ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

二つの顔の日本人 - 4 ( 明治以来の社会システム )

2018-06-17 18:41:36 | 徒然の記

 鳥羽教授の4回目のブログです。今回からが、本論でないかと思います。

 「優れた世界と、劣った世界、日本人はこの二つしか、外部の社会を区別する方法を持たない。」「日本人が、欧米で緊張しおとなしい理由が、この優れた世界にいるという考え方によるものだとすれば、劣った世界と考える東南アジアで、威張ったとしても別に不思議はない。」

 45年前に出版された本ですが、現在の日本でも通用する、耳の痛い意見です。愉快でありませんが、納得するしかありません。

 「例えば、ビジネスマンを考えてみよう。一流社員の派遣先は欧米であって、東南アジアの諸都市ではない。」「外交官でも、同じことである。また僕ら、学者の世界でも、ヨーロッパやアメリカに教えに行くのなら喜ぶ人も、東南アジアでは二の足を踏むであろう。」

 「これはなにも、一流の人が、欧米へ行くべきではないと言うのではない。そうではなく、一流の人が欧米へ行き、二流の人が東南アジアへ行くという事実が、一度日本社会の中で濾過されると、欧米は優れていて、東南アジアは劣っている、という考え方にすりかわってしまうということなのだ。」

 「これは、実は日本社会のシステムに関する問題である。日本社会では、たとえばエリートを訓練する場合、専門職によって訓練するという考え方はない。あちこちと動かしながら、その中からエリートを選び出す。」

 「したがっていつのまにか、エリートコースというものが出来上がる。一流の者は欧米に、二流の者は発展途上国というコースがおのずからできる。」

 「こうしたシステムが明治以来、日本社会の奥深いところに根づいているため、人々は無意識のうちに、東南アジアを欧米より下に見るのである。」

 平易な言葉で書かれていますが、卓見だと思います。誰もが知っていて、誰もが意識せず、当たり前と思っている事実の中から、一つの公式を発見するというのは凡人にできることではありません。

 私の長い会社員暮らしの経験からしても、納得できます。同じ海外勤務の社員でも、欧米の会社へ派遣される者と、東南アジアへ行く社員は、暗黙のルールで選別されていました。日本へ出張してくる現地の社員でも、欧米人と東南アジア人の社員では、受け入れる私たちの対応も違っていました。

 蔑視ということではありませんが、欧米人の社員にはよそ行きの顔で対応し、東南アジア人の社員には、普段通りの気楽な態度でした。会話にしても、東南アジアの社員となら、片言の英語を平気で喋りました。40年前の話ですから、氏の本が出されたと頃と重なります。

  「現地社会に少しも溶け込まないと、日本人はよく非難される。現地に住んで見ればよく分かるが、溶け込むということは生易しいことではないのだ。」「よく新聞のルポルタージュなどで、すっかり現地人とうちとけたと、そのようなことを書いているが、これは形だけ真似て自分でそう思い込んでいるだけだ。」

 「逆に言えば短期だからこそ、うちとけたように、振舞っていられたのであり、長くなれば、きつとボロを出して逃げ出したことだろう。」

 「溶け込むための条件は、二つある。ひとつは長く住むことであり、他は、現地人の中に、一人で入り込むことである。しかし実際にはこの二つとも、商社や企業の日本人には不可能であろう。」

 「大使館でさえも、二年から三年で他の人に交替する。これでは言葉を覚える暇もないし、現地に溶け込む気にもならないだろう。」「更にもう一つの、悪条件がある。それは日本人が、あまりに本国思考が強いことである。企業は本社に、大使館は本省にといった具合である。」

 「これでは、現地に住むのは仮住まいだ、ということになってしまう。」「これもまた、よく考えてみると、日本企業のシステムのためだと言わざるを得ない。日本の企業は、最初から特定の地域の専門家を作ろうとしていないし、本人もそのつもりがない。」「日本のシステムでは、現地にあまり長いのはマイナスであり、出世が遅れてしまう。」

 現在は日本企業が、現地生産へとシフトし、工場をどんどん作っていますから、事情が違っているのかもしれませんが、当時は、氏の指摘通りの日本であり、日本人でした。次のような、批判も、既に過去のものとなっているのでしょうか。 

  「日本人が、現地に溶け込まないという非難は、現地人からもよく聞く。これは、言葉に弱いこと、社交下手、その他いろいろな原因がある。」「しかし一番大きな原因は、日本人同士の接触が多すぎるということだろう。」

 「現地の人々は、言う。」「日本人は、日本の飛行機でやって来て、」「日本の旅行会社の世話になり、日本のデパートで買い物をし、日本のレストランで食事をする。」「これではいくら日本の旅行者が来ても、日本人が儲けるだけだ。」

 本日は、個人としての日本人に、焦点が当てられましたが、次回は、現地に進出した企業についての話です。これも耳に痛い指摘ですが、傾聴するに値します。 

コメント
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