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新星爆発が生命にとって必須元素のリンを桁違いに多く供給していた? 超新星起源説では説明できないリン元素の化学進化

2024年05月13日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
遺伝子を合成するのにリンは不可欠な元素です。

そのリンは、一体宇宙のどこで作られるのでしょうか?
この疑問について、これまで私たちは明確な答えを持っていませんでした。

今回の研究では、白色矮星の中で最も重い星の表面で生じる爆発によって、大量のリンが合成されることを突き止めています。

さらに、その爆発頻度、つまり宇宙へのリンの供給率も分かってきました。
46憶年前の太陽系誕生時は、現在よりもリンの要求率は高かったことようです。
この研究は、国立天文台 JASMINEプロジェクト 辻本拓司助教、西オーストラリア大学 国際電波天文学研究センター 戸次賢治教授たちの国際共同研究チームが進めています。
本研究の成果は、アメリカの天体物理学雑誌“アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ”オンライン版に、“Phosphorous Enrichment by ONe Novae in the Galaxy”として2024年5月10日付で掲載されました。
図1.新星爆発によるリン生成から地球における生命(DNA)誕生までの概念図。新星とは、白色矮星と進化の進んだ恒星からなる連星系において、恒星からのガスが白色矮星の表面に降り積もることで生じる爆発現象。その際の核融合反応で大量のリンが合成される。この新星爆発で合成されたリンは、やがて宇宙塵や隕石の一部として地球に降り注ぎ、遺伝子であるDNAなどを合成し、生命の誕生へとつながったと考えられる。(Credit: 国立天文台)
図1.新星爆発によるリン生成から地球における生命(DNA)誕生までの概念図。新星とは、白色矮星と進化の進んだ恒星からなる連星系において、恒星からのガスが白色矮星の表面に降り積もることで生じる爆発現象。その際の核融合反応で大量のリンが合成される。この新星爆発で合成されたリンは、やがて宇宙塵や隕石の一部として地球に降り注ぎ、遺伝子であるDNAなどを合成し、生命の誕生へとつながったと考えられる。(Credit: 国立天文台)


リン元素はどのようにして作られたのか

リンは、生命にとって欠かすことのできないとても貴重な元素です。
それは、遺伝子であるDNA、RNA、そして細胞膜を作るのにリンは不可欠だからです。

生物の体は細胞からできているので、その全ての細胞にリンは含まれていることになります。
では、そのリンはどのようにして作られたのでしょうか?

全ての元素は宇宙の誕生と進化を通して生み出されたものになります。
つまり、全てが宇宙起源と言えます。

最初に、宇宙の誕生と同時に水素が作り出されました。
この水素はあらゆる元素の原点となるべき素材となるので、元素創世の産声があげられたことになります。

そして、宇宙誕生から数億年という時間が経過した頃、宇宙に最初の星が生まれることになります。
その星の中で炭素や酸素といった、それまでの宇宙には存在しなかった新たな元素が次から次へと生み出されて行きます。

生み出された元素は、その星が一生の最期に起こす大爆発“超新星”などの現象によって、宇宙にばら撒かれることになります。

この超新星という星の死に伴う現象によって、星が一生の間に作り上げてきた元素と、爆発の際に合成される元素からなる多種多様な元素が、宇宙空間にばら撒かれていきます。

リンもこの超新星によって合成、そして放出されると考えられていました。
つまり、私たちの体内にあるリンは、全て超新星由来という考えが、これまでの定説となっていたんですねー

でも、この“リンの超新星起源説”では、観測事実を説明できないことも分かっていました。


超新星起源説では説明できないリンの化学進化

私たちは、銀河系(天の川銀河)でリンの存在量(ガス中に含まれるリン含有量)が、昔から現在に至るまでどのように変化してきたかを、星の分光観測から化学組成を測ることで知ることができます。

星には、とても古い100億歳を超えるものから、生まれたばかりの若い星まで存在します。
それらの星の化学組成は、その星々が生まれた時の銀河の様々な元素の存在量を教えてくれます。

つまり、たくさんの年齢の違う星のリンの含有量を測ることで、100億年以上の天の川銀河の歴史の中で、どのようにリンの量が変化してきたかを知ることできます。
つまり、リンの化学進化が分かってくる訳です。

このように観測で明らかにされたリンの化学進化が、超新星起源説では全く説明できなかったのです。
超新星で予測されるリンの合成量が、観測から期待される量に全然足りないのです。


