宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

活発な赤色矮星の近くを回る惑星の宿命? 間欠的に大気を流出させる惑星がトランジット現象で見つかる

2023年10月07日 | 宇宙 space
若い赤色矮星を回る系外惑星から、水素ガスが流出している様子が観測されました。
その惑星からは、水素ガスは現れたり消えたりしていて、その原因についていくつかの説が考えられているようです。

主星の近くを公転する若い系外惑星

表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星と呼びます。

実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星になるんですねー

地球から約32光年の彼方に位置する“けんびきょう座AU”も、年齢が約2300万年と推定されてる若い赤色矮星(M方矮星)です。

2020年にNASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”とNASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”によって、“けんびきょう座AU”を公転する系外惑星“けんびきょう座AU b”がトランジット法で発見されています。
トランジット法は、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る。
“けんびきょう座AU b”は、主星からわずか960万キロの距離(水星の軌道半径の約1/10)を8.46日周期で公転しているガス惑星です。

半径は地球の約4倍あり、海王星よりやや大きく、これまでに発見された系外惑星の中で最も若いものの一つになります。

惑星から流出した水素による減光

今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて“けんびきょう座AU b”によるトランジット現象を1年3か月おいて2回観測。
すると、最初のトランジット現象では普通の減光しか観測されなかったのが、2回目のトランジット現象では、“けんびきょう座AU b”本体による減光に先立って、“けんびきょう座AU b”から流出した水素による減光がはっきりとらえられました。
この研究は、アメリカ・ダートマス大学のKeighley Rockcliffeさんたちの研究チームが進めています。
“けんびきょう座AU b”の大気がまるで高速列車のヘッドライトのように、“けんびきょう座AU b”の“前方”に吹き出しているようでした。
主星“けんびきょう座AU”(赤)の手前を通過する惑星“けんびきょう座AU b”(黒)のイメージ図。この惑星は、活発な主星に極めて近い軌道を公転しているので、激しい恒星風と紫外線が惑星の大気を加熱して水素ガスが流出している。(Credit: NASA, ESA, and Joseph Olmsted (STScI))
主星“けんびきょう座AU”(赤)の手前を通過する惑星“けんびきょう座AU b”(黒)のイメージ図。この惑星は、活発な主星に極めて近い軌道を公転しているので、激しい恒星風と紫外線が惑星の大気を加熱して水素ガスが流出している。(Credit: NASA, ESA, and Joseph Olmsted (STScI))
トランジット現象を起こす系外惑星が、これほど短い間に、流出大気を全く検出できない状態から、はっきり検出できる状態に移り変わるのは初めてのことでした。

若い赤色矮星の活動

“けんびきょう座AU”のような赤色矮星は、天の川銀河の中で最もありふれた恒星で、天の川銀河に存在する系外惑星の大半は赤色矮星を主星に持つと考えられています。

でも、こうした赤色矮星を回る惑星は、生命の存在に適していないのかもしれません。

特に大きなハードルは、若い赤色矮星は激しいフレアを発生させ、有害な放射線を出すということです。

恒星大気の運動によって強力な磁場がもつれフレアを発生させます。
大気の動きが非常に強いと磁力線が切れてつなぎ変わり、太陽フレアの100~1000倍という莫大なエネルギーを放出。
これによって恒星風とフレアとX線が惑星を直撃することになります。

しかも、こうした赤色矮星の活動期は太陽のような星よりずっと長くなります。

こうした灼熱の環境では、主星の誕生から1億年後までに生まれた惑星は大気のほとんどを流出させてしまうか、完全に大気を失ってしまうかもしれません。

赤色矮星は、太陽よりも小さく表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置がハビタブルゾーンになります。

ハビタブルゾーンは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が存在できる領域。
この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられています。

でも、大気を失ってしまうと惑星表面に液体の水も存在していませんよね。

間欠的にガスが流出するという現象

それでは、赤色矮星の活動が落ち着いた後に惑星はどのように見えるのでしょうか?

最終的に、生命の存在可能性はあるのでしょうか、ただの焼け焦げた惑星になっているのでしょうか。
大気のほとんどを失い、コアだけが残ってスーパーアースになるでしょうか。

このような惑星は太陽系には存在しないので、最終的な惑星の姿は全く分かりません。

“けんびきょう座AU b”の大気の変化は、主星からの物質放出が急速に極端な変化を見せることを反映しているのかもしれません。

1回目のトランジット現象の7時間前には、主星で強力なフレアが発生していたことが分かっていて、1回目に水素ガスが検出されなかったのは、惑星から流出した水素ガスが、このフレアによって電離されたせいかもしれません。

もう1つの説明として、主星の恒星風自体が惑星からの大気の流出を引き起こしているという可能性もあります。
これは、恒星風の変化によって、惑星の前方に“しゃっくり”のように間欠的にガスが流出するという現象です。

こちらは、いくつかのモデルでも予測されていて、今回の観測はこの“しゃっくり”現象が実際に起こっていることを示す初の観測的証拠なのかもしれません。
研究成果の解説動画“Hubble Sees Evaporating Planet Gettingu The Hiccups”(Credit: NASA Goddard Space Flight Center, Lead Producer: Paul Morris)


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