ART COMMUNICATION IN SHIMANE みるみるの会の活動報告

島根の美術教育関係者が集まって立ち上げた対話型鑑賞の普及に努める「みるみるの会」の活動情報をお知らせするブログです。

安来市加納美術館 対話型鑑賞会 午後の部レポート

2022-05-21 13:43:28 | 対話型鑑賞

島根県安来市加納美術館 対話型鑑賞会 2022.5.7.Sat 13:30~

参加者:みるみるメンバー:佐川さん、正田さん、嶽野さん、津室さん

一般参加者:2名 安来市加納美術館館長:千葉さん 合計 7名

ファシリテーター:春日美由紀

 

安来市加納美術館から依頼を受けて、対話型鑑賞会を対面で久々に開催しました。

11時からの会は津室さんが担当し、13時半からの会は春日が担当しました。

みるみるメンバーがGW中にもかかわらず午前も午後も参加してくれました。

会場におられた一般の来場者の方(2名)にも声をかけて参加していただきました。

 

1作品目「42匹の鮎」

鑑賞の流れ K)は鑑賞者 F)はファシリテーター ※はファシリテーターの気づきなど

F)じっくりみていただいたようなので、いかがですか?

※一般の参加者を指名する。みるみるメンバーが先に発言してしまって、一般の方が気後れしないように。

K)墨の濃淡で泳いでいる勢いを感じます。

F)生命感ですかね。

  ※ちなみに何にみえていますか?

K)魚です。

  ※魚であると確認する。自明の理かもしれないが、話題にされていないため。

F)ほかに?

  ※もう一人の方を当てる。

K)同じです。

F)同じを、言ってもらってよいですか?

  ※「同じです」と言って、話してもらうと「同じ」ことはないので、敢えて、話していただく。

K)色んな向きの魚がいて、上からみているもの、横向きのもの、その姿は、じっくり観察して描いたようで、あたかもそこにいるかのように感じる。すごい描写力。

F)あたかもそこにあるかのよう・・・。描き方に注目してみてくれている。

F)ほかに?

K)餌もどき(小石)を投げ入れて、魚が集まってくるのを楽しんだことがある。その時みたい。こんなに魚が集まってくるって、餌があるからじゃないかと思う。私は小石を投げて遊んだけど・・・。

F)この真ん中への魚の集まり方に注目して、餌に集まってきているのでは?と考えてくれました。

F)ほかに?

K)群れの中に、ちょっと異質な魚が3匹いる。群れの動きに逆らうような向きに泳いでいる。それが何でなのかな?と、思っている。

F)何でだと思いますか?

K)全部が同じ方向を向いていると面白くないから、画家が意図的に向きの違う魚を描いた、のか、魚の中に群れるのが嫌なのがいたのか?どっちなのか?

F)これは、どっちかによって、かなり作品の見え方が違ってくる気がしますけど、みなさんどうですか?

  ※全体に問いを広げることで、問いを共有し、考えるきっかけになると考えたため。

K)鮎は友釣りって言うのがあって、縄張り意識が強いから、敵が入ってきたと思わせて襲い掛かってくるのを引っかけて釣るのだけど、だとしたら、縄張りから追い出されたとも考えられる。特に左の一匹は中心から外に向かっているので、攻撃されて逃げているのでは?

F)なるほど、キャプションにも鮎って書かれていますから、皆さん、鮎だと思ってみてらっしゃると思うのですが、鮎の習性で、争いに負けた鮎が逃げ出している、しっぽを巻いて逃げているみたいな?という意見も出ました。

  ※キャプションを使って「情報」を共有する。描かれている魚は「鮎」であること。

F)そもそも群れない魚なのに、集まっている理由って無いですかね?どなたか魚の習性に詳しい方いらっしゃいませんか?

 ※産卵のための生殖活動とか出るかな?と期待する。そうなると、また、作品の見え方が変わってくると期待。

K)平和を希求した莞蕾さんが、魚の姿に人の姿をなぞらえているのでは?脚色もあるのではないか?

F)平和を求めて集まってくる同士を魚になぞらえて例えたって、ことですかね?この絵は一瞬を写真のようにパシャリと写したものを再現したのではなく、じっくり観察してみえてきたものを描いた、リアルより、リアリティーがある、より本物らしい、さっき、どなたかが仰った、「あたかも~~かのような」そういう見え方をするような描き方、それが、莞蕾さんの生き方を映し出しているようだ、ということですね。

 ※パラフレーズ兼サマライズで、発展的解釈を促す。

F)それを聴いて、いかがですか?

K)42っていうのが気になっている

F)キャプションを読むと、近隣のお宅が42件あるってことで、ご近所さんってことで莞蕾さんは、42匹描いたって、そこには書いてありますね。でも、だとしても、42件の在り様って写真に撮れるわけじゃないから、莞蕾さんのふだんの観察によって、鮎の姿を借りて表現されているともとれるかな?

