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イプシロンロケット3号機打上げ、そして「夜光雲」出現!

2018-01-20 | 宇宙
Photo:イプシロンロケット3号機打上げ後の空に出現した「夜光雲」


平成30(2018)年1月18日の早朝6時6分11秒(日本標準時)、
高性能小型レーダ衛星ASNARO-2を搭載した3機目のイプシロンロケットが内之浦宇宙空間観測所から打上げられた。

イプシロンロケット3号機による高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)の打上げ日時について(JAXAプレスリリース 平成30年1月16日)

昨年の技術的問題での年越し延期に続き、当初は前日の1月17日に予定されていた打上げが悪天候により更に1日延期された今回のイプシロンロケット3号機。
ロケットの打上げは「水物」で予定変更はつきものとは言え、なかなかに“追っかけ”の難易度が高かったが、幸いにも仕事の有給休暇を取ることが出来たので内之浦まで見に行って来ました!




打上げ予定時刻の2時間前の午前4時頃に内之浦宇宙空間観測所のお膝元・鹿児島県肝属郡肝付町内之浦に到着。
イプシロンロケットが打上げられるM台地が一望出来る宮原見学場へのバスツアーに申し込んでいない見学者は、内之浦漁港に設置された一般見学場へと誘導される。




夜明け前の寒空の下で、明るく照明を灯して温かな食べ物等を用意してくれていた物販テント村が嬉しい。
今夜は一晩中営業して見学者を迎えていたとのこと。


物販テント村で内之浦限定販売のイプシロンロケット3号機ミッションマークステッカーやピンバッヂを購入したりして、打上げの時間を待つ。
南国鹿児島のさらに最南端部にある内之浦とはいえ、真冬の夜明け前はかなり冷え込んだ…

寒さに耐えながら待つこと2時間。
午前6時前には、打上げ時刻に合わせて見学場内を全て消灯することと、消灯後は危険防止のために一切の場所移動を禁止するというアナウンスがかかる。
集まった見学者たちは思い思いの場所に陣取り、打上げの瞬間を待つ…

やがて見学場内に、内之浦宇宙空間観測所のイプシロンロケット管制センターからのターミナルカウントダウン読み上げ音声が流れ始め、緊張感がいやが上に高まる。
そして午前6時6分11秒…!



カウントゼロとリフトオフの瞬間、山の向こうにいきなり太陽が出現したかのように突如として光り輝く稜線。
生まれたばかりの小さな太陽は数秒遅れて山から飛び出し、辺りを焼き焦がしながら南へと飛び去る。凍てつく内之浦の夜明け前の空にイプシロンロケットのロケットロードが高く高く伸びてゆく…

リフトオフ後2分間足らずでSRB-A(第1段ロケットモータ)を燃やし尽くし、イプシロンロケット3号機は一旦夜空から姿を消す。
その後、慣性飛行しながら大気圏を突き破り宇宙空間に躍り出たイプシロンは不要になった衛星フェアリングと第1段モータを切り離し、約1分後に第2段モータに点火して夜空に再び姿を現す。
この時点で既に宇宙空間に出ている為にロケットモータの噴射炎は青白く輝き、噴射炎は南の空の一面を覆い尽くさんばかりに大きく広がっていく…







第2段モータが燃焼している間にロケットの高度は地上から200kmに達しようとしており、機体は衛星を地球周回軌道に投入するのに備えて地表と水平方向に向かっての飛翔へと遷移している。
この為、イプシロンロケットは自身が噴射した燃焼ガスの雲・ロケットロードを噴射炎で横から照らすような不思議な姿となり、まるで天を駆ける彗星のようにも見える…

リフトオフ後5分程で第2段モータも燃焼終了。再びイプシロンは姿を消す。この時点で地上高度は200km以上、飛行慣性速度は秒速5kmに迫ろうとしている。
そして約1分半の慣性飛行の後、第2段モータを切り離したイプシロンは第3段モータに点火、一気呵成に第一宇宙速度(秒速7.9km)まで加速する…!


…だがしかし、第3段モータが燃焼開始した直後にイプシロンの機体は内之浦の南の山並みの向こうに沈んでいき、視界から完全に姿を消した。
つまり物理的に目視での観測が可能な最後の瞬間まで、イプシロンロケット3号機は内之浦漁港から見えていた事になる。
こんなに条件が良かった打上げは滅多に無い。素晴らしい打上げだった!

