Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

ごめんなさいね

2020年06月15日 04時41分54秒 | エッセイ
                                     
      ベランダに鉢植えのレモンの木がある。
      鉢植えだから、小ぶりなものであるに違いないが、
      それでも毎年11月頃になると15個ほど実をつける。
      そして、実際に我が家の食卓に味を添えてくれている。

よく、アゲハチョウがやって来る。ごく普通に見かけるナミアゲハだ。
ベランダにはハーブ数種、アルメニア、バラなど花類のほか、
トマト、サラダ菜、オクラ、ニラ、ピーマン、オオバなど実際に食卓に上る野菜類もある。
アゲハチョウは、そんな花や野菜を訪ねて来ているのだ、と思っていた。
ところが、よくよく見ていると、レモンの木ばかりに寄り付いている。

      それでも、さして気にもしていなかったのだが、
      ある日妻が「あらあら、大変」と声を上げた。
      レモンの葉が明らかに何かの虫に食い荒らされていた。
      見れば、黒っぽい小さな虫が葉にしがみつくようにしているし、
      さらに目を凝らすと間違いなく卵だというものが、あちこちにあった。

こんなことに出会うと、すぐに調べようとするのは癖みたいなもので、
急ぎPCを開いた。
やはり、アゲハチョウの卵と幼虫に違いなかった。
さらに調べると、アゲハチョウは柑橘類の葉に卵を産み付けるとあった。
なぜ、レモンの木だけに寄り付くのか、それで合点がいった。
それに、幼虫は柔らかい新芽を好むのだそうだ。
確かに新芽ばかりが食い荒らされている。
                                               
      アゲハチョウにすると、種の保存のための懸命な営みではある。
      だが、新芽を食べられたのでは、レモンの木が育たない。
      「ごめんなさいね」と言いつつ、妻は卵や幼虫を一つずつ
      つまんで取り除いていく。
      小さいながらも、やはりジレンマである。
      しばらくすると、またアゲハチョウがひらひらとやって来た。
      また、「ごめんなさいね」と詫びる妻の指先はレモンの香りがした。


腐れ縁

2020年06月14日 06時10分55秒 | 思い出の記
          高層ホテルの目覚め


     都市景観100選に選ばれている福岡市のシーサイドももち地区に、
     「ヒルトン福岡シーホーク」はにょきっと建っている。
     地上35階、客室1053室、博多湾を望むアーバンリゾートホテルだ。
     ここには写っていないが、隣接して福岡ソフトバンクホークスの
     本拠地・福岡PayPayドームがあり、福岡市のランドマークとなっている。
               (5月31日早朝、入院中の病院から窓越しに撮影)
            
                      別角度から見ると

      ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂  ⁂

「腐れ縁」という。僕にも、そう言えるような人が1人だけいた。
年齢は17歳上、親子というほどではないが、年の離れた兄といったところか。
社員が20人足らずの小さな会社のオーナー社長だった。
対して、こちらは人を介して転職してきた38歳の一社員。
少々失礼な言い方ながら、2人はまさに「腐れ縁」、そんな関係だったと思う。

    この社長は創業者によくあるように「朝令暮改」ならぬ、
    「朝令朝改」が当たり前みたいな人だった。
    一方で「朝令朝改」した後、ご本人が「俺って、なんでこうなんだろう」と
    ぼやくこともしばしばで、「やはり先ほどの決定を元に戻すのか」と思いきや、
    それでもそれを押し通してしまう頑固さがあった。

そんなオーナー社長のところへ現れたのが、
40手前の、えらく理屈っぽい男だったのだ。
両極みたいな性格の2人、分かりやすく言えば「感覚・感情」と「理屈」の
2人とあっては、ソリが合うはずもなく何かにつけ対立し、
言い争いは日常茶飯事のことだった。
                   
    オーナー社長にすれば、「理屈ばかり言いやがって、俺の言うことに従わない、
    小憎らしい奴だ」と映っただろうし、
    社員は社員で「もう少し物事を整理して考えてほしい。
    思い付きみたいなことを言われたのではたまったものではない。
    それで、ちょっと反論すれば、
    すぐにかっとなって怒鳴りつけるばかりの親爺」と思えた。
    社員の立場であれば、オーナーに盾突いたのでは、いつクビを言い渡されるか、
    内心そんな思いは常時のことであり、精神的な負担は相当に重かった。
    「いっそ、こんな会社辞めてやろうか」と思ったことも一度や二度ではない。

