7
西の空が赤い。
鹿沼の夕焼けは美しかった。
童謡に歌われるような牧歌的な美しさがあった。
雨季がはじまらないので、この季節には、空気が澄んでいる。
夕焼けは茜色。
足尾山塊の上空に茜色の夕焼けは広がっている。
一日に終りを染め上げている。彩っている。
いまでは。
茜色の空を見上げて。
一日の終りを。
「ああ今日もぶじ暮れたか」
と嘆息まじりに感じる。
などという感性は。
人から失われている。
しかし今日の夕空なぜかふいに――。
どどくどくしい蘇芳色になる。
雲が急に変色したのに――人々は気づかない。
巨大な鯨を横割りに切ったような。
気味のわるい色の雲……。
茜色と美しい言葉でいえないような。
夕焼けの空になってしまった。
不吉なことが起きる前兆ではないか。
これは血の色ではないか。
空が血の色だ。
一瞬、滑走路の隅の黒い死体袋と血の色が。
麻屋の脳裏によみがえった。
もぞっと袋が動いた。
やはり夕暮れ時だった。
数千キロのかなたから運ばれてきた死体が動くわけがない。
麻屋は小雨の中、厚木基地の片隅。
焼却炉のわきに積み上げられた黒い袋の山をみあげていた。
ふりかえったが、交代要員のジムの来る気配はなかった。
まだ時間にはなっていない。
パトナーの白人のマックスは作業をさぼって飲みにいってしまった。
高宮は内閣情報室に出向していた。
明日まではもどらない。
わかい彼のことだ。
いまごろは、新宿のゴールデン街で飲んでいるだろう。
そうおもう。
仕事をしているのはおれたけだ。
とブルーになる。
それも、こんな汚れ仕事だ。
禍々しい黒い袋の山がむくっと盛り上がった。
応援ありがとう
西の空が赤い。
鹿沼の夕焼けは美しかった。
童謡に歌われるような牧歌的な美しさがあった。
雨季がはじまらないので、この季節には、空気が澄んでいる。
夕焼けは茜色。
足尾山塊の上空に茜色の夕焼けは広がっている。
一日に終りを染め上げている。彩っている。
いまでは。
茜色の空を見上げて。
一日の終りを。
「ああ今日もぶじ暮れたか」
と嘆息まじりに感じる。
などという感性は。
人から失われている。
しかし今日の夕空なぜかふいに――。
どどくどくしい蘇芳色になる。
雲が急に変色したのに――人々は気づかない。
巨大な鯨を横割りに切ったような。
気味のわるい色の雲……。
茜色と美しい言葉でいえないような。
夕焼けの空になってしまった。
不吉なことが起きる前兆ではないか。
これは血の色ではないか。
空が血の色だ。
一瞬、滑走路の隅の黒い死体袋と血の色が。
麻屋の脳裏によみがえった。
もぞっと袋が動いた。
やはり夕暮れ時だった。
数千キロのかなたから運ばれてきた死体が動くわけがない。
麻屋は小雨の中、厚木基地の片隅。
焼却炉のわきに積み上げられた黒い袋の山をみあげていた。
ふりかえったが、交代要員のジムの来る気配はなかった。
まだ時間にはなっていない。
パトナーの白人のマックスは作業をさぼって飲みにいってしまった。
高宮は内閣情報室に出向していた。
明日まではもどらない。
わかい彼のことだ。
いまごろは、新宿のゴールデン街で飲んでいるだろう。
そうおもう。
仕事をしているのはおれたけだ。
とブルーになる。
それも、こんな汚れ仕事だ。
禍々しい黒い袋の山がむくっと盛り上がった。
応援ありがとう