今回は太陽系で木星に次いで2番目に大きな惑星のお話し。
土星は巨大なガス惑星ですが大型衛星はタイタンしかありません。
同じ巨大ガス惑星の木星には大型衛星が4つもあるのに、なぜ土星には大型衛星が1つしか無いのでしょうか?
今回、シミュレーションを用いた研究により、このメカニズムが初めて再現されたそうです。
巨大衛星が1つだけ誕生するメカニズム
土星には現在82個の衛星が見つかっています。
でも、その中で衛星タイタンだけが群を抜いて大きく、その質量は2番目に大きな衛星レアの約50倍もあります。
このことは、同程度に巨大な4つのガリレオ衛星が存在する木星とは対照的でした。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。
では、惑星の周りに大型衛星が一つしか存在しない衛星系は、どうやって誕生するのでしょうか?
これまで様々な理論研究が試みられてきました。でも、いまだに大きな謎なんですねー
衛星系とは、中心の惑星とその周りを回る衛星からなる星系。
生まれたばかりの惑星の周囲には、ガスやチリなどからなる円盤が形成され、その中で衛星が成長すると考えられています。
ただ、円盤にガスが残っている間は、軌道の外側のガスから衛星が後ろ向きに引っ張られるように力を受けることで、惑星の周囲を回転する勢いが失われていきます。
このため、多くの衛星はだんだん惑星に近づいていき、最終的に惑星に落ち込んでしまうはずです。
こうした環境をシミュレーションしたこれまでの研究では、円盤が消えるまでにすべての大型衛星が惑星に飲み込まれるか、複数の衛星が生き残るかのどちらかであり、1個だけ残るシナリオを描くことができませんでした。
ガスの温度差が衛星の“安全地帯”を作り出していた
衛星の回転運動を減速させる力は、円盤のガスの温度によって変化します。
でも、これまでの研究で行われてきた衛星の運動の計算では、円盤の温度や密度などが簡略化されていて、実際の円盤の状態と異なる可能性がありました。
そこで、今回の研究では、円盤を構成するガスやチリなどによる熱の放射や吸収の影響を取り入れ、円盤の温度や密度の状態をこれまでよりも詳細に計算。
そして、円盤での衛星の運動を重力多体シミュレーションで行い、詳しく解析しています。
計算に用いられたのは、国立天文台シミュレーションプロジェクトが運営する共同利用計算機の“計算サーバ”。
その結果、円盤のガスは一律に衛星を内側に引っ張るわけではないこと、惑星からある程度離れた領域では外向きの力が働く“安全地帯”が存在しうることが判明します。
円盤はガスの摩擦によって、惑星に近いほど暖かく、遠いほど冷たいという温度分布になっています。
そこで、研究チームが行ったのは“安全地帯”の詳細な計算でした。
すると、“安全地帯”の周辺がチリの影響によって内側と外側の温度差が、特に大きくなる領域だと分かります。
この急な温度差によって、衛星軌道の内側のガスと外側のガスから受ける力にも差が生じ、衛星が外側に押されることで、衛星が惑星に落ち込むことなくとどまれる領域ができていました。
この“安全地帯”に一時的に衛星がとらえられ、円盤のガスが散逸するまで生き残ると、衛星が一つだけ形成されることも可能になるわけです。
本当にこのようなシナリオが土星とタイタンで起こっていたのでしょうか?
このことを直接確認することは現時点ではできません。
ただ、今後は系外惑星の衛星も次第に観測されてくるはずです。
その観測から、土星のように大きな衛星が一つしかない衛星系がたくさん見つかれば、そのような衛星系の形成についての議論が大いに進展するでしょう。
この時に、このシナリオの正しさも議論され、問題の解明へと近づくのかもしれませんね。
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土星の環の寿命はちょうど中頃、あと1億年未満で消えてしまうかも…
土星は巨大なガス惑星ですが大型衛星はタイタンしかありません。
同じ巨大ガス惑星の木星には大型衛星が4つもあるのに、なぜ土星には大型衛星が1つしか無いのでしょうか?
今回、シミュレーションを用いた研究により、このメカニズムが初めて再現されたそうです。
巨大衛星が1つだけ誕生するメカニズム
土星には現在82個の衛星が見つかっています。
でも、その中で衛星タイタンだけが群を抜いて大きく、その質量は2番目に大きな衛星レアの約50倍もあります。
このことは、同程度に巨大な4つのガリレオ衛星が存在する木星とは対照的でした。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。
では、惑星の周りに大型衛星が一つしか存在しない衛星系は、どうやって誕生するのでしょうか?
