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現代宇宙論では説明がつかない直径約13億光年もある巨大構造物を発見!

2024年02月19日 | 宇宙 space
私たちの宇宙について、広い目線で見れば天体や物質の分布が均質であるという“宇宙原理”が広く信じられています。
でも、近年の観測では、宇宙原理に反すると思われる巨大構造物(宇宙の大規模構造)がいくつも見つかっているんですねー

セントラル・ランカシャー大学のAlexia Lopezさんは、地球から約92億光年彼方の位置に、直径が約13億光年にも達する巨大構造物“ビッグ・リング(Big Ring)”を発見したと、アメリカ天文学(AAS)の第243回会合の記者会見で発表しました。

Lopezさんは2021年にも同様の巨大構造物“ジャイアント・アーク(Giant Arc)”を発見していますが、両者は非常に近い位置と距離にあります。
このことは宇宙原理に疑問を呈する発見になるようです。
図1.今回発見された“ビッグ・リング”(青色)と、以前発見されていた“ジャイアント・アーク”(赤色)の位置。両者は非常に近い位置ある。(Credit: Stellarium)
図1.今回発見された“ビッグ・リング”(青色)と、以前発見されていた“ジャイアント・アーク”(赤色)の位置。両者は非常に近い位置ある。(Credit: Stellarium)


宇宙原理に反するように思える巨大構造物の発見

宇宙には恒星や惑星、銀河や銀河団など、物質が集まって塊となっている構造が無数に存在しています。

観測技術が未発達だった時代の人類は、その様子を観察して地球や太陽が宇宙の中心にあると考えたり、あるいは宇宙には銀河が1つしかないと考えていました。

ところが、観測技術の発達で数十億光年のスケールに渡って銀河の分布が調べられるようになると、銀河の分布に特別な点は見当たらず、どこを切り取っても同じように見えることが明らかにされました。
宇宙に特別な場所はなく、どの位置や方向を見ても同じように見えることは、やがて“宇宙原理”と呼ばれるようになります。

宇宙最初の光“宇宙マイクロ波背景放射”を観測すると、物質やエネルギーのデコボコが非常に小さくて均質に見えるという結果からも、宇宙原理は支持されています。

ただ、非常に遠い銀河の正確な数や地球までの距離を望遠鏡で観測することや、それらをまとめて1つの情報として分析することは、処理すべき情報量が膨大になることから困難なことでした。

そのような研究が可能になった1990年代以降、宇宙原理に反するように思える巨大構造物が複数見つかるようになりました。


宇宙原理では自然発生が許されない巨大構造物

“ビッグ・リング”と名付けられた宇宙原理に反するように思える構造物は、膨大な銀河やクエーサーの位置がデータ化されている“スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)”の分析によって見つかっています。

“ビッグ・リング”が位置しているのは、うしかい座の方向約92億光年彼方。
赤方偏移(※1)の値は約0.0802になり、この値は現在と比べて宇宙の大きさが半分程度だった時代に当たります。
銀河やクエーサーまでの距離は、マグネシウムイオンによる吸収スペクトルを基準に測定されました。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
図2.観測されたクエーサー(点)や光を発光する天体(灰色)の分布。“ビッグ・リング”は中央に配置された環状構造。(Credit: Alexia Lopez (University of Central Lancashire))
図2.観測されたクエーサー(点)や光を発光する天体(灰色)の分布。“ビッグ・リング”は中央に配置された環状構造。(Credit: Alexia Lopez (University of Central Lancashire))
“ビッグ・リング”は銀河やクエーサー、その他の光を発する天体で構成された環状の巨大構造物で、直径は約13億光年、円周は約41億光年にもなります。
“ビッグ・リング”は地球から見た目の構造が環状に見えているだけであり、より厳密な分析ではコルクスクリューのような螺旋構造を持っていることが示されています。

