ロック探偵のMY GENERATION

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『モスラ』

2020-08-23 16:01:31 | 映画


最近このブログでは、古関裕而の作った曲を2曲紹介しました。

朝ドラのモデルだからというのもたぶんにあってのことなんですが……この流れを、もう少し引っ張っていこうと思います。

古関裕而という人は、なかなか引き出しの多い作曲家で、映画や劇の音楽もやっていました。

そちら方面ではドラマ主題歌の「君の名は」などが有名ですが、彼が音楽を手がけた映画のちょっと変わり種として、『モスラ』があります。

「長崎の鐘」や「ひめゆりの塔」の作曲者がモスラとは意外なとりあわせに思われるかもしれませんが……古関裕而には「イヨマンテの夜」という先住民族ふうの曲があったりして、そういった曲調が引き出しの一つと認識されていたのかもしれません。(※「イヨマンテ」はアイヌの儀式。ただし、「イヨマンテの夜」として歌詞がつけられたのは後のことで、曲自体は必ずしもアイヌ民族をイメージしたものではないらしいです)

その先住民族ふう音楽のセンスが発揮されているのが、かの「モスラの歌」。
あの、ザ・ピーナッツが歌う「モスラ~ヤ、モスラ~」の歌です。ある意味では、これが古関裕而作品のなかでもっとも有名なものなんじゃないかとも思えます。

……というわけで、ちょうど映画カテゴリーのほうでもモスラ登場作品について連投していたところなので、ここで映画『モスラ』について書きましょう。


モスラ(1961)

公開は、1961年。

東宝といえばまずゴジラが有名ですが、ほかにも『空の大怪獣ラドン』や『大怪獣バラン』といった、怪獣が単体で出てくる映画をいくつか制作していて、『モスラ』もそのなかの一作です。

監督は本多猪四郎。
そして、特撮・円谷英二の黄金コンビ。
制作の田中友幸、脚本の関沢新一も、ゴジラシリーズでおなじみです。

キャストも、ゴジラシリーズの常連キャストと重なる部分があります。小泉博、田島義文、佐原健二……なかでも特筆すべきは、平田昭彦と志村喬。主要な役とはいえませんが、この二人がそろって出てくるだけでも『ゴジラ』ファンには涙モノでしょう。
そして、この映画がすごいのはそれだけではありません。
原作には、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛という名だたる文学者が名を連ねているのです(登場人物の「福田善一郎」という名は、この三人の名前をかけあわせたもの)。
三人とも純文学方面の作家で、とくに中村真一郎は、もうゴリゴリの純文学の人。この人たちの手によって、モスラは単なる怪獣を超えた存在に昇華され、東宝特撮においてゴジラと対になるような存在として以後いくつもの作品に登場し続けることとなるのです。

おそらく東宝も、最初からモスラをそういう存在たらしめようと考えていました。

東宝が『モスラ』に並々ならぬ力を注いでいたことは、モスラのミニチュアが十数体用意され、最大のものは長さ十メートルにも及んだというようなところにも表れています。一体の怪獣にこれだけのフィギュアが作られたのは、あの'84年版『ゴジラ』ぐらいのものじゃないでしょうか。



こちらは、ひさびさの3DCG。
『モスラ』に登場するモスラ幼虫をイメージして、以前作ったモスラを改造してみました。
61年版のオリジナルモスラ幼虫は、ゴジラシリーズに登場するものに比べて色が若干薄くなっています。



東宝特撮の巨匠である本多猪四郎監督にとっても、『モスラ』は特別な作品だったようです。

本多監督は、後に「自分がかかわった怪獣映画のなかで特に印象深いものを三つ挙げるとしたら」という問いにこたえて、『ゴジラ』『妖星ゴラス』と並んで『モスラ』を挙げています。このことにも示されているとおり、まさに『モスラ』は、モスラという特別な怪獣を生み出した記念碑的作品なのです。


モスラ登場作品の基本的なモチーフも、このときすでにできています。

欲に目のくらんだ人間が小美人を日本につれてきて金儲けに利用しようとする。その小美人を助けにモスラが日本にやってくる――というパターンです。

そして、昭和の『モスラ』でも平成の『ゴジラVSモスラ』でも変わらないのが、欲に目のくらんだ人間たち。
小美人をこのまま日本においておけば、モスラがやってきて大変な被害を受ける。そのきたるべき破滅がわかっているにもかかわらず、目先のことだけを考えてなにも対処しようとしない――これは、さすが文学者たちの透徹した目で、日本という国の暗喩なのではないかと思えてきます。

少子化、温暖化、エネルギー問題、財政問題と、日本社会のあらゆる問題に同じことがみられるんじゃないでしょうか。そしてそれはコロナにも……



最後に、『モスラ』に関するこぼれ話をもう一つ紹介しましょう。

この映画ではモスラは東京タワーに繭を作りますが、当初は国会議事堂に繭を作る案もあったそうです。
国会議事堂に繭を作って羽化するというシーンは、後に平成の『ゴジラVSモスラ』で実現しました。
このブログのゴジモス記事でも書きましたが、その演出は、政治に対するメッセージとも考えられます。腐敗した政治に対する再生の希望――これこそ、現代日本にもっとも痛切に響いてくるメッセージではないでしょうか。




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