ある天体の近くを別の天体が公転している場合、潮汐力によって内部が過熱されて地質活動が活発になることがあります。
そのような天体の一例が木星の衛星イオです。
イオは、ほぼ常に複数の火山が噴火しているほど地質活動が活発です。
今回の研究では、地球から約66光年離れた恒星“HD 104067”について、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”による観測データを分析。
その結果、これまで見逃されていた3番目の惑星の候補を見つけています。
今回見つかった惑星候補“TOI-6713.01”は、他の惑星からの潮汐力によって表面温度が最大約2400℃に加熱され、全体がマグマで覆われているようです。
近くからは、まるで“スター・ウォーズ”に登場する惑星“ムスタファー”のように見えるそうです。
さらに、近い将来には“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を観測できる可能性もあるようです。
潮汐力によって天体の内部が変形し加熱される現象
地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生しています。
このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼びます。
潮の満ち引きほど目立ちませんが、潮汐力は岩石や氷のような硬い個体にも働いています。
別の天体の重力がもたらす潮汐力によって、天体の内部が変形し加熱される現象があります。
この現象は“潮汐加熱”といい、内部の変形を繰り返すことで発生した摩擦熱により、天体内部は熱せられることがあります。
潮汐力は、天体同士の距離が激しく変化するほど強くなる傾向にあります。
一番分かりやすいのは、天体の公転軌道が主星に対して円形でない(離心率が大きい)場合です。
離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。
たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離の差は約4万km。
地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれています。
この離心率が大きい(楕円)の公転軌道を持つ天体は、主星に近づくたびに内部の変形が起こり摩擦熱が発生することになります。
太陽系の衛星の中で最も火山活動が活発な天体
太陽系内には、潮汐力を受けている天体が地球の他にも複数存在しています。
その典型的な例が木星のガリレオ衛星です。
ガリレオ衛星は、木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)のことです。
ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれています。
衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができたわけです。
ガリレオ衛星の1つエウロパの公転軌道は真円に近く、木星から受ける潮汐力が大きいことから、地球の月のように公転周期と自転周期が一致し、常に同じ面を木星に向ける“潮汐ロック”という現象が発生しています。
さらに、他のガリレオ衛星からも潮汐力を受けているので、エウロパでは内部の氷が解けて、地下に広大な海が存在するのではないかと考えられています。
衛星イオも、木星と他のガリレオ衛星から潮汐力を受けていますが、その影響はもっと激しいものとなっています。
潮汐力による内部の加熱により、イオの表面には最高で1300℃にも達する熱い火山が無数にあり、高温のマグマを放出。
内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になります。
イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。
地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体になります。(※1)
潮汐力による過熱と恒星からの放射により全体がマグマで覆われ惑星
太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、惑星同士の距離が木星のガリレオ衛星並みに近いものも複数見つかっています。
惑星同士の距離の近さから連想されるのは、ガリレオ衛星のイオのような潮汐力によって極端に加熱された惑星の存在。
このような惑星は、時に“スーパー・イオ”と呼称されます。
今回、研究チームは、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”の観測データを分析する作業の中で、恒星“HD 104067”のデータに注目。
“HD 104067”には、この研究以前に2個の惑星が見つかっていて、研究チームが見つけたのは3個目の惑星の存在を示すデータでした。
3つ目の惑星が公転しているのは、“HD 104067”惑星系の中で最も内側。
その公転周期はわずか約2.15日で、直径は地球の約1.30倍だと推定されています。
論文の発表時点では、本当に惑星が存在しているかどうかは確定していませんでした。
なので、この惑星には“TESS”のデータから発見された惑星候補を示す“TOI”(※2)から始まる、“TOI-6713.01”という名前が付けられています。
研究チームの計算から分かったのは、潮汐力の強さはイオの数百万倍(8垓6000京W)にも達すること。
