田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

パパラッチを探せ  麻屋与志夫

2010-01-19 05:48:40 | Weblog
part2 パパラッチを探せ

2

陽光の下にさらされた空き地。
雑草が無慈悲にも踏みにじられていた。
植木の大きな靴あとがのこっている。
踏み荒らされていた。
ヨモギの匂いがしている。
その餅草の匂いは母の手作りの草餅へとつながった。
春の匂いであり、五月の端午の節句の想いででもある。

そして雛人形。

渡辺の綱。

連想ゲームのようだ。

そうだ、アイツラは昔から腕の一本くらい切り落とされても平気なのだ。
平然と腕を取り戻しにくる悪鬼だ。
だから……鉤爪を回収にきた。
そこで……。
実像の消えてしまった被写体を不審に思って。
なにかないかと乱闘の場にもどったパパラッチ。
奥本とハチアワセ。
「なにもおちていないな。
おれも確かにおかしいとみた。
逃げ方もすばやかった。
まるでふいに消去されちまったみたいだった。
それにあいつらの爪がはじけ飛ぶのをみた」
「ですよね。おかしいですよ」
「だいたい宇都宮の下野高校の影番が栃木まで出張ってくるんだ」
「それだって、おかしいな。遠いんですか? 宇都宮までは」
「東武の電車で30分くらいかな。なんだ、コレ」
「奥本クンの携帯じゃないかな」
「おい。知美、奥本に携帯してみろ」
 体は大きいが、リアクションはスバヤイ。番長が携帯を閉じるとすぐに、彼の手の中のよごれた携帯がなった。
「困るな番長。誘拐現場をあらされては」
「オス。亀田センパイ。ごぶさたしてます」
「おれとなんか、まめにあわんほうがいいがな」
ここで昨夜悲鳴がした。という通報があったので、かけつけたところ、番長がいた。
番長はアタマをごしごとかきながら、昨日の経緯をせつめいした。
「なにか光っているな」
奥本の携帯はもちろん没収。
その証拠品を透明なプラスチックの袋にいれながら亀田刑事がつぶやいた。


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パパラッチを探せ  麻屋与志夫

2010-01-18 22:35:06 | Weblog
part2 パパラッチを探せ    栃木芙蓉高校文芸部

1

芙蓉高校新聞部のカメラマン。
美少女のおっかけ。
きわどいところでストーカーと呼ばれないのは奥本久の性格からきている。
いつも明るく笑顔でいる。
憎めない。
女生徒のなかには学校新聞に載せてもらいたくて自薦で久に近寄るものすらいる。
ソノ人気者が、ふいに行方不明になった。 

龍之介は玉川堂への路地にきていた。
昨夜、番長の植木が下野高校の影番と争っていたところだ。
昼間きてみると路地の路肩から狭いが空き地になっているのがよくわかる。
今日は土曜日なので授業は午前中だけだった。
久を探すための時間はいくらでもある。
まだ、転校してきたばかりなので塾にはかよっていない。

「なんだ。龍もきていたのか!」
番長だった。
「なにかおちてないかとおもって」
「おれは、久がなにも映っていない、といっているのを確かにきいているし」
龍之介は爪が落ちていないかとさがしていた。
つけ爪にネイルペインテングをしていたとはおもえない。
もしそうなら彼がたたきおとした爪がおちているはずだ。
それがさきほどから、いくら探してもみつからないのだ。

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トワイライト/インクの匂い  麻屋与志夫

2010-01-18 09:30:36 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部

わたしって可愛い。
しかたないわ。
まだ再生したばかりなのだから。

そしてさらに一行かきたした。
 
このインクの匂い好き。これなら義務でなくても、毎日つづけられそう。

文子は分厚い日記帳をとじた。

18

文子は携帯の着メロで起こされた。
「事件よ、文子。パパラッチが帰らなかったらしい」
「パパラッチ? だれのこと」
「奥本くんのことよ。さいごに会ったのがわたしたちらしいの。いまどこ」
「まだ、家」
「ウソっ。はやくでないと遅れるよ」
教室にはいっていくとクラスが騒然としている。
知美のまわりには龍之介もいる。
「連絡とりあわなければいけないから、机くんの番号おしえて」
「いいけど」
「チュウ」
知美はけいたいを合わせている。ああすればいいんだ。
「わたしも」
あわてて携帯をとりだす。
文子も龍之介の携帯にあわせた。
「わたしも、わたしも」
とクラスの女生徒のおもいは同じ。
携帯はひとつ。
龍之介の携帯は彼女たちの総攻撃にあったかんじだ。