白色矮星と普通の星の連星系で起こる爆発現象

この原因は、超新星の元素合成理論モデルの何らかの問題という暗黙の認識の下、その解決への努力は長年放置されていました。

そういう状況の中、今回西オーストラリア大学と国立天文台との国際共同研究チームは、超新星以外にリンを合成する天体が他にあるのではないかという予測を立て、研究球を続けていました。
そして、この他の天体というのが“新星”であることを突き止めています。

新星は、突如星が明るく輝くように見える現象。
白色矮星と普通の星の連星系で起こる爆発現象になります。

まず、相手の星から白色矮星に向かってガス(主に水素)が少しずつ降り積もりと、やがて積もったガス層の底で水素の核融合反応が始まります。
この反応は、恒星の中心部で起こる安定した核融合とは違い、いったん反応が始まるとガスの温度が上がり続けていくんですねー

白色矮星は、この温度上昇によって、ますます反応速度が上がるという不安定な性質を持つことに…
この暴走した核融合反応によって、降り積もったガスと白色矮星の物質の一部が爆発的に宇宙空間に吹き飛ばされる現象が新星爆発です。

爆発の頻度は白色矮星の質量や、降り積もるガスの量によって変わってきます。
新星爆発には数千年~数万年ごとに爆発する“古典新星”や、数十年おきに爆発を繰り返す“再帰新星(回帰新星、反復新星)”などがあります。


新星はリンを桁違いに多く供給している

白色矮星は、宇宙に存在する多くの星の終焉の姿で、太陽も数十億年後には白色矮星となり現在のような輝きを失ってしまいます。
ただ、太陽は連星系に無いので、将来新星爆発を起こすことはありません。

今回注目されたのは、太陽の7~8倍という白色矮星になる星としては最も重い星が起源のもの。
平均質量が0.6太陽質量の中で、太陽質量の約1.3倍という白色矮星でした。

このような重い白色矮星は、酸素、ネオン、マグネシウムから構成されていて、これに由来する新星は通常“酸素・ネオン新星”と呼ばれています。

これまで新星が元素を供給する場として注目されることは、リチウムという元素を除いてはほとんどありませんでした。
これは、新星で作られる元素量が、星全体の爆発である超新星などに比べて圧倒的に少ないからです。

ところが、今回の研究で見出されたのは、酸素・ネオン新星でリンが他の元素とは異なり桁違いに多く作られること。
そして、同じ酸素・ネオン白色矮星で新星爆発が10億年以上の間に何度も繰り返し発生することを計算に入れると、その最終的な合成量は超新星を大きく凌駕することが分かりました。

図2に、今回初めて明らかにされた天の川銀河の誕生時から現在までの120億年にわたる、リンの比率の進化が描かれています。
図2.天の川銀河におけるリンの鉄に対する比率の120億年にわたる進化を示す観測結果と、それを解釈するための今回明らかにされた理論的シナリオ。リン進化の歴史は大きく3つの時代に大別することができる。観測データは個々の星における鉄の量とリン鉄比の相関を示す。青いデータは近紫外線観測で得られたもので、地上からの観測ではなく、ハッブル宇宙望遠鏡による観測で得られたもの。一方、赤いデータは地上での近赤外線観測で得られたもの。ただ、リンの吸収線が非常に弱いので、観測ターゲットは金属量が高い星に限られてしまう。新星より早く超新星が化学進化への寄与を始めるので、初期のリンはすべて超新星由来となる。また、新星の発生頻度は金属量に依存していて、少ないほうが高くなる傾向がある。Ia型超新星とは重い星の爆発のものとは別種の超新星で、鉄を多く放出するがリンは合成しない。爆発までに時間がかかるので銀河形成初期には寄与せず、80億年前以降の化学進化を促進する。(Bekki & Tsujimoto 2024から転載。)
図2.天の川銀河におけるリンの鉄に対する比率の120億年にわたる進化を示す観測結果と、それを解釈するための今回明らかにされた理論的シナリオ。リン進化の歴史は大きく3つの時代に大別することができる。観測データは個々の星における鉄の量とリン鉄比の相関を示す。青いデータは近紫外線観測で得られたもので、地上からの観測ではなく、ハッブル宇宙望遠鏡による観測で得られたもの。一方、赤いデータは地上での近赤外線観測で得られたもの。ただ、リンの吸収線が非常に弱いので、観測ターゲットは金属量が高い星に限られてしまう。新星より早く超新星が化学進化への寄与を始めるので、初期のリンはすべて超新星由来となる。また、新星の発生頻度は金属量に依存していて、少ないほうが高くなる傾向がある。Ia型超新星とは重い星の爆発のものとは別種の超新星で、鉄を多く放出するがリンは合成しない。爆発までに時間がかかるので銀河形成初期には寄与せず、80億年前以降の化学進化を促進する。(Bekki & Tsujimoto 2024から転載。)
まず、最初の酸素・ネオン新星がリンを供給し始める前に生まれた星のリン含有量の観測結果から、超新星はリンが少量しか作られないという、これまでの理論計算が正しかったことが分かりました。