 ※タイトルに続いてキャプションの情報をかいつまんで伝えて共有する。

K)そしたら、やっぱり、これはこの人っぽい、とか、そんな全部じゃなくても、あるのかな?と思う。

F)だとしたら?そう思ってみてみると?

 ※あとで出てくる「追い質問」

K)そう思って見ると、やっぱり、何かやろうとすると「よし、よし、よし」という人や「何?何?」とか、「いや、うちは無理・・・。」みたいな、うちの夫の田舎でも何かやろうって言うと、みんなでやるって感じだけど、そこでも緩やかな結合みたいな、それぞれの立ち位置で参加するみたいな・・・。

F)という、お話が出ていますが、それを聞かれて、どうですか?

K)人とか何かを鮎に見立てているのかな?とは思う。餌が中心にあるなら、もっと最短で近づくと思うけど、そうではなく、緩やかに集まっているので、人間的なものを表現しているのかな?と思う。

F)魚が群れているってみてきたけど、鮎が鮎じゃなくて、人だったりとか、ご近所さんの家庭だったりとか、と被せてみているのかな?って思うのだけど、それって、緩やかな結合、でも、適度な距離を保ちつつ、「やりましょう」って言ったときに集まる、集まり方もそれぞれ、ポジションがある、みたいなのを鮎の姿を借りて見せてくれているんじゃないのかな?っていう、お話をしてくださっているのではないかと思うのですが・・・。

F)いかがですか?

 ※ずっと発言のなかった参加者に発言を促す。終了時間までに全員に作品解釈について話してほしいため。

K)隣に飾ってある「愛」の字に鮎の集まりがみえてきて・・・。

F)ほうほう、なるほど、どのあたりですか?

K)この辺りが、※と、ポインティングしながら鮎のどのあたりが「愛」の字にみえるのかを説明してくださる。

F)作品の並べ方の妙ですね。これが「愛」が「鮎」にみえてくる。

F)ここに愛がある。どんな愛なんですか?

K)鮎の集まりの中にも人類の愛、平和があるって、なんか、突拍子もないことを言ってしまいました。

F)いや、いや、いや、普遍的なものって身近なところにもあるって言うか、身近なものがだんだん大きくなっていくって言うか、この身近な地で平和を希求した莞蕾さんの生きざまみたいなものもお話してくださっているのかな?って思います。神は細部に宿るといいますが、細部に宿ったものが大きな愛になっていくっていうことにつながるのかなあ、って、なんかすごい壮大な話になって、「鮎」ってどっか「愛」って言葉も似てますし、「ひゃー、がんばって泳いでくれたまえ」って、ちょっと声をかけたくなるようだな、ってみなさんと、みてこられたのかな?って思います。ありがとうございました。

 

2作品目「もくれん」を鑑賞しましたが、みるみるメンバーのみでしたので、レポートは省略します。

 

遠方から鑑賞会に参加してくれたので、帰りの時間もあり、十分な振り返りの時間が取れませんでした。

そのため、全体での「振り返り」とはせず、話題になったことを記載します。

 

・初参加の方、言いたそうだった。

・初参加の方で、後で指名されて話した人の方が、よく話していた。

・「ということは?」と追加して質問された。「追い質問」はドキッとする。でも、答えられたら満足感につながる。

・「追い質問」をタイミングよく使うと、もっと考えるきっかけになる。

 

ファシリテーター自身の振り返り(つれづれなるままに・・・。)

  最初はチラシにも採用されている牡丹の作品を鑑賞しようと考えていたのですが、一般の方に参加の声掛けをしたら、「2階をみてから参加する」と返答されたので、これは、チャンスを逃してはいけないと思い、2階にある作品から鑑賞することに急遽変更しました。2階に上がり、一般の方を誘いました。午前中に津室さんが「松」が描かれた大作で鑑賞していたので、何にするか悩みました。2作品目が「花」なので、「花」つながりもよいが、構図的に「鮎」に心惹かれていたので、軸の「鮎」にするか額の「鮎」にするか一瞬迷いましたが、額の方が作品が大きいので、そちらにしました。

  鮎は鮎でしかないのですが、その鮎を皆さんがどうみるのか興味がありました。最初は描かれ方からの「生命感」や「描写力」のすばらしさが話題になり、その中で向きの異なる異質な鮎の存在を発見し、それが画家の意図なのか鮎自身の意思なのか?という問いに、鮎の持つ「縄張り意識」の発言から、一気に鮎の習性に人間社会の縮図を重ねるような見方に展開していきました。