でも、これで終わらなかったのだ。
イプシロンロケット3号機が見えなくなり、見学者も三々五々と帰り始めた時、さっきイプシロンが飛び去っていった方角に不思議な光がぼんやりと見えている事に気が付いた。
夜空に青く光る塊がある。「あっ、夜光雲が出てる!」

夜明け前や日没直後の時間帯の場合、ロケットの打上げ後の空に薄っすらと光る雲…夜光雲が出現する事はそれほど珍しい事ではない。
ロケットが噴射した燃焼ガスや化学物質が大気圏と宇宙空間との境い目付近の超高高度で凝結し、この高度には届いている太陽光線を受けて光り輝く現象であり、僕も以前に種子島宇宙センターから打上げられたH-IIAロケットの飛び去った後の空に紐状の雲が漂いながら薄っすらと白く光っているのを何度か見た事がある。
だが、このイプシロンロケット3号機が残した夜光雲は青く光っている。色付きの夜光雲というのは初めて見た…


その後、青い夜光雲の塊は上空の風に流されたのか解れるように紐状になり、色も白く変わった。
それと同時に空が薄明を帯び始め、夜明けの空に夜光雲が溶けて消えていく…

…いや、消えない!それどころか、どんどん明るさを増して輝き始めた!?





遂には、夜光雲はリボン状に伸びて空中に大きく広がり、色も七色に変わり始めた!!
何という…何という光景なんだ!!


リボンが重なったように太くなった部分が銀色に輝き始めた夜光雲と、オレンジ色に光る夜光雲。





銀色に輝くリボンはどんどん明るさを増す…


夜明けの空に七色の夜光雲のリボンが乱舞する…
そう、この不思議な光る雲はゆっくりと姿を変えて、まるで空で踊っているように見えたのだ。

…ここまで凄まじいと、美しさを超越して恐ろしささえ感じてしまう。





「これが、人間がつくったものだなんて…」





出現から1時間程も見えていたであろうか…
すっかり明るくなり日の出が迫った朝の空に、夜光雲はようやく薄れて消えていった。

…今回、初めてロケットに「畏怖」を感じた。
以前、自分自身が、筑波宇宙センターで行われたロケット打上げ見学経験者の座談会で「ロケットは人が作った神様」だと言った事があるのを思い出していた。
そして「それって、こういう意味だったのか…」と自分の言葉を噛み締めていた。


イプシロンロケット初号機に搭載されていた惑星分光観測衛星「ひさき」の名前の由来となった、内之浦の漁師の守り神が祀られた神聖な場所である火崎半島に朝陽が昇る。
イプシロンロケット3号機と七色の夜光雲は空の彼方に消え去り、何事も無かったかのようにまたいつもの平和な漁村・内之浦の日常が始まろうとしている…


帰る前に、昨夜は有料のバスツアーの参加者のみが入場を許された宮原見学場を見に行った。
見学者は帰ってしまい、物販テント村の撤去作業が行われていた。祭りの後の寂しさが漂う向こうに、空っぽになったM台地のEロケット発射装置整備塔とロケットランチャーが見える。


視線を南に移すと、イプシロンロケット3号機が飛び去って行った海が見える。
打上げから約52分35秒後に高性能小型レーダ衛星ASNARO-2はイプシロンロケット3号機から分離されて所定の軌道に投入され、打上げは成功した。
そして約90分後にはASNARO-2は地球を一周りして、再びこの内之浦の上空に帰って来ていた筈である。
…僕が夜光雲に見惚れたり恐れ慄いたりロケットに畏怖したりしている間に、またイプシロンの新しい衛星(ほし)が誕生していた。そう考えると、何だか急に可笑しくなってきた。

イプシロンロケット3号機による高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)の打上げ結果について(JAXAプレスリリース 平成30年1月18日)

さあ帰ろう!
あ、帰る前に内之浦のお土産の定番「ロケット最中」を買っていかないとね。
そして…次の内之浦宇宙空間観測所からのロケット打上げは来月早々、昨年失敗した観測ロケットSS-520の超小型衛星打上げ実証実験のリベンジだ。
忙しいな(笑)またすぐ来るぞ聖地・内之浦へ!