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日本発祥の美しいスポーツ 男子新体操 ①

2024年11月02日 | 男子新体操とジェンダー

《はじめに》
この記事は今から約2年前、2022年9月に当ブログでアップしたものです。
2024年、同じテーマで新たな記事を書きましたので、興味のある人が読みやすいように纏めることにしました。
カテゴリーも“男子新体操とジェンダー”として纏め、内容も今現在とは異なる部分は改めたり、注記を付けました。
また当時は見ることができた動画でも消されてしまったものがありますが、文章が続かなくなりますので、そのままにしています。
動画が消されてなくてもコメントに問題がある場合、2年後の現在見てみると、それらのコメントが消されている場合も多々ありました。
コメントの内容が差別的であったりするわけですが、この記事の目的が人々の意識がどういうものであったか示す為ですので、そうしたコメントのスクショもそのまま使っています。

以下、本文です。

          


“The most beautiful sport on the planet ”
この英語のセンテンスは、私がある男子新体操の演技をYouTubeの動画で見ていて、そこのコメント欄で見つけたものです。⇒ここ(2014年の花園大学の演技)
私と同じことを考えている人がいるんだ─と、見つけた時に思いました。

『それは大袈裟でしょ』と思われそうですが、私は見れば見るほどそう思います。
よく比喩に用いられるのが、団体ならば“床上のシンクロナイズドスイミング”とか、個人ならば“スケート靴を履かず手具を用いる床上のフィギュアスケート”とか。
まあ、そんな言葉より実際の演技を見れば百聞は一見に如かずです。

日本の男子新体操の演技はYouTubeでたくさん見ることができます。
コメント欄は外国語が多く、実際、男子新体操の動画の発信者によれば、見ている人は、今では日本人より外国人の方が多いらしいです。
私が男子新体操というスポーツを知ったのもYouTubeで、知ったその後の成り行きも多くの外国人と似たようなものだったと思います。

日本のものなのに外国人と同じ知り方をしてしまう。
その理由は、男子新体操は日本のメディアでは滅多に取り上げられないからです。
取り上げるのはせいぜいバラエティー番組で、肝心の演技はほとんど写らないのです。
ですから私がテレビ画面越しにその演技を見る機会はなかったのです。

そういうわけで、私もまったくのシロウトですが、それでも私は日本人なので外国人よりは情報を得られますし、日本の文化についての知識もあります。
そこで知ったのは、日本の男子新体操は国内的にも国際的にも困難な立ち位置にあるらしいということでした。

ですので、このエントリーでは、一般によく知られていない男子新体操について、私自身が知識を整理する意味でも、知りえたことを主観的な感想を交えて、また長くなりそうなので分けて書いてみたいと思います。

男子新体操は日本発祥のスポーツです。
1949年には団体徒手体操という名称で国体の正式種目になっています。
スペインでも男子新体操をやっていますが女性の新体操と同じことをやっていて日本の男子新体操とは異なります。
ですから日本の男子新体操は、Japanese style men's rhythmic gymnastics とも言われます。

FIG(国際体操連盟)は日本の男子新体操の加盟を許していません。(水面下で調整が行われているのかもしれませんが私には分かりません。)
だからオリンピック競技ではありません。

実は、今から10年くらい前の日本の男子新体操は「極東の小さな島国で生まれ、進化した、際立って美しいスポーツ界の絶滅危惧種」みたいなものでした。
2008年を最後に、国体からも外されていて、当時、このスポーツの競技者は1000人程度だったそうです。

2008年と言えばリーマンショックの年であり、日本経済はどん底でした。
国体からの休止扱いという名の排除は国から見捨てられたも同然だったかもしれません。
当時、男子新体操は、どれ程の技術や知識を身に付けたところで、それを役立てる仕事は中学や高校の体育の教師くらいしかなく、勤務先の学校に新体操部がなければ関係のない体育関係の部の顧問になるしかなかったようです。

普通のサラリーマンになるにしても、面接で「男子新体操をやっていました」と言えば、競技内容があまりに知られていないため「リボンをクルクル回していたのか」と馬鹿にされかねない状況でした。
ただでさえ、ちゃんとした仕事を得ることが難しい社会で、そんなスポーツをあえてやろうと思う人は少なかったかもしれません。

ですが男子新体操は復調しました。
現在、男子新体操の競技人数は2000人くらいに増え、2018年時点で2023年の国体(現在は「国民スポーツ大会」)への復帰が決まっています。(国体から一度外された競技が復帰するのは奇跡に近いんだそうです。)

大学卒業後の活躍の場も、世界中のパフォーマーの憧れの的であるサーカスパフォーマンス集団、シルク・ドゥ・ソレイユへの入団実績が多人数あり、それ以外にもプロのダンサーやパフォーマーになった人もいます。
ただ、やはり大学卒業と同時に現役からは引退する選手がほとんどのようです。

私が男子新体操の演技を見始めた頃、自分でも冗談のように『この人達の就職先はシルク・ドゥ・ソレイユか』と思ったものですが、その時点でもう数十人の男子新体操の選手がシルク・ドゥ・ソレイユに入っていたのでした。

シルク・ドゥ・ソレイユが日本の男子新体操に着目した理由を知ると、男子新体操がどういう特色を持ったスポーツなのかよく分かります。
シルク・ドゥ・ソレイユが日本の男子新体操を最初に見出したのは2009年の青森大学の団体の演技、通称「ブルー」と言われる演技からだったそうです。
「ブルー」の演技は⇒これです。

「ブルー」は当時、主に海外のSNS上で、その演技の美しさとスキルの高さが評判になっていました。
そして2011年、シルク・ドゥ・ソレイユのプロデューサーが、あるパフォーマーから「ブルー」の動画を見せられ、その演技に驚愕し、即座にリクルーティングのスタッフを日本に送り、その時は7人の新体操の選手を採用したとのことです。

「ブルー」は、男子新体操の演技の中でも特別な美しさを持っていました。
見るとなぜか胸を打たれてしまうのです。
コメント欄を見ても英語で「私は泣いた。なぜ?」といった意味のものがあります。

泣く理由は、この演技が生まれた背景を知ると理解できます。
以下のエピソードはわりと有名です。
この演技は当時の青森大学の男子新体操部の部員達が、2009年の2月に亡くなった自分達の先輩である大坪政幸氏を追悼する意を込めて作られていました。

大坪氏は青森大学男子新体操部の創立者の一人であり、男子新体操の可能性を信じて活動していた人でしたが、27歳で妻と幼い二人の子供を遺して悪性腫瘍で亡くなっています。
「ブルー」で使われた楽曲の“ブルー”は、彼が現役の選手だった時に個人の競技で使っていた曲でした。

「ブルー」を見る人は、演技という形で具象化された追悼の思いを受け取り、それで訳も分からないまま心打たれてしまうのです。
通常、スポーツにおける芸術性という場合、難度の高い動きが音楽と合っていて綺麗、みたいなレベルですが、それだけではない芸術性、文字通り心に響く芸術性がそこにはありました。

ですが2009年は、奇しくも男子新体操が国体から外された最初の年です。
「ブルー」とは関係なく、男子新体操の関係者は、いよいよ自分達が携わるスポーツが滅びの道を歩み始めたという自覚を持ったかもしれません。
2022年の現在の私から見ると、男子新体操の演技がその頃から大きく変わり始めたように見えます。

それは、はっきりと口にする監督もいるのですが、要するに男子新体操はスポーツだから試合では勝たなくてはいけない。しかし男子新体操はそれだけではなく、美しくなくてはいけないし、見た人に感動を与えるものでなくてはならない、と。

確かに見ていて、このチームは勝敗や順位にこだわっていない、ルールには則っているんだろうけど自らの美意識の限りをここで尽くしているなと思える演技があるのでした。
いってみれば崖っぷちでダンスを踊っているような・・・。
The most beautiful sport on the planet と、そう思わざるを得ない何か。

