多面体F

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」

コロナ禍の学校で教員と生徒に起きたこと

2020年09月10日 | 集会報告
9月6日(日)午後、飯田橋の東京しごとセンターで「公開討論会 コロナ下の学校現場」(主催 都教委包囲・首都圏ネットワーク 参加57人)が開催された。新型コロナの流行後、総がかり行動のような屋外集会、裁判の報告集会や会議に参加したことはあったが、わたしにとっては、参加者50人以上の普通の集会に出席するのは初めてだった。緊急事態宣言から半年近くなり、少し日常が戻って来た感じだった。とはいっても3人掛け座席の真ん中は空け、全員マスク姿という「コロナ対応」集会だったが・・・。
2月27日の安倍首相の突然の臨時休業要請、6月からの分散登校、給食開始、夏休み短縮など、教育委員会の傍聴や報道で、生徒も教員もさぞ大変なことだろうと心配していたが、困難さの実態はわからなかった。

伏見さん(右)と司会の青木さん
まず主催者の伏見さんよりこの日の集会の趣旨について「今年2月27日(木)安倍首相は全国一斉休校の要請をし、ほとんどの教育委員会がそれに従い、何の準備もしないまま翌週3月2日(月)から休校になった。
そして半年になるが、現場で何が起こったか、いま何が起こっているか、まずは現場の声をしっかり聴き、受け止めること。そして解決するには何をすればよいのか考え、次の一歩を踏み出す一助にしたい」とのあいさつがあった。。
そして小中、高校(3人)、特別支援学校、大学生の6人から報告があった。なお、小中学校や特別支援学校の全校が同じだったというわけではない。発言者の体験ではこうだったということに留意いただきたい。またこのサイトに集会の動画がアップされている。
●小学校 小田さん