  そのことが、莞蕾さんの平和運動ともリンクし、何かを成すときの人の在り様、積極的な人、何となく流れで参加する人、無理だと思って引く人、そのような姿を鮎の群れに重ねていくことで、深い解釈につながっていったように思います。

  特に最後に隣の「愛」の書と関連付けた見方は秀逸で、美術館の展示の妙でもありますが、「鮎」に「愛」を重ね、莞蕾さんの「平和希求」にもつながったと感じました。

  流れの中で必死に泳ぐ「鮎」の姿を思わず「がんばれ!」と応援したくなるような、そんな鑑賞が皆さんと一緒だからできたと思いました。

  墨画の鑑賞に初挑戦でしたが、どんなジャンルの作品でも対話できる手ごたえを感じました。

  そして、やっぱり、対面はいいですね。「あ」「うん」の呼吸で鑑賞できる!!

 

  お声をかけてくださった安来市加納美術館に感謝します。

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安来市加納美術館で久々に対面での鑑賞会を開催しました。

2022-05-16 09:59:46 | 対話型鑑賞

GWもクライマックスの5月7日(土)に安来市加納美術館で久々に対面での対話型鑑賞会を開催しました。

午前の部と午後の部の2部構成で行いました。

今回は、午前の部担当の津室さんからのレポートです。

 

島根県安来市加納美術館 対話型鑑賞会 2022.5.7.Sat 11:00~

参加者:みるみるメンバー:春日さん,佐川さん,正田さん,嶽野さん

一般参加者:2名 安来市加納美術館館長:千葉さん 合計 7名

ファシリテーター:津室和彦

鑑賞作品:「かくれんぼと魚」 油彩  1934 安来市加納美術館蔵    

         「屏風 松濤」    墨彩画 1972 個人蔵

 

みるみるメンバーに加え,会場におられた一般の来場者の方(2名)にも声をかけて参加していただきました。

  久しぶりの美術館での鑑賞会だったので,オンラインではなくリアルだからこそ再認識した自分に足りなかったファシリテーションの心がけを中心に振り返りを先に述べ,その後1つめの鑑賞の概要を述べます。

 

1 ゲストファーストの姿勢の大切さ

①鑑賞に参加してよかったと思ってもらえるように

勇気を出して,初めてのこのような鑑賞の場に参加された方が,参加して良かった・楽しかったというお気持ちで帰られるように心がけたいと思います。  

そのため,最初の発言は挙手ではなく,敢えて初参加の方を指名して話してもらうことが有効だと学びました。実際は,私が挙手を求めたため,鑑賞会慣れしたみるみるの会のメンバーが先に発言し,その後一般参加の方の発言したいようなそぶりをみとって,ファシリテーターがふっていくという流れとなりました。

初めて参加される方は,自分の発言が起点となってその後の対話が積み重ねられていくと,自分の見方や考え方が認められ,一緒にみたメンバーのひとりとして他の人の鑑賞に貢献できたという達成感を得られるのではないかと考えるからです。参加して下さった時点で,他者と話し合いながら鑑賞することにある程度の構えをもって臨んでいると考えると,その姿勢を信じて「しっかりみられていましたが,何か気づきはありますか。」「第一印象は,いかがですか。」と積極的に発言を求めるような配慮があったらよかったと思いました。

②ゲストや鑑賞者の表情をみとる

  初参加の方,特に一般来館者の方に入ってもらうとき,鑑賞者の表情がよく見える位置にファシリテーターが立たなければいけませんでした。発言したい様子や考えている様子,人の発言に反応している様子など,さまざまな鑑賞者のありようをみとるためです。

  初見の1分間少々の間も,対話がつづいている間も,鑑賞者の表情に常に気を配り,機と気を捉えて発言を促すことが肝要だと強く感じました。この点は,リモートに慣れると,画面上の挙手に従って指名する癖がついてしまい,ライブでの感覚が鈍くなってしまっているのではないかと少し恐ろしくも感じました。このような今日的な留意点も,新たに生じてきたので,より慎重に鑑賞者をみる姿勢が大切だと思いました。もちろん,ゲストの方が,楽しそうに身振り手振りで語ってくださったときは,ファシリテーターとして,とても嬉しくやりがいを感じることができました。

 

2 場に応じて活かしてこその「情報」

①まずは作品そのものをみる

  美術館等普通の鑑賞の場では,題名やキャプションが掲示してあります。音声解説を聴いている来館者もいます。わざわざその展覧会に足を運ぶ来館者は,作家や展覧会について,あらかじめ何らか興味を持っている人が一般的です。そのような会場で鑑賞する場合のファシリテーターとしての構えについて考える良い機会となりました。

  私は,今まで,どちらかというとVTS的に作品そのものを素直な目でみて,話し合うことにウェイトを置いていたかもしれません。あくまでも,その場で一緒にみた人々で,その作品の意味や価値を語り合うのが重要だと考えていたのです。

