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生命誕生前の初期の地球に似た姿をしていた? 隕石が物語る40億年前の火星環境。

2020年05月26日 | 火星の探査
40億年前の火星に起源を持つ隕石から有機窒素化合物が検出されました。
現在の火星は乾いた過酷な環境なので、こうした化合物はすぐに破壊されてしまいます。
やはり太古の火星には大気があり温暖で水が存在していたのでしょうか。


火星で形成され地球へ飛来した“火星隕石”の分析

やっぱり、太古の火星は水や多様な有機物に富む、初期の地球のような惑星だったのかもしれません。

火星の環境に関しては、火星を直接訪れた探査機によって数多くの知見がもたらされています。
ただ、火星の試料を地球で直接分析することも、研究の上では欠かせないことなんですねー

残念ながら火星からのサンプルリターンは、まだ実現していません。
そこで、ターゲットになるのが、火星で形成された岩石が隕石の衝突などで火星重力圏から飛び出し、地球へ飛来した“火星隕石”です。

その“火星隕石”の中でも、研究が重ねられてきたのが1984年に南極で発見された“Allan Hills 84001”。
この隕石には、40億年前の火星において水中で沈殿した炭酸塩鉱物がわずかに含まれていて、太古の火星環境を知る手掛かりになると考えられたからです。

でも、隕石には落下地点の南極で物質が混入している上に、これまでの分析手法では実験の過程で試料が汚染されるという問題もあり、火星の有機物を探るのは困難なことでした。

特に課題になっていたのが、大気・水・岩石の間で循環する重要な元素である窒素の分析でした。

今回、JAXA宇宙科学研究所の研究チームは、試料にX線を照射して吸収される波長を調べる“窒素X線吸収端近傍構造(μ-XANES)分析”によって、“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物を分析。
この手法を用いると試料を破壊せずに調べられるので、実験中の汚染を抑えることができるからでした。

研究チームではX線照射装置として理化学研究所の大型放射光施設“SPring-8”のビームライン“BL27SU”を使用。
試料を準備する過程でも、物質の混入を最低限に抑える手法も開発しています。
(a)火星隕石“Allan Hills 84001”の全体像。四角内の領域に炭酸塩鉱物が集まっている。(b)メタルテープを用いて採取した炭酸塩鉱物の粒の顕微鏡写真。(c)採取した粒の表面に付着した汚染物を走査電子顕微鏡・収束イオンビーム装置で除去したもの。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
(a)火星隕石“Allan Hills 84001”の全体像。四角内の領域に炭酸塩鉱物が集まっている。(b)メタルテープを用いて採取した炭酸塩鉱物の粒の顕微鏡写真。(c)採取した粒の表面に付着した汚染物を走査電子顕微鏡・収束イオンビーム装置で除去したもの。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)


太古の火星は水や多様な有機物に特徴づけられる惑星だった

その結果、“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物から検出されたのは、混入物ではなく火星由来と推測できる有機窒素化合物。
一方で検出されなかったのが、窒素と酸素が結びついてできる硝酸塩のような無機窒素でした。

現在の火星表面は物質が酸化しやすく、多くの化合物が短時間で壊れてしまいます。
でも、40億年前の火星は、そこまで酸化的ではなかったことを示唆する結果でした。

“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物は、そのころの表層水や地下水に存在した有機物を閉じ込め、過酷な環境から守る保管庫の役割を果たしていたといえます。
(a)今回の研究で取得された窒素XANESスペクトルの一部。上3つが炭酸塩鉱物(Crb-1~3)、下は参照試薬など。水色の網掛け部分が有機窒素化合物に特有の吸収エネルギー位置。(b)有機物ピーク付近のみを拡大した図。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
(a)今回の研究で取得された窒素XANESスペクトルの一部。上3つが炭酸塩鉱物(Crb-1~3)、下は参照試薬など。水色の網掛け部分が有機窒素化合物に特有の吸収エネルギー位置。(b)有機物ピーク付近のみを拡大した図。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
今回検出された火星の有機窒素化合物には、外来と内製という2つの起源が考えられます。

太古の地球や火星には有機物を含む多数の隕石や彗星が衝突していて、その中の有機窒素化合物が火星の炭酸塩鉱物に取り込まれたのかもしれません。

あるいは、大気中の窒素や窒素酸化物からアンモニアを介して、有機窒素化合物を作り出す還元反応が起こった可能性もあります。

かつての火星は、現在のような乾いた“赤い惑星”ではなく、水や多様な有機物に特徴づけられる、生命誕生前の初期の地球に似た姿をしていたのかもしれませんね。


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