
[2016年3月クレアモント大学で開催されたモルモン学研究会。D.H.オークス長老が基調講演を行なった。]
今世紀初め頃からモルモニズムに関連して、信仰・教義や歴史、宗教社会学などの面から取り組む諸研究を「モルモン学(Mormon Studies)」と呼ぶようになって、この学際的研究は今日にいたるまで大変盛んである。
このモルモン学はどんな教育・研究機関が行なっているのか、研究の実態と出版物などの面で、私の見聞を含めて概要を整理してみた。
まず教育機関、研究機関で護教的なものとして、ブリガムヤング大学(プロボ)、BYUのニール・A・マックスウェル宗教研究所をあげることができる。マックスウェル研究所は学術的色彩を強める方向に舵を切っている。教会系以外の機関としては、先端に位置しているのが、クレアモント大学院大学で宗教学部にモルモン学ハワード・W・ハンター講座、「モルモン歴史と文化」学アリントン講座が設けられている。そのほか、ユタ州立大、ユタ峡谷大、ユタ大、UCLAなどにもモルモン学の講座がある。ユタ大は、その重要性に気づいて比較的最近設けられたといういきさつがある。
次に、研究会を開催したり、定期刊行物を出版したりしている組織を見てみると、護教的なものに「フェア(FAIR)」や「解説者(Interpreter)」がある。「解説者」は以前のFARMSを引き継いだ形で、D. ピーターソンが中心になって主宰している。本質的に保守・護教的であるが、学術的水準が高くなっていると言える。BYUが行なうモルモニズム関連の研究会やBYU紀要もある。留学中にはこれらに参加していたが、1980年代、90年代、2000年代に入って、サンストーンの年次大会、モルモン歴史学会の両研究会に何度か出席し、発表も行なった。サンストーンは雑誌を、モルモン歴史学会も定期刊行物を出している。最後になったが、ダイアログ誌の果たしてきた役割が大きい。長らくモルモン学の面で質の高い記事を掲載して、大勢の知的モルモンを支え、モルモニズム研究の先頭に立ってきた。
研究会の会場で交差対句法を研究したBYUのJ.W.ウェルチの姿や教会本部の歴史部門の要職にある人物が、また時には教会歴史家である七十人(教会幹部)の姿が見え、和気あいあいと交流している様子が記憶に残っている。護教派も批評的研究者もしばしば融合して見えた。
研究の成果が活字になって、関心を持つ研究者や読者の用に供せられる。BYU、デゼレト出版、「解説者」のジャーナル(以上護教的)、ユタ大、イリノイ大、北カロライナ大、シグナチャー出版などがモルモン学の研究成果や個人研究家の著書を出版している。シグナチャー出版は批判的内容の書籍を数多く出してモルモン学の分野で貢献している。文学面ではモルモン文学会(Association of Mormon Letters)の活動も目覚ましい。アンドリュウ・ホール九州大学准教授がその会員で活躍している。また、女性が主宰する「エキスポネント」誌の存在も忘れてはならない。
また、私が注目しているのは国際モルモン学の組織がヨーロッパを中心に設立されて、定期刊行物(International Journal of Mormon Studies)を出していることである。教会員の人口や歴史から言っても日本は並びかけていると見てよいと思うが、モルモン学研究や研究発表・刊行物発行の面では言葉の壁もあってか大きく水をあけられている。日本には大学の教職についている教会員が少ないこと、教職にある人もモルモン学の分野に関心のある人が少ないことが原因なのであろう。(アメリカでは大学の教職に就いていない一般の会員でもモルモン学の分野で研究を進めている人物が幾人もいる。)日本人では高木信二大阪大学名誉教授が一人目覚ましい活躍をしている。
日本でも教会に頼らずモルモン関連の出版物を発行している会員が経営する奇特な会社がある*が、学術的な分野に及んでいるものは僅かな例外を除いてまだないに等しい。
(*株式会社フリーマン、渡部正雄「昇栄への備え」1999年、森駒枝編「佐藤龍猪 -隠され居りし学者の生涯―」2004年、福田真監修「日出づる国と共に」2007年など)
(以上、要補足・改訂。ご指摘、情報提供をお願い致します。)
参考
Wikipedia: “Mormon Studies” https://en.wikipedia.org/wiki/Mormon_studies
当ブログ記事 2009.07.08 モルモニズム研究の七つ道具 ― 推薦図書、定期刊行物、その他
2006.04.19 クレアモント大にモルモン学講座
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