◎日常の事に即して悟りをつかむ
#浦和レッズ三度目のアジア制覇
達磨の二入四行論から。
『道を修める方法として、書物によって悟った人は気力が弱く、日常の事に即して悟りをつかむ人は気力が強い。日常の事に即して悟りをつかむ人は、どこにあっても真理を失わない。書物の文字にたよって理解した人は、実際の事件に出遇うとたちまち眼がくらむ。経典で真理を議論する人はかえって真理に疎い。
口で日常実際の事を語るよりも、耳で日常実際の事を聞くよりも、自分の心身で実際に体験した方がよい。』
ここで“すべき体験”とは、「体験とは言えない体験」であって、この二入四行論の文章の続きにあるような、強盗に物を奪われたり、他人に罵られても、殴り飛ばされても、苦しまなければ、無心になれるというのは、シンボリックな比喩なのだと思う。
達磨の直弟子の慧可や曇林が、強盗に腕を切られて無臂林と呼ばれつつ修行したことを思い浮かべるが、話の主題はひどい目にあうことではなく、知的理解の悟りでは弱く、日常の不条理、理不尽に揉まれながらもそれに影響されない自分にあること。
さて浦和レッズがACLチャンピオンズリーグで、三度目のアジア制覇という偉業を成し遂げた。ACLは、最初の頃は予選から中東など相手国まで行ってアウェイ戦を戦い、戻ってきてホーム戦を戦うというのが、決勝まで続いたものだ。移動の疲労で、アウェイ引き分けOKというのは、その苦闘の経験から学んだ教訓。
2007年の浦和レッズの最初のアジア制覇前後は、その疲労蓄積がJリーグに影響してリーグ戦は、1度しか優勝できていないことに反映されていることは、古いレッズファンなら知っている。ACLは、Jリーグカップのような単なる国内カップ戦とは比較にならないのだ。
ここ数年は、予選は東西に分かれたので、かつてほどの長距離移動の苦しみはない。
そして浦和レッズが、ACL決勝進出を決めた後、ユンカー、松尾佑介という強力フォワードを放出しながら勝ちを勝ち切れたのは、チーム全体に「日常実際の事で悟る」というスピリッツが定着していることが大きかったのではないか。
今回もACL準決勝 全北現代戦では、レッズは、前半に松尾佑介がゴールを決めて先制。後半にPKで追いつかれ延長戦に突入。
116分に想定外のゴールを奪われガックリきたものの、酒井のタックルから120分にキャスパー・ユンカーが奇跡の同点ゴールを決めて追いつき、PK戦を制して勝利したが、ACLでは、こういうぎりぎりの勝負は2、3回は必ずあるものだった。岩尾が西川のことを『理屈ではないものを見せられた』とコメントしていたが、それはそのあたりの消息なのだろう。
将棋などでもよく言われるが、「勝ちを勝ち切る」には、気力、定力が必要なものであって、教義・教理・理屈の知的理解の悟りでは弱いというのが改めてよくわかる。