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土星の衛星エンケラドスの地下海の水からアミノ酸の源として重視される“シアン化水素”を発見! 生命誕生の環境条件は存在する?

2024年01月09日 | 土星の探査
厚い氷の層に覆われた海を持つ土星の小さな衛星“エンケラドス”。
エンケラドスではプルーム(間欠泉、水柱)が観測されていて、地表にある割れ目から宇宙空間に向けて海水を噴き上げているんですねー

そのプルームに含まれる物質は、NASAの土星探査機“カッシーニ”による観測から、その中には生命との関連が指摘されている炭素化合物がいくつか見つかっています。 

ただ、プルームを分析した機器の1つ“INMS(イオン・中性質量分析器)”のデータから推定される分子の種類の組み合わせは無数にあるんですねー
なので、これまでの研究では議論の余地が少ないいくつかの物質が同定されているだけでした。

そこで、今回の研究では、“INMS”のデータを分析。
無数に考えられる分子の組み合わせの中から、最も妥当と思われるものを決定しています。

この研究で一番注目されるのは、アミノ酸の源として重視されている“シアン化水素”を発見したこと。
他に発見された多種多様な分子の存在も合わせると、エンケラドスの氷の下の環境は極めてエネルギッシュで、生命誕生の環境条件が存在する可能性は一段と高まったことになります。
この研究は、ジェット推進研究所(JPL)のJonah S. Peterさん、Tom A. Nordheimさん、およびKevin P. Handさんの研究チームが進めています。
図1.今回の研究で検出されたプルーム中の分子の例。(Credit: Jonah S. Peter, Tom A. Nordheim & Kevin P. Hand.)
図1.今回の研究で検出されたプルーム中の分子の例。(Credit: Jonah S. Peter, Tom A. Nordheim & Kevin P. Hand.)


候補が多すぎる分子の候補

エンケラドスは、表面全体が氷で覆われた低温の天体ですが、南極付近に間欠泉があり、水のプルームが噴き出しているのが観測されています。

この活発な表面活動から、エンケラドスは土星や他の衛星の重力の影響“潮汐力”を受けて地質活動が活発化し、氷の下に海と火山活動があるのではないかと考えられています。(※1)
※1.ほぼ球体のエンケラドスも、惑星や他の衛星に接近することで重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星や衛星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱によりエンケラドス内部は熱せられることになる。このような強い重力“潮汐力”により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を“潮汐加熱”という。
エンケラドスのプルームは“カッシーニ”による観測で、水の中に二酸化炭素、メタン、アンモニア、水素が含まれていることが判明しています。
これらは、エンケラドスの氷の下に火山活動がある証拠ではないかとみられています。

また、プルームには塩化ナトリウムやリン化合物の他に、多種多様な炭素化合物が含まれていることが示唆されています。

これらが、生命の活動に関連しているのかは不明です。
でも、生命が誕生・生息しやすい環境があるのではないかという希望を持たせる発見でした。

ただ、カッシーニの観測機器の1つ“INMS”のデータには、これまで同定されていない無数の分子があることが分かっています。
さらに、このデータから推定される分子の種類と組み合わせは無数にあり、候補となる物質が複数存在していました。

“INMS”のデータから実際にプルームに含まれている分子を同定するには、いくつかの候補を仮定してデータ分析をする必要があります。
でも、その候補が多すぎて、これまで同定する作業が進んでいませんでした。


プルームからシアン化水素を発見

そこで、今回の研究で試みているのは、“INMS”のデータを分析し正体不明の分子を同定することでした。

データを分析するに当たっては、含まれていると思われる候補の分子を仮定するだけでなく、その候補が含まれていないと仮定した場合も考慮しています。

その理由は、候補分子が含まれていると仮定した場合の分析結果と比べて、候補分子が含まれていないと仮定した場合の分析結果が良くない場合、候補分子が実際に存在する可能性が高まるからです。

そして、分析の結果突き止めたのは、いくつかの分子が含まれている可能性が極めて高いこと。
その中でも特に注目されたのが“シアン化水素”でした。

シアン化水素は窒素を含む単純な炭素化合物で、同じく窒素が重要な構成部品となるアミノ酸の元となると考えられています。

地球やその他の天体における生命誕生の研究において、シアン化水素はアミノ酸の生成過程でほぼ必ずと言っていいほど現れる分子です。
このため、生命の存在が議論されているエンケラドスにおいて、シアン化水素の発見は極めて重要なものとなりました。

今回の分析では、その他にアセチレンやプロピレン、エタンなど、いくつかの有機化合物が同定されています。

また、同定精度は低くなるものの、ブタノールと思われる大きな分子の有機化合物や、アルゴン40、硫化水素、ホスフィンなど、地質活動に関連しているいくつかの分子も見つかっています。

エンケラドスのプルームに関する分析初期の段階で注目されたのは、二酸化炭素・メタン・水素の組み合わせが見つかったことでした。
その理由は、これらの分子が海底の熱水噴出孔のような、化学エネルギーを大量かつ継続的に与える環境が整っていることを示唆するためです。

でも、今回の研究で示唆された多種多様な化合物の存在は、エンケラドスの化学エネルギー供給源が、これまでの推定よりもずっと活発であることを示しています。

エンケラドスの生命の存在を考える上で、この発見は朗報ともいえる発見といえますね。


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