田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女 麻屋与志夫

2008-09-06 22:22:12 | Weblog
 Fの前の『ハナミズキ通り』はこれから美しくなる。
 鹿沼でただひとつのデパートは休日返上で営業をしている。
 まもなく、9時の閉店時間だ。 
 デパートの裏側は桜並木の『ふれあい通り』になっている。
 事件のあった公衆トイレの周辺だ。
 禍々しい樹影を見せている。
 トイレの白い壁に。
 夜目にもあざやかに。

 妖狐参上と。

 赤のスプレー文字が浮かび上がった。

「あれ、けさはなかったんだがな」
 まだ立ち入り禁止の黄色いテープがはられている。
 それをかいくぐってお痴絵と文字をかきなぐったやつがいる。
「三津夫おまえの領土は(てりとりー )ひろすぎるのか」
「そんな、こんなことするやっは、いないはずなんス。『妖狐』なんてゾクはありませんよ。ただぁ、このまえ話しておいた、連中が消えちまったきりなんスょ」
「どうやら、おまえらの錯覚ではないらしいな」
 
 ごつごつした桜の黒い枝のつくりだす影。
 そのスプレー文字をいっそう不気味なものとしていた。

 春爛漫と咲き爛れていた花霞みが。
 蕊桜の季節になっている。
 川の土手をそぞろ歩きする人たちはいない。
 ともかく、ホームレス殺人事件が解決していない。
 建物のかげになって、この近辺はもうすでに深夜の静かさだ。
 かれらの背後では黒川の流れがうずまき音をたててながれている。
 なぜか、この川は夜になると水流が増す。
 生臭い臭いをだたよわせてくる。
 舗道を横切りFの駐車場に出た。
 まだ何台か止まっている車がある。
 建物の真裏にまわると闇はさらに濃密になる。
 去年の暮れだった。
 佐々木小夜子の死体がこの非常階段の脇に横たわっていた。
 屋上から投身したにしては損傷はすくなかった。
 血もとびちっていなかった。
 どちらかといえば、きれいな仏さまだった。
 それでも、ぎぐしゃくと形態のゆがんだ惨状を思い起こし、武はぶるっとふるえた。
「どうしたんすか」
 ばんからなわりに。
 感受性ゆたかな三津夫が。
 武のおびえを見破る。
「なんでもない。なんでもない、さあ昇るぞ」
 武がいつももっているペンライトをとりだす。
 足元をてらした。
 番場そして三津夫がしんがりをつとめる。
 もちろん、定番どおり、足音をころす。
 警備員にでも怪しまれたらことだ。
 三人は屋上への非常階段を昇りはじめる。
 螺旋状の階段だ。
 人ひりとりがとおれるくらいだ。
 上からだれかおりてくれば。
 からだをよこにしないと。
 すれちがえない。
 狭い。
 ひっそり昇った。
 それでも、金属のこすれあう音がする。
 かすかな音なのだが。
 まわりが静かなだけに不気味にひびく。
 音がするたびに、三人の胸に怯えが走る。
 なにか、いやな感じがする。
 ひきかえすのならいまだ。
 下をみれば、螺旋になっている階段は闇にとけている。
 もどることを拒まれている。
 足元にだけ階段があって彼らは宙に浮いているようだ。
 武先輩と番場のふたりは感じないのか。
 妖気が頭上からおそってきた。

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あなたとは違うんで゜す  麻屋与志夫

2008-09-06 14:03:30 | Weblog

●あなたとは違うんです。

●福田首相が退陣表明の席でふともらした言葉が流行語になりつつある。

●あなたとは違うんです。なにせ、わたしは吸血鬼作家ですから。

●ふと、そんなフレーズを思った。周囲のひととあまりに感性が違うので苦しんできた。感性だけではない。日常の生活の規範そのものが全然違う。

●わたしのような人間が少ないからいいようなものだ。多かったら景気は失速してしまう。

●カラオケはやったことがない。外でお酒はのまない。外食もほとんどしない。もっともこれは、宇都宮まで出かけてもラーメンと餃子がうりの中華屋さんしか目につかないからだ。誤解されるとこまる。両方とも大好きだ。これはカミサンの好みにあわせたまでだ。和食か魚料理しか彼女は食べない。ハンバーガ。いままでにいくつ食べたろうか? 車の運転はしない。ゴルフはやらない。散髪にはいかない。年末恒例の紅白はみない。こんなの日本人と呼べますか。携帯でともだちに電話したことがない。携帯する、と書けない。携帯で電話する!!