情報が既に掲示されてはいますが,まずは「この作品」という極力先入観をもたれないよう配慮した入りで,鑑賞をスタートしました。 

②タイトルやキャプションなどの情報について鑑賞者が触れたら

  対話の過程でタイトルやキャプション,さらには既知の作家や作品の情報について触れる発言があったら,「なるほど,そう書いてありますね。」「そうなんですね。」と発言を認めることが第一だと思います。来館者にとって,展覧会等の掲示物は,いわば正解のようなものだったり,頼りになるオーソリティの言葉であったりするからです。(タイトルをつけた主体者や研究もその時点でのものであるなどの問題は置いておくとしても)また,高名な作品や作家の場合,「知っている」人も多いからです。現に掲示してあるものや知っていることを,無いことにして扱うのは,心情的にも不自然だと思うからです。

③情報を得て,改めてみんなで作品をみる

  従って,鑑賞の流れの中で鑑賞者がこのような情報に触れてきた場合,それを認めた上で,「今までみなさんで話し合ってきたことと,そのこと(情報)をあわせると,さらにどんなことが考えられますか。」「そこから,どう思いますか。」「このタイトルは,みなさんにとってしっくりきていますか。」などというふうに,その先に発展する可能性があると思えるようになりました。もしかしたら,新たな見方が始まるチャンスなのかもしれません。

  情報は,ファシリテーターが,ここぞというタイミングで意図的に示すことも考えられます。例えば,3で報告しています「かくれんぼと魚」では,鑑賞者の発言からは「かくれんぼ」というワードは出てきませんでした。「楽しそうではない。」という発言や「暗い感じ」などが続いたときに,「題名はかくれんぼですが,かくれんぼのような楽しい感じはしないのですね。」とゆさぶることもできたかもしれません。そうすることで,もう一度人物や周囲をしっかりみることにつながったのではないかと思うのです。そして,幼くて人見知りな子どもならではの不安が表れているとみてとったならば,その幼さ自体を愛おしく思う作者の心情も想像できたかもしれません。鑑賞者の中に「なんで?」と疑問や葛藤が起こっているような状態のときこそ,ファシリテーターの出る場だったのだなと思います。実は私自身,鑑賞会が始まる前にひとりで作品をみたとき,かくれんぼしているにしては少し不穏な作品だなと感じていたのです。そういう自身の感覚も皆さんの発言の流れとともに俯瞰的にみて,機を捉えられればよかったのにと反省するばかりです。

情報も含め社会的・知的な内容はもちろん,最終的には本来個人的な,感覚や感情まで同じ場にいる鑑賞者で共有できたらすばらしいと思います。そのために,ファシリテーターが対話の流れを慎重に読み,鑑賞者の表情をみとり,臨機応変に情報を活かすことが大切なのだと改めて実感できた機会でした。このあたりは,同日午後に行われた春日さんの実践で具現化されていたように思います。春日さんのファシリテーション記録をご覧ください。

 

3 「かくれんぼと魚」 鑑賞のおおまかな流れ

○魚や野菜がたくさんある

・一家族で使うには多いネギがあることから,慶事などの集まりごとのための食材ではないか

 ・漁村や農村では,豊漁やたくさん収穫したとき,お裾分けをする慣習もある そういう古き良き場面か

○女の子らしき人物がこちらを見ている

   ・あまり楽しそうな表情ではない 目尻や口角は下がっている

  ・壁かふすまかなにかの陰からおそるおそる覗いている

  ・来客が大勢いたり,宴の準備に大わらわだったりする大人達の様子を見て,人見知りの幼い女の子は,出て来られずにいるのではないか

○周りや奥が暗い⇔魚やネギにはスポットが当たったよう

   ・この時代の台所は家の北側の方にあり,明かり少ない 煙出しからのわずかな明かりか,もしくは照明器具があっても,せいぜい裸電球 

○足下は土間(煮炊きを行う「くど」)ではないか

   ・アンバーであることから,土間

   ・くどが,たたきのように土間になっているのは,作品の当時の家では普通のことではないか

  ○薄暗いくどのような場所で自然の恵みのような豊かな食材にスポットが当たっている一方,人見知りしているのか不安なのか,物陰からそっと覗くような女の子に対する作者の気持ちも感じられる作品ではないか

 

  リアルで,しかも一般の来館者の方も含めての鑑賞会は,とても楽しくかつ勉強になりました。マスク着用で少しの伝え合いにくさは感じるものの,あの場の肌で感じる空気感は,やっぱりいいものです。

貴重な場を提供していただきました安来市加納美術館,参加してくださったみなさんに感謝したいと思います。

 

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