今年(2017)3月に引き続き イタリア・サルーミ普及促進協会(IVSI-Istituto Valorizzazione Salumi Italiani)による ミシュラン3つ星レストラン“Da Vittorio”エンリコ・チェレア(Enrico Cerea)Excutive Chef デモクッキングショーが 代々木にある服部栄養専門学校にて開催されました:
「第2回世界イタリア料理週間」の一環としてのこのクッキングショーの開催にあたり 2016-17年のプロモーション"サルーミ・アーモ!"についてご紹介いただきました 2000年に生ハムが輸入解禁されて以来 イタリアのサラミ製品の売り上げがここ半年で2割アップしたことが報告されました
伝統とイノベーションが日伊の共通点であり 和食とのアビナメント(abbinamento)が期待されています また その価値と卓越さを伝え 生産者の誇りとイタリア料理の神髄を知ってほしい とのメッセージでした

今回 協会から「サルーミ大使」として表彰されたExecutive Chefのエンリコ・チェレア(Enrico Cerea)氏は通称「キッコ」と呼ばれ 1966年に創業された ミラノの近くベルガモのブルサポルト(Brusaporto)の街にあるミシュラン3つ星レストラン(イタリアの9軒のうちのひとつで 9年連続3つ星!) “Da Vittorio”を Vittorio Brunaご両親から受け継ぎました 会場にはレストランの紹介ビデオが流れました

内陸のロンバルディア州では生魚(pesce crudo)はあまり食べなかった 父は魚をこの州にあるレストランで出した最初のシェフのうちのひとりだった ヴェネツィアに親戚がおり そこから獲れたての魚介を運んだ 最初はうまくゆかなかったが よい魚を仕入れることができて 昨年50周年を迎えた
助手として来日した日本人の若者がまぶしかった! そして会場にはこのお店で働いていた数名の日本人の若者も来ていました! 通訳は昨年に引き続き池田匡克氏の シェフが話し終える前からどんどん通訳を始める流暢な通訳ぶりに感激しました
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今日のレシピは 魚介とサルーミを合わせた3品です:
① マグロのカルパッチョ、パンチェッタのスプーマとコーヒーパウダー、ヘーゼルナッツ、ミソ(Carpaccio di tonno con spuma di pancetta e polvere al caffè, nocciole e miso)
まずパンチェッタ(pancetta)(豚ばら肉の塩漬け)とスペック(speck)(燻製がきいた特徴的なサラミ)を半々ずつに変更してスプーマを作りました 筒状のパンチェッタ(pancetta arrotollata)を使います スモーキーな感じを加えたくてミックスしました
スペックの燻製(affumicatura)は豚肉を保存食にしますが 最低5か月がDOPの条件です
パンチェッタはブラザート(brasato/牛煮込み料理)にもよく使いますが バターやオリーブオイルの代わりに調味料としても使います また 薄切りをよく温かいトーストパンに乗せて 脂肪が溶けるとよい香りがして いいおやつがわりでした 日本にもパンチェッタはここ数年多く輸入されています (EU以外ではイギリスの次)

大切なのはレシピ(ricetta)もそうですが パッション(passione)と知性(intellligenza)です そして 「時間(il tempo)」が大切です 熟成も時間が作ります ジェラートも前の晩に作り一晩ねかせるとよい味が出るのです
パンチェッタ スペック にんにく 生クリームを極弱火(fuoco basso)で一時間加熱し パルミジャーノを加え15分加熱 30分火を消して味をなじませます シノワで越してエクサンターナを加えてエスプーマにうつして 60度の湯煎にかけます
次にヘーゼルナッツとコーヒーパウダー(polvere al caffè, nocciole)を作ります 有名なピエモンテ州のヘーゼルナッツを使いました
グラニュー糖をカラメリゼ(caramellare)してから ナッツとコーヒー バニラを加えます
ミキサー(raffinatore)にかける時は細かくなりすぎないように!
そしてミソ/miso(赤みそと白みそ)のクランブルを作ります ミソ モスコバードシュガー 小麦粉 バターを ペースト状になるまでインパスタトリーチェ(impastatrice/製菓製パン用ミキサー)にかけて 生地(impasto/frollo)を伸ばしてからオーブン(forno)で焼きます
そして半解凍のマグロ(tonno)を薄くスライスして 円形に盛り付けてカルパッチョにします パンチェッタの脂肪があるので 今回は赤身(tonno magro)を使いました

