「ヒトツ」の「ツ」
・「ツ」は箇の意味
・9までの数字にみなついている接尾語(助数詞)
☆ 「ヒト」
【ハ行の音】
奈良時代以前(700年より前)・・・ p音
↓
室町時時代(1600年)まで・・・ 両唇を近づけて音を出すФ(F)音
↓
その後現代まで・・・ h音
☆「日本語では、1~10までは辛うじて大和(やまと)言葉の数詞が
用いられているが、10を越せばすべては漢語からの借用である。」(泉井久之助)
また、そのことが現代の桁の大きい数への容易な取り扱いに大きく貢献している。という。
【数の数え方】
☆ 未開の言語に、「1,2あとは多数」というのがある。
●白鳥庫吉説 (明治時代~1936年にまとめた日本の数詞論)
1、2「 ヒ ト・フ タ / ピ ト・プ タ 」 3、6「 ミ ・ム 」 4、8「 ヨ ・ヤ 」
≪なんとなく口調が良いわけ≫
ピ・プ (i→u)、ミ ・ム (i→u)、ヨ ・ヤ(o→a)
・それぞれ母音の入れ代わり、つまり母音交替が起こっている。
・おのおのが倍数関係・・・日本の数詞の特徴
他には台湾語の一部(村山七郎)、北米のエスキモーの言語、
アメリカ・インデェアンのある部族の言語(白鳥庫吉:市河三喜)
★「我々の祖先は片手で閉じた状態から、親指、人差指、中指、を順に起こして数え、
5で完全に手を開いた5進法であったことがわかる。」(白鳥庫吉)
※じゃんけんのハサミに親指と人差し指を出す老人がいたのは、
この1、2を数えた名残りだろうという。
↓
★「韓語、満州語、アイヌ語・・・5=閉じる、10=開くと同じ方式がみられる」(白鳥庫吉・大野晋)
今日の開いた手から始める方式と逆。
朝鮮半島からの影響で古代方式より現行方式へと変わったのだろう。
1)「ピト」・・・ まず片手の親指を起こす(「プト(太、大)」の転音)
2)「プタ」・・・つぎに人差し指を出す。
大きい別の1という意味を込めた「ピト」の複数形。
3)「ミ」・・・つぎは中指を起こす。
数量の増加、衆多を意味する。
4)「ヨ」・・・つぎは薬指を起こす。
いやがうえにも増加を意味する。
5)「イツ」・・・5本の指を全部使ってしまった極みという意味。
6)「ム」・・・「ミ」までの3本指を立て、他方も同じように立てて「ム」とした。
対立、並列の倍数関係が成立。
7)「ナナ」・・・並べようのない数(並無)
手の指を並べて計算できない数の意味。
8)「ヤ」・・・4本指の場合に、一方を「ヨ」、他方を「ヤ」とした。
対立、並列の倍数関係が成立。
9)「ココ・ココノ」・・・屈めようのない数(屈無〈かがめなし〉)
指をかがめ折っては計算できない数。
10)「ト、トヲ」・・・撓(タワ・トヲ)で、指を撓(たわ)めつくして数える。
指を曲げて手が閉じた状態を意味する。(大野晋)
5と10にも倍数関係。
5の語幹の「ツ」「ト」では(u→o)の母音交替。
遠(白鳥庫吉)・・・計数の結尾とした語
止(大槻文彦)・・・計数の結尾とした語
止尾、十尾(とを)(金沢庄三郎)・・・計数の結尾とした語
片手の親指、人差指、中指の3本を立てた後、反対の手で
同じく3本の指を立てて、その一方を3「ミ」、他方を6「ム」と呼んだ。
同様に4本の指の場合に一方を4「ヨ」、他方を8「ヤ」とした。
こうして対立、並列の倍数関係が成立することになる。
5と10にも倍数関係。
1~10のうち、2,3,4,5 はいずれも多いという意味をもつ。
それらに対して、6、8、10 がある。 そして、7 と 9 が両手の
指で対を作る事ができないやっかいな数字と古代人は考えた。
★『古事記』の神代期に 7 と 9 の数字が全く出てこないのは、
7と9は厄介な数字、不吉な数字と考えられたためだろう。
★現代の7を好み9を嫌うのは、後に渡米した漢文化の影響。
★10以上に2系列が体系的に存続じなかったのは、借用系が
より簡単で便利だったからである。
【 反 論 】
●村山七郎説
一定の母音関係による倍数関係などは存在しない。
1の語幹は「イト」、
2の語幹は「プタ」で相互関係はない。
4の祖形は「ド」
8の祖形は「ザプ」で、「ヨ」「ヤ」の語頭音の起源は異なる。
●大槻文彦説
1(ヒト、古代ピト)は、「ヒタ」直(単一)、「イタ」最、一などの「ピタ」
にさかのぼり、合一、統一を意味する。
●芝烝説
2(フタ)は「フタゴ」双児のフタでもともと2ではなく、
一対という「双」「対」を意味したもの。
●川本宗雄(南方語源説)
木の実・木の葉を食べて並べたことによる由来では?
★固有名詞以外の必要性
「ヒト、フタ…」→ 数量を表す
「イチ、二…」→ 順序を表す (金田一晴彦;森睦彦)
『数の民族誌 世界の数・日本の数』内林政夫:著(八坂書房)参照