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宇宙から降り注ぐ宇宙線“空気シャワー”の可視化に成功! ダークマターの探査・物質優勢宇宙の成因の探査に応用できるかも

2023年10月30日 | 宇宙 space
今回、国立天文台や大阪公立大学などの研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(※1)で撮られた2万枚もの画像を解析。
すると、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の“空気シャワー”を、非常に高い空間分解能で可視化できることを発見したんですねー

この新しい検出手法を発展させることで期待されるのは、宇宙線の粒子種の解明や、ダークマターの探査です。
さらに、物質優勢の宇宙の解明につながるようですよ。
※1.“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラといえる。
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで可視化された高エネルギー宇宙線の2次粒子群(空気シャワー; 図では黄色で表されている)。天体観測では宇宙線は厄介なノイズになるが、研究ではそのノイズに着目している。(Credit: NAOJ/HSC Collaboration)
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで可視化された高エネルギー宇宙線の2次粒子群(空気シャワー; 図では黄色で表されている)。天体観測では宇宙線は厄介なノイズになるが、研究ではそのノイズに着目している。(Credit: NAOJ/HSC Collaboration)

高エネルギー粒子群の飛跡

宇宙空間には高エネルギーの放射線(宇宙線)が存在していて、地球に絶えず降り注いでいます。

中でも非常に高いエネルギーを持った宇宙線は、地球大気に入射すると大量の電子や陽電子、ミューオンなどからなる高エネルギー粒子群(空気シャワー)となって地表に到達します。

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで撮影された画像には、その宇宙線がCCDを貫通することで生じる飛跡(図1,2)として、1回の撮影につき約2万個映り込んでいるんですねー

ただ、宇宙線の飛跡は、星や銀河を観測する天体観測においてノイズになるので、通常はデータ処理の過程で除去されてしまいます。
図2.(左)宇宙線がCCD内を通過した時に残る飛跡の概念図。(右)超広視野主焦点カメラのカメラ部分には、6センチ×3センチの大型CCDが116枚並べられている。(Credit: 大阪公立大学/HSC Project)
図2.(左)宇宙線がCCD内を通過した時に残る飛跡の概念図。(右)超広視野主焦点カメラのカメラ部分には、6センチ×3センチの大型CCDが116枚並べられている。(Credit: 大阪公立大学/HSC Project)
今回の研究では、2014年~2020年にかけて超広視野主焦点カメラを用いた大規模撮像探査“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”で撮影された画像約17,000枚について、映り込んだ宇宙線の飛跡を詳しく再解析しています。(※2)
その結果、13枚の画像で通常の飛跡数をはるかに上回る、空気シャワーの粒子群がとらえられていたことを突き止めています。
※2.この研究は、国立天文台ハワイ観測所の川野元聡 特任研究員、小池美知太郎 研究技師、宮崎聡 教授、大阪公立大学の藤井俊博 准教授、Fraser Bradfield 大学院生、千葉工業大学の諸隈智貴 主席研究員、法政大学の小宮山裕 教授たちの研究チームが進めています。
これらの空気シャワーは、高い解像度で撮影されていて、その飛跡が同じ方向を向いていることから、非常にエネルギーの高い1つの宇宙線から生成された2次粒子群であることが明らかになりました。

このような事象が系統的に解析され、専門誌に報告されたのは初めてのこと。

シャワーを検出するには、それが広がる前の高山で観測する必要があります。
また、検出器の厚みが充分でないと、長い軌跡を記録することはできません。

標高4200メートルという高地に設置され、空乏層の厚いCCDを採用したすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを長期間観測運用したからこそ、初めて得られたデータでした。
超広視野主焦点カメラとすばるHSC戦略枠観測プログラムのユニークさを、全く別の角度からも示した事例と言えます。

ダークマターや物質優勢宇宙の成因の探査へ

従来の宇宙線検出器(※3)は、入射した宇宙線の総粒子数と時刻情報を記録するもので、空気シャワーを構成している粒子の種類(電子や陽電子、ミューオン)は区別できませんでした。
※3.宇宙線検出器には、プラスチックなどの物質内を宇宙線が通過した際の微弱な蛍光発光を検出するシンチレーターや、水中の荷電粒子からのチェレンコフ光を検出する水チェレンコフ光検出器などがある。
一方、超広視野主焦点カメラに搭載されているCCDを使えば、各飛跡の形からミューオンか電子であるかを個別に判断できる可能性があります。

空気シャワーの粒子がこれほど詳細に見えたことは、宇宙線研究の新たな方法を拓く可能性があり、とても興味深いことと言えます。

将来的には、この研究の新しい観測手法と伝統的な観測手法の特徴を活かし、宇宙線の解明に重要な質量組成(粒子種)の決定が可能になるかもしれません。

さらに、超広視野主焦点カメラがとらえた空気シャワーには、ダークマター由来の信号が含まれている可能性も示唆されているので、ダークマター探査への応用も考えられます。

また、高精度でとらえられた飛跡の詳細な解析からは、物質優勢の宇宙(※4)の成因を探るなど、新たな研究を切り開く可能性も期待できます。
※4.宇宙の始まりでは物質と反物質が同じだけ存在していたと予想されている。でも、現在の宇宙では反物質が消え去り、物質が大部分を占めている。この状態を“物質優勢”という。反物質が消える理由は明らかになっておらず、私たちの知らない物理法則が関連していると考えられている。
宇宙線の飛跡は、天体画像においては補正の対象となる宇宙線イベントになります。

でも、今回の研究成果が示しているのは、すばるHSC戦略枠観測プログラムという長期にわたる一様な観測データを解析することで、元々の観測目的ではなかった科学の領域にまで有効な情報を引き出せる可能性でした。

高エネルギー粒子の観測手法についての知見はもちろん、一様な品質が保証されたデータアーカイブの重要性についての示唆も与えてくれる結果になりましたね。

今回の研究成果は、Springer Nature社の国際学術誌“Scientific Reports”に2023年10月12日付で掲載されました(Kawanomoto et al. "Observing Cosmic-Ray Extensive Air Showers with a Silicon Imaging Detector")。


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