         

         
                               pictured by 「猫と亭主とわたし




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トワイライト/インクの匂い  麻屋与志夫

2010-01-17 09:08:34 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い  栃木芙蓉高校文芸部

16

「この街もたそがれね。
もう薄闇の中。
いいとき翔太ちゃん帰ってきてくれたわね」
きゅうにしみじみとした口調で玉藻がいう。
「わたしなんか、いつガソリンかけられるか、
いつ寝首かかれるか、
棺にいても不安なのよ」
「そんなにひどいのか」
「ひとの世とおなじよ」
「外来種か? そうなんだろう。
日本古来の吸血鬼の世界だけではなくなったってことなのだろう」
玉藻が深い溜息をもらした。
どこの世界にも悩みはあるものだ。
お姫様を暗殺しようとするテロがあるとは……。
とんでもないところに越してきたものだ。
いや、ジイチャンはそれを承知だった。
それで、故郷のこのお化け屋敷を終の棲家と決めたのかもしれない。
龍之介はこっそりと部屋からぬけだした。

祖母が死んでから長いこと寂しそうだったのに。
すごく楽しそうだ。

ふたりだけにしてやろう。

こっそりと廊下にでる。
二階に上がった。
窓からみる。
庭には夜の帳がおりていた。
闇に濃淡がある。
濃い部分に人形のモノがうごめいる。
顔らしきものがみえた。
恨めしそうにこちらを見上げている。

17

文子は文机にむかってしいた。
やはり窓から闇の濃淡を眺めていた。
日記をひろげた。
マッサラな日記の一ページ。

春はあけぼの。
男は机龍之介。

そう書いてしまった。
それでも胸の高鳴りはおさまらない。
なんておかしな性(さが)なのかしら。
初めてみつめた男性を好きになる……なんて。
わたし困っちゃうな。
でも、今回の彼は同世代????? のイケメンだ。
うれしいな。
龍之介くん、好きです。
だぁーい、好きです。
前回の彼は太政大臣平清盛。
ああいやだったな。
あんな。
オジン。
皺くちゃな顔。
「机くん、好きよ」
そういってみて……さらにほほを染めた。


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トワイライト/インクの匂い 麻屋与志夫

2010-01-17 01:21:19 | Weblog
part1 トワイライト/インクに匂い  栃木芙蓉高校文芸部

15

「龍之介さんお帰り」 
襖の向こう側から声がした。
するすると襖が内側から開かれる。
襖の陰にはだれもいない。
穏業をして庭を横切った。
玄関を開けた。
妖々と悪意の渦巻く廊下を忍び足でやっとたどりついた祖父の部屋なのに。
怪異はここにもあった。
が、女性の声で迎えられるとは――。
二十四畳ほどの部屋の中央に囲炉裏がきられている。
祖父のよこに白い透明感を四囲に漂わせて若い女性がすわっていた。
「翔太ジイチャン! 
お吸さんのおでましだなんて!!
おどかさないでくださいよ!!!
ぼくはてっきり」
「そうよ。そのお九です」
ゴールデンリトリバーのハンターは彼女の隣でのどを鳴らしている。
尻尾をおおきく左右に振ってあまえている。
どうしてなんだ。
初対面の人になれるような犬ではないはずなのに。
「よくぶじにココまでたどりついたな。
外には夜になると血をすわれた村人の霊魂が浮遊するのだ」
「そうね。さすが翔太チャンの孫だけのことあるわ」
「ぼくはてっきり吸血鬼がでたのかと……おもって走ってきたのに」
「改めて紹介する。おまえのおばあちゃんになったかもしれない九尾玉藻さんだ」
「ゲッ。だったらやっぱ、吸血鬼」
「そう呼ぶひともいるな」
「よろしくね。龍チャン」
それってなれなれし過ぎる。
そういって、抗議しようとおもったがよした。
ふたりは旧知の間柄というより、
たしかに年の差はありすぎるが、
恋人同士の楽しさで酒をくみかわしている。
祖父のそばにいるといつもとんでもないことが起きる。
でも、コレってbig surprise だ。
「龍ちゃん。年の差なんて外見で判断しないの」
ぼくの考えていることがストレートにわかってしまうのか。
「そうよ。なんでもわかるんだから。
綺麗な女生徒とあっていたでしょう。
翔太ちゃんに似てもてるのね。
もてるんだ。
それに年の差だけど、わたしのほうが……」
「そうなんだ。龍之介。
玉ちゃんはおれがあったときでもすでに、
千年を遥に閲する吸血鬼の姫君だった」
「あのとき結婚していたら、
龍ちゃんみたいな孫がいたのにね。
惜しいことしたわ」
なんだか……話がどんどんファンタジーしてきた。
「ぼく、さきに寝ます」
「なにをいう。ほら酒をつきあえ」
「未成年に酒のませていいのかな」
「なにかたいことかんがえている」



