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なぜ、土星の衛星タイタンの湖には一時的に魔法の島が現れるのか? 原因は多孔質構造の有機化合物にあるようです

2024年01月23日 | 土星の探査
土星の衛星タンタンの表面には、広大な液体メタンの湖が存在しています。
この湖にはいくつかの島がありますが、中には一時的に観測された後に消えてしまう“魔法の島(Magic Islands)”も見つかっています。

魔法の島がどのように出現するのかは、これまでのところ不明でした。

今回の研究では、有機物の多孔質な塊がメタンの湖に浮かぶ条件を探索。
その結果、魔法の島として観測される条件を満たしていることを示しています。

この魔法の島は、地球の海で一時的に出現し、最終的に沈んで消えてしまう軽石でできた幻の島に似ているようです。
この研究は、テキサス大学サンアントニオ校のXinting Yuさんたちの研究チームが進めています。
図1.タイタンのリゲイア海で観測された“魔法の島”。右上にある恒久的な地形と違い、一時的に出現したように見えるが、その出現理由はこれまで不明だった。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI & Cornell)
図1.タイタンのリゲイア海で観測された“魔法の島”。右上にある恒久的な地形と違い、一時的に出現したように見えるが、その出現理由はこれまで不明だった。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI & Cornell)


一時的に現れる魔法の島の正体

天体の表面を液体が覆っていることが観測されている地球以外で唯一の天体、それが土星の衛星タイタンです。
タイタンには分厚い大気に加えて気象や季節の変化もあることから、ある意味で地球と似通っている天体と言えます。

ただ、タイタンの平均気温はマイナス180℃と低く、表面の液体は水ではなくメタンを主体とした有機化合物になります。
図2.レーダー観測に基づき作成されたタイタンの地図。大小さまざまなメタンの湖(青色)が存在する。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI, USGS & T. Cornet (ESA))
図2.レーダー観測に基づき作成されたタイタンの地図。大小さまざまなメタンの湖(青色)が存在する。(Credit: NASA, JPL-Caltech, ASI, USGS & T. Cornet (ESA))
地図化されているタイタンの表面の一部には、日本列島の総面積より広いクラーケン海を始めとした大小様々な湖が存在し、いくつかの湖には島が見つかっていました。

これらの島は恒久的に存在する本物の島の場合もあれば、数時間から数週間だけ出現した後に消えてしまう島もあります。
一時的に存在する島のような構造は、地球においては“幻島”や“疑存島”と呼ばれますが、タイタンにおいては魔法の島(Magic Islands)と呼ばれています。

タイタンの地形はレーダーでのみ観測されているので、魔法の島の正体については、“電波を反射しやすいもの”という以上のことは分かっていませんでした。

これまでの予測には“湖の波による反射”や“湖に浮かんでいる有機化合物の塊”、“湖水の中の有機化合物による濁り”、“窒素ガスによる気泡”といったものがありました。


魔法の島は多孔質構造の有機化合物でできている

今回の研究では、タイタンの魔法の島がメタンの湖に浮かぶ固体の有機化合物ではないかと考え、タイタンの低温環境で生成される固体の有機化合物の種類や形状がメタンの湖に浮かぶものかどうかを調査しています。

最初に分かったのは、単純な計算では、どのような種類の有機化合物もメタンの湖に沈んでしまうこと。
これは、有機化合物の固体は、どれも液体のメタンよりも高密度で、その上メタンは表面張力が低いためでした。

一方で明らかになったのは、メタンにはすでに大量の有機化合物が溶け込んでいるので、メタンの湖に接触した有機化合物が溶けて消えることはないことでした。
図3.タイタンの環境で生成される有機化合物の種類と、それがどのような特性を持つのかをまとめた図。(Credit: Xinting Yu, et al.)
図3.タイタンの環境で生成される有機化合物の種類と、それがどのような特性を持つのかをまとめた図。(Credit: Xinting Yu, et al.)
そこで、研究チームが検討したのは、有機化合物の塊が密度の低いスポンジのような多孔質構造になっている可能性でした。
そのままでは沈んでしまう有機化合物の塊も、内部に隙間が多ければ密度が低下するので、メタンの湖に浮かぶ可能性があるからです。

多孔質な材料で発生する毛細管現象は表面張力を増大させるので、追加の浮遊力を与えます。
さらに、一度は湖に浮かんだ塊も時間が経てば隙間にメタンがしみこむことで密度が増加して沈んでしまうので、魔法の島が一時的な存在であることの説明になります。

こうした特徴とそっくりなのが地球の軽石です。
軽石は組成だけで単純計算すれば海水よりも高密度なので、海水に浮かぶことは考えられません。
でも、実際には隙間によって密度が低下しているので、海水に浮くことができます。

2021年に発生した福徳岡ノ場の噴火のように、大規模に放出された軽石が形成した軽石いかだはまるで島のように見えました。
そして、軽石は時間が経つにつれて徐々に海水を吸って沈んでしまいます。
図4.2021年の福徳岡ノ場の噴火で発生した軽石が海面を埋め尽くしている様子。このような軽石いかだは、まるで島のようにも見える。今回の研究では、タイタンの魔法の島は有機化合物の“軽石”でできていると予測されている。(Credit: 海上保安庁)
図4.2021年の福徳岡ノ場の噴火で発生した軽石が海面を埋め尽くしている様子。このような軽石いかだは、まるで島のようにも見える。今回の研究では、タイタンの魔法の島は有機化合物の“軽石”でできていると予測されている。(Credit: 海上保安庁)
計算の結果、隙間率が25~60%で直径が数ミリメートル以上の場合、有機化合物の“軽石”がメタンの湖に十分な時間だけ浮くことが可能だと示されました。

また、この軽石は地表で形成された可能性もありました。
最初は雪のように小さく複雑な形状の塊として地表に降り積もった有機化合物は、多孔質な塊を形成します。
やがて、自重によって氷河のように流れ出すと、湖畔の塊が湖面に張り出し、波や潮汐活動によって割れて浮遊する氷山のようになるはずです。

これらのことは、魔法の島の寿命が数時間から数週間であることと一致しています。

タイタンの環境は短時間での変化に富むユニークな性質を持つと同時に、地球から遠く離れているので観測が困難で、未だに多くの謎があります。
メタンの湖に出現する魔法の島は、その一例にすぎません。

タイタンにまつわる他の謎として、湖面が非常に滑らかという謎があります。
地球と比べるとずっと小さいものの、タイタンの湖にはわずかながら波や潮汐活動があると予測されています。
でも、レーダー観測では予想よりも小さな変化しか計測できていませんでした。

研究チームでは、メタンの湖に有機化合物の薄い“氷”が張っていることがその理由だと指摘。
魔法の島の形成プロセスと似ていることから、関連している現象ではないかと考えているようです。


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