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銀河全体の5%に満たないリング銀河を大量検出! 銀河の渦巻き構造とリング構造を検出するAIプログラムによる成果

2024年03月29日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、市民天文学“GALAXY CRUISE”の分類データを活用し、深層学習アルゴリズムを用いて銀河形態の大規模分類を行っています。

その結果、すばる望遠鏡が7年かけて構築した画像データベースから、40万天体に及ぶ渦巻銀河と3万天体ものリング銀河を検出することに成功しました。

本研究の成果は、昨年報告されたGALAXY CRUISEの分類結果を活用した第一例。
今後もこのような市民天文学と、すばる望遠鏡による競争的研究成果が続々と出てくることが期待されます。
この研究は、早稲田大学、国立天文台、東京大学の研究者からなる研究チームが進めています。
本研究の成果は、日本天文学会欧文研究報告書“Publications of the Astronomical Society of Japan; PASJ”に2024年1月29日付で掲載されました。
GALAXY CRUISEで市民天文学者が選んだおよそ900天体のリング銀河を活用し、AIによってその数を3万天体超に増やすことに成功。(Credit: 国立天文台)


銀河の大規模分類と多様性の起源

人間社会と同様に、宇宙における銀河社会でも、銀河一つ一つの姿かたちや性質はそれぞれ異なっていて、その違いも大小様々です。

私たちのいる天の川銀河の他にも多くの銀河があることが、エドウィン・ハッブルによって発見されて以降、こうした銀河の多様性の成り立ち、銀河合体やブラックホール活動との因果関係を明らかにするために、観測と理論による数多くの研究が長年地道に行われてきました。

近年はAIの発展に伴い、かつてない大規模な銀河分類の効率化が実現できる時代に突入し、銀河の大規模分類と多様性の起源の追及は、データ天文学の黎明期を象徴する一大テーマとして躍進が期待されています。

ここ最近は生成AIが脚光を浴びていますが、天文学では人の目による分類も依然として強力です。
その代表例として、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”(※1)による、大規模画像データを利用した、市民天文学プログラム“GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)”が挙げられます。

“GALAXY CRUISE”では、すばる望遠鏡の世界屈指の視力と“HSC”の超広視野を用いて得られた高品質画像と、1万人を超える市民天文学者の目による分類が合わさることで、高精度な銀河の形態分類が実現。
なかでも、銀河衝突・合体など特殊な条件下で形成されるリング構造のような形態もあるので、こうした珍しい兆候の正確な分類には、市民天文学者の慧眼が不可欠でした。
※1.“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラといえる。


銀河の渦巻き構造とリング構造を検出するAIプログラム

今回の研究では、この“GALAXY CRUISE”から集められた約2万天体分の貴重な分類データをAIに学習させることで、銀河の渦巻き構造とリング構造を検出するAIプログラムを構築しています。

これを、“HSC”による大規模サーベイ“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”の約7年分のデータ(第3期データリリース)に適用することで、およそ70万天体に及ぶ銀河の大規模分類を実現。
その中から、約40万天体の渦巻き銀河と3万天体超のリング銀河を検出することに成功しました。

特に、銀河全体の5%に満たないリング銀河の大量検出ができたことは、情報の少ないリング構造の成り立ちや性質を統計的に明らかにする上で重要なことでした。

これにより、研究チームが発見したのは、リング銀河が天の川銀河のような成熟した星形成銀河(主に渦巻銀河)と、星形成活動を終えて衰退する銀河(渦巻の無い銀河)との中間的な性質を持つ傾向にあることでした。
このことは、スーパーコンピュータを用いた最新の理論予測とも合致するもので、銀河のリング構造の理解に向けて一歩前進したと言えます。

また、本研究の成果は、科学コミュニティにおける市民参加の意義を再認識するもの。
市民天文学者と、すばる望遠鏡が協力して切り拓く、未来の天文学研究に向けた新たな一歩となるはずです。

AIを使った分類は、70万天体もあっても1時間にも満たない処理で済みます。
ただ、“GALAXY CRUISE”が2年以上かけて集めた分類データがなければ、本研究は実現していませんでした。
プロジェクトに参加された市民天文学者のおかげと言えます。
これからも市民天文学者との協働研究が国内でさらに盛り上がってくれば、様々な研究や発見に非常に面白い結果として表れてくるはずです。


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