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トワイライト/インクの匂い 麻屋与志夫

2010-01-16 09:35:45 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部

13

文子のことばと同時に、世界は沈黙が支配した。
五人は動きをとめた。
まだ、焼きそばを食べていた丸く太った繭などは、
ソバが二三本口からたれている。
それでも、声が出たのは繭がはやかった。
「あそこ。あそこ、だれも住んでいない荒れ屋敷よ」
一息にいってしまってから。
皿までたれていたソバを。
ズルッとのみこんだ。
「はいどうぞ」
こんどはソバをのどにつまらせて目を白黒させる。
由果のさしだしたお冷をのんでやっとおちついた。
「わあ、それ机センパイのお冷よ。
間接キスだ。
キスしちゃったよ――繭ちゃん。
机センパイとキスした……」
いわれた繭はほほを真っ赤に染めた。
 
14

紫色の雲を朱色に染めていた夕映えが消えた。
おぼろ月が荒れ果てた庭を照らしていた。
黒く古民家がある。
地元では大平のお化け屋敷としてしられている。
祖父と龍之介の仮住まいだ。
妖しい殺気がふきよせてきた。
龍之介は太陽神、摩利支天の穏形にはいる。
『大般若経』をこころで唱えながら芝門をくぐった。


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トワイライト/インクの匂い  麻屋与志夫

2010-01-16 00:33:43 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部

12

「この焼きそばおいしかった」
「文子にキニイッテもらえてれしいわ。
ご当地グルメ、
B級グルメ焼きそば部門ナンバーワンの。
栃木のジャガイモ焼きそばなんだから」
「こんなにおいしい焼きそばを食べたのはじめて」
「うわぁ。うれしいな」
由果と繭が知美の言葉に同調する。
栃木名物をほめてもらえて、ウレシイ、っという顔をしてたいる。
満面二人とも笑みをうかべて文子をみつめている。綺麗なひと。
奥本はそれどころではない。
被写体が映らないのは――。
№1カメラのせい。
№2腕が鈍った。ぼくが悪い。
№3あそこにはだれもいなかった。
そんなことはない。
番長も下野高校の影番と戦ったといっている。
転校生の机君だってなにかカマエテいた。
敵の腕をナイダようにみえた。
ぼくの目はだませないぞ。
そうだ……だからあそこにいたのは《vampire》
バンパイア。
という叫びに――。
「ラーメンブームの次は焼きそばブームがくるのよ」
といっていた知美が箸をとりおとした。
「スミマセン。ぼく机のあとを追います」
「バカね。どこに住んでるのかしってるの」
「知美さんは、しってるの」
「しってるわけないし」
「だれかっていっても、
だめだよね。
同じクラスのぼくらがまだきいていないんだから」
「あらそんなことないわよ。
わたししっている。
職員室でおたがいに自己紹介したときにきいた。
大平神社の鳥居の手前のお化け屋敷。
だ、そうですよ」

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トワイライト/インクの匂い 麻屋与志夫

2010-01-15 10:40:42 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い 栃木芙蓉高校文芸部

10

携帯がチャクメロを奏でた。
「ジイチャン……? 玉川堂で墨かったから。それに大文字の般若心経のお手本サービスだって」
 墨があれほど高価なものとは……とおもいだしていると、低めた声がつたわってきた。
「龍、お吸(おきゅう)さんのおでましらしい。外でハンターがほえている」
 文子が枕草子を暗唱しているのを後に、龍之介は巴波をとびだした。走れば10分とはかからない。

