2021.12.17 オンライン鑑賞会(みるみるの会・山口みかんはなきの会・その他)8名
鑑賞作品:斎藤真一「星になった瞽女(みさお瞽女の悲しみ)」 所蔵:倉敷市立美術館
ファシリテーター:正田裕子
レポーター:正田裕子
年末の機会に、鑑賞会に参加くださった鑑賞者のみなさんに、まずお礼を申したい。コロナ禍に相まって教育現場にICTが活用される中、より一層オンラインスタイルの鑑賞も必要とされると考える。また、多様な職種や立場の方と出会えるのもオンラインならではのメリットである。多様な視点や意見に出会える貴重な機会となった。
▼対話型鑑賞の流れ(アルファベットは参加者の発言 ※はファシリテーター)
A)星が見える。夜の時間だと思う。そこに正座をした女性がいて、前に三味線らしき物がある。座っているところは、左奥の木の影の様子から氷の張った湖面のようにみえる。
A)細いけれど首が有り、弦を巻く部分が三つある。そして袋に包まれているけれど皮を張った胴・本体であろうものがあるから三味線であろう。その棹の部分が妙に細いのはなぜか疑問が残る。
B)背景の黒と白の間にある赤色が何だろうかと思った。また、空に星が一つあり、それが際立っている。他に星がないのはなぜか。(女性の)手が細いのも何か意味があるのではないか。
※)描かれている空の星に言及したうえで、三味線の棹と女性の腕の細さを指摘。他の意見を促す。
C)冬だと思った。背景の山並みが白色であることから、雪化粧である山だと思ったから。さらに、その山際の赤と唇の赤と着物の膝などの赤が鮮烈な赤である。袋の縞模様の赤も。目に飛び込んでくる激しい赤である。
C)画面右下に題名みたいな物の中に「瞽女」という文字が見える。瞽女という人は、目の不自由な人が三味線をもって渡り歩いた人だったと記憶しているので、生い立ちや顔の涙とも関係するのではないか。
※)色と女性のおかれた立場や生き方の関連について復唱。瞽女について詳細の説明を求める。
C)瞽女は、目に障害を負った人が三味線を弾きながらあちらこちらを渡り歩いていて生業を立ていて、昔の琵琶法師みたいな感じ。「みさお瞽女」「日記」「越後瞽女日記」と見える。作品のテーマや物語と関連しているのではないか。
※)(画面右下拡大)他者の発言を促す。
D)冬の風景だと思った。氷という意見と関連するが、風もなく静かな風景で、新雪が降った所に女性がのっているように見える。しかし、どっしり座っているのではなく、黒い影がくっきりはっきりと描かれていることから、女性が浮いているように見える。周りの赤色に話題が言っているが、帯飾りのトンボ玉が気になっている。
※(女性の縁の影・帯飾りをポインティング)背景の景色は新雪であるということと、女性がその新雪の上に浮いているという発言がありましたが、浮いていると感じられたのは、影のところだけか。
D)はい。
E)先程の「浮いている」ということを聴いて、「瞽女」さんはお座敷などに呼ばれて三味線を弾いたりすると聞いたことがあるが、この女の人に見える人は氷や雪の上に実際にいるというには違和感がある。そうならば、氷や雪の上にいる様な気持ちでいることを表しているのではないか。
※)それまでの瞽女についての意見と背景の関連性より、心象風景であることを発言者に確認。そのうえで、描かれている人の心情はどんな気持ちか、詳細を促す。
E)ひとりぼっち。描かれている星が一つ、涙が一粒だけと繋がる。
※)先程からある瞽女に関連する発言に関連して、苦しさのようなものも感じているということか?
E)そこまでは思っていなかった。
※)ひとりだと思ったところは?