これまで様々な理論研究が試みられてきました。でも、いまだに大きな謎なんですねー
衛星系とは、中心の惑星とその周りを回る衛星からなる星系。
生まれたばかりの惑星の周囲には、ガスやチリなどからなる円盤が形成され、その中で衛星が成長すると考えられています。
ただ、円盤にガスが残っている間は、軌道の外側のガスから衛星が後ろ向きに引っ張られるように力を受けることで、惑星の周囲を回転する勢いが失われていきます。
このため、多くの衛星はだんだん惑星に近づいていき、最終的に惑星に落ち込んでしまうはずです。
こうした環境をシミュレーションしたこれまでの研究では、円盤が消えるまでにすべての大型衛星が惑星に飲み込まれるか、複数の衛星が生き残るかのどちらかであり、1個だけ残るシナリオを描くことができませんでした。
惑星と衛星が誕生する様子を再現したイラスト。土星のようなガス惑星が生まれたときに周りを取り巻いていたガスやチリの円盤の中で、固体成分が集積して衛星が形成される。(Credit:名古屋大学) |
ガスの温度差が衛星の“安全地帯”を作り出していた
衛星の回転運動を減速させる力は、円盤のガスの温度によって変化します。
でも、これまでの研究で行われてきた衛星の運動の計算では、円盤の温度や密度などが簡略化されていて、実際の円盤の状態と異なる可能性がありました。
そこで、今回の研究では、円盤を構成するガスやチリなどによる熱の放射や吸収の影響を取り入れ、円盤の温度や密度の状態をこれまでよりも詳細に計算。
そして、円盤での衛星の運動を重力多体シミュレーションで行い、詳しく解析しています。
計算に用いられたのは、国立天文台シミュレーションプロジェクトが運営する共同利用計算機の“計算サーバ”。
その結果、円盤のガスは一律に衛星を内側に引っ張るわけではないこと、惑星からある程度離れた領域では外向きの力が働く“安全地帯”が存在しうることが判明します。
円盤はガスの摩擦によって、惑星に近いほど暖かく、遠いほど冷たいという温度分布になっています。
そこで、研究チームが行ったのは“安全地帯”の詳細な計算でした。
すると、“安全地帯”の周辺がチリの影響によって内側と外側の温度差が、特に大きくなる領域だと分かります。
この急な温度差によって、衛星軌道の内側のガスと外側のガスから受ける力にも差が生じ、衛星が外側に押されることで、衛星が惑星に落ち込むことなくとどまれる領域ができていました。
この“安全地帯”に一時的に衛星がとらえられ、円盤のガスが散逸するまで生き残ると、衛星が一つだけ形成されることも可能になるわけです。
衛星と惑星の距離が時間変化する様子をシミュレーションした結果の例。シミュレーション開始時に7つあったタイタンと同じ質量の衛星が、円盤状のガスの中を移動し、時間とともに衛星の軌道が変化していく。ほとんどの衛星が惑星に落ち込んでいくが、最初に一番外側に置いた衛星だけは、ガスが散逸しきるまで惑星に落ち込まずに生き残る。(Credit:Fujii & Ogihara, A&A, 202) |
円盤で生まれた衛星(黒丸)が生き残る過程のシミュレーション結果。青い領域では衛星は惑星(左)に向かって引きずられ、赤い領域では外向きに動く。時間とともに多くの衛星が次々と内側に移動し惑星に落ち込むが、一番外側に位置していた衛星は途中から赤で示された“安全地帯”の範囲に位置し、ガスが散逸し終わるまで残った。(Credit:Fujii & Ogihara, A&A, 2020) |
本当にこのようなシナリオが土星とタイタンで起こっていたのでしょうか?
このことを直接確認することは現時点ではできません。
ただ、今後は系外惑星の衛星も次第に観測されてくるはずです。
その観測から、土星のように大きな衛星が一つしかない衛星系がたくさん見つかれば、そのような衛星系の形成についての議論が大いに進展するでしょう。
この時に、このシナリオの正しさも議論され、問題の解明へと近づくのかもしれませんね。
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