この極端な状況を、研究チームでは“完璧な潮汐嵐(A Perfect Tidal Storm)”と表現し、論文のタイトルとしています。
潮汐力による過熱と恒星からの放射を合わせると、“TOI-6713.01”の表面温度は最大で2373℃(2647K)まで加熱されていると予測されます。
これは、表面の岩石が溶ける温度を十分に上回っているので、予測通りであれば“TOI-6731.01”は表面全体がマグマで覆われているはずです。
マグマからの熱放射を直接観測
潮汐力による過熱と恒星からの放射で加熱された“TOI-6713.01”は、まるで“スター・ウォーズ”に登場する火山とマグマに覆われた惑星“ムスタファ―”のように、赤く光る惑星のように見えるはずです。
地球から遠く離れている“TOI-6713.01”ですが、惑星の状況を間接的に知ることができる可能性はあります。
それは、“TOI-6713.01”の表面温度が、低温の恒星の表面よりも高い温度に達していると予測されているからです。
高い表面温度により、“TOI-6713.01”からは赤外線が放射されているはずです。
その赤外線を観測データから抽出できれば、惑星について何か分かるかもしれません。
残念ながら、今回の観測で使用された“TESS”の場合、観測できる波長の範囲が狭いことや、“TOI-6713.01”からの放射が弱すぎるので、赤外線放射の観測データを抽出することはできませんでした。
でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような高い赤外線感度と高性能な分光器を持つ望遠鏡が使用できれば、“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を直接観測できるかもしれません。
もし、観測に成功した場合、惑星全体がマグマで覆われているような極端な環境を持つ惑星について、潮汐力と熱の関係に関する興味深いケーススタディとなるはずです。
そのためには、まず“TOI-6713.01”の存在を確定し、より多くの観測データをそろえる必要がありますね。
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そのような天体の一例が木星の衛星イオです。
イオは、ほぼ常に複数の火山が噴火しているほど地質活動が活発です。
今回の研究では、地球から約66光年離れた恒星“HD 104067”について、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”による観測データを分析。
その結果、これまで見逃されていた3番目の惑星の候補を見つけています。
今回見つかった惑星候補“TOI-6713.01”は、他の惑星からの潮汐力によって表面温度が最大約2400℃に加熱され、全体がマグマで覆われているようです。
近くからは、まるで“スター・ウォーズ”に登場する惑星“ムスタファー”のように見えるそうです。
さらに、近い将来には“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を観測できる可能性もあるようです。
この研究は、カリフォルニア大学リバーサイド校のStephen R. Kaneさんたちの研究チームが進めています。
図1.表面がマグマで覆われた高温の惑星のイメージ図。(Credit: NASA, ESA, CSA & Dani Player(STScI)) |
潮汐力によって天体の内部が変形し加熱される現象
地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生しています。
このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼びます。
潮の満ち引きほど目立ちませんが、潮汐力は岩石や氷のような硬い個体にも働いています。
別の天体の重力がもたらす潮汐力によって、天体の内部が変形し加熱される現象があります。
この現象は“潮汐加熱”といい、内部の変形を繰り返すことで発生した摩擦熱により、天体内部は熱せられることがあります。
潮汐力は、天体同士の距離が激しく変化するほど強くなる傾向にあります。
一番分かりやすいのは、天体の公転軌道が主星に対して円形でない(離心率が大きい)場合です。
離心率とは、公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値。
真円は0、楕円は0よりも大きくて1よりも小さく、放物線は1、双曲線は1よりも大きくなります。
たとえば、月の公転軌道は離心率0.0549の楕円形なので、地球に近付く時と遠ざかる時の距離の差は約4万km。
地球に近付いて大きく見えるタイミングの満月はスーパームーンと呼ばれています。
この離心率が大きい(楕円)の公転軌道を持つ天体は、主星に近づくたびに内部の変形が起こり摩擦熱が発生することになります。
太陽系の衛星の中で最も火山活動が活発な天体
太陽系内には、潮汐力を受けている天体が地球の他にも複数存在しています。
その典型的な例が木星のガリレオ衛星です。
ガリレオ衛星は、木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)のことです。
ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれています。
衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができたわけです。