だが、何人もの社員のクビを平気で切ったこの社長は、
それほど反抗するその社員に対しては、「お前はもうクビだ」とは
一度たりと言わなかった。
また、その社員も自ら「辞めます」とは言い出さなかった。
言い争いを続けながらもである。

    そうこうしながら、2人とも年を取っていった。
    オーナーは古希を迎える年になり、社員は50を過ぎた。
    2人とも年相応に丸くなったわけではない。言い争いは続いた。
    ただ、2人で食事をしながらプライベートな話をするようになり、
    そんなこんなで相手が何を考え、言おうとしているのか、
    8割方は理解できるようになってきた。
    それが年のせいだったのかもしれない。
    詰まるところ、2人とも「この会社を成長させるには、どうすればよいか」
    との思いは同じであり、そのことを互いに理解し合えるようになっていたのだ。
    だから、言い争いながらも、その中には笑いさえ混じるようになった。
             
やがて、オーナーはがんに倒れ、闘病生活は8カ月に及んだ。
その間、その社員は懸命に会社を守った。
ついにオーナーは力尽き、跡を継いだのは長男だった。
役目は変わった。今度は新社長の補佐役となった。
そして、「本当に腐れ縁でしたね。でも、こんな男を最後まで
よく使ってくれました。恩にきますよ。息子さん、力の限り支えます」
そうつぶやくのである。


気を許してはならぬ

2020年06月13日 06時24分03秒 | 思い出の記
    あれは今でもよく覚えているが、2003年7月19日の出来事だ。
    17年も前のことになる。

このマンションから直線距離にして300㍍ほどの近くを御笠川が流れている。
太宰府市にある宝満山を源流にし、太宰府から大野城市、
さらに福岡市へと辿って博多湾に注ぐ全長20㌔ほどの2級河川である。
                                           
    その川が前日からの豪雨により、不意を打つように明け方氾濫したのだ。
    堤防道路を越えた濁流がたちまち周辺一帯を水浸しにし、
    このマンションもそれから逃れることが出来なかった。
    床上10㌢ほどの浸水だったから、命を脅かされるほどではなかったが、
    それでも床はもちろん床下まで泥が流れ込んでいた。
    改修を頼んだ大工さんは、「壁もだめですな。乾かせばそのまま使える、
    というわけにはいきませんよ。どんなに乾かしたつもりでも、
    湿気は残り、やがて壁を傷めることになります」
    となれば、全面改修せざるを得ない。
    「悔しいなあ。どんな悪い事をしたというの。
    なんでこんな目に合わなきゃいけないの」
    妻は我が家のそんな惨状にぽろぽろと涙を流した。

湿気を取り除くため、もう初夏の候なのにストーブを焚くなど、
大わらわの日々を送った。駐車場に停めていたマイカーも半分ほど水に浸かり、
結局廃車しなければならなかった。
工事が完了したのはほぼ1カ月後。
その間、同じマンション上階に、夫婦二人で暮らしている方の家に厄介になった。
寝食を共にする、まさに家族同然の生活に送らせてもらったのである。

    この地方も11日梅雨入りした。雨のシーズンだ。
    雨の強弱にかかわらず、降ればトラウマのようにあの日の事を思い出す。
    後に考えれば、その後全国で毎年のように起きている
    水害被害は、当家の床上浸水をあざ笑うほどけた違いの大きさだが、
    それでも恐怖心が起きるのは変わりない。

少し強い雨が降れば、川の各所に設けられている
監視カメラをPCでチェックし、川の水量に気を配る。
昨年も橋げたすれすれまで水かさが上がり、
「こりゃ、避難しなければならないかも……」と半ば覚悟したこともあった。
幸い、それ以上増水することなく、降雨の弱まりと共に
水かさもみるみる下がっていった。