11

「机くん、どうしたのかしら」
 暗唱をやめて文子が龍之介を目で追いかけた。
「文子センパイは机さんに気があるんですか」
それまで会話に参加できないでいた二人が同時に同じことをいった。
「由果と繭そんなこときくなよ。まあ、あれだけのイケメンだからな」
それもしかたないだろう。というような顔を植木がした。
「わたしは、鷹ちゃんみたいに、ゴツゴツした風貌がたのもしいわ」
「バァーカ。知美にほめられたってうれしくないし」
「どうして映らなかったのかな」
 奥本がまた首をかしげた。たしかに人影があった。それがまったくなにも映っていない。
「植木さんもみましたよね」
「みただけではない。ゴロまいていたんだ。下野のヤッラいつからあんなにつよくなったのだ。机がこなければおれひとりではヤバかった」



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栃木芙蓉高校文芸部  麻屋与志夫

2010-01-15 04:51:13 | Weblog
part1 トワイライト/インクの匂い

9

「ああ、鷹ちゃんとは幼なじみなの」
知美がバンチョウ、番長と気安く、下級生なのに呼び掛けるので不審におもっていた。
そんな龍之介に知美が説明する。
勘のいいひとだ。
そしてよくしゃべる。
「文子さん、すごいのよ。おどろいちゃった。去年(こぞ)の蝙蝠(かはほり)まで暗唱してるのよ」
「なんだい……そのコゾノカワホリって? おれにもわかるように解説たのむ」
「ああ、鷹ちゃんごめん。枕草子の28段のおわりの文なの。扇子の古いよびかたなのよ。扇子がひらいたところが蝙蝠(こうもり)に似ているから……カハホリはこれも古名ね。コウモリのことよ。去年の扇子を懐かしくおもいだすというところなの」
「過ぎし方恋しきもの……」
文子が澄んだ声で暗唱する。

奥本はきいていない。
さきほどからぼそぼそカシオのデジカメのモニターをみながらつぶやいている。
「どうした。新聞部」
「なにも、なにも映っていない。おかしいよ。たしかに撮ったのに」
やはりなぁ。
映らないか。
伝説はほんとうだった。
あいつらは、北関東の伝説(れぢぇんど)の吸血鬼なのだ。
いままでぼくが相手にしてきた都会の吸血鬼とはどこかちがっていた。
吸血鬼ほんらいの能力をそのまま温存している。
都会のアイツラは進化しているから鏡にだって姿が映り、人と変わりがない。
なかなか正体を見極められない。
そのてんここの吸血鬼は素朴なのかもしれない。
じぶんたちの能力を隠そうとはしない。
そのぶん兇暴かもしれないぞ。
と龍之介はこころをひきしめた。

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栃木芙蓉高校文芸部  麻屋与志夫

2010-01-14 08:53:09 | Weblog
part1トワイライト/インクの匂い

7

ストロボの閃光には弱い。
下野高校のツッパリは、乱杭歯のあいだからシュと威嚇している。
金髪。
茶髪。
スキンヘッド。
そして最も古典的な刈り上げ頭にそりを入れたヤツ。
ツッパリスタイルのオンパレードだ。
だが襲ってこない。
光に目が眩んでいる。
このすきに逃げなければ。
奥本にもみえていない。
なんのために日夜、ゲームに励んでいるんだ。
ゲームの世界のvirtual realityを信じているのなら。
仮想現実の世界だけではない。
現実にも異界がダブっている。
人外魔境がその領域を広げていることをはやく認めてくれ。
龍之介はこころのなかでそうつぶやいている。
ヤッラの存在を信じれば、みえてくるはずだ。
信じようとしないから、みえないのだ。
ヤッラがいると信じればこの世の残酷な事件の裏にあるモノがみえてくる。

8

「あれっ。なにも映っていない」
三人は栃木名物ジャガイモ焼きそばがウリの店「巴波(うずま)」に入った。
奥本がトンキョウなこえをあげた。
「なんだよ、あいつらいつからオカマチャン趣味になったんだ。ネイルサロンにかようなんてゆるせない」
「そんなシャレタ店は栃木にはありませんよ、番長。あいつら宇都宮に行ってますよ」
「だれがネイルサロンに出入りしてるの? 番長、こっちの席にどうぞ」
奥まった仕切りの影から顔だけがのぞいた。
知美だった。
転校生の文子もいた。そのほか二人。
「ねえ、文芸部はこれで安泰よ。四人になったのよ。番長、こちらも転校生。山田文子さん」
 

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