ただ、“ビッグ・リング”の直径が、宇宙原理で自然発生が許される構造物の最大の大きさとなる12億光年を越えていました。
Lopezさんの計算では、銀河やクエーサーが特に何の理由や原因もなく、たまたま巨大な環状構造を作る確率は約0.00002%(5.2σ)。
なので、“ビッグ・リング”は偶然の産物ではなく、何らかの意味を持つ構造である可能性が極めて高いと考えられます。

宇宙原理を破らず、かつ12憶光年を超える巨大構造物が生成される理由としては、“バリオン音響振動(BAO; Baryon Acoustic Oscillations)”という現象が考えられます。
2023年には、このバリオン音響振動に関連して生成されたと考えられる泡状構造“ホオレイラナ”が発見されています。

ただ、バリオン音響振動で生成される巨大構造物は、“ホオレイラナ”のように3次元的な球状構造になると考えられているんですねー
“ビッグ・リング”は2次元的な環状構造になるので、バリオン音響振動が生成に関与しているのかは現時点では不明です。


現代宇宙論では説明がつかない2つの巨大構造物

むしろ、“ビッグ・リング”の発見は、他の巨大構造物とセットで考えると、より重要な意味を持ちます。

Lopezさんは2021年にも、“ビッグ・リング”と同程度の巨大構造物“ジャイアント・アーク”を発見しています。
“ジャイアント・アーク”は、長さ約33億光年の巨大構造物で、やはりバリオン音響振動で説明できる大きさを大幅に超えていました。

“ビッグ・リング”の円周は“ジャイアント・アーク”に匹敵する大きさでした。

また、“ジャイアント・アーク”は地球から約92億光年彼方の位置にあり、これは“ビッグ・リング”と同じ距離になります。
さらに、地球から見た位置は、お互いに約12度しか離れていませんでした。
これほど至近距離に、宇宙原理を破る2つの巨大構造物が存在することは、現代宇宙論では説明がつかないことでした。

そこで、Lopezさんが提唱しているのは“ビッグ・リング”と“ジャイアント・アーク”を生成する理由となるユニークな2つの仮説でした。

1つ目は、“共形サイリック宇宙論(CCC)”によって発生した、前の宇宙の構造の名残りだという可能性です。
“共形サイリック宇宙論”とは、2020年ノーベル物理学賞受賞者のロジャー・ペンローズさんによって2010年に提唱された宇宙論。
“今いる私たちの宇宙は、前の宇宙が潰れた後の反発によって膨張して生まれたもの”という説で、より先駆的で似たような形式の“サイリック宇宙論”における理論上の問題を解決したものです。
ペンローズさんによれば、“共形サイリック宇宙論”によって、前の宇宙の巨大構造物の名残りが継承される可能性が指摘されています。

2つ目は、“宇宙ひも”によるという説です。
“宇宙ひも”とは1970年代に提唱された時空の構造的欠陥であり、ひもと呼ぶように線状の構造を持ちます。
“宇宙ひも”の周りでは時空の性質が異常になるので、巨大構造物を作るのに関与するという説が、2019年ノーベル物理学賞受賞者のジェームズ・ピーブルスさんによって提唱されています。

今のところ、“共形サイリック宇宙論”も“宇宙ひも”もかなり野心的な仮説で、現代宇宙論を置き換えるほどの証拠が揃っている訳ではありません。
でも、Lopezさんが“ビッグ・リング”と“ジャイアント・アーク”を発見したように、現在使用されている単純な形式の宇宙論や宇宙原理が成立していない可能性は年々高まっています。

今まで信じられてきた宇宙論や宇宙原理が、どこかで破綻する可能性は高いのかもしれません。

その修正が、今までの宇宙論の大半を否定する全く新しいものになるのか、あるいは非常に小さく目立たないものになるのかは、今のところ誰にも分かっていません。
ただ、これらの観測証拠は理論の修正案を考える上で重視されることは間違いないでしょうね。


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