スプーマ マグロ(日本産) オリーブオイル 塩の順に丸皿に乗せ ヘーゼルナッツのパウダー ミソのクランブルをアクセントに添えます
最前列の数名のゲストの皆様に 試食のお皿が配られ 質疑応答(専門的な内容)がありました

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② バッカラのインサラータ、トリッパ、白いんげん豆、ジャガイモのスプーマ(Spuma di patate, insalatina di baccalà, le sue trippe e fagloli)
まずバッカラ(baccalà、塩漬けの干し鱈)についてのお話 ストッカフィッソ/Stoccafissoを今日は手配したが本来はバッカラを使うレシピとのこと
ノルマン人が11-12世紀にイタリアに 保存食としてバッカラを持ち込んだ 保存のきく魚がそもそもこのふたつだった ベルガモ人はバッカラを「ベルタニ/Bertani(ベルタニン)」と呼ぶ 魚自体もこう呼ぶ これはインポーターのベルタニ氏の名前からこう呼ばれるようになったとのこと (ベルガモだけに残っている呼び方)
バッカラとストッカフィッソについて(よく混同される)は こちら
baccalà alla vicentinaのレシピをここで特別に教えていただきました
バッカラのムースは 北イタリアでは白ポレンタ(とうもろこしの粉)とよく合わせるとのこと
さて初めて見る方も多いかと思いますが バッカラのトリッパ(trippa/内臓)です これを黒い表皮を根気よく取り除いてから ダイス切りにします

さて今日のレシピに戻ります バッカラをダイス切りにして 香味野菜と サラーメ・ミラノをブリュノワーズ(1-2mmのダイス切り)にします サラミの挽き方もミラノよりベルガモの方があらびき(macinata grossa)ですね 地方ごとに色々材料も違い無限大(infinità)です
トスタトゥーラ(tostatura)は 直火で炒めることですが 食材の味を引き出す基本です 白ワインを加えてアルコール分をとばし ブーケガルニ 前夜に水でもどした2種類の白いんげん豆(fagioli) 裏ごしトマト等を入れて2時間 弱火で煮込みます 最後にハーブを加えて ライムを香りづけにすりおろします
また 北はバターを使いますが 南ではオリーブオイルと 南北で違いますね
イタリアは生物多様性(biodiversità)が世界一で 農産物加工(agroalimentari)の種類も一番多く 料理人にとってはアドバンテージなのです
バターも北イタリアなのでよく 最後の香りづけに使います トリッパは今回は魚なので 肉のように重くないですね

次に 燻製ジャガイモのスプーマ(spuma di papate)を作ります ジャガイモを切って茹でて 生の葉玉ねぎ(cipolotto) 生クリーム(panna) オリーブオイルを加え クリーム状にしてから 燻製機(affumicatore)にかけて エスプーマに入れます
見ていると燻製機から煙が上がってきました! そして盛り付けです バッカラを2センチに切り 青みに さやえんどう(taccole)とドジョウインゲンを盛りつけ 輪をかくようにジャガイモのスプーマを飾り アツアツのトリッパを添えます
バッカラのトリッパは ゼラチン質(gelatina)の溶ける感じがよいとのこと また牛乳でゆでるのは 色が黒くなるのを防ぎ 白くゆでる(schiarirsi)ためとのこと
トリッパと ジャガイモまたは豆は とても相性がよいそうです