3月に突然休校になり、卒業式だけ行なった。通常1週間ほどの準備期間に練習したが、今回は前日6年生だけ短時間登校し練習した。君が代斉唱はほとんどの学校でテープを流しただけだった。3月は休校とはいうものの、子どもの様子を見るため家庭に電話連絡したり、学校によっては家庭訪問したりとそれなりに忙しかった。
4-5月は休校だったが、始業式は行なった。ただ教科書を渡せなかったので、勤務校では保護者に取りに来てもらったが、学校によっては教員が配達した。またプリントを大量に作成したが、これも教員が家庭に届ける学校もあった。これに限らず、区市により対応が異なることが多かった。
自宅勤務の人が多かったが学年に1人は出勤することになり交代で出勤した。オンライン授業は小学校では、ワイファイ環境の有無だけでなく、子どもが機器の操作ができるかという問題もある。高学年で「朝の会」をズームでやろうとした学校があったがうまくいかなかった。
6月から分散登校が始まった。ボール遊びはダメ、タッチ鬼はダメなど制限があった。給食ははじめのうち教員が配膳していた。人数が半分に減っているとはいえ大変だった。いまは子どもが配膳している。しかし食事中子どもはマスクを外すので「もう少しおかずを増やす」増配作業は教員が子どもの席まで持っていって行なう。すると教員が食べる時間がなくなるということも生じる。
机・いすの消毒は、8月6日の文科省通達でやらなくてよいことになったが、勤務校では区市からの通達がないという理由でそのまま続けている。
夏休みは2週間(学校によっては3週間)削減、運動会・学芸会・宿泊行事・遠足など行事はすべて中止になった。学力テストや体力テストもなくなった。今後、月2回土曜授業を行ない、授業時間を確保することになっている。
子どもの健康は大丈夫か、子どもの実態を無視したまま授業を進めてよいのか、懸念される。
●特別支援学校 田中聡史さん
4-5月は休校だったが、保育希望の生徒は登校できた。スクールバスを利用し、希望者には給食も提供した。各学年の1-2割、20-30人保育希望者がいた。その他の生徒は放課後等デイサービスに朝から通所するか自宅で過ごしていたようだ。教員は週2-3日自宅勤務が奨励された。ただ管理職に1日3回メール報告し、報告書を1枚提出することになっていた。
6月から分散登校、6月末から通常授業に戻った。
都教委から感染拡大防止のガイドラインが何度か出された。従来は学年全員で音楽の授業をしていたが、2クラス合同とか1クラスずつの授業に変わり、体育は間隔を空けて行なう内容のみになった(水泳は中止)。各校にカメラ付きパソコンが2台配られ、非接触で検温する。児童生徒もマスク着用が推奨されるが着けられない児童も多い
生徒の下校後、机・ロッカー・おもちゃなどの消毒をしているが、45分の休憩時間は消毒で終わってしまう。6月に特別支援学校の教員が新型コロナに感染したことが報道され、感染拡大防止のため。すべての授業で、教員と児童生徒の配置がわかる指導案の略案をつくり保存することになった。これも教員の労働強化につながる。
●高校 田中さん
高校の場合、3学期は成績を付け、卒業できるかできないか、進級できるかできないか決めなければいけない。2月末に考査が終わっていればよいが、その問題で長時間会議で議論した。
始業式だけやり再び休校に入った。教員は課題をつくらないといけない。授業をしていないので、それほど難しくない課題をつくる教員もいた。オンライン授業を試みる人もいたし、ほとんど自宅勤務にする人もいた。
休校が延長されるたび、あるいは行事の中止が決まるたびに、年間予定表をつくり直さないといけないという問題もあった。宿泊を伴う行事は中止になり、年内は3学年そろった行事はできなくなった。1学年ずつ体育祭をやるとか、年明けの1月になってから行事を行なうという話も出た。
6月に登校が始まり、生徒に聞くと、外に出ずずっと家の中にいたという生徒が多かった。3カ月ぶりに登校できるようになりうれしいという生徒が多かったが、「もっと休みたい」という生徒もいた。みなマスクをしているので、教師の側からすると、反応がわかりづらい、名前を覚えにくいという問題があった。マスクは体育の授業では生徒ははずしてよいことになっていたが、教師は着用だった。
東京都では熱中症アラートというものがあり、発令されると運動はできる限り避けることになっているのに、体育の授業をやっている。どうなっているのかと思う。
担任は、帰りに消毒しないといけないし、密にならないよう生徒に連絡したり大変だ。学校によっては昼休みに密になっていないか、教員が見に行くところもあった。
もし感染した場合、生徒は濃厚接触者が多ければ臨時休校だが、教員は感染者が1人でも出れば報道され、2週間学校に来れない。もし感染すると教育活動への影響が大きい。
●高校 岡田さん
休校期間中にパソコンやスマホで連絡したり課題を出したりした。しかし家庭によってはパソコン環境やプリンターがない家もある。
本校には3つの科がある。教育活動への影響についてだが、体育科はリモートで授業をするといってもなかなか難しい。また3年生はインターハイをめざして2年間頑張ってきたのに消えてしまった。いったいいつ引退したのか、ということになる。
福祉科は外部施設での実習ができなくなり、校内でできる代替措置を行なっている。また1月に介護福祉士の国家試験がある。履修時数も厳しく決められているので、かなりタイトなスケジュールになり生徒に不利になった。
普通科は、休校期間中の評価をかなり甘くし本来進級できない生徒も進級させた。生徒は「コロナがなければ進級できなかった」とニコニコして話していた。「行事がないのがつらい」「楽でよかった」という声もあった。
コロナがあぶりだしたものということで、わたしが感じたことが2つある。ひとつはPCR検査をなかなか受けられないことだ。感染者と濃厚接触したといっても、15分間マスクなしで接触していないと検査を受けられないという話を聞いた。もうひとつは、生徒への感染防止については配慮が多くあったのに、教員の心身の負担への上からの配慮や指示は皆無だったことだ。教員はマスクをして大きな声を出すので息苦しい。また授業だけでなく、朝の立ち番、空き時間のの校内巡回、クラブなど分単位で歩いている。休息もろくに取れない。さらに廊下には冷房がない1日1万歩以上歩いていて身体的負担が大きいのに、上からの配慮がまったくない。
●高校 石井聡さん(千葉)

安倍の突然の休校要請で、授業だけでなく予餞会がなくなった。ダンス部の顧問をしていたが、生徒がワンワン泣いているのを見て、これが教育なのかと感じた。
卒業式は、君が代斉唱がなく校長あいさつと総代あいさつだけだったのでよかった。
4月になり、森田県知事が突然、2日(木)に6日(月)から学校を再開するといい出した。部活動も再開するという。3日の職員会議で再開方法などを話し合ったが、始業式前日の5日(日)に休校延長の通知があった。しかし生徒は登校したので始業式だけやった。まさに朝令暮改で、混乱した。
6月の再開直前に、県教委からベネッセ子会社の学習支援ソフト「クラッシー」を全校に導入すると通知があった。本校では経済的に苦しくタブレットやスマホを持たない生徒もいる。単価3980円で平均1000人、100校とすると約4億円の税金を、使いもしないものに費やしていいのかと思った。
授業は、当初午前・午後の分散授業で、担任は2度机の消毒をし、わたしはトイレの床掃除を担当し、労働強化になった。
職員室には冷房がない。社会科準備室に8人教員がいるので、授業が終わり準備室に戻ると暑いのでだれもマスクはしていない「密」な空間だ。
修学旅行は、当初11月に台湾に行く予定だったが行き先を沖縄に変更、さらに3年生の6月に関西へと延期になっている。そのたびに生徒は支度料を払わされている。