E)背景の木などがとても遠くて、人物の前にある三味線1つしかないところから独りだと思った。
※)1つであるものが複数描かれていることに言及。それに関連して意見を求める。
C)孤独だと感じる。それは、彼女が首をかしげたようなポーズでいるのだけれど、背景の木々の曲がり具合もうなだれているようで、もしかしたら瞽女の仲間を象徴するかのように心象風景に描かれているのではないか。その中で、瞽女さんなら三味線を弾くのが仕事なのに、三味線を袋にかけておいてあるのがなぜかと疑問に感じた。三味線を置いて芸を披露していないところと涙を流しているところに関係があるのではないか。
※)木の枝の曲がり具合と三味線が弾かれていない状況にあるという指摘があった。それに関して、どうか。
D)三味線が細すぎて弾ける状態の物と思えない。しかも、手が体に対してとても細くてきゃしゃで、孤独……寂しさを感じる。三味線を持っているのだけれどもう弾けないという雰囲気に感じられてきた。
※)本来ならば、三味線で聴いている人々を楽しませることもできたであろうに、(ファシリテーターの解釈が入る)手の細さと三味線の棹が寂しさを象徴しているとのこと。他にはどうか。
A)赤色が気になっている。着物の袂や裾が赤いのが血がにじんでいるようにも見え、辛さや苦しさを表しているように思う。そして裾の赤い部分がしみて広がっているような感じもある、袖の両脇にも赤がしみて広がっているようだし、描かれている人の髪の毛の周りも赤色がうっすら見えている。更に星が出ているから夜空を表しているのに、夕焼けや朝焼けとは考えにくい。突飛かもしれないが、山の向こうの町が火事に見舞われているとか、戦時下におかれている状況とも考えられないか。
※)(言及があった赤色の部分をポインティングしながら)血を連想させるのはどこからそう考える?
A)袖の袂の花の色は薄い色をしていて本来その色の花柄だと思うけれど、裾の花柄は背景の赤色と一緒でにじみ出ている感じがするところから。
※)女性のまわりに赤色が描かれていることについて、他にないか?
F)赤色と人物の周りがぼわっとなっているところから、この人が思い出している景色なのかと思った。越後と書かれているということは新潟だと思うのだけれど、2年ほど新潟に住んでいたことがあって、実際夕焼けや朝日が昇るとき、山の向こうの景色のように見えることがあった。自分の経験と重なっているかもしれないのだけれど、着物の柄は、新潟の暖かい時期の風景が反映されているのかと思った。帯飾りの緑のものも、新潟の近隣に翡翠が採れる所があって、新潟の出身であるなど、新潟の様子が映し出されているように思った。
※)実際に新潟の夕焼けとはこんな感じなのか。
F)冬に雪が降ったときの朝焼けとか夕焼けは、暗い空に赤く見えたりオレンジ色に見えたりすることがあった。
※)女性の表情やこの女性を描くことで作者が表現したかったことなど、他に意見はないか?
A)顔は大きいのに対して手が妙に小さい。先程、三味線が袋で封印されているという意見もあったが、芸事に打ち込んできた大事な手なのに、精神的にまたは肉体的に三味線が弾けなくなっている状況ではないか。手は生命力や生きる意思を表すと捉えられることから、そういったものが希薄になっていると考えられる。だが、顔が妙に大きくて、唇も赤くて艶っぽいところもある。若さも象徴しているとも捉えられる。本人が演出しているかもしれないが、目が見えないのに涙を流しているということは、精神的か肉体的か三味線を弾けなくなっている様子を表しているようだ。
※)唇のつややかさと手の生命力を感じにくいところ、また、顔と手の大きさが対照的であることの発言があったが、これについてどうか。
D)この人は盲目なのだとすれば、装いの組み合わせがあまりにも整いすぎていて、手触りだけでそんなコーディネートができるのかと疑問に感じた。とすれば、作家がこの人に着物を着せてあげて華やかに見せているのではないか。そこから、この人はもう死んでいるのではないかと思った。なぜなら、唇の赤さが若い時を装うように死に化粧の時に塗ることがあるから。
