浜田市世界こども美術館「生誕120年記念 橋本明治展」鑑賞会
美術館HP https://www.hamada-kodomo-art.com/
日時:2024年6月16日(日)11:00~11:25
作品:『朝陽桜』の「試作」・「大下図」 浜田市世界子供美術館蔵 、 「縮図」 島根県立美術館所蔵の3点 (1968年頃)橋本明治 画
ファシリテーター:房野伸枝
参加者:一般参加者2名 美術館職員4名 みるみる会員1名 計7名
コロナ禍以降「みるみるの会」の月に一回の鑑賞会が、浜田市世界こども美術館をお借りして復活。その2回目は浜田市出身の日本画家「橋本明治」の生誕120年を記念した展覧会です。
今回はフライヤーのキービジュアルにもなっている『朝陽桜』を鑑賞作品として選びました。この作品は皇居松の間の大杉戸に描くことを委嘱され、福島県の「滝桜」を何度も取材して完成させたとのことです。皇居の本物をみることはかないませんが、「縮図」作品は大きさが違っていても、最終的な作品と同じ構図、図柄だそうです。第2展示室の壁面には『朝陽桜』の「試作」「大下図」「縮図」の3点が並んで展示されています。画面いっぱいの桜の花の絵を、その制作過程もみながら鑑賞することができるようになっています。モチーフは桜のみですが、3点を一緒に隅々までよくみて、その微妙な違いに気づくことができれば、この作品の解釈も進むのではないかと考えました。下記はその鑑賞の概要です。
※〇鑑賞の流れの説明 ・参加者の意見 (F):ファシリテーター
〇参加者7名中5名が初めて対話型鑑賞会に参加するため、まずは桜の描かれ方を一つ一つディスクリプション(描写)することから始めました。
・桜の花の絵
・枝が斜めに伸びているから、この元には幹があることが分かる。枝自体が太いので、その幹はかなり太いだろう。ということは、樹齢を重ねた大きな高い木だということが分かる。
・中心の幹は描かれず、そこから伸びている枝と花が大きく描かれている。
(F)枝の様子からわかることは何かありますか?どんな桜でしょう?(さらに桜をよくみることを促す)
・枝ぶりから枝垂桜ではない。
・桜の木全体が描かれているのではなく、クローズアップしている。
・木全体を描かないということは、花が満開だということをしっかりアピールしたいのでは。
・満開
(F)3点とも満開ですか?
・「大下図」は葉が見えることから、葉桜になろうとしている。花びらが散ってはいないので、散る直前くらい?よくみるとそれぞれの絵のつぼみの数が違う。満開ではあるが、「試作」は8部咲きくらい。「試作」は花の間に枝がたくさん見え、つぼみも多いが、大下図は枝がほとんど見えないくらいに花が咲いている。・仕上げるまでに時間がかかるから、描きはじめのころは花が咲き始めた頃で、描いているうちに満開になっていったのかも。時間の経過が見える。
・下絵図の花は、花びらが一枚一枚描かれず、塊でまとまっている。大下図や本画の方は、花の形、花びらの一枚一枚がはっきり描かれている。
・大下絵図は、花を描いた紙を貼っている。花のバランスをみるために、工夫したのではないか。花びらをしっかり描きたいという気持ちの表れなのでは。
(F)これはみたままを描いているのでしょうか?花をみて気づかれることは?
・花ならおしべやめしべがあるが、これはそれが描かれていない。単純化されている。
(F)確かに。また、花の形をよくみると、どの花も正面を向いていませんか?(ほんとだ~という声が上がった)
〇情報の提供
(F)この作品は皇居を飾るために依頼されたものだそうです。
・皇居ということは、海外の来賓をもてなすこともあるかもしれない。その際に日本を象徴するにふさわしい花として桜をモチーフにしているのでは。満開の桜を日本人の象徴としたのでは。
・花が全て正面を向いて満開の桜でおもてなしの気持ちを表したのでは。
・色の数が少ないので、これが大きくなると同じ色彩がたくさん迫ってくるように見える。皇居という大きな場所でとても映えるように描かれたのではないか。だから、おしべやめしべなどを省いたのでは。
(F)訴える力のあるデザイン化されたものということですね。
〇情報提供以降、それまでの意見をコネクトしながら表現方法から解釈へ進む
・花の大きさ、形が全部同じなのはどうしてだろう?
・見たままを描くというのではなく、色や形をシンプルにして、印象を強くするためでは。そのことで日本を象徴する花だということを表現したかったのでは。
・幹の色がこちらのほうが濃い。あちらは花が多く、幹の色も薄い。花をメインに強調しようとしたのでは。
・桜の花が淡いので、幹の色を実際のものよりシャープに濃くするほうが、互いを引き立てている。
(F)花と幹の色のコントラストを強くして、花を引き立てて印象を強めているということでしょうか。本来桜の幹の色は灰色っぽいものが多いが、これらは黒々と描いてあり、とても力強い印象がする。幹が苔むしている様子から、長い年月をかけて大きく太く成長したということもわかり、力強くのびのびとした木、花の美しさや繊細さで、日本の象徴として描かれたように感じる。皆さんのお話を伺っていると、そんな風にこの作品がみえてきました。
<参加者の感想>
・絵の鑑賞の仕方もいろいろあって奥深いと思いました。今までは、自分の感覚で「好き」「嫌い」で見ていました。
・参加する前と後で、作品の印象がガラリと変わっておもしろかったです。
・こんな見方ができるのか!!と、とても感動しました。勉強になりました。参加してよかったです。ありがとうございました。
・他の人の意見を聴くことができ面白かった。他の作品でもやってほしい。
・人前で発言することは苦手なのでうまく対話することはできませんでしたが、他の方の絵の見方を聞き、自分とは違った発想を知ることができて面白かったです。始める前に何分程度予定しているか教えてもらえると嬉しかったです。
・目的をもって鑑賞することの面白さがありました。参加された方の鑑賞の仕方が学べたし、感性の違いに興味をもちました。
<振り返り>
・鑑賞者7名中、会場で知って参加された方が5名で、初めて体験される方が多かったので、最初に鑑賞のすすめ方の説明をもっと丁寧にするべきだった。通常のルールに加えて、鑑賞の予定時間、作品のみかたや考え方は「多様」なので自分の感じたことを発言してもらえばよいこと、無理に発言しなくてもよいことなどを強調すれば、さらにリラックスできたのではないか。鑑賞が進むうちにそのあたりは理解してもらえたようだったが、最初は緊張感が漂っていたので、配慮していきたい。
・3点の桜の描かれ方の違いを細やかにみることで、桜の咲き方、木の大きさ、満開の桜を強調するためにどんな描き方の工夫がされているかなど、発見されたことを重ねていくことで、参加者みんなで解釈を深めていけたように思う。
・皇居の『朝陽桜』を作成するための「試作」「大下図」であるという情報提供を境に、日本を象徴するものとしての描き方に話題が移っていった。
・ファシリテーターが、パラフレイズで、「デザイン化」「テクスチャー」「コントラスト」などの専門用語を使ったが、分かりにくい参加者もいたかもしれないので、もっと平易な言葉選びをしたほうが良かった。
参加された全員の感想は「楽しかった」「まあまあ楽しかった」と評価してくれたことから、リピーターとしての参加を期待します。。コロナ禍で中断した「対話型鑑賞」の輪が広がり、アート作品を鑑賞する喜びを多くの人と共有できたらと思います。今回参加されたみなさま、協力してくださったスタッフのみなさま、楽しい時間をありがとうございました。
※「縮図」の画像は 島根県立美術館のHP収蔵品データベースでご覧になれます。
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