●わたしはあなたたちと違うんです。ほんとに申し訳ありません。

●首相にたいするプレスの人たちの口のきき方。失礼だと思う。物書きはプレスの側のモノの考え方をする。でもとくに若い人の態度、言葉には眉を顰めさせられることがしばしばある。こう考えるのは、わたしはひとと違うのかな?

●では何に興味をもっているのか。元祖オタク。書斎にこもって本ばかり読んでいる。PCあいてに――ハルと呼んでいるのだが、吸血鬼小説を夜ごと書いている。

●夜、学習塾を主宰して今日に至っている。これも夜の仕事だ。

●イヨネスコの戯曲「授業」を読んでみてください。教授と生徒の関係が実に不気味です。
●教育という名のもとに、わたしたちは必死で生徒に授業をする。

●でもかれらの個性を捻じ曲げている。

●かれらの個性を殺している。

●かれらの血を吸って教師は生きている。

●そんな加害者妄想にかられる。

●わたしは夜の種族なのかもしれない。

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魔闘学園/吸血鬼浜辺の少女外伝 麻屋与志夫

2008-09-06 06:11:12 | Weblog
6                   

「自殺した鹿沼中の小夜子ちゃんがデルの、きいたぁ……」
「でるって、あれ……オバケになって?」
「ねね、その浮幽霊どこにでるの」
「Fデパートの非常階段の下た。あの子がクラッシュしたとこ」
「やだぁ。こわいよう」
 
 廊下で女生徒がさわいでいる。

「高校生がうじうじそんな話しするんじゃねえの。たまたま、小夜子なんてなまえだから、何番目の小夜子かしらねえが、テレビドラマと現実を混同して、おかしな噂をながすやっがいるんだよ」
「あら、番場センパイはそういうけど、ほんとなのよ」
「うえに上がりたい。階段を上らせて、っていうんだって」
「のぼりたい。のぼりたい」
「昇天してないのよ。迷い霊となってあのあたりにいるのよ」

 一昔前の人気コミック、スカイハイの読みすぎだ。
 釈由美子のドラマをまだ覚えている。

 スローライフ。
 なにごとものんびりした町の高校生だ。

「きゃぁ。こわい」
 女子生徒は胸がふれるほど近寄ってくる。
 このほうがよほどこわい。        
 どさくさに紛れて、番場の体に触れてくる。
 なかには、下腹部のほうまで手をのばす勇猛果敢な子もいる。
 その手をはずして、「おゆきなさい」と釈由美子の声色でいう。          
「わあ、番場さんて、ステキー」    
 ステーキとまちがえられて、かぶりつかれそうだ。
 番場はバンバンモテモテ。    
 硬派の名誉にかけても、女とニヤついはいられない。
 女生徒にはめっぽうやさしい彼らは、それを顔にはだせない。

 三津夫の後を番場はあわてて追いかけた。
 その噂を番場は三津夫にした。
 三津夫は信じないと思った。

 ところが、三津夫はその怪談を武にもちこんだ。

「幽霊ばなしはおれも信じないが、あれほんとに自殺だったスか」

 武はホウムレス殺人事件の聞き込みに疲れていた。
 いくら歩きまわっても、なんの手がかりも得られない。
 警察のネットヘンス際にある公衆トイレ。
 警察への挑戦。ともとれる殺人事件。
 Fの裏手から黒川河畔の『ふれあいの道』には。
 あの時刻には人の気配が消えていた。
 目撃情報は得られないままだ。              

「おれもあれは自殺だとは思っていない」

 うっかり口をすべらせるところだった。
「まさか、学生の浮浪者狩りがこの街でおきたわけじゃないだろうな」
「なんすか、武さんは、おれたちを疑ってるスか」
「刑事はなんでも疑うの。気にするな」
「します。ぜったいに気にします。」
「それより、いまからオフだ。ミステリースポットのリサーチにでもいくか」
「いいスね。いいスね」
 三津夫と番場がよろこびの喚声をあげた。 
 武が個人的にかれらの探検につきあってくれるというのだ。
 事件のあった公衆トイレが見えてきた。
 わずか数週間で桜は散り、ハナミズキの季節になっていた。

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