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磁石星は白色矮星同士の合体から形成される? 驚異的な速さで回転している非常に若いマグネターから分かったこと

2024年08月15日 | 宇宙 space
宇宙には太陽の約2倍の質量を都市ほどの大きさに凝縮させた超高密度星“中性子星”が存在しています。
その中でも、特に強力な磁場を持ち、パルサーのように高速で回転しながら周期的な電磁パルスを放射している天体を“マグネター(磁石星:magnetar)”と呼びます。
マグネターは、その極限的な物理状態から、天文学の分野において近年大きな注目を集めています。

マグネターは、その誕生の過程や進化、なぜこれほどまでに強力な磁場を持つに至ったのかなど、多くの謎に包まれた天体です。

天文学者たちは、これらの謎を解き明かすために、様々な観測や理論研究を進めています。
その重要な手掛かりの一つとなるのが、マグネターの正確な位置や速度、その誕生からの時間スケールです。

今回の研究では、超長基線電波干渉計“VLBA”を用いた3年間の観測により、マグネター“Swift J1818.0-1607”を新たに発見しています。

本研究で得られた精度の高い位置や速度に関するデータからは、“Swift J1818.0-1607”までの距離は約9.4キロパーセクと測定。
この測定結果は、これまでで最も正確なマグネターまでの距離の一つとなりました。

さらに、このマグネターから明らかになったのは、観測史上最も遅い横断速度を持つこと。
このことは、マグネターの起源や進化に関する、これまでの理解に疑問を投げかけるものとなっています。

この発見は、マグネターが若いパルサーとは異なるプロセスで誕生する可能性を示唆していて、今後のマグネターの形成メカニズムの解明に期待が寄せられています。
この研究は、国立天文台水沢VLBI観測所のハオ・ディンさんを中心とした天文学者の国際チームが進めています。
本研究の詳細は、アメリカの天体物理学雑誌“アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ”オンライン版に“VLBA Astrometry of the Fastest-spinning Magnetar Swift J1818.0−1607: A Large Trigonometric Distance and a Small Transverse Velocity”として2024年8月付で掲載されました。DOI:10.3847 / 2041-8213 / AD5550
図1.マグネター“Swift J1818.0-1617”のイメージ図。(Credit: NSF, AUI, NSF NRAO, S. Dagnello.)
図1.マグネター“Swift J1818.0-1617”のイメージ図。(Credit: NSF, AUI, NSF NRAO, S. Dagnello.)


重力で潰れたコンパクトな天体

太陽のおよそ8倍以上の質量を持った恒星が、進化の最終段階で鉄の中心核を作ると、鉄は宇宙で最も安定した元素なので、それ以上は核融合を行えなくなってエネルギーを作り出せなくなります。

恒星は、中心核で起こる核融合反応により自らエネルギー(外向きの圧力)を生成することで、重力(内向きの圧力)によって潰れるのを回避しています。
なので、核融合ができなくなると重力によって潰れる“重力崩壊”を起こすことになります。

この重力崩壊によって中心核の密度が十分高くなると、外側から落ちてくる物質を中心核で跳ね返して“II型超新星爆発”を起こすと考えられています。

その爆発の後に残されるのがコンパクトな天体です。
重力崩壊に対抗できる力が存在せず、無限に潰れてしまった天体はブラックホールとなり、ブラックホールとなる手前で重力崩壊が停止した天体は中性子星となります。

原子から構成される恒星とは異なり、中性子星は主に中性子からなる天体で、半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていています。

中性子星の中でも、規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体がパルサーです。
多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーと呼ばれています。
パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが、自転とともに変化しているからだと考えられています。

マグネター(磁石星:magnetar)は中性子星の一種で、10秒程度の自転周期を持つ、主にX線で輝く天体。
100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていて、磁気エネルギーを開放することで輝くと考えられています。
X線やガンマ線などのバーストを起こすことが知られています。


わずか数百歳と推定される非常に若いマグネター

天の川銀河の中心部であるバルジの反対側、いて座の方向約22,000光年… マグネターの中では比較的地球に近い場所に“Swift J1818.0-1607”は位置しています。

“Swift J1818.0-1607”が発見されたのは2020年初頭のこと。
1.36秒という驚異的な速さで回転していて、これまで知られているマグネターの中で最速の回転速度を誇っていました。
その年齢は、わずか数百歳と推定されていて、これは天文学的な時間スケールでは非常に若いものと言えます。

マグネターは、その強力な磁場の減衰によって莫大なエネルギーを放出していて、これがX線やガンマ線での明るい放射として観測されています。
でも、このエネルギー放出は長続きせず、マグネターは比較的短命な天体だと考えられています。

