…その昔、言葉は一つだった。
人々は「頂(いただき)が天に届く搭を建て(、名をあげ)よう」とした。
神は人の驕りに怒り、彼らの言葉を混乱※させた。
それゆえ、その町の名は「バベル」※と呼ばれた…
(旧約聖書・創世記11章から)
先週末、友人らとともに、ブリューゲル「バベルの搭」展に行ってきた。
ブリューゲルの描いた「バベルの搭」(The Tower of Babel)は2つあり、1つはウィーンに、もう1枚はオランダ・ボイマンス美術館にある。
今回、後者の「バベルの搭」(通称「小バベル」)が、24年ぶりに来日した。
今回の作品展は89点と少なく、美術展に慣れていない人にもとっつきやすかったと思う。
(ヒエロニムス・ボス「放浪者(行商人)」1500年頃 油彩、 Rotterdam, the Netherlands。
この「放浪者」は初来日。16世紀ネーデルランド画壇で一大旋風を巻き起こしたというボスの作風を、ブリューゲルも模倣していた…らしい)
バベルの搭。
様々な人々が描いたこの主題を、ブリューゲルが描いたのは、
グーテンベルグが活版印刷技術(1450)を発明した頃から約120年後、
レオナルド・ダ・ヴィンチが「最後の晩餐」(1498)を完成させたときから70年後、
ルターが「95カ条の提題」(1517)をつきつけたという年から約50年後の
1568年、
ブリューゲルが亡くなる1年前だった。
今回の美術展では、3Gで、このブリューゲルの描いた「バベルの搭」を再現し、ミクロとマクロの視点を呈示してくれていたのが良かった。
恐らく、この「小バベル」だけを観るならば、見逃していたであろう、
建築資材の瀝青?(漆喰、アスファルト、石灰など諸説あり)の白いあとや、その粉をかぶって真っ白になっている人々。
赤いレンガのあと。
一つひとつ、様式の異なる窓。
正確に描写された船舶、
当時の建築技法、
当時の農村の細かな描写が、
「バベルの搭」をモチーフに、そこに再現されていた一方、
人々が築き上げようとした円形の巨搭は、雲を突き抜け、
画面いっぱいに、
「天に届く」ように描かれていた。
◻ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの搭」展
会期 2017年4月18日〜7月2日(日)
会場 東京都美術館(上野)
開館時間 9:30―17:30(金曜のみ20時まで)、月曜休日