    そんな季節が今年もやってきたのだ。
    国や市もその対策をいろいろと講じているから、
    以前ほどの危険性は減っているかもしれない。
    現実に、今、格好のウォーキングコースとなって
    優し気な表情で迎え入れてくれている。

だが、絶対に気を許してはいけない。
自然の力は、しばしば人間の知恵をあざ笑い、牙をむくことがある。


卑怯

2020年06月12日 05時27分31秒 | エッセイ
           夕陽 射す

   西日に追い立てられる車列─埼玉県所沢市でのワンショット(2017年3月撮影)



      北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさんの父、
      横田滋さんが6月5日亡くなった。これを受け、
      妻の早紀江さん、めぐみさんの弟・拓也さん、哲也さんが
      記者会見を開いた。その際の
      拓也さん、哲也さんの発言。

─拓也さん─
「私たち横田家、横田両親をですね、本当にずっと長い間、
そばにいて支援してくださった安倍総理。
『本当に無念だ』とおっしゃっていただいております。
私たちはこれからも安倍総理とともにですね。
この問題解決を図っていきたいと思っております」

   「国会においては、与党・野党の壁なくこの問題のために
   もっと時間を割いて具体的かつ迅速に解決のため行動してほしいと思います」

「マスコミの皆様方におかれましてもですね、
イデオロギーに関係なくこの問題を我が事として
もっと取り上げてほしいと思っております。
自分の子供ならどうしなきゃいけないかということを
問い続けてほしいと思っております」
            
─哲也さん─
「この拉致問題を解決しないことに対して、
ある、やはりジャーナリストやメディアの方なんかが、
『安倍総理は何をやっているんだ』というようなことを
おっしゃる方もいます。
『北朝鮮問題が1丁目1番地と掲げていたのに、
何も動いていないじゃないか』というような発言を
ここ2、3日のメディアを私も見、耳にしておりますけれども、
安倍総理・安倍政権が問題なのではなくって、
40年以上も何もしてこなかった政治家や
『北朝鮮なんて拉致なんかするはずないでしょ』と言ってきたメディアがあったから、
ここまで安倍総理・安倍政権が苦しんでいるんです」

   「安倍総理・安倍政権は動いてやってくださっています。
   なので、何もやっていない方が政権批判をするのは卑怯だと思います。
   拉致問題に協力して、様々な角度で協力して動いてきた方が
   おっしゃるならまだ分かりますが、ちょっと的を射ていない発言をするのは
   これからやめてほしいと思っております」

この拓也さん、哲也さんの、特に哲也さんの政治家、メディア批判を、
朝日も毎日も読売も産経どこも、翌10日付け朝刊で取り上げなかった。
何も言うことはない。

バレリーナ

2020年06月11日 06時22分29秒 | 物語
               「Risa!」
      海風と波の音に消されぬよう、叫ぶようにその子を呼んだ。
      と、突然、17歳になる少女は、陽を遮ってくれていた傘を
      そのまま手に、風に乗るように踊り出した。
砂浜に寄せる波はどんなメロディーを奏でているのか。
軽やかに、伸びやかに……。
陽の光は正面から眩しく、少女のシルエットを砂上に落とす。
      ルンバ、チャチャ、あるいはシャンソンかしら。
      ひょっとして、サルバトーレ・アダモが歌う
      「J’aime」かも……。


      J’aime  揺れる髪よ    風の  たわむれ
     君は     バレリーナ  優雅に 踊る

     J’aime     僕の肩に   君の      腕やさし
     少女              みたいな   君の      その笑顔

     J’aime     怖くない    愛し合う 二人は
     J’aime     腕をとり    並ぶ影     いとし

     J’aime     僕ら二人に   過去は  いらない
     未来を             夢見て     生きて  いくんだ

     J’aime     愛する君    傍にいる いつも
     なみだ        あふれる
     好きだ 好きだよ 君が

                                         
         ※フランス語の「J’aime」=「I lоve」の意味。
         上記の歌詞は原曲の歌詞を邦訳したのではなく、
         こちらが勝手に書いたものです。悪しからず。
         そして、踊っている少女「Risa」は、僕の孫娘。
         それを撮影したのは、お祖母ちゃん、つまり妻。
         一家の自作自演なのでした。
                   (福岡県福津市・津屋崎海岸で)