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「いとをかし 和紙の世界」八代市立博物館冬季特別展覧会を見る

2007-03-04 | 博物館・美術館に行く
地元、八代市の「八代市立博物館未来の森ミュージアム」(写真)。
博物館と名乗りながらも美術館的な展覧会を定期的に行っているが、現在、八代領主だった松井家所縁の所蔵品を保管管理する財団法人松井文庫の所蔵品から「和紙」にちなんだ逸品をフィーチャーした「いとをかし 和紙の世界」を開催している(3月25日まで)。
和紙の世界とは何とも通好みな主題だという気もするが、日曜日の昼下がりに観に行って来ました。


江戸期に松井家の当主が母親の為に風光明媚な海沿いに建てたという「松浜軒」(写真)。
現在は干拓のためにその名の由来の白砂松風の風景はなくなり、八代市の市街地にあるが、この屋敷の奥深くに秘蔵されていた逸品は現在では世界的に貴重な日本武家の文化遺産としてその価値が高く評価されている。

八代市のような地方都市にこれだけのコレクションが現存しているのは殆ど奇跡に近いとも云われる。
これらの松井文庫コレクションは、松浜軒のすぐ隣にある八代市立博物館で定期的に開催される展覧会で見ることが出来る。地方在住の身としては、第一級の美術品を身近なところで見ることが出来るのは喜ばしい限り。
ちなみにこの松浜軒、以前は高級旅館として営業していたらしく、日本で最初に「乗り鉄」の旅を実行した鉄道ファン文豪の内田百が「阿房列車」の旅で度々立ち寄っている事でも知られている。

僕は全然知らなかったのだが、八代市の宮地地区は江戸期から有名な高級和紙の産地だったそうだ。展覧会会場ではそんな地元八代産の和紙や、松井家の当主が参勤交代の折に江戸で買い求めた和紙が並ぶ。
会場は空いていたので、最初から最後までボランティアスタッフの御婦人が横についてマンツーマンで詳しく解説してくれた。松井家では非常に物を大切にしていたので、江戸期の日常品のような紙製品もほとんど当時のままの状態で保管されていたこと、そのおかげで当時の紙商品の流通形態まで分かったということ。
江戸時代に日常的に文書作成に使用されていた奉書の束などが、購入された時と同じ状態で未開封で残されている。これって、当時の情報記憶メディアの真実の姿を留めている訳で面白い。言うなれば、数百年後の世界で、現代の電器屋から買ってきたパッケージを開けてない生DVDディスクとかを見ているような感覚だ。
それに、数多く並べられた千代紙の美しいこと!江戸期のものとは思えないきらびやかさは現代アートを凌ぎ、アバンギャルドですらある。
他にも、小さな一筆書きのような封書セットは僅か数十センチにも満たない紙片の中に自然そのものを切り取って嵌め込んでいるようなスケール感。江戸期の日本人の美的センスの、この異様なまでのクオリティの高さは一体何なんだ?ゴッホならずとも引き込まれるぞ、この紙片の上の小宇宙には!

他にも、細いこよりを使って織った紙の生地「紙子」は丈夫で保温力があり、洗濯することさえ出来たとのこと。
革に似せてつくった和紙の壁紙「金唐革紙」は最高級品としてヨーロッパ各地の宮殿で内装に使われ、近年、宮殿の修復をする際には職人が日本から現地に赴いて補修用の壁紙を製作しているとのこと。
今度から海外旅行でヨーロッパの宮殿を見るときは、壁紙にも注意して見てみよう。

それにしても今日は暖かいというより暑かった。この調子だとあっという間に桜も咲いて散っちゃうんじゃないかな?