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天の川銀河を公転する衛星銀河はいくつあるのか? ダークマターの塊の中でどのようにして星ができて銀河に進化するのか

2024年07月01日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラが撮像した最新のデータの中から、私たちの住む天の川銀河に付随する衛星銀河を新たに2個発見しています。

研究チームが以前に発見した衛星銀河も合わせると、天の川銀河の周りには、理論予測の倍以上の衛星銀河が存在することが明らかになりました。
このことは、銀河の形成史とそれを左右するダークマターの性質に対して、新たな問題を投げかける発見となるようです。
この研究は、本間大輔(国立天文台)、千葉柾司(東北大学)、小宮山裕(法政大学)、田中賢幸(国立天文台)、岡本桜子(国立天文台)、田中幹人(法政大学)、石垣美歩(国立天文台)、林航平(仙台高専)、有本信雄(元国立天文台)、Robert H. Lupton(プリンストン大学)、Michael A. Strauss(プリンストン大学)、宮崎聡(国立天文台)、Shiang-Yu Wang(台湾中央研究院天文及天体物理研究所)、村山斉(東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構)たちの研究チームが進めています。
本研究の成果は、天文学と天体物理学の学術雑誌“欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)”の電子版に、Homma et al. 2024, "Final Results of Search for New Milky Way Satellites in the Hyper Suprime-Cam Subaru Strategic Program Survey: Discovery of Two More Candidates"として2024年6月8日付で掲載されました。
図1.おとめ座の方向で見つかった矮小銀河“Virgo III”の位置(左図)と、その星々(右図;白丸で囲まれた天体)。矮小銀河には暗い星しかないので、星がまとまって存在している部分を探し出して、その存在を同定する。右図の破線の内側にメンバー星が集中している。(Credit: 国立天文台/東北大学)
図1.おとめ座の方向で見つかった矮小銀河“Virgo III”の位置(左図)と、その星々(右図;白丸で囲まれた天体)。矮小銀河には暗い星しかないので、星がまとまって存在している部分を探し出して、その存在を同定する。右図の破線の内側にメンバー星が集中している。(Credit: 国立天文台/東北大学)


より大きな銀河の周囲を公転する銀河

重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河を衛星銀河(伴銀河ともいう)と呼びます。
私たちの住む天の川銀河には、周囲を公転している“衛星銀河”が50個以上見つかっていて、大マゼラン雲と小マゼラン雲もその衛星銀河に含まれています。

それでは天の川銀河には、いくつの衛星銀河があるのでしょうか?
このことは長年、天文学者が抱えてきた重大な問題になっています。

宇宙初期の急加速膨張“インフレーション”の際に生じた密度ゆらぎがもとになり、ダークマターの密度の空間的なゆらぎが重力によって成長。
そのダークマターの重力に引き寄せられた水素やヘリウムが集まり、星や銀河が作られてきたと考えられています。

もちろん衛星銀河も例外ではないので、その数の問題はダークマターの性質、つまりその正体に関わっているはずです。

ダークマターの標準理論(※1)では、天の川銀河のような銀河の周りには千を超えるダークマターの塊と、それに対応する小さな銀河、つまり衛星銀河が存在すると予測されていました。
※1.標準理論では、ダークマターの正体は質量に対する運動エネルギーが低い“冷たい暗黒物質”と呼ばれる素粒子群とされている。
でも、これまでの観測で見つかっているのは数十個の衛星銀河… (図2)
この、ダークマターの標準理論と観測との数の食い違いは、“ミッシングサテライト問題”と呼ばれてきました。

この問題を解決するには、ダークマターの正体が標準理論と異なるもので塊の数がもっと少ないのか、あるいはダークマターの塊の中でガスから星が生まれる過程に問題があるのかを解明する必要があります。
図2.天の川銀河の衛星銀河の3次元地図。天の川銀河円盤の面を水平面に取っている。青四角は大・小マゼラン雲、赤円はその他の衛星銀河で、可視の絶対等級が暗いほど小さなサイズで描画されている。本研究で新たに発見された2つの銀河“Virgo III”と“Sextans II”の位置は矢印で示されている。(Credit: 国立天文台/東北大学)
図2.天の川銀河の衛星銀河の3次元地図。天の川銀河円盤の面を水平面に取っている。青四角は大・小マゼラン雲、赤円はその他の衛星銀河で、可視の絶対等級が暗いほど小さなサイズで描画されている。本研究で新たに発見された2つの銀河“Virgo III”と“Sextans II”の位置は矢印で示されている。(Credit: 国立天文台/東北大学)