③ 栗のクレーマのリゾット、ロビオーラのスプーマ、紫芋のチップスとプロシュット (Risotto con crema di castagne, spuma di robiola, chips di patata viola e prosciutto)
ラストは栗のリゾットです プロシュット・クルード(prosciutto crudo/生ハム)は イタリアの6つのDOPのうちのひとつ サン・ダニエーレ産を使います 蹄(ひづめ)をつけたまま熟成させるとのことで 甘くてデリケートです この皮でブロードを作ります
リゾットの仕上げのマンテカトゥーラ(mantecaturaこねること)を後でお見せしましょう と始まりました♡
risotto mantecatoは とろみのあるリゾットで 北イタリアに多くその地方 家庭ごとに違いますね
プロシュット・クルードの皮を炒めて 米(この日はカルナローリ米)を炒めます 加熱してもアルデンテに仕上がるのですね 5-6人分がちょうど作りやすい分量です このtostaturaが 米が「泣くように」パチパチと音がする というステキな表現でした
お米のでんぷん質が逃げないように油でコーティングするのですね 人によって玉ねぎを入れる入れないがありますが ほんの少し入れます 白ワイン(アルコール分を飛ばさないと酸味が残る) ブロード そしてラストに香りづけにバターも加えます
「米は 水で生まれ ワインで死ぬ(Riso nasce nell'acqua e muore nel vino」という言葉があるそうです 水田で育ち 最後はワインの中に沈むというわけ!
ここで スカラ座オープニングのケータリングで千人分のリゾットを作ったエピソードを披露してくださいました 3年連続で ミラノ以外の店では初めてだそうです
まず 栗のクレーマ(crema di castagne)を作ります 切り込みを入れた栗 生クリーム(panna)他を煮て ミキサーにかけて(frullarsi) ペースト状にしたあとで 裏ごしして味付けをします 栗には生クリームがよく合います
次に ロビオーラというウォッシュタイプのチーズのスプーマを作ります 3 latti つまり3種類のお乳を使います 山羊の香りのするチーズです 生クリームなど材料をすべてTermomixに入れてまぜて エスプーマに入れて冷やします 栗の甘さと対照的なチーズの酸味ですね
そして 紫芋のチップス(chips di patata viola)を作ります 薄切りにした紫芋をくたくたに茹でてからミキサーにかけて シルパットに伸ばしてから12時間 60度で乾燥させて水分を飛ばしたあとで 140度の油で揚げます この薄切りチップス(cialda)は ほんっとに薄くてパリッパリで透明感があり 艶(つや/lucida)があります!

さてリゾットができてきました 時々アルデンテかどうか確認します 「生」と「アルデンテ」の違いとは? 米を指でつぶして白い芯が残るのは 生(crudo)の証拠です
火を止めて リゾットを波が立つような状態にするマンテカトゥーラを実演してくださいました 栗のクリームとパルミジャーノ(18か月熟成)とバターを入れて 火からおろしてこねます! 鉄の蓋で2分蒸らすところもあるそうです (日本のご飯を蒸らすのと似ていますね)

そして最後に 完成品として手を加える必要のないサン・ダニエーレ産のプロシュット・クルードの薄切り 紫芋のチップスをトッピングし ロビオーラのスプーマを飾り ローストした栗を飾り サーブします ずいぶん豪華な一皿でしたよ!!


イタリアには660種類のサルーミがありますが イタリア人でも全部知っているわけではないとのこと その他質問に答えたり 3品の料理を眺めたりする間 参加者全員に サルーミの試食とお土産が配られました!



素晴らしいクッキングショーを開催してくださいました イタリア・サルーミ普及促進協会 関係者の皆様に心よりお礼申し上げます
Da Vittorio は こちら ← イタリアにいらしたらぜひレストランにいらしてくださいとのこと♡
イタリア・サルーミ普及促進協会は こちら
前回(2017年3月)の「世界のベストレストラン50第1位のオステリア・フランチェスカーナのマッシモ・ボットゥーラ氏によるサルーミ・クッキングショー」のリポートは こちら