“Swift J1818.0-1607”は、電波でも明るい放射を示していて、これはマグネターを取り巻くプラズマが高速回転することで発生するシンクロトロン放射によるものだと考えられています。
この電波放射こそが、超長基線電波干渉計“VLBA”による高精度なアストロメトリ観測を可能にしました。


複数の電波望遠鏡を組み合わせたマグネターの精密観測

VLBAは複数の電波望遠鏡を組み合わせて同時に観測を行うとことで、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の非常に高い解像度を実現しています。
このように複数の電波望遠鏡の観測データを合成して、一つの観測データとして扱う手法を“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線電波干渉計)”と呼びます。

地球が太陽の周りを公転することによって生じる、天体の見かけの位置の変化が年周視差です。
この見かけの位置の変化量を測定することで、三角測量の原理を用いて天体までの距離を求めることができます。
今回の研究では、VLBAの高い解像度によって、“Swift J1818.0-1607”までの距離を年周視差を用いて正確に測定しています。

VLBAによる3年間にわたる観測から明らかになったのは、“Swift J1818.0-1607”の年周視差が中性子星の中でも非常に小さいこと。
その距離は約9.4キロパーセク(約3万光年)だと分かりました。

また、VLBAの観測データからは、“Swift J1818.0-1607”の固有運動と呼ばれる、天球面上の動きの速度も明らかになります。

観測から明らかになった“Swift J1818.0-1607”の固有運動は、これまでに観測されたマグネターの中で最も小さいものでした。
このことは、“Swift J1818.0-1607”が天の川銀河の中心部に対して、比較的ゆっくりとした速度で運動していることを示しています。
推定された“Swift J1818.0-1607”の横断速度は48+16/-50km/sとなっています。

固有運動は、天体の実際の空間における運動を反映していて、その天体の過去や未来の軌跡を探る上で重要な情報となります。


マグネターは白色矮星同士の合体から形成されるのかも

VLBAによる観測で得られた“Swift J1818.0-1607”の距離と固有運動の情報は、マグネターの起源と進化に関するこれまでの説に疑問を投げかけることになります。

これまで、マグネターは太陽よりも8倍以上重い大質量星が、その進化の最期に起こす超新星爆発によって誕生すると考えられてきました。
その根拠の一つとして、いくつかのマグネターが超新線残骸と関連付けられていることが挙げられます。

でも、VLBAによる観測で得られた“Swift J1818.0-1607”の速度は、この説と矛盾する可能性がありました。

超新星爆発で誕生したマグネターは、爆発の衝撃で天の川銀河内を高速で移動すると考えられています。
でも、“Swift J1818.0-1607”の速度は、これまでの観測で得られたほかのマグネターの速度と比較しても極めて遅く、これまでの超新星爆発モデルでは説明が困難なものだったからです。

“Swift J1818.0-1607”の極めて遅い移動速度から、その起源について超新星爆発以外のシナリオも検討する必要が出てきました。
その候補の一つとして挙げることができるのが白色矮星の合体です。

比較的軽い恒星(質量が太陽の8倍以下)がその一生の最期を迎えると、赤色巨星の段階を経て白色矮星と呼ばれる天体へと姿を変えます。
赤色巨星に進化した恒星は、周囲の宇宙空間に外層からガスを放出して質量を失っていき、その後に残るコア(中心核)が白色矮星になると考えられています。

一般的な白色矮星は直径こそ地球と同程度ですが、質量は太陽の4分の3程度もあり、高密度で重力が非常に強く、地球の約10万倍にも達します。
その白色矮星同士からなる連星系では、重力波の放射によって連星が合体し、その際にマグネターが形成される可能性があります。

“Swift J1818.0-1607”は、その高速回転と非常に若い年齢から、マグネターの進化過程を探る上で重要な天体と言えます。
VLBAを用いた高精度観測によって、その距離と固有運動が明らかになったことで、マグネターの起源に関する新たな議論が巻き起こっています。

今後、“Swift J1818.0-1607”周辺の多波長観測によって、このマグネターの誕生時に周囲に放出された物質の量などを明らかにすることで、その形成過程をより詳細に解明できると期待されています。

また、他のマグネターについても、VLBAのような高精度な位置天文観測を進めることで、マグネター全体の速度分布や空間分布を明らかにすることが重要です。
これらの情報とマグネターの年齢や磁場の強さ、回転速度などの物理量との関係を調べることで、マグネターの起源と進化の謎を解き明かすことができると期待されます。


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