まだ発見されていない暗い衛星銀河を探す

ミッシングサテライト問題の解決へのもう一つの糸口として、まだ発見されていない暗い衛星銀河(矮小銀河)(※2)が、天の川銀河の遠方に多く存在している可能性も考えられていました。
※2.光度が暗く小さな銀河を矮小銀河と呼ぶ。
そのような暗い矮小銀河の探査に威力を発揮するのが、8.2メートルという大口径を持つすばる望遠鏡と超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”の組み合わせです。

とても暗い天体を空の広い範囲から探す上で、すばる望遠鏡と“HSC”は世界最強のコンビと言えます。
今回の研究では、“HSC”を用いて広い天域を観測する大規模サーベイ“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”で得られたビッグデータから、矮小銀河の探査を進めています。(図3)

“HSC-SSP”のデータは、解析後に順次公開されていきます。
その中から、これまでに研究チームは、おとめ座、くじら座、うしかい座の方向に、次々と新しい矮小銀河を見つけてきました(それぞれVirgo I、Cetus III、Bootes IV)。
そして今回、最新の公開データからは、新たに2個の矮小銀河“Virgo III”と“Sextans II”を発見しています。

これらは全て、太陽系から30万光年以上離れた距離にあることも分かりました。
図3.“HSC-SSP”で観測された天域(赤戦で囲んだ領域)。これまで知られていた衛星銀河を黒四角、新たに発見したものを白三角と星印で示している。(Credit: 国立天文台/東北大学)
図3.“HSC-SSP”で観測された天域(赤戦で囲んだ領域)。これまで知られていた衛星銀河を黒四角、新たに発見したものを白三角と星印で示している。(Credit: 国立天文台/東北大学)


衛星銀河とダークマターの関係

“HSC-SSP”の天域(図3、約1140平方度)には、以前から4個の矮小銀河が知られていました。
なので、研究チームによる発見を合わせると、見つかった矮小銀河の数は合計で9個になります。

実は、この数は最新の理論で予想される衛星銀河の数をかなり上回るんですねー
この背景として、ミッシングサテライト問題を発端に、矮小銀河の形成を抑える過程の理論研究の展開もありました。

そして、最新の最も確からしい分析から予測されるのは、天の川銀河には全部で220個程度の衛星銀河が存在すること。
これを“HSC-SSP”の観測天域と観測可能な明るさの限界に適用すると、3個から5個の衛星銀河が見つかることになります。

でも、実際には9個の衛星銀河が見つかっているので、天の川銀河全体に換算すると、少なくとも500個の衛星銀河が存在することになってしまいます。
今度は“ミッシングサテライト問題”ではなく、“衛星銀河が多すぎる問題”に直面することになりました。

これは、衛星銀河と同程度の大きさのダークマターの塊の中で、一体どのようにして星ができて銀河になるのか、という基本的な物理過程の問題と考えられます。

現状では、星の形成にブレーキをかけすぎた結果になっているので、その過程を計算する精度が足りていないのか、あるいは、見落とされている物理過程があるのか、などを再検討する必要がありそうです。

ただ、少なくとも当初のミッシングサテライト問題は解決できそうな状況で、ダークマターの標準理論が生き残れる状況になってきたと言えます。

一方、今後はより広い天域で、さらに暗い矮小銀河まで探査範囲を拡げ、衛星銀河の個数の統計精度を上げていく必要があります。
その一つに、アメリカが中心となって南米チリに建設中のヴェラ・C・ルービン天文台の“大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)”が行う大規模探査があります。

望遠鏡のあるチリから観測できる天域全てを探査する観測が始まるのは来年の予定。
多くの新しい衛星銀河が発見され、ダークマターとその中の銀河形成過程が抱える問題が一挙に解決されることが期待されます。


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