さらに分かったのは、今からおよそ80億年前の宇宙で、重い新星からのリンが徐々に蓄積されていった結果、他の元素(鉄など)に対するリンの比率が最も高くなっていたことでした。

その後、現在に向かって徐々に重い新星が発生する頻度が低くなったこと、また同時に他の元素が別種の超新星で合成されていったことから、天の川銀河内でのリンの比率は減少していったと考えられます。

このことから、太陽系が生まれた46億年前の天の川銀河では、現在よりリンは効率よく生産され、豊富に存在していたようです。
そう、地球が誕生した46億年前の宇宙は、生命を生み出しやすい環境だったと言えそうです。

図3で示されているのは、本研究で提案された“リン新星起源説”に基づいて計算されたモデル結果です。

新星からは、各爆発で放出されるガスの量にはばらつきがあることが観測的に分かっていますが、それをモデルに導入することで、観測データに見られる大きな分散をうまく説明できています。
一方、これまでの超新星モデルでは、観測データの傾向を説明できていなかったことも分かります。
また、今回のモデルの正当性の検証は将来可能です。

重い新星ではリンと同時に、“塩素”を大量に合成することも分かりました。
そのため、天の川銀河における塩素の進化は、リンと同様の進化を辿ることが想像できます。

一方、現時点では星での塩素の観測は、大きな困難を伴うので数少ない星でしか行われておらず、塩素の進化の道筋を知ることはできていません。
そこで、研究チームが企画しているのは、多くの星について塩素の含有量を観測で明らかにすることです。
図3.理論モデルと観測データの比較。今回新たに提案された“新星モデル”は観測をうまく説明できている。一方、これまでの“超新星モデル”は観測データと合致しないことが分かる。」観測データの大きな分散は、重い新星からのガス放出量の違いを反映していると考えられる。(Bekki & Tsujimoto 2024から転載。超新星モデルはCescutti et al. 2012, Astronomy and Astrophysics 540, A33より抜粋。)
図3.理論モデルと観測データの比較。今回新たに提案された“新星モデル”は観測をうまく説明できている。一方、これまでの“超新星モデル”は観測データと合致しないことが分かる。」観測データの大きな分散は、重い新星からのガス放出量の違いを反映していると考えられる。(Bekki & Tsujimoto 2024から転載。超新星モデルはCescutti et al. 2012, Astronomy and Astrophysics 540, A33より抜粋。)


星の表面で起こる小爆発が生命を宇宙にもたらした?

リンがもし、これまでの定説通り超新星だけでしか作られていなければ、この宇宙に生命が生まれることはなかったかもしれません。

星の大爆発という華々しい超新星に比べれば、星の表面での小爆発という、派手ではない一見地味な天体現象が、生命を宇宙へもたらした重要なイベントであった可能性を本研究は示唆しています。

地球上で、どのようにして生命が誕生したのかは、未だに謎に満ちています。

主流の考えに基づくと、リンを始めとした生命に必須の元素が地球上で凝縮したところでの一連の化学反応を通して、最初の生命がおよそ38億年前に誕生しました。

これら生命起源の化学物質は隕石や宇宙塵が、現在よりもはるかに多い量が高い頻度で地球誕生期の数億年にわたり地球へ降り積もったことからもたらされたと考えられています。

これら太陽系始原物質に重い新星起源のリンが大量に含まれていたことが、地球での生命誕生へとつながったと考えることもできます。
新星は、宇宙生物学(アストロバイオロジー)において重要な役割を果たしていると言えますね。


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1 コメント

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マルテンサイト千年ものづくりイノベーション (サムライグローバル鉄の道)
2024-08-19 23:11:15
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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