、自分から言ってしまいました!)。みるみる会員のフォローもあり、この人は女性ということを確認し対話を続けました。「着物や帯、お化粧の感じ等から若い女性」、また「作品が描かれた1940年という時代を考えるとずいぶん裕福な家庭の娘さんでは」というご意見もありました。また「きれいにお化粧もしているし、金糸の入った帯もしているから、お見合いでは?」「お見合い相手の家に行き、犬を手なずけようとしているのかも」などと、描かれているものと今までみてきた犬と女性の関係性なども含めながら想像も膨らんでいきました。

 これまでに発見したことを踏まえ、全体をみてみることを提案しました。「1940年という時代を考えると不穏な時代の中でも平和なひと時を残したかったのでは」「洋館で、洋犬と着物姿の女性が描かれていることから、西洋化していく日本の姿も感じる」「作者は女性の美しさを描きたかったのでは」「着物を着た女性の所作が美しく、それを描きたくて犬を配置したのでは」等々、作者の意図につながるお話をたくさん語っていただきました。私自身、何気ない日常の一コマと思っていた作品が、和と洋といった文化や時代の流れも含んでいることに気づくことができて、みんなで対話しながらみることの面白さを感じました。
 
<振り返り>
 「犬→場所→人→全体」という流れでこの作品を鑑賞しました。しかし、初めに犬の様子や人との関係性について話題があがっていたので、まずしっかり犬をみて、関係性を考えながら人をみるなどの、焦点化のタイミングと順番の判断が甘かったです。描かれている要素が少ないからこそ、一つひとつを大切にみて考え、思考をつなげていくことが必要でした。
 また、対話型鑑賞は初めてという方もおられることや作品に描かれているものがはっきりしていることからも、「どこからそう思う?」という作品に根拠を求める言葉かけを意識してスタートしました。しかし、途中から鑑賞者の意図をくんで「~と思われたのは、○○からですか?」と補足や確認することが多くなりました。ふり返ってみると、発言された方に根拠となる部分を話していただき、それらを積み重ね合意形成をしたうえで、「では、そこからどう思う?」というところへ意図的にシフトチェンジした方が話し合いが整理されて、参加者のみなさんにより豊かな時間を過ごしてもらえたのではないかと思いました。今回は、キーワードとなる言葉の聴き落としも多かったので、基本に立ち返って「よく聴く」ことを、日々意識していこうと思いました。
 ナビとしては反省することばかりですが、鑑賞者のみなさんのお力で、この「女と犬」を楽しく味わうことができました。参加してくださったみなさん、イベントを開いてくださった安来市加納美術館のスタッフのみなさんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

<みるみる会員3名からナビへのコメント>
1、松田より
 なんでも話せる雰囲気を作られるのは、毎回のことですがさすがだなあと思います。ですが、発言のなかったご夫婦もおられたので気になりました。自由に話せる雰囲気は大事にしながら、みんなが参加するような鑑賞を作るのは大人相手でも難しいなあと思いました。自分が話す時には、うまくまとめられない自分の考えをパラフレーズでまとめて返してもらうなど、聞いてもらえてよかったなあという気持ちになりました。
 (金谷から)→ナビの終わり頃、そのご夫婦がちょっと時間を気にしておられました。1作品につき約30分位という時間の見通しについてもアナウンスしておけば、安心してその場にいたり離れたりすることができたように思いました。ナビや作品との相性などもあると思うので、発言していただければもちろん嬉しいですが、その場に居てくださることがありがたいなぁと思っています。

2、房野より
・今回の特別展のポスターになっている作品でもあり、参加者の期待も大きかったと思われます。30分強、一つの作品から様々な読み取りができ、初めて参加された方も満足されたのではないでしょうか。
・いつものように笑顔で話しやすいムードでスタートし、途中、発表者の意見を受けて作品のモチーフの犬へ話しかけるなど、ユーモアを交えつつ親しみやすい場面がありました。
・途中、話題が分散したときに、ナビに迷いがあったのか、パラフレーズを言いよどんだ場面が見られたように感じました。言いかえの言葉がスムーズに出にくかったのか、それまで出た内容とつなげようとされたのか、どうだったのでしょう?
 (金谷から)→実は言いかえの言葉が出ませんでした。なるべくオウム返しではなく意図を汲んで返したいという思いと、自分の語彙量のアンバランスさが露呈してしまいました。あのときの微妙な空気感は、申し訳なかったです。

3、春日より
 トップバッターで、笑顔で、和やかな感じを演出していただき、参加しやすい雰囲気をつくってくださった。ルールも簡単明瞭だが大事なところは抜かさず説明されていた。
 描かれているものが明快で分かりやすい作品だったので発言が次から次へと出て、活発な鑑賞会となっていた。
 描いている画家の視点について発言があったが、うまいパラフレーズの言葉が思い浮かばず、逡巡する時間があり、その間、鑑賞者がやや戸惑いを感じていたように思った。この時のパラフレーズは「俯瞰」が適切だったかと思う。
 作品の描かれた年代や、ペットの犬が洋犬であることから様々な解釈がうまれ、「鑑賞者が作品を自由にみてよい」という安心感につながる鑑賞会となっていた。

 安来市加納美術館の特別展「名品と出会う」の会期は、6月11日まで。「女と犬」この女性と犬の関係、あなたならどうみますか?本物の作品の犬の目は、なかなか印象的ですよ。ぜひ、会期中に足をお運びください。

6・7月のみるみるの会の鑑賞会は、浜田市世界こども美術館の企画展「はまだの風景画展」の作品で行います。
「みるみるとみて話そう」(展覧会の観覧料が必要です)
6月9日(土)14:00~15:00
7月7日(土)14:00~15:00
 みるみるの会メンバーと一緒に話しながら、作品を自由にみてみませんか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする