・・・と言っても、あの有名なバイクのことじゃなくって。
あれ、何でもイタリア語で「ムルティ」ってのは英語の「マルチ」。
で、「ストラーダ」ってのも英語では「ストリート」。
ということで、「どんな道でも走ってやるぜ!」みたいな意味なんだそうだ。
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有馬街道を走っていると、ハンドルミラーに黄色いカブが映った。珍しい。
昔、「ホンダ最後の国内生産カブ」として売り出されたリトルカブ、だろうか。
通常のカブと違ってタイヤホイールが少し小さく、全体のバランスが何となく可愛らしい。緑と紺の二色しかないカブに比べ、十種類近い色のリトルカブがあって、黄色もそのうちの一つ、・・・だったんじゃないか。
そのカブはハンドルに小型のウィンドシールドをつけ、前かごをつけ、リアキャリアにはリアボックスを装備し、と、完璧にオールマイティーカブ。イタリア式に言えばどこだって行ける「ムルティストラーダ」。これで排気量が50ccのリトルカブだったら笑うけど。
何故って、50ccのままなら、法律上30キロしか出しちゃいけない。ひたすら他のクルマの迷惑になる。
ここ、有馬街道では走行路と側溝との間の僅かな幅の路側帯を、原付バイクは言うまでもなく、車幅のあるスクーターや更に大きい250程度のバイク、スクーターも「有馬街道は民主主義、走行車はみな平等」とばかりにビュンビュン擦り抜けていく。無法地帯、とまでは言わないけど、決して行儀のよい走り方は、しない。それが分かっているから、クルマはセンターライン寄りを走る。
だから、50cc、ノーマルのリトルカブだったら、無法な走り方は当然できないし、流れに乗った走り方もできない。
けれど、ここまでの装備を見るに、これはきっと90か。60?或いは50ccのエンジンを下ろして、110のエンジンを積んでいる、とか。ボアアップして90近くにしているのかもしれないな。
50のエンジンをいじったら88ccまで行くんだそうだ。
90のエンジンはノーマル85ccらしいから、90のカブより、エンジンをいじった50のカブの方が力がある、ということになる。それ、かな?
黄色のカブは見映えに違わずジェントルな運転で、有馬街道の急坂を上ってくる。ハンドルミラーにずっとその姿が映り込んでいる。
そのカブは、道路の端を強引に追い抜いていくような素振りは、遂に見せなかった。
ダム脇のトンネルを抜け、延々と続く車の列を見ながら走るうち、急に気が変わり、左折することにした。
ウィンカーを点け、右手をちょっと上げて合図をしたら、向こうも同じくハンドサインを出して直進するのがミラーに映った。
カブ同士、こういうところがたまらない。