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「ゆわさる別室 」の別室

日々BGMな音楽付き見聞録(現在たれぱんだとキイロイトリ暴走中)~sulphurous monkeys~

20110228

2011-02-28 | 矮小布団圧縮袋

○昨日見た映画「英国王のスピーチ」については全く個人的趣味で見る種類の映画だっただけで、こういうのは「シングルマン」同様、普通だと名画座とかKBCシネマあたりで単館上映とかの作品だよなあ、と思ってた(福岡でもうちの近くじゃ2館しかやってない)。それが何かニュースで話題になってるらしいということを知らなくて、見て家に帰ってからネットを見て、ようやく知った。今朝、「アサデス。KBC」で月曜担当のおすぎさんが珍しく何かえらく絶賛していたので、KBCシネマじゃないのに褒めてるんだな、と思いつつ会社に出勤して、昼のニュースでアカデミー賞のことをやっていてびっくりした。
 どっちかというと地味な話で、どう考えても「ハリウッド超大作」って感じじゃ全然ないので(笑)。昨日自分はDMCかとか言ってしまいましたが「イギリス版ベスト・キッドか?」とかもっとすさまじいこと言ってる人もいたな(すげー・笑)。でも逆に言うと、CGでも3Dでもなく、全くアナログな人間の芝居の力が楽しめる。機智に富んだ台詞の洒脱な応酬が次第に緊張したクライマックスに向かう舞台劇のようで、昔だったら「ほんと、神様って、人を豊かに幸せにするために、人を苦労させるんですねえ。そして、それを見る人を、励ますんですねえ」とか淀川長治さんが解説とかで言いそうな、まさしく王道クラシックな映画だったのです。往年のジェームズ・スチュアートが米国の良心の側面の喩えなら、この映画は英国の地味な誠実の側面の喩えというか。わかりやすすぎるといわれればそれまでだし、まだ植民地支配はいっぱい残ってるし、政治的現実だのにしてみればもっとどろどろしたところもあるのだろうが、見終わった後のほわっとしみじみした余韻、そこんところが「映画」なんですね。リーマンショック以降、意外と本音はそういうのを求めてるんかねハリウッドも。 
 ま、この話、微妙にハリウッド的ハッピーエンディングではないはずなんですよ。戦意高揚させなきゃいけなかった事情とか、この後のイギリスの斜陽の大変さとか、ジョージⅥ世のその後とか、歴史上の事実がありますから、それを思うと実はおもろうてやがて哀しくほろ苦いのですな。家に帰ってからyoutubeで「GeorgeⅥ」のスピーチ動画(これ、結構あるんですよ)を見ました(CBSインタビュー画像「Colin Firth as Britain's King George Ⅵ」もあり)。こっちは本物で、ほんとにそういう喋り方で、ちょっと微笑んでもふっと悲しそうにする表情が、そうだったのかとわかると本当に悲しくて胸を打ちます。そういうところを下品なギャグにも悲惨な虐待写実主義にも落とさず、人間の尊厳に対する敬意と品位を持ってかつリアルに(コリン・ファースもちょっと高めの声出してて、演技なはずだがナチュラルによくこういうのができるなあ)、かつヒューモアを湛えて描こうという、難しい微妙なバランスの作品を、よく作ったなと思います。二度目に見るとドラマの中の細かいところの照応や台詞の暗示的意味や伏線がわかると思うので、機会があったらもう一回見てみたいかな(という、モース警部やルイス警部のドラマ風な「偏愛」な感想を小生に言わしめる点において、いかに所謂ハリウッド超大作的でないか、ということを予想されたし)。うっ、予告編見てたらまたシーン思い出してフラッシュバックしちゃってますよ。(とか言ってるくせに、食生活は完全和風な味噌汁と蕪高菜漬けの夕飯だったりするたれぱんだとむすび丸とキイロイトリ)

本日のBGM:
 交響曲 第7番  A dur Op.92  / Beethoven (C.クライバー ウィーン・フィル 1976)
 聴かずにはおれまい(笑)「べと7」。昨日家に帰ってから、家のCD探してシャッフル君に入れて出勤。ちなみに、「のだめ」は見てないからほとんど知らない。映画「英国王のスピーチ」は26日封切されたばかりだったそうで、どういう使い方をしているかを語るとちょっとネタバレになってしまう。これから見る人もいるのだろうからまだやめておこうと思って昨日はMozartの方を語った。だが、やはり本編で重要なのはもちろんベートーヴェンだろうと思う。英国王が、何故敵国の独逸の音楽をBGMに?などという声もネットでちらほら見かけたが、そういうちっちゃい話じゃなく、Beethovenの子供の頃からの伝記、生涯の物語を思い出してみたらどうだろう。彼こそ「もしかすると音楽家なんてなりたくなかったかもしれない」「さぞトラウマだろう」逸話ぎっしりの叩き上げ伝説のコンテクストで読まれてきてる作曲家だもんね。そんな要素がにじみ出てる感じがするような、絶妙な、たまらない佳曲がある。だから眉間に皺寄せる王様に重なってくるのはやっぱりベートーヴェンかな。
 この曲は有名だし、他の映画などでもよく使われている曲だけど、こう来たか!という。この使い方はなかなか憎い。この雰囲気は、もしくはこないだ語った徳川慶喜の時にもでてきた「上に立つ者」の忍耐(それは21世紀の拝金主義の中で全世界的にも欠乏しているように思われる今日的問題でもありますな)。あるいはもっと、権現様の「重荷を負いて遠き道を行くがごとし」の感じかな(ニコニコ動画だったらそんなタグが勢いづいて弾幕のように流れてもおかしくない←絶対嫌。やめて。そんな画像・笑)。
 どちらかというと自分はMozartの方が好きで、Beethovenの交響曲では第6ぐらいしかいいなと思わなかったのだが、今回「べと7」を聴いて、この作曲家がなぜ人々に愛されているのかという本質をようやく実感したような気がする。辛さを解消する音楽なのではなくて、辛さそのものから逃げない人にこそわかる、辛さをがっちり受け止めて「励ます」音楽だったんだな、ベートーヴェンって。不覚でした。映画を見て、そんなご利益もあったり。(20110228)


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