あら、ちょっと暖かい。年の瀬の貴重な1日。
by katasunori on Twitter
久しぶりに門前仲町を歩いてたら、新しいラーメン屋がオープンしてることに気づいた。博多金龍。名前からして博多ラーメンだった。
入店して気になったのが、本棚にある何百冊かの漫画単行本。あれー、博多ラーメンでしょう?長居させるつもりかね、なんて考えてたら、昼酌方が結構多くて納得、いや、納得はしない、なーるほどと思った。昼・夜出す料理が違ったりするところを二毛作店と呼んだりする。ここは同じメニューでずーっと酒を飲ませるところ、江戸の時代でいったら蕎麦屋みたいなもんか。
で注文。ラーメン、粉落とし。博多ラーメンらしく直ぐに物が出てくる。感心感心とスープを嗅ぐと、おや…この香りはなんだろう。獣臭とはちと違うなぁ。結局わからなかったし以降詮索もしない。麺はちょっと水を吸うとすぐモニョとなってしまうヘナチョコ細麺。これはいただけない。載ってるのはチャーシュー1枚、シナチク数本。
さて実食。うーん、不味い。久しぶりに不味い博多ラーメンを食った気がする。麺がダメ。粉落としでも針金でも、博多ラーメンを食ってる気がしないほど麺がヘナチョコで話にならない。スープが変だ。あれか、流行の博多ラーメンスープでも使っているのか。出汁をとってる感じもがしない。だから豚臭い、所謂獣臭がしないし、油も数種混ぜてある。
インスタントラーメンを食べてるようだったんで、早々店を後にした。ほら見たまえ、これが本物の博多ラーメンの食い方だよって、まあどうでもいいことだからもう最後に一言書いて仕舞いにしよう。不味いラーメンに二度目はない。
2011/12/24 14:14 東陽町 LYNX
僕はずいぶん前から、恋という難儀にとりつかれるたんびに、仏蘭西はジャン・コクトオの小説「大股開き」の一節を思い出すようになっている。これは、若年恋愛期における誰もが経験するであろう辛い失恋の折、たまたま当時耽溺していたコクトオの、流れるような随筆骨法を、訳文ではあるが、この身に仕舞い込んだものと、ひどく思い上がったことを書いておく。―――
ジャックは十二歳だった。彼は今でも思い出すのだ、トランクを失くした牧師さん、うつらうつらのうたた寝、樹脂の香りのたちこめたホテル、御婦人方がひとりトランプをやっており、紳士方が煙草をふかしたり、新聞を読んだりしているサロンへの場違いの闖入などなどを。ふと、エレベーターの網戸の前に足を止めると、突然エレベーターが降りてきて。二人の男女をおろすのだった。あさ黒い顔、星のような瞳、美しい歯なみを見せて笑っている青年と娘。
若い娘は白いドレスに青いベルトを締めている。青年はタキシードを着ている。皿の音が聞こえ、料理の臭いが廊下中に漂っている。
彼は一度、嵌め込み鏡の壁に面してドアが開く自分の部屋で、鏡に映っている自分の顔を見たことがある。自分の顔と、二人の男女を較べて見る。そして、死んでしまいたいような気持ちになるのだった。
ほどなく彼は若い二人と相知った。カイロに住んでいるアルメニア人の息子であるチグラン・ディプレオは、切手を蒐集したり、アルコール・ランプの上で胸の悪くなるような砂糖菓子を製造したりしていた。その妹イジーは、いつも新調の服を着て、靴の踵をつぶしてはいていた。二人は一緒にダンスを踊った。
踵のつぶれた靴と蜂蜜菓子とは、彼等が王族とはいえ卑しい家庭の子弟であることを証明していた。ジャックは彼らのおやつや、靴の穴にあこがれた。うらやましかった。この神聖な二匹の猫と同化する唯一の方法を、彼はそれらのものに見ていたのである。で、彼は切手を蒐集し、巴旦杏キャラメルを作りたいと思った。テニスの靴はわざとはきつぶした。
イジーは咳をしていた。彼女は結核であった。チグランはスケートで脚を折った。父親に電報が打たれた。そしてある朝、彼らは咳をしながら、びっこを引き引き、金狼神のような不思議な犬を連れて、出発した。
ジャックは咳をするのだった。母は心配で気も狂わんばかりだった。彼は母の悩みも知らぬ顔であった。恋患いの咳をしていたのである。そして、道々びっこをいていた。
毎晩、夕食がすむと、彼は詰藁の肘掛椅子に座って、聖母マリアの服をまとったイジーが、エレベーターの電飾明るい額縁の中で、ボーイとチグランの間に挟まれながら、天使たちに守られるようにして昇天して行く場面を、瞼の裏に描いていた。
十一歳から十八歳までの七年間を、彼は燃えやすく変な臭いのするアルメニア紙のように、めらめらと焼きつくした。
…母は遠慮しながらも、この沈黙を破ろうとして、
「ミュレンでお会いしたイジー・ディプレオを、お前、覚えているかい?」
彼女は毛糸の編目を数えている……
「カイロで亡くなったと新聞に出ているわ」
今度こそフォレスチエ婦人が編物を放り出す。ジャックが卒倒したのである。涙が彼の頬を流れる、心の底からあふれ出る涙が。
「ジャックや……坊や……」と彼女は叫ぶ、「どうしたって言うの?ジャック!」
彼女は息子を抱きしめて、ショールでくるむ。ジャックは返事もなく涙にむせぶ。
一つのベッドが彼の眼に浮ぶ。このベッドにつかまって、金狼神が立ち上がる。それは犬の顔をしている。そしてこの犬が、すでに病苦でミイラのように痩せ細った、冷たくしかも気高い、一人の娘の小さな顔を、ぺろぺろ舐めるのである。
―――
寝ても覚めても瞼に浮かぶは彼女の顔ばかりであり、僕はこうした事態から我が身と心が危険な状態にあることをさとるのだった。クリスマスから年末年始、僕は心の平衡を保ってゆけるつもりがしない。なぜなら今回はお相手が、引用イジー・ディプレオゆずりの頽廃的な佳人であり、気高く傷つきにくいダイアモンドの種族でもあって、どう考えても斬られるのはガラスの種族この僕の方であろうから。
2011/12/17 20:07 菊川 LYNX