ガリレオ衛星の1つエウロパの公転軌道は真円に近く、木星から受ける潮汐力が大きいことから、地球の月のように公転周期と自転周期が一致し、常に同じ面を木星に向ける“潮汐ロック”という現象が発生しています。
さらに、他のガリレオ衛星からも潮汐力を受けているので、エウロパでは内部の氷が解けて、地下に広大な海が存在するのではないかと考えられています。
衛星イオも、木星と他のガリレオ衛星から潮汐力を受けていますが、その影響はもっと激しいものとなっています。
潮汐力による内部の加熱により、イオの表面には最高で1300℃にも達する熱い火山が無数にあり、高温のマグマを放出。
内部を加熱する熱の発生量は100兆ワットと推定されていて、これは地球の熱(47兆ワット)の2倍以上になります。
図2.NASAの探査機“ニューホライズンズ”によって撮影された、イオの3つの火山が同時に噴火している画像。(Credit: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Southwest Research Institute) |
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。
地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体になります。(※1)
※1.金星では2023年に、現在でも地質活動が続いている可能性が高い証拠が見つかっている。でも、噴火は確認されていない。
潮汐力による過熱と恒星からの放射により全体がマグマで覆われ惑星
太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星(系外惑星)の中には、惑星同士の距離が木星のガリレオ衛星並みに近いものも複数見つかっています。
惑星同士の距離の近さから連想されるのは、ガリレオ衛星のイオのような潮汐力によって極端に加熱された惑星の存在。
このような惑星は、時に“スーパー・イオ”と呼称されます。
今回、研究チームは、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”の観測データを分析する作業の中で、恒星“HD 104067”のデータに注目。
“HD 104067”には、この研究以前に2個の惑星が見つかっていて、研究チームが見つけたのは3個目の惑星の存在を示すデータでした。
3つ目の惑星が公転しているのは、“HD 104067”惑星系の中で最も内側。
その公転周期はわずか約2.15日で、直径は地球の約1.30倍だと推定されています。
論文の発表時点では、本当に惑星が存在しているかどうかは確定していませんでした。
なので、この惑星には“TESS”のデータから発見された惑星候補を示す“TOI”(※2)から始まる、“TOI-6713.01”という名前が付けられています。
※2.TOIは“TESS Objects of Interest”の略で、日本語では“TESSの観測によって得られた関心の高い天体(候補)”という意味となる。
“TOI-6713.01”には、より外側の軌道を公転する惑星が存在していること、それら惑星同士の距離が近いことから、重力による潮汐力を受けていることが考えられます。研究チームの計算から分かったのは、潮汐力の強さはイオの数百万倍(8垓6000京W)にも達すること。
この極端な状況を、研究チームでは“完璧な潮汐嵐(A Perfect Tidal Storm)”と表現し、論文のタイトルとしています。
潮汐力による過熱と恒星からの放射を合わせると、“TOI-6713.01”の表面温度は最大で2373℃(2647K)まで加熱されていると予測されます。
これは、表面の岩石が溶ける温度を十分に上回っているので、予測通りであれば“TOI-6731.01”は表面全体がマグマで覆われているはずです。
マグマからの熱放射を直接観測
潮汐力による過熱と恒星からの放射で加熱された“TOI-6713.01”は、まるで“スター・ウォーズ”に登場する火山とマグマに覆われた惑星“ムスタファ―”のように、赤く光る惑星のように見えるはずです。
地球から遠く離れている“TOI-6713.01”ですが、惑星の状況を間接的に知ることができる可能性はあります。
それは、“TOI-6713.01”の表面温度が、低温の恒星の表面よりも高い温度に達していると予測されているからです。
高い表面温度により、“TOI-6713.01”からは赤外線が放射されているはずです。
その赤外線を観測データから抽出できれば、惑星について何か分かるかもしれません。
残念ながら、今回の観測で使用された“TESS”の場合、観測できる波長の範囲が狭いことや、“TOI-6713.01”からの放射が弱すぎるので、赤外線放射の観測データを抽出することはできませんでした。
でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のような高い赤外線感度と高性能な分光器を持つ望遠鏡が使用できれば、“TOI-6713.01”のマグマからの熱放射を直接観測できるかもしれません。
もし、観測に成功した場合、惑星全体がマグマで覆われているような極端な環境を持つ惑星について、潮汐力と熱の関係に関する興味深いケーススタディとなるはずです。
そのためには、まず“TOI-6713.01”の存在を確定し、より多くの観測データをそろえる必要がありますね。
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