結果として男子新体操が国体から外されたことは良い変化をもたらしたと言われています。
それは指導者(監督・コーチ)の意識を、思い切った創造性を発揮する方向に変えただけではありません。
それまでの高校生依存から脱却したとされています。
高校の部活動から民間の新体操クラブに中心が移ったのでした。

元々強豪と呼ばれる高校のチームは連携したジュニアのチームを持っていたようです。
かてて加えて、それまでにあった女の子向けの新体操の教室が、少子化の影響や保護者の希望で男の子向けの、要するに男子新体操の教室を併設するようになったようです。
4,5歳から新体操に親しんでいた子供達は高校生にもなれば10年選手です。
結果、男子新体操全体のスキルの向上は凄まじいものがありました。

そうして競技者の数も徐々に増え、SNSのおかげで演技の素晴らしさが国内外の人も知ることになってファンが増えても、日本では未だに大半の人がこのスポーツを見たこともないマイナースポーツなのです。
これは不思議としか言いようがないです。

男子新体操の関係者は男子新体操を広める為に大変な努力をしていますので、その原因は日本の大手メディアにあるように思います。
正直私は、メディアは日本生まれのこれほど美しいスポーツの存在を視聴者に知らせないでよいのかと思います。

それだけではありません。
今、世界では、スポーツにおけるジェンダーフリーが強く推し進められています。
スポーツ界におけるLGBTQについてもそうです。
また現在の世界のスポーツ界は当然のように欧米中心の価値観で動いています。

私は何ら専門家ではありませんが、日本の男子新体操が時にその種の激しい議論の中心にいることはすぐに知れました。
現在進行形の極めてアクチュアルな問題に対して、報道に携わる人や有識者と呼ばれる人が沈黙を保ったままでよいのか・・・。

というわけで、②に続きます。


清風高校(大阪府)の演技のワンシーン。



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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
nana様 (みどり)
2022-04-13 15:11:01
私はシルク・ドゥ・ソレイユを見たことはありません。
シルク・ドゥ・ソレイユより実際の男子新体操の競技を見に行きたいなと思っています。
彼らの競技会はインハイを除けば気の毒なくらいガラガラです。
佐賀の国体から男子新体操は復帰するそうですが、佐賀県は男子新体操に熱心な地域です。
盛り上がればよいなと思います。
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Unknown (nana)
2022-04-13 09:17:08
×劇団四季の
は、取ってください🙇‍♀️
返信する
新体操 (nana)
2022-04-13 09:04:40
男子新体操は日本発祥だったのですね。
実際に演技を見る機会がなかったので、
YouTubeの映像、見せていただきました。
音楽に合わせた動きが大変きれい♪
団体競技になると審査の基準が厳しいのでしょうね。
だいぶ前、劇団四季のシルク・ドゥ・ソレイユを観に行きました。
ハラハラ息をのむようなシーンが続く中にも
ストーリーがあありました。
新体操を志す青年が目標を持って進めるように応援したいですね。
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keba様 (みどり)
2022-04-11 22:41:06
私は国体よりもむしろFIG(国際体操連盟)加盟に際し、変な条件つけられて変わってしまわないかと、それが心配です。

女子の新体操、難しい技を詰め込めば詰め込む程、勝てる仕組みで、詰め込み過ぎて音楽に合わせることも犠牲にする程だそうです。
「軟体人間ショー」という人がいるくらい。
今年からルールが変わり、少しはましになるらしいです。(知らんけど)
男子新体操も同じ道を歩むのではないかと心配している人もいるみたいですが、国体とかFIGとか、入るとどうなるのか。
世界の舞台に立たせてあげたいと思う一方、良さを無くさないか心配です。
美しいものは脆いですから。
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Unknown (keba)
2022-04-11 17:23:02
動きに選手の感情移入があるのが、小さな画面で見ていても伝わりますね。
おっしゃる通り美しい。
動作や技だけじゃなくて、雰囲気までもが。

国体競技になって競技の性格が変わらないといいですね。
女子の新体操、すごいとは思うけど曲芸にしか見えなくて。
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