6月13日(木)
12日の晩は何となし、料理をせず以前に買った熊本の「団子汁」を食べる。
これは「団子」、というだけで実際には平打ち麺。
尤も本来は麺の形をしておらず、「団子」の文字通り小麦粉を練ったものを団子のように少しずつちぎったものらしい。
ついでながら「団子」と書いて熊本では「だご」と発音するとか。
昔読んだ津本陽の「薩南示現流」に出ていたと思う。「だんごじる」ではなく「だごじる」と言う(らしい)。
これを甘い味噌汁の中に具の一つとして入れるだけ。当然腹持ちの良い食べ応えのある汁物となる。
白味噌仕立ての雑煮の、餅の代わりに団子が入っているものと言ったらいいか。
いずれにせよ普通に美味い。味噌が甘めのところが特に良い。
味付けが甘めと言えば「伊勢うどん」。
伊勢の食堂ならどこにでもある「伊勢うどん」。値段は素うどんと同じで、伊勢のうどんのメニューの中では一番安い。
初めて食べた時はびっくりした。何しろ丼(どんぶり)の中に一目で茹で過ぎと分かる太いうどんが入っているだけ。他は何もない。出汁すら見えない。かけ忘れたのか?
「うどんだけ入っている」、「うどんしか入ってない」どんぶり。狂気すら感じる。
「もしかして底に?」と思って箸でうどんをさばこうとしたら、突然出汁で染まったらしい黒いうどんが出てきた。刺身につける溜まり醤油で、茹で過ぎてふにゃふにゃになったうどんを食べるのか??
どう見たって美味しそうには見えない。いや、不味そうにしか見えない。
美味しそうに見えたとしたら断言できる、「その感性は間違いなく狂っている」。
「こんなもの注文するんじゃなかった」と思いながら食べたことをよく覚えている。
「人は見た目が九割」。真っ黒いうどんもその悪魔のような色で、味覚はすっかり飛んでしまった。当然丼の底にある出汁を啜ろうなんて欠片も思わない。
そんな記憶だけが残って数年後。
「伊勢うどん」と言えばまずいうどんの代名詞、みたいに思っていたのだが、ふと、どんな味だったのか、そのまずさを言葉にしようとして気が付いた。
いかにもマズそうな見た目は瞬間に思い出せるのに味は全く思い出せない。そりゃそうだ、出汁を舐めてみることすらしなかったのだ。舌に残っていたのは讃岐うどんの対極にある「コシのなさ」、だけ。
最近、甘い溜まり醤油を手に入れた。
少しの出汁と一緒に一煮立ちさせて、そこに長めに茹でたうどんを「かけ」て、卵を一個。刻んだ青葱を少々。
「なんちゃって伊勢うどん」。くせになる味。