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合体前のブラックホールは、ある決まった質量を持つものが多い? チャープ質量から分かる合体前のブラックホール1個が持つ質量の目安

2023年10月06日 | ブラックホール
重力波の源となる連星ブラックホールには、似た質量を持つものが多いという観測結果の謎を解くモデルが提唱されました。
この謎を解くカギは外層を失った近接連星にあるようです。

ブラックホール連星の合体が原因の重力波

2015年に地上の重力波望遠鏡が、ブラックホール連星の合体が原因の重力波を初めて検出しました。

それ以来、“LIGO”や“Virgo”、“KAGRA”などの重力波望遠鏡で日常的に重力波が検出されるようになっています。

ブラックホール連星は互いの周りを公転しながら重力波を放出し、だんだんと距離が近づいて…
最後には合体して1個のブラックホールになります。

放出される重力波は、ブラックホール同士の距離が近づくほど周波数が高く、振幅が大きなっていきます。

この特徴的な重力波は“チャープ(chirp : 甲高く鳴くという意味)”と呼ばれていて、チャープの波形から“チャープ質量”という量を求めることができます。
ブラックホール連星から放出される重力波を描いたイラスト。重力波は時空の歪みとして宇宙空間に伝わり、ブラックホール同士が近づくにつれて周波数が高く、振幅が大きくなる。(Credit: Deborah Ferguson, Karan Jani, Deirdre Shoemaker, Pablo Laguna, Georgia Tech, MAYA Collaboration)
ブラックホール連星から放出される重力波を描いたイラスト。重力波は時空の歪みとして宇宙空間に伝わり、ブラックホール同士が近づくにつれて周波数が高く、振幅が大きくなる。(Credit: Deborah Ferguson, Karan Jani, Deirdre Shoemaker, Pablo Laguna, Georgia Tech, MAYA Collaboration)
チャープ質量は、2個のブラックホールの質量の和と積で表すことができ、2個の質量の幾何平均(2つの質量をかけて平方根をとった値)に近い値をとります。

大雑把に言えば、合体前のブラックホール1個が持つ質量の目安がチャープ質量になります。

なので、チャープ質量が分かれば、2個のブラックホールそれぞれの質量も計算できるわけです。

合体前のブラックホールはある決まった質量を持つものが多い

これまでに検出されている重力波イベントでは、チャープ質量が太陽質量の約8倍または約14倍という現象が最も多く、これらの中間のチャープ質量を持つ現象はなぜかほとんど見つかっていません。

つまり、合体前のブラックホールは、ある決まった質量を持つものが多いことになります。

この“チャープ質量のギャップ”について、ドイツ・ハイデルベルグ理論研究所のFabian Schneiderさんたちの研究チームでは、近接連星がブラックホール連星に進化して合体するというモデルを使って解析を行っています。
近接連星のイラスト。一方の星が赤色巨星になって膨張し、外層のガスが相手の星に降着する様子。(Credit: ESO/M. Kornmesser/S.E. de Mink)
近接連星のイラスト。一方の星が赤色巨星になって膨張し、外層のガスが相手の星に降着する様子。(Credit: ESO/M. Kornmesser/S.E. de Mink)
この研究では、近接連星の星で起こる“外層の剥ぎ取り”に着目してシミュレーションを実施。

近接連星では、片方の星が赤色巨星に進化して膨張すると、膨らんだ外層のガスが剥ぎ取られて相手の星に降着することに。
外層を失ってコアだけになった星は、やがて超新星爆発を起こしてブラックホールになります。

近接連星では、2つの星がそれぞれこのような進化を経て、最終的にはブラックホールになります。

解析の結果分かってきたのは、近接連星の両方の星が外層の剥ぎ取りを受けてブラックホール連星になる場合、ブラックホールの質量が太陽質量の約9倍か約16倍になることが多いこと。
この傾向は、重元素をあまり含まない近接連星でもほぼ同じものでした。

この結果から、重力波源のチャープ質量が太陽質量の約8倍と14倍にピークを持ち、中間がほとんどないという観測結果は、近接連星からできたブラックホール連星にこうした質量の偏りがあるせいだと考えれば説明できます。

チャープ質量がいつも同じになるという今回の結果は、どのようにブラックホールが生まれるかを私たちに教えてくれるだけでなく、どの星が超新星爆発を起こすかを推測するのにも使えます。

ただ、重力波イベントの検出数はまだ少ないので、チャープ質量にギャップがあるという観測事実自体が幻だという可能性もあります。

“LIGO”は5月24日から第4期の観測(O4)を開始していて、今後重力波の検出数が増えることで、ブラックホールの合体についてより理解が深まるかもしれません。


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