※)死に化粧だと思ったのは、唇の色だけか。
D)唇の色もそうだけれど、よく見ると肌の色からもしっかりと肌色が塗られているように見える。
※)先程、自身の「女性の周りの黒い影が見えて浮いているように見える。」との発言との関連があるか。
D)そうかもしれない。
C)人物が浮いているという印象を感じさせることから、実在の風景とは異なるように思う。描かれている風景から緊迫感とか張り詰めた空気みたいなものを感じる。芸事がもうできなくなってふるさとの風景を思い出しているような感じ。芸事をやめなくてはならないながらも、ふるさとに帰りたいという望郷の念をもっていて、それが輝く星に象徴されているように思う。絶望とは違う気がする。
B)皆さんの話をきいて、星は希望的な感覚で捉えていて、孤独やできていたことができなくなっているという損失の部分もあるんだけれど、それに対して赤い部分で熱を表しているように思う。辛さ等もあるかもしれないが、体から発せられている熱を感じる。それは,顔の唇の赤さからも思いの熱を感じるように捉えている。
※)苦悩がありながらも、唇の赤さの情熱や輝く星で希望を表しているとのこと。
G)楽器なのかもしれないが、風船のようにも見える。主題として悲しさが一番に来ると思うが、星の輝きや身に付けている物などから、悲しみの中でもたくましく生きる姿やそれを希望に変えていくような様々な感情が入り交じっているように感じられる。
A)他の発言にもあったが、コーディネートがすごくて、赤と青の鮮やかな着物に帯留めの翡翠が見えるなど、明日の暮らしも心配するようには見えない。もしかしたら、援助者とかパトロン、または身請けする様な人がいて、三味線から離れる生活になってもよい状況かもしれない。そう考えれば、三味線を置く意味も納得できる。紅をさすことにも、外部からの見立てや視点があるかもしれない。
※)多様な視点から意見があった。特に苦悩の中でたくましく生きる姿であるだとか、「生」と「死」といったこと,この女性の情熱や社会に置かれた立場と多岐にわたった。多くの意見があり、充実した時間となった。
2.振り返り
・「この作品で意見を話せそう。」と中学生が答えてくれたことが選択のきっかけとなった。但し、瞽女が主題であることから大人向けの作品だと感じながら、選んだ。
・涙・赤色・星など印象に残る力のある作品で瞽女にまつわることや背景は出なくても、中学生でも鑑賞できる作品だと思う。印象から色々な疑問が浮かぶ作品だったので、作品のセレクトが良かった。
・みるみるの会で、鑑賞する作品は靴とか静物から見ることが多いと感じていたが、見てわかりやすい作品だった。逆に、どんな悲しみなのか思考を膨らませるには、どうするのか疑問に思った。
・ファシリテーターの返しが丁寧すぎるので、言い足りないくらいでいいと思った。また、鑑賞者の意見にファシリテーターの解釈が加わることがあった。テンポも、コンパクトに。
・発言のコネクトを意識して、戦略的に思考を促しているように見えた。様々な立場から多様な意見があった。
・「人物」「持ち物」「背景」それらと「瞽女」との情報を関連付けながら「全体」としてこの作品が「言わんとすること」、それらを踏まえて「言いうること」へと展開できるとよい。
3.ファシリテーターの振り返り
・話題を共有できるようにポインティングすることと、鑑賞者同士の発言を繋げることを意識した。
・話題となった作品の要素の共通点と相反する点を意識しながら進行したが、それをどのように言葉にすればよいか迷いながら進行した。関連する発言を繰り返すだけのこともあった。中立であるファシリテーションとは、どのようにあればよいか模索する機会となった。
・鑑賞者の発言で意図しないところを、ファシリテーターの解釈を載せて進行した部分があった。
・具象的でわかりやすい作品だったという発言もあったが、主題を深く掘り下げるために、問い返すポイントがいくつかあったのではないか。どのポイントで「そこからどう思うか。」と、投げかけたら良いか振り返り、どんな意見でも受け止められ、それを深い解釈に繋げられるファシリテーションをめざしたい。