学校により、大変さの種類やコロナで増えた仕事は異なるようだが、だんだん実態が見えてきた。
小中高校では登校が始まったが、大学はオンライン授業のみを続けている。そこで大学生からオンライン授業の問題点、その他問題点の報告があった。。
●田中駿介さん(大学4年)
春学期はすべてインターネット授業で、校内はロックアウト(封鎖)されている。オンライン授業のアプリは教員により違う。ズームやWebexを使う先生、パワーポイントや動画サイトをドライブに上げる先生、講義予定原稿をワードやPDFファイルにしてアップする先生もいる(文字数にすると1コマ12000字程度)。
オンラインになり授業の質が下がったのは確かだ。たとえば授業後に個別質問するのが難しくなった。教員にとっては、授業にかけるコストが従来より高くなった。学生も教員も大変になっている。
その他、大学にはカウンセリング室があるがインターネット代替になった。しかし親から虐待を受けている学生が、自宅から虐待を相談できるわけがない。また25歳以下でデータ50ギガまでは無償となったが、これは大手3社の話で、格安スマホの人は対象外だ。もともと貧困な学生、困窮者は疎外されている。
また新入生はキャンパスには一度も入っていないのに大企業のインターンシップは普通にやっているので、アカデミズムの前に企業に出社しネオリベの従順な身体訓練を先にさせられているディストピア的な現実もある。   
入試に関し、いまは推薦やAO入試が盛んだが、従順な「いい子」が高校生に求められる。コロナに感染したくないので休校が長引いたほうがよいと考える生徒もいるのに、推薦入試のため仕方なく登校して出席日数を増やす高校生もいる。今年に限っては出席日数を内申書に記載しないほうがよいと思う。不利益にならないような措置を考えてほしい。

八王子の市民の活動を報告する根津さん
(席がロの字型の配置だったため、後ろ姿しか撮れませんでした)
休憩後、質疑応答が1時間ほどあった。はじめて知ったトピックスをいくつか紹介する。
カリキュラムをこなすという点では、3-5月の休業分は夏休みの4週間短縮、冬休み短縮、行事中止と行事のための準備を合わせれば時数的には補える。ただ生徒にとっては授業ばかりということになり、大丈夫なのかどうか。
分散授業で十数人の少人数学級を体験した。小学校では2度同じ授業をする体験がないので、授業が深まったという声もある。出張は紙ですませ授業に集中し、超勤が少し減った。
八王子では、市民49人が3月3日、一斉休校に対し教育委員会に休校決定の手順について質問書を出し、休校中の学童保育開設などの要請を行なった。市は、休校決定については2月27日に電話やメールを回し臨時の教育委員会を開催して決定、かつ学校長から意見聴取を行なったと回答した。要請に対しては小学3年までのみならず、学童保育所管部と校長に聞き中学3年までの生徒85人を学校で預かり、希望者には給食も提供することになった。同時期に生活者ネットも意見陳述と要請を出した。いろんなところから声を上げた結果、行政も動かざるをえなくなったといえる。
過去10回処分を受け、2019年3月最高裁で2件の減給処分が取り消された田中聡史さんに、改めて戒告処分を発出するよう都教委が動き始めた。昨年12月から今年7月にかけ、コロナ発生にもかかわらず、事情聴取を行ないたいとの連絡が3回あった。直近では7月22日か29日に所属校に出向くので希望を選ぶようにとの連絡だった。代理人弁護士の同行を条件にしたところ、いまのところ都教委から連絡はないとのことだった。

「まとめ」のスピーチをする見城さん
最後に石橋さんから「コロナ対策に便乗した戦争・治安・改憲にNO!を 10・11集会・デモ」(10月11日(日)14時としま区民センターで集会、17時デモ出発)の行動提起があった。
また、見城さんから「コロナ禍という新たな課題のもと、文科省(中教審)は「令和時代の日本型学校教育の姿」(答申案作成の骨子案)を作成し、企業・大資本もさらに利益を上げ拡大して生き延び、世界レベルの競争を視野に入れている。わたしたちは新たな闘いの質や運動のスタイルをつくりだす創造的な活動を考えていく取組をすることを、今後の課題としていきたい」とのまとめがあった。

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。
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