「やっぱり朝日の社説は奥が深い」
アルゼンチンの観戦武官ドメク・ガルシアは装甲巡洋艦「日進」の艦橋からロシア艦隊が日本海に没していくのを目撃している。
彼の観戦記には戦いを前に甲板を洗い、自身も沐浴し、清潔な着衣に改める日本人将兵の戦争マナーが驚嘆の言葉で綴られている。
彼の祖国の海軍も、日本艦隊と間もなくまみえるロシア艦隊も、戦いではどうせ汚れるのだからと汚い服に着換えたものだ。
それで被弾負傷すれば確かに要らざる感染菌にまみれることになる。
冷静に戦に備える日本人を見ていて「ふと祖国の海軍にいた先住民水夫を思い出した」という件(くだり)がある。
過去形なのは19世紀末にロッカ将軍が国家近代化を唱え、国中の先住民を皆殺しにしてしまったからだ。
昨日まで一緒だった水夫も含め、黄色い連中を駆除することが近代国家の体裁だと信じていた。
「白いアルゼンチン」を実現したロッカはその功績で大統領に就任した。
隣邦もそれに倣った。ウルグアイは白人度100パーセントにまでもっていった。
この7月、南米を訪れたアルゼンチン出身のフランシスコ法王は15世紀以降にスペイン人が行った先住民虐殺に触れて「謙虚に謝罪したい」と言った。
それがつい100年前までの法王の祖国で再現されていたことは黙っている。
同じ100年前、米国のサウスダコタ州ウーンデッド・ニーで第7騎兵隊が女子供を含む最後のスー族400人を皆殺しにした。
これで2世紀に及ぶインディアン殺しはほぼ終わり、第7騎兵隊は連邦議会からインディアン駆除の功で勲章を受けた。
カナダでは軍だけでなくキリスト協会も先住民淘汰を主導した。
ハーバー首相の謝罪演説によるとカナダでは19世紀中ごろからイヌイットなど先住民の子供が協会の寄宿舎に強制隔離され、教育の名の下に虐待され、緩慢な人種と文化の淘汰が進められた。それが最近まで続いていた。
子供たちはキリスト教と英語を強制され、先住民の「汚い言葉」を使うと凄まじいリンチを受けた。隔離総数は15万人。うち5万人が寄宿舎内で殺されたという記録がある。
(続く)
高山正之著
変見自在
「朝日は今日も腹黒い」より
新潮文庫
変見自在
「朝日は今日も腹黒い」より
新潮文庫
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何だか途中から「日露戦争のミカタ、って?」みたいになってますが、これ、私が勝手につけた題名ですので。
勿論、本来の題名は「やっぱり朝日の社説は奥が深い」、です。
「ん?それも意味が分からん。第一、『朝日』がまだ出てこない」